魔界編 ススカ 50 ~コテツ編 7~
いつまで寝ていたんだろうか、この魔界は時間が解らない、ずっと明るいからだ。
寝る前の出来事を思い出す。
そういや、ベルゼブブに会いに行くって言ってたな。
あいつ、あんな事するから全部ぶっ飛んじまった。
何か気の利いた事言えば良かった。
何をしてたか思い出す。
そうだ魔鉱石。 あれの実験をしてたんだ。
相変わらず客の来ない店を後にして、とりあえず水を浴びる。
手が染みる。 マメの存在を忘れていた。
作業場に戻ると木箱があった。 あの大剣から取れた粉。
カウンターに戻って小さい革袋と革の紐を持ってくる。
その革袋の中に入れて、ネックレスにする。
今までネックレスやピアスなんて伊達男がカッコつけでするもんだと思って居た。
でも、今はネックレスの意味が解る気がする。
好奇心が復活してくる。 何も考えずひたすら魔鉱石の合金を叩く作業を続けた。
これだと思う物が2個ある。 似たような配合。
でもこれどうやって溶かすんだ。
セリカが出した火は青かった。 俺の炉は黄色で崩れてしまう。
少し悩む、ムジが魔法でどうのこうの言ってたな。
「コテツ、居るかニャ?」
メルサの店のムーの声がした。
一旦忘れて店を出る。
ムーとルル。 知らない青い髪の大女と、女の子が居た。
「大勢でご来店だな。 ルルその後はどうだ、刀は。」
「その相談で来たんです。 あともう一つカレンに武器をと思って。」
「コテツさん、初めましてカレンと申します。 よろしくお願いします。」
「コテツおじちゃん! ラーナだよ! よろしくです。」
「おう、コテツだよろしくな。 カレンはセリカの親戚かなんかか?」
目と髪は違うが、褐色の肌、長身。 そこでそう思った。
「セリカ様とは同種族でした。 私も龍でございます。」
「カレンは、龍なんだよ! すごいでしょ? そうなのカレンおねぇちゃん!?」
ラーナと呼ばれた女の子は、自分で言って、自分で聞きなおしていた。
コイツも龍なのか。 なんかすごいの集まって来るな。
「店の商品は勝手に手に取ってくれて構わねぇ。 ルルの相談って何だ?」
「コテツに、この子の事相談したくて。」
脇に刺していた刀を鞘ごとカウンターに置くルル。
少しだけ鞘を抜くと、こちらに見せてくる。
黒い刀、刃の部分には赤と青の細い線が複雑に絡み合っている。
なんか赤と青が濃く成ってないか? 刀が勝手に変化してやがる。
他の3人は、店の商品を見て回っている。
ラーナはそんな年でこの店に興味ある物あるのか?
「もう少し、衝撃を受け止めやすくしたいんです。」
「衝撃? 受け止めやすくってのがわかんねぇな。」
「私、力無いので、相手の衝撃を貰って加速していくスタイルで行こうと思って。」
相手の衝撃で加速する? ルルも一体どういう戦いをしているんだ。
一度見たいような、見たくないような。 でも俺は魔力に関しては全然わからん。
「俺は魔力わかんねぇんだ。 背に模様ぐらいなら入れれるぜ。
でも、ルルが魔力流すんなら行けると思う。」
「はい! それでお願いします!」
「預かりで良いか? 1日あれば出来るぜ。」
「分かりました。 よろしくお願いします」
キラキラ目を輝かせて来るルル。 俺の手頑張れ。
「すまねぇ、あれ出来るか? 魔力抜くやつ。」
「できますよ?」
刀の柄を持つルル、一瞬で背の黒が消える。
「簡単にやるんだな……」
「コテツさん、これは何という武器なのでしょう?」
カレンが大鎌を持ってくる。
オークが草刈りに使う鎌、持ち運びやすい様に、刃の根本が折れて畳める便利商品。
「武器というか鎌だな、草刈りに使うんだよ。」
「鎌ですか。 これは戦えないんですか?」
戦えない事は無いがあまり聞いたことは無い。 草狩る鎌だからな。
でもカレンも目を少しウルウルさせて聞いて来る。 それ欲しいんだろお前。
「切れるとは思うぜ、あんまり聞かないけどな。 個性派で良いんじゃないか?」
「コテツさん、そうですか! 私これが良いです。 ルルさん」
「カレンはそれが良いんですか? カレンの魔力流しますね。」
当たり前のように始める魔剣化の儀式。
鎌が青く染まっていく。 柄から全部だ。
また滑り止めの布が当たり前のように茶色から白く染まる。
刃に入ると、紫が刃の部分を染め始める。
競うように染まる青と紫。
その後から刃の部分に赤い一本線が走った。
「綺麗です! 青い鎌!」
「ニャニャ、何やってるニャ!」
ムーの反応が正しい。 俺も見すぎて感覚が、おかしく成ってしまった。
「ルルさん、コテツさん、ありがとうございます。」
深々と礼をしたカレン。 ほんとにセリカと同種なのか、全然違う性格。
その後鎌を見つめる姿に、なんとなく同種を感じた。
少し寒い。 その鎌から冷気を感じる。
「カレンは冷気出すのか?」
「はい。 私は氷のブレスを吐けますね。」
そうか龍だもんな。 氷のブレス? 冷やすのか。
それ炉にも使えるんじゃないか?
でもタダで頼むのは……
ルルが加速したいって言ってたな。
「ルル、二刀流って知ってるか?」
「なんですかそれ。 知らないです。」
「剣を2本使う使い手が居るんだ。 速度が欲しいなら倍だぞ。」
「2本! そんな人が居るんですね!」
またキラキラしている目、クリーンヒットかもしれない。
「少し新しい素材を見つけてな、炉の作成に協力してくれたら作れると思うんだ。」
「します! させてください!」
ルルは了承してくれた。
「カレンのその冷気?の魔力を俺の炉に入れてやってほしいんだよ。」
「かまいませんよ。 私の事はどうぞお使いください。」
「炉です? なんです、それ?」
「鉄を溶かす奴ニャ、おっきいのは街の真ん中にあるニャ。」
カレンはやってくれそうだ。
ラーナとムーは炉の話をしている。
「ラーナだっけか、見てみるか? 面白くないかもしれないけどな。」
「炉! 見るです!」
俺と4人で作業場に向かう。
俺の炉、一度改修は済ませてある。
カンズも魔法は使えなかった、この炉はただの炉だ。
人間界では石炭を使っていたが、魔界では違う。
白魔石と呼ばれる石が存在する。
鉱山で取れる白い石で、そこに火の魔力を入れる。
着火は俺は魔力を使えないので藁だが、使える奴は自分で火を起こす。
火力調整は人間界と同じフイゴを使うが、魔界はココにも白魔石を使う。
風魔法、それで空気を送り込んで火力を調節する。
それが俺の炉だ。
4人とも見たこと無いのか、周辺をキョロキョロ見ている。
「コテツ、この石なんですか?」
魔鉱石を見てルルが言う。
「魔鉱石っていうらしいな、人間界には無いんだ。 これを今回使うぜ。」
「そうなんですね。 魔力いっぱい入りそうな石です。」
「そうなのか? 俺は魔力はわからねぇや。」
ルル曰く、魔力が一杯入る石なんだそうだ。
彼女達には今の刀より良いかもしれないな。
「それが炉ですか? コテツさん。」
「そうだ、こいつが耐えれるように魔力を込めてほしいんだ、出来そうか?」
「ルルさん、少しお手伝いお願いしても良いですか?」
「良いですよ。 楽しみですね。」
積み上げられたレンガに、手を当てる二人。
耐火煉瓦だ、熱く無いだろう。
二人が髪を浮かせ始める。 刀の時と同じだ。
一瞬で収まるその儀式。
「出来ましたよ。 コテツさん。」
「もうできたのか? ちょっと使ってみて良いか?」
いつもの椅子に座る。
フイゴを名一杯押す。
風が勝手に流れて、火が赤から黄色に変わる。
そこまでは一緒だ。
そこからフイゴを更に何回も何回も押す。
火の色が変わらない。
「その火、魔力弱いですね。」
ルルが指摘する。 これ以上上がらない火力。
「失敗かもしれねぇな。」
火力が上がらないとは考えていなかった。
「それ、何を元に火を焚いてるんですか?」
「白魔石だが?」
「それを見せてもらえませんか?」
真剣な顔で話し始めるルル。 何か思い当たる事があるのだろうか。
火バサミで、埋めてある白魔石を取り出す。
薄く赤い玉、それを中心に火が出ている。
「少し借りますね。」
浮いてルルの所に行く玉。
ラーナとムーは、その風景に夢中で喋らない。
途端に白魔石が割れてしまう。
「あまり入りませんねこれ。 この魔鉱石?使っても良いですか?」
「かまわないが、炉の中で一応やってくれるか?」
「わかりました。」
熱い炉の中、素手で置くルル。
何やら目を閉じて真剣そのもの。
黒い鉱石が、段々赤黒く成っていく。
目に見えてわかる変化、何かまた神秘的な物を見ている。
「出来ましたよ。 一回吹いてみてください。」
ルルは炉の口の真横でそのまま見ている。
俺はフイゴを押す。
赤から黄色に変わる火。
まだまだ風を送る。
青白く成った。 火力が上がった。
思わず炉全体を見回す。 何も起きていない。
熱さがここまで伝わってくる。
サンプルの使わない方を火バサミで取って、その炉に入れる。
長い長い火バサミ、それが熱い。
先に火バサミが溶けてしまった。
落ちたサンプル。 何も赤く成らないそのままの魔鉱石の合金。
まだ火力が足りないのか……
「すまねぇ、まだ足りないみたいだ。」
「その風を送っているのも、白魔石ですか?」
「そうだ。 これも変えれれるのか?」
「私は風が使えません。 でも電気はラーナちゃんが使えるので。」
「ラーナの魔力です?」
「ラーナちゃんちょっと魔力貸してね。」
魔鉱石に、ラーナの手を覆うようにルルの手が被さる。
黄色く成っていく魔鉱石。
それを、炉砕いて入れるルル。
炉の中ではその黄色い魔鉱石が赤く発熱し出す。
既に熱い炉の中。
そこに風を送ると、青い火が出来た。
「すまねぇ、さっきのハサミみたいなの作れるか?」
「私がさせていただきます。」
魔鉱石を持ったカレンが爪で作ってくれた。
青白く変色した魔鉱石、少しひんやりしている。
「カレン、ありがとうな。」
「これも作っておきますね。」
カナヅチや、金床まで作ってくれるカレン。
俺は、こいつをやっつけるんだ。
また要らないサンプルをその炉に入れる。
青い炎に包まれた炉の中。
自然とハサミを持った手はあまり熱くなかった。
徐々に赤くなっていくその合金。
出来た! その時思った。
癖で金床まで持って行く。
そこで綺麗な手を上に向けて、金槌を持っているカレン。
「少し飛び散るぞ。」
金槌を俺が持つと、さっと離れたカレンは、ムーとラーナを庇うように離れる。
叩く、少し変形した鉄の板。
そこから心に火がついてしまう。 周りが居るのを忘れて動作を繰り返す。
勘で水に入れる。
蒸発する水が、部屋を覆う。
小さな換気窓から出ていくその蒸気。
汗が一気に体から噴き出す。 でも止められない。
汗が顎から滴り落ちる。
また炉に入れる。 その繰り返し。
どれくらい経っただろうか、小さな短剣の形が出来た。
「すごいです! 剣が出来たです!」
「私も初めて見ました、コテツそんな顔で打つんですね。」
「ニャ―も初めて見たニャ。 ほんとに鍛冶師だったニャ。」
「コテツさん、良い物を見せてもらいました。」
皆が口々に言う。 ムーはおかしく無いか?
カレンは、出来奴だった、俺の部屋にある道具を、ほとんど魔鉱石で作って魔力を込めてくれていた。
「カレン、すまねぇな。 なんか色々作らせちまって。」
「かまいません、良い物を見せていただきましたから。」
「それからどうするのです?」
砥石で刃を整える。 様々な番程。 徐々に刃が出来てくる。
それを皆が黙って見てくれている。 失敗は出来ない。
最後は水溶きして、布で拭く。
少し黒い短剣が出来た。
「剣ができました!」
ラーナが手を上げて喜んでいる。
それならと、道具棚にある木の柄と鍔をその刀身に刺す。
鍔を付けて、簡易だが完成だ。
「剣ってこうやってできるんですね。 コテツそれ借りて良いですか?」
「喜んでもらえたら良かった。 かまわないが何するんだ?」
ルルがその剣を持って、また神事を始める。
一瞬で紫に染まる剣。
「ラーナちゃんに、あげて良いですか?」
「試作品だ、構わねぇよ。」
適当な鞘を渡してやる。
そのままラーナと一緒に剣を握るルル。
「やっぱり魔力が大量に入りますね。」
紫の剣に雷の模様が刻まれていた。
「ラーナちゃん、ちゃんとカタリーナとリオネルには言おうね。」
「はいです! 宝物です!」
嬉しそうなラーナに皆で笑顔で見ていた。
その後作り方なんかを、色々聞かれて楽しい時間を過ごした後、彼女達は帰る。
「じゃぁコテツ、2本ともお願いしますね!」
2本? カウンターの1本を忘れていた。
またゆっくり酒を飲む時間が遠のいてしまった。




