魔界編 ススカ 49 ~コテツ編 6~
セリカは街会議とやらに行ってしまった。
俺はセリカに寝られるように言われたが、この魔鉱石が気になって仕方がない。
20個あるサンプル、それを全て叩き続けた。
一番いいのはどれか、職人の勘だ。
ひたすら叩き続けるその作業、魔鉱石との合金は、強く硬く中々感触が分かりづらい。
自慢の腕が悲鳴を上げ始める。 でも止めなかった。
彼女の笑顔を、見たかったからなのかもしれない。
どれくらいやっただろうか、こんな時に限って客が来る。
「コテツ、セリカからのお届け物だぞ!」
ダンテの声、彼女からのお届け物、一体なんだ?
「今、手が離せないんだ、店の前に置いといてくれ。」
「絶対中に入れた方が良いぞ! 今なら間に合うぞ!」
一体何なんだ、熱中している作業を止めて、店の前に出る。
ダンテも、分からん奴だ。 そう思いながら頭に載せた手に痛みが走る。
マメなんて何年ぶりだろうな。
作業場を出て店に入る。
ダンテの後ろに甲冑が6人、狭い店がより狭く感じる。
その甲冑が持っているのは、布に包まれた大剣。
セリカの大剣、それを持って居た。
「明日、ベルゼブブに会いに行くみたいだぞ。 それだけ伝えといてやる。
何処に置くんだ?」
ダンテに感謝した、一人じゃ持ち上げれない。
鍛冶場、さっきセリカと作業した場所に置いてもらう。
「無理すんなよ、セリカ様からの伝言だ。」
ニヤニヤ言うダンテ。 この男にどうやって仕返ししてやろうか。
魔鉱石は後回しだ、ベルゼブブに会いに行く? 剣無しじゃカッコ悪いだろ。
魔鉱石は置いておく、セリカの大剣だけに集中する。
布を取る。 それだけで重労働だ、重いコイツは布を抜くだけで苦労する。
現れる赤い大剣、緑のツタの模様が綺麗だ。
刃だけ鉄がむき出しの色をしているその剣、錆びも掛けも一つもない。
必死で裏返すが同じだ。
さっき付けた筋が無くなっている。
お前もあいつ好きなんだな。
剣が彼女を守ろうと完璧な姿に成っているんだと思った。
不思議な魔剣だ、そんな話聞いた事が無かった。
でも明日の為に模様を掘るんだ。
「頼むぞ。」 大剣が答えてくれた気がした。
チョークで刃に下書きをする。
雰囲気は出た。
薄くで良いんだと体に言わせ、魔鉱石のミノとカナヅチを手に持つ。
ミノの刃を立てる、浅くを意識する。 カナヅチを叩く。 入らない。
少し強く叩く。 ミノの刃が噛んだ。
少し大剣が震えている気がする。
「すまんな、お前の主の要望だ。」
大剣と俺しか居ないのに喋ってしまう。
そこからは、大剣から何か帰って来る事は無かった。
逆側にミノを立て、同じように慎重に叩く。
米粒の様な破片が落ちた。 一応それは集めておく。
鉄とは違う何かに成ったこの鉄屑、後で色々試そうと決める。
そこからは繰り返しだ。
寝静まった街、ひたすらにカナヅチの音だけが響く。
今日に限って鉄を納入する奴は来ない。
大剣と、俺だけの時間が永遠に続いた。
「コテツ、取りに来たのさ。」
セリカの声、記憶が無い、何をしていた俺は。
ココは作業場、後ろは道具の棚。
目の前には大剣、そうだ、模様。
鉄部分に入れた模様は全て入っている。
重い剣を裏返す余力が無い。 地面に顔を付けて見てみる。
裏側も入っていた。
手に5個の豆、両手で10個。
咄嗟に隠して、立った。
「すまねぇ、こっちまで取りに来てくれねぇか。 重くてよ。」
「相変わらず貧弱だねぇ。」
「うるせぇ、お前がおかしいんだ。」
作業場の中に入ってくるセリカ。
嬉しそうな顔、また手を後ろに回しながらやってきた。
「コテツ、急を言ってすまなかったのさ。」
「良いんだ、お前らも色々あるんだろ?」
「ありがとうなのさ。」
何が起こったか分からなかった。
セリカの身体が寄ってきたと思ったら抱き着かれた。
『これで寝れるかね?』
小声でそれだけ言うと。
大剣を持って、店に出ていくセリカ。
頭がボーっとする中で店に俺も出て行った。
メランが見えた。
「メランじゃねぇか。 元気してたか?」
疲労とさっきの事で何か適当に言葉を出してしまう。
「主は魔王になったのさ。 頭が高いぞコテツ。」
セリカが言う、いつもの声
「頭なんて下げなくても良いわよ。」
頭下げる? 魔王?
「お前、本当に魔王に成ったのか? もう、訳わかんねぇな。」
本当に訳が分からなかった。
混乱する頭、癖で髭をさすってしまう。
でも手は隠す。 男の小さい意地だ。
話を逸らして、セリカに出来た事と、魔力が流れていない事を話す。
当たり前の話しか出来なかった。
「わかってるのさ、ちょっと離れてるのさ。」
セリカが大剣を持った、主人の元に帰った大剣。
少し喜んでいるように見える。
セリカの髪が浮き始める。 初めて来た時メランがやったように、一人でそれをやっている。
大剣全体が赤く赤く光って、俺が掘った模様に緑の模様が入って行く。
綺麗だった。 やって良かったと思った。
やがて収まるその神々しい儀式。
前より赤く成った剣、刃には綺麗な模様が入っている。
「完璧だねぇ、コテツ相変わらずいい仕事するのさ。」
それ前より赤く成ってないか?
「私も日々進化しているのさ!」
「セリカ、自分でできるように成ったんだ。」
「ルルのお陰さね。 主」
二人が話している。 少しクラクラしてきた。
だがそんな姿見せたくない。
「とりあえず一回使ってみてくれ。 感想くれたら何か思いつくかもしれねぇしよ。」
何も思いつかないが、取り繕った言葉が出てくる。
でも本心だ、また来てほしい。
「コテツ、わかったのさ。 ありがとなのさ。」
また嬉しそうに言うなこいつは。
「セリカ、お金は良いの?」
「前の500で十分だぜ、メラン」
その顔で良いよもう。
「主、付き合ってくれて、ありがとうなのさ。」
「セリカ良かったじゃない。 今度手合わせしてね。」
「またあそこ行くかね。」
何か話している。
嬉しそうに出ていくセリカ。
あいつまた入口溶かしやがった。
「なぁ、一回注意してくれないか。 毎回気付いたら出て行ってしまってよ。」
「自分で言えば良いじゃない。 今度は最初に言うのよ。」
「そうなんだけさぁ、あいつの嬉しそうな顔見るとなぁ。」
毎回言えなく成っちまうんだ。
「私も行くわ。 私のもまた見てね。」
「あぁ、待ってるぜ。」
二人が出て行った、急に恥ずかしくなる。
体中が熱い、でも眠い。
そう繰り返している内に、またカウンターで寝てしまった。
良い一日だったんだ。




