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底から  作者: ぼんさい
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魔界編 ススカ 48 ~コテツ編 5~

昨日はムジと遅くまで北の山で話してしまった。


いつも通りに起きた俺は、そこから毎日のルーティーンを始める。


鍛冶場に火を入れて、店の掃除をする。 あんま汚れてないんだけどな。


でも商品の手入れは時間が掛かる、一つ一つ丁寧に油を掛けて、ホコリをふき取っていく。


それが終わると、あの入口の修理だ。


また大きく抉れた入口の上部を鉄板で補修する。


次来た時は言おう。 そう心に決める。


3時間ぐらいで終わったその作業。 今は何も作る気がしない。


炉に魔法。 昨日聞いたムジの話が忘れられない。


もっと高火力であの鉱石を、と考える。


人間界には無いあの鉱石、何とかできないかと考えてずっとカウンターに座っていた。


炉の火が無駄になるが、どうせ魔法で炊いた火だ。 誰かに言って付けてもらおう。


表通りでは復興をしているのか、昨日と比べて馬車の音が多い。


眠く成ってくる。 昨日の夜更かしがここで出てくる。




「コテツ、寝てるんじゃ無いのさ。」


声がした、目の前に立つセリカ。


腕を組んで仁王立ちニヤニヤしている彼女。


「昨日忙しかったんだよ、何しに来たんだ?」


「私の剣、見てくれるんだろ?」


勇者と戦っている時、そんな事を言っていた気がする。 本当に持ってきたのか。


「見るけど、別物に成っちまってるぜそれ。 どうしたいんだよ。」


「もっと速く振りたいのさ、魔力は私がやるから模様刻んでほしいのさ。」


「模様? それに傷なんて入るのかよ。」


「刃の部分をさ、一回やってみてほしいのさ。」


目の前のカウンターに置かれる真っ赤な大剣。 若干鉄のカウンターが撓んでいる。


今、布消えなかったか?




「ちょっと待ってろ。」


とりあえず声をかけて、寝起きの体を動かす。


奥の作業場からカナヅチとミノを何種類か持って来る。


嬉しそうに待っているセリカ。 手を後ろに回して、体を左右に回している。


なんとかしてやりたいが……


「少し試しに入れてみるが良いか?」


「構わないのさ、コテツの腕信じてるからねぇ。」


そう言われれば燃えてくる。 こいつはそもそも俺が作ったんだ。


ミノの刃を立てて、カナヅチをミノに叩きつける。


"カン"


案の定、傷なんかつかない。 ミノが泡を吹いて溶けだした。


「こいつ、ミノ溶かしちまうぞ。」


「行儀の悪い子だねぇ。」


セリカが大剣の柄を持つと、刃の部分だけ色が抜けていく。


綺麗な元の鉄の部分が露出する。


「お願いするのさ。」


「お前そんな事も出来るんだな。」


「今日訓練したのさ。」


今日? こいつは何をやっていたんだろうか。



よく見た鉄の色、これならいけるかもしれない。


またミノの刃を立てカナヅチで打つ。


"カン"


固い大剣、溶けはしないが、傷一つ入らない。


"カン" ”カン"


ミノの刃が欠けた。


一度セリカの魔力が入った大剣、普通の鉄の様にはいかない様だ。


「セリカ、こいつはもう俺の手じゃ無理だ。」


「コテツが出来ないのかね、残念だねぇ。」


悲しそうな顔をするセリカ。 俺も考える。


魔鉱石、あれなら出来るんじゃないか? 昨日見た固い鉱石、一回使ってみたい。


「セリカ、その内時間あるか? 北の山まで行けないか?」


「北の山に行けば、模様入れれるのかねぇ?」


「昨日見つけた鉱石があってな、もしかしたら行けるかもしれん。」


「今から行くのさ。」


「今から?」


余程模様を入れたいのか、座っている首根っこを掴まれる。


「お前、今からっておい。」


「寝てたんだし、良いのさ。」


そのまま背中に背負われる。


手回す所無いぞ。


彼女の綺麗な赤髪が俺の顔に当たる。 良い匂いがしやがる。


背中に密着する体。 持たれる両足、がっつり掴まれた脚は一切動かない。


俺はどんな顔を今してるんだろうか。



歩き出したセリカを止める術はない。 勇者をぶっ飛ばすような奴だ。 俺には無理だ。


今回は剣を持って居ない。 入口は無事だ。


それどころでは無かった、また急に上昇する。


「しっかり掴まってるのさ。」


首に手を回した瞬間、あの移動が始まる。


セリカの身体で何も見えない。


上でたなびく赤い髪、それが俺の頭に掛かった時、彼女は止まった。


「コテツ髪生えたんだねぇ。」


ケラケラ笑うセリカ。 顔が近いんだよ。


そこから降ろされる。


足が地面に着くが余程力が入ったのか、一瞬ふら付くが何とか耐える。 男の意地だった。


両側に山脈、北門の外まで一瞬だった。


いつも歩いて40分程度かかるのに。



白の露出した面では魔人達が、ツルハシを持って石灰を取っている。


その横の山で土の採取。 大きなオークがスコップで、馬車に土を入れていた。


俺達はその奥に今いる。 奥に見える森が懐かしい。


「それで、その鉱石ってのはどれだねぇ。」


黒い鉱石、魔人達が採掘してるその3個ほど奥の山。


誰も居ない山にそれはある。


「これなんだ、この黒い鉱石。 切り取れるか?」


昨日鉄では、歯が立たなかった鉱石。 セリカなら出来るんだろうか。


「これかい? ちょっと待ってるのさ。」


爪を伸ばし始めるセリカ。 彼女は龍と言っていた。


龍の様な鋭い爪、その爪が右手の人差し指に生える。


その爪を、魔鉱石に刺した。 何の抵抗も無く刺さる爪。


「行けそうだねェ、細かいのは嫌いなのさ。」


そのまま右手のひらを、黒鉱石に当てる。


山が揺れた。 他の採掘に当たっている魔人達が一斉にこちらを向く。


魔鉱石にはヒビが入る。


右手をそのまま押し込むセリカ。


ヒビが広がって、パラパラ魔鉱石の欠片が落ちて来た。


「あんまり感触ないのさ。」


腕まで突っ込むセリカ。


魔鉱石の塊が落ちてくる。


「おう、もう良いぞ。 そこら辺の欠片で十分だ。」


「そうかい、これで良いのかねぇ。」


そのままセリカが手を引き抜く。


腕の入っていた所からヒビが広がって、上から家ぐらいの塊が落ちてくる。


思わず腕で顔を隠した。


落ちてこなかった。


片手でそれを持つセリカ。 相変わらず滅茶苦茶だ。


「これで良いのかねぇ?」


「そんなデカいの店が潰れるぞ!」


「そうだねぇ。 細かくするのさ。」


落ちて来た魔鉱石は顔ぐらいの大きさで周辺に降り注いだ。


セリカが爪で切ったのだ。 見えなかったが、手を動かしているのだけは見えた。


目の前にある顔ぐらいの岩に成った魔鉱石を持ち上げようとする。


腕と足に思いっきり力を入れた。


腰が抜けるほど軽い鉱石。 腰を痛める所だった。


「こんなもんで良いかねぇ?」


「あぁ、ありがとうなセリカ。 何個か持って帰る。」


「私も持つのさ。」


爪を全部伸ばして、突き刺すセリカ。


そして腕に抱えるだけ抱え込むと、俺を負ぶってまた鍛冶場に飛んだ。


俺は結局一個も持てなかった。



帰ってきた鍛冶場。 店内では無くて、セリカを作業場に招く。


入って目の前に奥に鉄置き場、そこから左に、炉、水場と並ぶ。


手前の壁には、鍛冶道具。 右の壁には出来かけの刀や鎌なんかが置いてある。


左には何もない、壁、その奥に俺の寝床がある。


「これがコテツの作業場かねぇ、初めて見たのさ。」


「あんま人に見せるもんじゃないからな。 セリカ、あの大剣持ってきてくれ。」


「わかったのさ。」


鉄置き場の横に魔鉱石を置いていく。 全部で20個ぐらいある真っ黒い石。 簡単に取れてしまった。


ムジに言わなきゃいけない。



セリカが大剣を持ってくる。


前で持って居る分、今回は店を破壊していない。


炉などがある手前の地面に置いてもらう。 ここの地面は床が無くて土だ。


通路を占有する、その大剣作った時の苦労が思い出される。


「それでどうするのさ。」


「この形に一回切ってもらえないか?」


ミノを見せる。


「分かったのさ。」


セリカはまた爪を伸ばして、ミノの刃を魔鉱石で簡単に作ってしまった。


ゴボウのように削がれていくそれを見て、口が閉まらなかった。


全て魔鉱石で出来たミノで、セリカの大剣にミノの刃を当てる。


カナヅチで、そのミノを叩く。


"カン"


少し刃の入ったミノ。 セリカが上から真剣に見ている。


もう一度逆側に刃を入れて叩く。


"カン"


鉄が取れて、大剣に小さな筋が入った。


「出来たねぇ、流石コテツなのさ。」


「セリカの魔鉱石のおかげだな。」


二人で、顔を見合わせる。 嬉しそうなセリカの顔。


俺が照れてしまう。


「預かりで良いか? 一日で出来ると思うんだけどよ。」


「構わないねぇ、他に何かあるかい?」



新しい素材、実験をしたかった、彼女は付き合ってくれるだろうか。


「少しだけ時間貰ってもいいか? ちょっと実験したいんだ。 良い武器作れるかもしれん。」


「良い武器かい? 手伝うのさ。」


近くにあった鉄の包丁の出来かけをセリカに持ってもらう。


「それ割ってみてくれ。」


「割れば良いのかい?」


指で掴んだそれは、曲がった。


「曲がったねぇ。」


折り目を掴むセリカ。 そのままつまむと鉄は弾けて割れる。


「これが何の役に立つのさ?」


「すまねぇ、次はこれだ。」


セリカが切り取った黒魔石の似たような棒を、セリカに渡す。


「それ割ってみてくれ。」


さっきと同じように、指に力を入れると、真っ二つに割れた。


「一回で割れたねぇ。 ちょっと違うのかね。」


「そうだな、やっぱり固い分、割れやすいんだな。 靭性が無いんだ。」


「むずいかしいのは解らないのさ。 でもなんか不思議で面白いのさ。」


笑って言うセリカ。 楽しんでもらえているようで良かった。


「セリカこれ溶かせるのか?」


「溶かす? 火であぶれば良いのかね。」


床に落ちている黒鉱石の欠片を魔法で浮かして指の上に持ってくるセリカ。


俺はもう驚かないぞ。


指から火が灯る。


また赤から急に青くなる炎。


鉱石から先は炎が黒い。


そしてそれは溶けて、赤い塊に成った。


「溶けたねぇ。 これで剣でも作ってくれるのかい?」


ケラケラ笑うセリカ。 そうだこれで剣を作りたいんだ。


俺の顔を見て笑うのを辞めるセリカ。


俺は鉄を渡す。


「何パターンか見たいんだ、混ぜてくれないか。」


「分かったのさ。」


そこからいくつもサンプルを作る。


20個ほどだろうか、出来た板に割合をチョークで書いていく。


ついでに黒魔石で、カナヅチと予備のミノ作ってもらった。


「助かったぜ、セリカ。 良いの作るから待ってろよ。」


「コテツ、楽しみにしてるのさ。」


その笑顔は今日一番の笑顔だった。


急に人が入ってくる。


ダンテとか言う守備隊長だ。


「二人で何してんだ。」


「なにかねぇ、文句でもあるのかね。」


少し怖い顔のセリカ、怒らなくても良いじゃないか。


「すまん、邪魔した。 セリカ、街会議が臨時であるらしいんだが来るか?」


「街会議って、何なのさ?」


「何かメランの事でやるみたいだ、一応声かけようと思ってな。」


「主の事? 行くのさ。 コテツ、これまた持ってくるのさ。」


大剣を片手で持ち上げると、布が勝手に表れる。


「あぁ、待ってるぜ。」


「今日はちゃんと寝るのさ。」


手を振りながら出ていくセリカ。 その顔は笑顔に戻っていた。


また店の入り口が破壊された以外は良い日に成った。

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