魔界編 ススカ 47 ~コテツ編 4~
「コテツ、大丈夫かい?」
「あぁ、良い物見せてもらったぜ。 ありがとうなセリカ。 街守ってくれてよ。」
「良いのさ、あんたも頑張ったんだねぇ。」
その腕に体を引き上げられる。 柔らかい大きな手。
さっきのセリカとは別人だ。 優しい顔に照れちまう。
あれから俺はしばらく動けなかった。 寝たまま周りの声を聞いていた。
あの茶髪は守備隊長で、ダンテとかいう奴らしい。
この街に長く住んでいるが、関わった事が無くて知らなかった。
そんな男が、聖女には手も足も出ないのか。
今の状況が奇跡に思えて来た。
牛頭の骨の女性は冒険者ギルドのマスター。
起き上がると、セリカに挨拶をして、すぐにどこかへ行ってしまった。
彼女も飛んで行った、飛ぶことが出来る魔人が居るんだな。
羽が生えた奴は飛んでいるのを見たことあるが……
龍様って何なんだ。
セリカは、山をぶっ飛ばした後布で大剣を巻いていた。
性格に似合わず何度も巻きなおす姿に、可愛いと思ってしまう。
「セリカ、龍様って言われてたけど、何なんだ?」
「コテツに言ってなかったかねぇ、私は龍なんだよ。」
「龍? セリカがか?」
「そうなのさ、見てみるかい?」
「いや良い、遠慮しとく。」
デーモンじゃなくて龍だったセリカ。
あれを見た後だ、なんだか納得してしまう。
ダンテも周りの衛兵と話しながら西門の方へ消えてしまう。
「セリカ、これからどうするんだよ。」
「主の所にとりあえず向かうのさ。」
「メランだよな、あいつ何処に居るんだ?」
「高炉の所なのさ。」
煙突が折れていた高炉。
街の象徴は今も見えない。
「高炉って今どうなってるんだ? 知ってるか?」
「なんか吹き飛んでたねぇ。 主の魔法で無く成ってるかもねぇ。」
ケラケラ笑う彼女。 相変わらずだ。
ガンズの炉を直した時を思い出す。
レンガを詰むんだが、魔人達は土を焼くだけだった。
あれが役に立つんじゃないのか。
俺が一人で行っても相手にされないだろう。
セリカと行けないだろうか。
「セリカ、連れて行ってくれないか? その炉で相談したい事があるんだ。」
「良いのさ。 相談ってなんなのさ。」
「人間界の知識をちょっとな。」
「コテツも役に立つのさ。」
またケラケラ笑う彼女。 こいつの笑顔綺麗なんだよな。
店にセリカと戻って、棚をまた探る。
確かあったはずの石灰。 その革袋を見つける。
少ないが北の山から俺が取ってきた奴だ。 魔人達だって勝手に取って何とかするだろう。
「なんだいそれ? ふくろかぃ?」
「この中にな、魔法の粉が入ってるんだよ。」
「魔法かい? コテツも魔法使えるんだねぇ。」
また笑いながら店を出ていくセリカ。
当たり前のように入口の上部を溶かして出て行った。
セリカを追いかけて、店を出る。
「コテツ掴まるのさ。」
しゃがんだセリカが背をこちらに向けて言ってくる。
「捕まるって、俺溶けちまうんじゃないのかよ。」
「ちゃんと言い聞かせてあるからね、大丈夫さ。」
「それなら良いけどよ。」
恐る恐る自分の作った大剣に触る。
家を溶かし、勇者を消滅させたそれ。
指先で触れたが、何も無かった。
そのまま大剣にしがみ付く。 格好悪いが仕方ない。
セリカが後ろに片腕を回してくれた。 ちょっと苦しいんだが。
「行くのさ。」
地面が遠のく、上に上に上がって行く。
どこまで上がるんだよ。 若干怖い。
気にせず上がって行くセリカ。 思わず大剣を抱く体に力が入る。
体制を変えたセリカ、そのまま高炉の方に加速する。
意識が遠のいた、脳が意識をシャットダウンした。
目が覚める、下が固い。
石畳と、大量の魔人の足。 何か暗い。
その魔人達が、歓声を上げている。
立ち上がって周囲を見渡す。
巨大な鉄板ごと街が持ち上がっていた。
所々にくっ付いた家が落ちていく。
刀の斬撃だけが残る。 切ってるのか?
一番持ち上がった所に、赤髪の女セリカが居た。
非現実な風景。 あっけに取られてみていると鉄が溶けて、どこかに集まっている。
俺がサービスで付けた服を着ている女。
黒髪の女、ルルは頭上に鉄を溶かして太陽を作っていた。
「なにしてるんだ、あれ!」
「掃除だねぇ。 もう少しでおわるのさ。」
緑髪の魔人が叫んでいる。
セリカが街を持ち上げながら下を向いて答えていた。
後ろからも集まる溶けた鉄。 外壁が取り払わむき出しに成った炉は、4個とも半分吹き飛んでしまって居る。
今持ち上げているのは、あの炉の中にあった鉄か。
メランがルルに近づくと、その溶けた鉄の太陽をメランの頭上に移す。
「あの山セリカがやったのよね。」
「そうだよ主、私なのさ。」
あの山? 北の山、セリカがやったえぐれた山。 もう一つえぐれて無いか?
セリカがやった山に太陽が飛んでいく。
そういや魔界に太陽無いな。 などと考えていると、それが急に黒い鉄の塊に成って、山の上に乗った。
「ほんと無茶苦茶だなお前ら!」
ドワーフだろうか、それを見て叫んでいる。
俺も同意見だ。
集まって来る彼女達に魔人をかき分けて向かう。
「お前ら滅茶苦茶すぎないか。 街が持ち上がってたぞ。」
「掃除よね? ルルちゃん。」
「そうです! コテツさんの刀切れ味抜群ですよ!」
「あれぐらいなら片手だねぇ。」
片手とか、鉄は切る事が出来ると思うが、スケールがおかしいんだ。
なんかルルの刀が前より紫っぽく変色している。
「日々進化していくのです。」
魔剣ってそうなのか、誰も突っ込まないこの状況に考えるのを辞めた。
「なんだ知合いか? 俺はムジだ。」
ドワーフが声を掛けて来た。 短い手を此方に向けている。
「コテツだ、よろしく頼む。」
ムジの手を握り返して挨拶しておいた。
「俺はダンだ。 お前が作ったのか?」
緑髪の魔人だ。 こいつはデカイ。
「コテツだ、俺は鉄打っただけなんだがな。」
ダンとも握手をして、挨拶をする。 立派な角を生やしたダン。
俺の事何も言ってこないな。
「コテツ何しに来たの?」
メランが声を掛けてくる。
そうだ、石灰だ。
ズボンのポケットに閉まっておいた革袋を手に出して見せる。
「高炉が爆発したのを見てさ、俺の国ではこれをレンガに入れるんだ。」
「レンガにだと? これどこで手に入るんだ。」
ムジが興味を示している。 やっぱり魔人は知らないんだな。
「北の山だよ、俺の店の炉作るときに探したんだ。 なんかぶっ飛んでるけどな。」
皆でその山を見る。
今見てもおかしな光景、それをセリカがやっただメランがやっただ言い争っている。
「主が直してくれたのさ。」
「あれを直したとは言わないだろ…」
黒い鉄の玉が置かれた山、あれを直したとは言わない。
ダンが正解だ。
「そうなのか、ちょっとレンガの土持ってきてくれ。」
ムジが、レンガの土を用意してくれた。
そこに石灰を入れて、混ぜておく。
「こいつを焼くんだが、ねぇさん方手伝ってくれねぇか。」
「私がやるかねぇ、どれぐらいがいいのさ?」
「とにかく高温で、やってくれ。」
セリカが焼くのか、龍の火力のお手並み拝見だな。
セリカの手に小さな火の玉が現れる。 赤色黄色と変色した色は青白く成っていく。
青い火なんて見たこと無いぞ? ここまで熱気来てるんだが?
それがレンガに放たれた。
"ジュ"
無くなった、地面も溶けた。 周りで火が上がっている。
「溶けたねぇ、コテツ違うの持ってきたんじゃないかい?」
「お前の火力が馬鹿すぎるんだよ。 地面溶けてるじゃねぇか。」
「そうなのかい? 細かいのは苦手なのさ。」
まぁセリカらしいか。
もうちょっと火力落とせないのか聞くと、ルルなら出来ると言われる。
あいつもさっき鉄板溶かしてたもんなぁ。 滅茶苦茶だなこいつら。
魔人が2個用意してくれたレンガ。 その片方に全部石灰を突っ込んで混ぜる。
「ルル、徐々に温度上げて行ってくれ。」
「ハイ! わかりましたコテツ。」
ルルは素直だ、そして調整が上手かった。
徐々に上がる火力、今どこから火が現れたんだ? もう考えないでおこう。
黄色い火に成ると、何もしてない方は崩れてしまう。
ガンズの時と一緒だ。 ムジが感心している。
「おお! こりゃすげぇな。 まだ魔力かけてないんだぞ。」
「それ何て言うんだ? せっかくだから全部やり直す。」
「俺の国では、石灰て呼んでたぜ。」
「石灰か、お前何処の出身だ。」
一瞬ごまかそうかと思った。 でも彼女達の前だし大丈夫だろう。
思い切って言ってみる。
「俺は人間だ。 人間界には魔力使えない奴がいっぱいいるからな。」
「そうか人間か! 勉強になったぜコテツ。」
嫌な顔一つせず手を向けてくるコテツ。 俺の考えすぎか、心のわだかまりが一つ取れた。
「変わりといってはなんだが、出来たら鉄を分けてくれないか。 俺鍛冶屋なんだ。」
「それぐらい良いぜ、1tか? 2tか?」
そんなに何作るんだよ。 ちょっとで良いんだよ。
「なぁ、ムジ。 ここの鉄は鉄だけだろ?」
「どういう意味だよ。」
「別の鉱石とか混ぜないのか?」
「混ぜる? なんだよ聞かせろよ。」
そこからコテツと鉱石の話をする。
俺は聞いたことしか無いが、知っている知識を話す。
ニッケル、マンガン、マグネシウム。
色々な鉱石の特徴と、錆びにくい鉄の話。
途中で、セリカ達は宿に帰って行った。
とりあえず全部話す。 聖剣の材料はミスリルを混ぜてあったはずだ。
ムジは押し黙って聞いていた。
「それ人間界にしかねぇんだろ? ここで言われてもな。」
「北の山で見たぞ?」
「ほんとか? お前いつ時間あるんだ。」
「今からでも、いいぞ。」
目をキラキラさせているムジに断り切れなかった。
そのままムジと、北の山へ向かう。
北門を抜けると両側に聳える山。
険しい崖は、街道だけを削り取ったようないびつな形をしている。
そそり立つ崖に、むき出しに成っている白い塊。 これが石灰だ。
これがマンガン、ニッケルと、山を手で掘り返しただけで出てくる鉱石達を、ムジに教える。
手に紙を持ったムジは、それを書き記している。
だが俺にもわからない鉱石があった。
真っ黒い石炭の様な硬い石。
「これは、知らないんだ。 知ってるか? ムジ。」
「これは魔鉱石だな、固くて溶けねぇ。」
持ってきたツルハシを、その岩に魔人が当てると、魔人が跳ね返されてのけ反る。
カーーンと甲高い音を響かせた魔鉱石は、傷一つ付いていない。
「これが無けりゃ、もっと掘れるんだがなぁ。」
「山の上の方には無いのか?」
「あると思うけどよ。」
二人で目が合う。 消え去った山。 彼女達は、これをなんとか出来るんじゃないか。
この件は俺が受け持つことにする。
ムジとは良い物が作れそうだ。




