表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底から  作者: ぼんさい
57/98

魔界編 ススカ 47 ~コテツ編 4~

「コテツ、大丈夫かい?」


「あぁ、良い物見せてもらったぜ。 ありがとうなセリカ。 街守ってくれてよ。」


「良いのさ、あんたも頑張ったんだねぇ。」


その腕に体を引き上げられる。 柔らかい大きな手。


さっきのセリカとは別人だ。 優しい顔に照れちまう。




あれから俺はしばらく動けなかった。 寝たまま周りの声を聞いていた。


あの茶髪は守備隊長で、ダンテとかいう奴らしい。


この街に長く住んでいるが、関わった事が無くて知らなかった。


そんな男が、聖女には手も足も出ないのか。


今の状況が奇跡に思えて来た。



牛頭の骨の女性は冒険者ギルドのマスター。


起き上がると、セリカに挨拶をして、すぐにどこかへ行ってしまった。


彼女も飛んで行った、飛ぶことが出来る魔人が居るんだな。


羽が生えた奴は飛んでいるのを見たことあるが……



龍様って何なんだ。


セリカは、山をぶっ飛ばした後布で大剣を巻いていた。


性格に似合わず何度も巻きなおす姿に、可愛いと思ってしまう。



「セリカ、龍様って言われてたけど、何なんだ?」


「コテツに言ってなかったかねぇ、私は龍なんだよ。」


「龍? セリカがか?」


「そうなのさ、見てみるかい?」


「いや良い、遠慮しとく。」



デーモンじゃなくて龍だったセリカ。


あれを見た後だ、なんだか納得してしまう。


ダンテも周りの衛兵と話しながら西門の方へ消えてしまう。



「セリカ、これからどうするんだよ。」


「主の所にとりあえず向かうのさ。」


「メランだよな、あいつ何処に居るんだ?」


「高炉の所なのさ。」


煙突が折れていた高炉。


街の象徴は今も見えない。


「高炉って今どうなってるんだ? 知ってるか?」


「なんか吹き飛んでたねぇ。 主の魔法で無く成ってるかもねぇ。」


ケラケラ笑う彼女。 相変わらずだ。


ガンズの炉を直した時を思い出す。


レンガを詰むんだが、魔人達は土を焼くだけだった。


あれが役に立つんじゃないのか。


俺が一人で行っても相手にされないだろう。


セリカと行けないだろうか。


「セリカ、連れて行ってくれないか? その炉で相談したい事があるんだ。」


「良いのさ。 相談ってなんなのさ。」


「人間界の知識をちょっとな。」


「コテツも役に立つのさ。」


またケラケラ笑う彼女。 こいつの笑顔綺麗なんだよな。


店にセリカと戻って、棚をまた探る。


確かあったはずの石灰。 その革袋を見つける。


少ないが北の山から俺が取ってきた奴だ。 魔人達だって勝手に取って何とかするだろう。


「なんだいそれ? ふくろかぃ?」


「この中にな、魔法の粉が入ってるんだよ。」


「魔法かい? コテツも魔法使えるんだねぇ。」


また笑いながら店を出ていくセリカ。


当たり前のように入口の上部を溶かして出て行った。


セリカを追いかけて、店を出る。


「コテツ掴まるのさ。」


しゃがんだセリカが背をこちらに向けて言ってくる。


「捕まるって、俺溶けちまうんじゃないのかよ。」


「ちゃんと言い聞かせてあるからね、大丈夫さ。」


「それなら良いけどよ。」


恐る恐る自分の作った大剣に触る。


家を溶かし、勇者を消滅させたそれ。


指先で触れたが、何も無かった。


そのまま大剣にしがみ付く。 格好悪いが仕方ない。


セリカが後ろに片腕を回してくれた。 ちょっと苦しいんだが。



「行くのさ。」


地面が遠のく、上に上に上がって行く。


どこまで上がるんだよ。 若干怖い。


気にせず上がって行くセリカ。 思わず大剣を抱く体に力が入る。


体制を変えたセリカ、そのまま高炉の方に加速する。


意識が遠のいた、脳が意識をシャットダウンした。





目が覚める、下が固い。


石畳と、大量の魔人の足。 何か暗い。


その魔人達が、歓声を上げている。


立ち上がって周囲を見渡す。



巨大な鉄板ごと街が持ち上がっていた。


所々にくっ付いた家が落ちていく。


刀の斬撃だけが残る。 切ってるのか?


一番持ち上がった所に、赤髪の女セリカが居た。


非現実な風景。 あっけに取られてみていると鉄が溶けて、どこかに集まっている。


俺がサービスで付けた服を着ている女。


黒髪の女、ルルは頭上に鉄を溶かして太陽を作っていた。



「なにしてるんだ、あれ!」


「掃除だねぇ。 もう少しでおわるのさ。」


緑髪の魔人が叫んでいる。


セリカが街を持ち上げながら下を向いて答えていた。


後ろからも集まる溶けた鉄。 外壁が取り払わむき出しに成った炉は、4個とも半分吹き飛んでしまって居る。


今持ち上げているのは、あの炉の中にあった鉄か。



メランがルルに近づくと、その溶けた鉄の太陽をメランの頭上に移す。


「あの山セリカがやったのよね。」


「そうだよ主、私なのさ。」


あの山? 北の山、セリカがやったえぐれた山。 もう一つえぐれて無いか?


セリカがやった山に太陽が飛んでいく。


そういや魔界に太陽無いな。 などと考えていると、それが急に黒い鉄の塊に成って、山の上に乗った。


「ほんと無茶苦茶だなお前ら!」


ドワーフだろうか、それを見て叫んでいる。


俺も同意見だ。




集まって来る彼女達に魔人をかき分けて向かう。


「お前ら滅茶苦茶すぎないか。 街が持ち上がってたぞ。」


「掃除よね? ルルちゃん。」


「そうです! コテツさんの刀切れ味抜群ですよ!」


「あれぐらいなら片手だねぇ。」


片手とか、鉄は切る事が出来ると思うが、スケールがおかしいんだ。


なんかルルの刀が前より紫っぽく変色している。


「日々進化していくのです。」


魔剣ってそうなのか、誰も突っ込まないこの状況に考えるのを辞めた。



「なんだ知合いか? 俺はムジだ。」

ドワーフが声を掛けて来た。 短い手を此方に向けている。


「コテツだ、よろしく頼む。」

ムジの手を握り返して挨拶しておいた。



「俺はダンだ。 お前が作ったのか?」

緑髪の魔人だ。 こいつはデカイ。


「コテツだ、俺は鉄打っただけなんだがな。」

ダンとも握手をして、挨拶をする。 立派な角を生やしたダン。


俺の事何も言ってこないな。


「コテツ何しに来たの?」

メランが声を掛けてくる。


そうだ、石灰だ。


ズボンのポケットに閉まっておいた革袋を手に出して見せる。


「高炉が爆発したのを見てさ、俺の国ではこれをレンガに入れるんだ。」


「レンガにだと? これどこで手に入るんだ。」

ムジが興味を示している。 やっぱり魔人は知らないんだな。


「北の山だよ、俺の店の炉作るときに探したんだ。 なんかぶっ飛んでるけどな。」

皆でその山を見る。


今見てもおかしな光景、それをセリカがやっただメランがやっただ言い争っている。


「主が直してくれたのさ。」


「あれを直したとは言わないだろ…」


黒い鉄の玉が置かれた山、あれを直したとは言わない。


ダンが正解だ。



「そうなのか、ちょっとレンガの土持ってきてくれ。」

ムジが、レンガの土を用意してくれた。


そこに石灰を入れて、混ぜておく。


「こいつを焼くんだが、ねぇさん方手伝ってくれねぇか。」


「私がやるかねぇ、どれぐらいがいいのさ?」


「とにかく高温で、やってくれ。」


セリカが焼くのか、龍の火力のお手並み拝見だな。


セリカの手に小さな火の玉が現れる。 赤色黄色と変色した色は青白く成っていく。


青い火なんて見たこと無いぞ? ここまで熱気来てるんだが?


それがレンガに放たれた。


"ジュ"


無くなった、地面も溶けた。 周りで火が上がっている。


「溶けたねぇ、コテツ違うの持ってきたんじゃないかい?」


「お前の火力が馬鹿すぎるんだよ。 地面溶けてるじゃねぇか。」


「そうなのかい? 細かいのは苦手なのさ。」

まぁセリカらしいか。


もうちょっと火力落とせないのか聞くと、ルルなら出来ると言われる。


あいつもさっき鉄板溶かしてたもんなぁ。 滅茶苦茶だなこいつら。


魔人が2個用意してくれたレンガ。 その片方に全部石灰を突っ込んで混ぜる。


「ルル、徐々に温度上げて行ってくれ。」


「ハイ! わかりましたコテツ。」


ルルは素直だ、そして調整が上手かった。


徐々に上がる火力、今どこから火が現れたんだ? もう考えないでおこう。


黄色い火に成ると、何もしてない方は崩れてしまう。


ガンズの時と一緒だ。 ムジが感心している。


「おお! こりゃすげぇな。 まだ魔力かけてないんだぞ。」


「それ何て言うんだ? せっかくだから全部やり直す。」


「俺の国では、石灰て呼んでたぜ。」


「石灰か、お前何処の出身だ。」

一瞬ごまかそうかと思った。 でも彼女達の前だし大丈夫だろう。


思い切って言ってみる。


「俺は人間だ。 人間界には魔力使えない奴がいっぱいいるからな。」


「そうか人間か! 勉強になったぜコテツ。」

嫌な顔一つせず手を向けてくるコテツ。 俺の考えすぎか、心のわだかまりが一つ取れた。


「変わりといってはなんだが、出来たら鉄を分けてくれないか。 俺鍛冶屋なんだ。」


「それぐらい良いぜ、1tか? 2tか?」


そんなに何作るんだよ。 ちょっとで良いんだよ。


「なぁ、ムジ。 ここの鉄は鉄だけだろ?」


「どういう意味だよ。」


「別の鉱石とか混ぜないのか?」


「混ぜる? なんだよ聞かせろよ。」


そこからコテツと鉱石の話をする。


俺は聞いたことしか無いが、知っている知識を話す。


ニッケル、マンガン、マグネシウム。


色々な鉱石の特徴と、錆びにくい鉄の話。


途中で、セリカ達は宿に帰って行った。


とりあえず全部話す。 聖剣の材料はミスリルを混ぜてあったはずだ。


ムジは押し黙って聞いていた。


「それ人間界にしかねぇんだろ? ここで言われてもな。」


「北の山で見たぞ?」


「ほんとか? お前いつ時間あるんだ。」


「今からでも、いいぞ。」


目をキラキラさせているムジに断り切れなかった。





そのままムジと、北の山へ向かう。


北門を抜けると両側に聳える山。


険しい崖は、街道だけを削り取ったようないびつな形をしている。


そそり立つ崖に、むき出しに成っている白い塊。 これが石灰だ。


これがマンガン、ニッケルと、山を手で掘り返しただけで出てくる鉱石達を、ムジに教える。


手に紙を持ったムジは、それを書き記している。


だが俺にもわからない鉱石があった。


真っ黒い石炭の様な硬い石。


「これは、知らないんだ。 知ってるか? ムジ。」


「これは魔鉱石だな、固くて溶けねぇ。」


持ってきたツルハシを、その岩に魔人が当てると、魔人が跳ね返されてのけ反る。


カーーンと甲高い音を響かせた魔鉱石は、傷一つ付いていない。


「これが無けりゃ、もっと掘れるんだがなぁ。」


「山の上の方には無いのか?」


「あると思うけどよ。」


二人で目が合う。 消え去った山。 彼女達は、これをなんとか出来るんじゃないか。


この件は俺が受け持つことにする。


ムジとは良い物が作れそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ