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底から  作者: ぼんさい
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魔界編 ススカ 45 ~コテツ編 2~

手を止めて鍛冶場を出る。


店内に入ると、女のデーモンが3人、背の高い彼女達はそれぞれに芸術品を眺めている。


その中の一人、黒髪の女が、刀を構えていた。


自然な構え、隙の無いその姿に少し見とれてしまった。


声を掛けると、白髪の女が、メルサから教えてもらった。と言っている。


あそこの客か、変な客じゃないだろう。


声も綺麗な声をしている、よく見ると見たことない美人だ。


その赤い目が俺の世界の人間では無い事を示している。




ずっと刀を構えている黒髪に藁の束を出してやる。


「試し切りして良いの?」


そう聞いて来る黒髪の女、俺が人間界から持ってきた9点のうちの1点を持っている。


俺の自信作。 この女が使う姿が見たかった。


"シュ"


女がブレる。 剣先は俺でも終えなかった。


ただ、藁の束が落ちる。


「それどこで習ったんだ? 中々見ない立ち辻だな。」


「セリカさんに教えてもらいました!」


「わたしゃ、そこまで教えてないねぇ。 ルルちゃんの天性なのさ。」


「どうでした? メランさん。」


赤い髪の褐色の大女、セリカと呼ばれる女は俺がサイクロプス用に作った大剣を片手で持って構えていた。


それよりも、あの女に黒い髪の女、ルルと呼ばれた女が習ったと言っている。


よほどの使い手だ。 俺の刀を使ってほしいと思った。


白髪の女はメランというようだ。


ルルの立ち辻を綺麗だと言っている。 あれが見えていたのか。


このメランという女も、凄い使い手なのかもしれない。



カウンターの下から、何年ぶりだろうかあの刀の鞘を出す。


「まだ買うって決めてないわよ。」


「あれでも買わないのか?」


ルルは、その刀を真剣に色々な構えを試している。


あれで買わない事は無いだろう。 心の中では彼女に使ってほしかった。


「いくらなの? 安くしてよね。」


値段は決めていたが、彼女に使ってほしかった。


初めてこの世界で"実用的"に切れる人物を見たのだ。


いくら出せるか聞くと、メランも自分の刀が見たいという。


背の高い彼女、普通の刀では小さいと、大きいのを出せと言ってくる。


太刀、勝手にそう思った。


セリカと言われた大女が、大剣をずっと片手で持って確認をしている。


魔界は不思議だたまに見た目と実力が全然違う奴が居る。


セリカはあの大剣を買ってくれるようだ。 一度切っている所を見たかったがこの店の広さだと大きすぎて振れない。



店の奥に入る、あれ程の速さが見えるメラン。


一本人間界から持ってきた太刀を入れて、カウンターに並べてみる。


彼女達に先に名前を言わせてしまった事に店に戻りながら気付く。


名乗って、人間だというとメランが食いついて来る。


メルサはそこまで言ってなかったのか。


それよりメランの実力が気になった。 好奇心が勝つ。


彼女に持ってきた3本を見てもらった。


藁の束を用意すると、俺の人間界から持ってきた9点の内の一つを持っている。


長くて重く使えないと思って居た太刀。 それを軽そうに持って居る。


魔界は不思議な奴が本当に多い。


メランが太刀を構える、周囲が静かになる。 思わず息を呑んだ。


"シュ”


体が動いたのしか分からなかった。


腕や太刀は全く見えない。 恐ろしい程の使い手。


藁は1回の斬撃では無く、何10回も太刀に切られていた。


信じられなかった、魔法を使ったのかと思った。


「お前、今何やったんだ。」


「切ったんだけど?」


「いやお前…… 魔界に来てから一番びっくりしてるぞ。」


思わず聞いてしまう、切った? わかってるんだが…… 魔界には凄い使い手がいるんだ。


この世界はまだまだ広い。


他の二人もすごいとメランを褒めている。


俺からしたらお前ら全員凄いけどな。 まだセリカは大剣を片手で持って居る。


どんだけ馬鹿力なんだあいつ。


「これ良いわね、これとルルちゃんのとセリカ持ってるので500金貨でいかしら?」


500? 高すぎる、こいつら勘違いしてないか。


魔力入ってない刀だと解ってないだろ。 そう言う騙す商売は、ダメだメルサの所の客ならなおさらだ。


「500? 高すぎんだろ20ぐらいが相場だ。」


「そんな安いの? 安すぎない?」


「俺は人間だからよ、魔力込めれないんだ。 何処まで行っても鉄の塊だそれは。」


正直に言う。 少し黙り込んでしまう彼女達。


何かメランが始めた。 彼女の白い髪が浮いている。


神々しい風景魔界なのにそう思った。


彼女の手先から太刀が黒く染まっていく、現れる刃の白い模様。


刀身に赤い模様。


みるみる広がるそれは、剣先まで綺麗に染める。


彼女の白い髪が戻っている。


一体何をしたんだ、わけがわからない。


「ぁ、ごめんなさいまだ買ってなかったわ。」


買ってない? そんな話じゃない。 それは何をしたらそう黒く成るんだ。


「どうって魔力込めたんじゃない?」


魔力を込めた? 出来たらこんな値段で売ってないぞ。


もう一度よく見る。 魔力の使えない俺でもわかる。


太刀が魔力に押されて膨らんでいる。 それを押さえつけるかの様な白と赤の模様。


メランが鞘に納めて、カウンターに置いた。


鞘が太刀の色に染まっていく。


信じられない光景、魔力とはそんな簡単に込めれる物なのか。


また何かしているメラン。 鞘から目を離すと、セリカの赤い目と目が合う。


頷くセリカ。 一体どう納得すればいいんだ。


「わぁぁ、ありがとうございますメランさん!」


ルルの声がする。 刀も変わってしまって居る。


同じように黒い、でも模様が赤と青の線。


簡単に何本も魔剣に変えてしまうメラン。


一生分もう驚いた。 いい経験をさせてもらった。


500貰っておこう、俺の魔力じゃないけどな。



それは確実に魔剣だった。 魔獣を切り裂く魔剣。


あんなもん市場に出たら1万はするぞ。


もっとするかもしれない。 外の店のも魔剣はあるが、少し色がする程度だ。


あんな真っ黒な魔剣見た事が無い。


「主、わかってるじゃないかぁ。 ありがとうなのさ。」


セリカの持っていた大剣も変わっている。


真っ赤な刀身、緑の模様の大剣。 それもう別物じゃないか?


「じゃぁ500ね。 数える?」


カウンターに置かれた川の袋、口から金貨が見える。


数えなくていい、500無くたって、こんな大金今まで見たことない。


鎌や桑の製作はもうしなくても良い、何を作ろうか。


いやメルサの店が先だなと考えていると、メルサに人間界の話を聞かれる。


大まかに伝える。


俺が、勇者と来た事、逃げてこの街に流れ着いた事。


「その話って、今の難民と関係あるの?」


難民、東門から流れてくる難民は日々増えていると聞く。


メルサの店で聞いたサタンが死んだと。


そんなのを聞いたのは魔界に来てから始めてだ。


今回の勇者は強いのかもしれない。


カケルは死んでるだろう。 あれから何も聞かないしな。


「それで難民が大量に来てるのね。」


そうだ、そうなんだが、人間の俺としては肩身が狭い。


敵国に居るような気分に成ってしまう。


少し愚痴を言ってしまった、彼女達には関係ないだろうに。


これだけの使い手だ、あの服を着てもらえないか。


カウンターから出す俺の国の服。


胴着に袴、帯、足袋、草履。


聖剣と呼ばれていた者の姿。 これも大荷物の中に入れて持ってきていた。


宝物だからだ。


飾っているわけでも無い、彼女達に使ってほしかった。



「ルルちゃんこれ着る?」


「メランさん! 良いんですか!」


ルルに渡すその服、メランとセリカじゃ丈足らないかもな、お前らデカすぎるんだよ。


ルルが着ていた布の服を急に脱ぎだす。


羞恥心とか無いのかこいつら。


鍛冶場に逃げた。


騒がしい店内、更衣室と化したそれは、俺には近づく事が出来なかった。


少し長い気もするが、声は途絶えない。


女の準備は色々あるんだろう。



「コテツ~終わったわよ。」


楽しそうな声で言ってくるメラン。


店内に戻る。


胴着は入らなかったのか……片腕を出す姿に流浪の侍を浮かべてしまう。


さらしなんてあったか? カウンターに置いてある胴着はなんだ。


「流し? なにそれ。」


ルルが聞いて来る。 侍とか言ってもわからんだろうと適当に流した。


気付かなかったがメランとセリカも服が変わっている。


布の普通の市民のような服だった彼女達。


鎧を着たメランに、皮の服を着たセリカ。


セリカは露出多すぎないか?


今から戦争にでも行くのかと聞いてしまう。


「試し切りできる場所知らない?」


試し切りか。 その恰好はやはり彼女達の戦闘服のようだ。


あれだけ魔力の籠った刀、まともに切れる所なんて俺は知らない。


メランが何か思いついたようで、店を出て行こうとする。


「おい、待て、刀の差し方教えてやる。」


「差し方? 持ってるんじゃないの?」


「ずっと片手塞がってると邪魔だろ? 腰に差すんだ。」


置いてあった太刀で実践して見せる。


マネする彼女達。 メランそれ今変わらなかったか?


ドレスに急に現れるスリット、そこに太刀を入れる為にあるようなバックルが急に現れた。


「作れば良いじゃない?」


「まぁ…… いいけどよ。」


ルルは帯にきちんと収まる。


「セリカ、それは腰にはつけれんぞ。」


「そうなのかい? どうやるのさ。」


カウンターの中からあれを作った時に運搬するように作った皮ひもを出す。


包む用の布も付けてやる。


「それかい? どうつけるのさ。」


「肩と腰に通すんだ。」


「よくわからないねぇ、一回コテツやっておくれよ。」


手を伸ばして背中を向けるセリカ。


通してやるが、背が高いセリカ、俺の体が尻に当たる、頭が背中に当たるし、デカイ胸が手に当たる。


クソッ、恥ずかしく成ってくる。


付け終わった時には、頭が吹きあがっていた。


「コテツ、ありがとうなのさ。」


嬉しそうに大剣を背負うセリカ。 まぁ喜んでくれたらそれで良いぞ。


白かった布が当然のように黒く変色していた。


それにも驚いたが、店を出るときに大剣が出口よりもデカイ。


声を掛けそうに成った時、そのまま出て行ったセリカ。


店の入り口の上の部分が何やらジュウジュウ言って溶けている。


少しサービスしてもらったんだ、これぐらい良いかと思ったのが間違いの始まりだった。


男はバカなんだ。

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