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底から  作者: ぼんさい
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魔界編 ススカ 44 ~コテツ編 1~

時は遡ります。

生まれてからずっと鍛冶の仕事に触れて来た。


親父は、鍛冶師で寡黙な人だった。


とある町のとある鍛冶屋そんな実家。


毎日鉄を撃ち続ける親父。


その姿を近くで見ていても、怒りもしない親父。


たまに打つ包丁が綺麗だったのを今でも忘れられない。


国は戦争を起こす。 隣国との領土争いどこにでもある話だ。


親父は刀を撃ち始める。 長く反った、その形。


毎日寝る時間も惜しんで打ち続けるそれを俺も毎日見ていた。



11才の時、広がり続ける戦火は親父を持って行った。


急に来た兵隊に、親父は連れていかれ、そのまま帰って来なかった。


敵国の兵士か、自国の徴兵か、ただ鍛冶場だけが残った。



学校なんてもんは、戦争で機能していない。


ひたすら親父の真似をして、鉄を打った。


何でも打った、鍋、鎌、矢じり。


食うためだった、なんでも受けた。


終わらない戦争、次第に親父と同じように刀を打つようになる。


火の色鉄の色、全てが解るように成ってくる。


炉も自分で作り直した。 火力が足りないそう考えたからだ。


3年ぐらい経った時、母親も戦争に連れていかれる。


自国の徴兵、普通に家事だけをしていた母親を戦争は持って行った。


この頃、この鍛冶場のある町は、国がコロコロ変わっていた。


でも世情には明るくない。 俺はひたすら鉄を打つだけだ。


火を通せば材料の特性が解る。 この鉄槌で撃てば材料の顔が見えてくる。


そんな感覚が毎日研ぎ澄まされていく。




ある日、自らを勇者と名乗る人物が現れた。


金髪青目のその男は聞いていた勇者の特徴と一致していた。


俺と同じ肌色の肌。 そこだけが一緒だった。


カケルと名乗ったその勇者は、俺に剣を打ってほしいという。


金が良かった二つ返事で了承した。


欲しい材料を材料屋に言って余分に取らせた。


それで刀を打ってみたかった。



その剣は出来上がった、なんてことは無い剣。


だが俺の力作だ。


それを勇者に渡すと教会に持って行くだの言っていた。


彼が去った後、その材料を作って刀を作った。


刀身だけの刀。 名を天野と刻んだ。


そこから2週間、聖女と賢者を連れた勇者が現れた。


勇者と同じ見た目の女、聖女。


緑の髪と目をした女、賢者。



聖剣、それを腰に差した勇者タケルその聖剣は、俺が作った剣だという。


この時初めて魔法に触れる。


俺は使えないが、通しやすいんだそうだ。


最初は簡単に考えていた。


勇者タケル、聖女メグミ、賢者モミジ


この3人は聖剣の作り方を教えてくれた。


獣人族などの生贄を使用して魔力を込めて作る聖剣。


背中がゾッとした。


俺はなんてものを、作ったのかと、そこから武器は作らなかった。


国の命令を無視したとして、街の牢に入れられた。


助けてくれたのは勇者だった。


次は魔界で魔力を溜めるから手伝ってくれないかと。


魔界、この世界にも魔獣は居るが、それらは全て魔界から来るのだと言う。


人を殺す存在。 それなら良いかと了承した。


また鍛冶場に戻る。 良い材料は最初から置いてあった。


1カ月間触って居なかった鍛冶の腕も鈍っては居なかった。


またある分だけ、剣と刀を打つ。


10本にも成ったそれを、勇者に渡すと、一緒に魔界に行くのだという。


戦えない俺、でも従わないと牢屋行だった。



勇者、最終兵器のようなその存在は話で聞いていた。


ドラゴンを倒し、魔獣の森を簡単に蹂躙する。


相手国の軍隊も。


今思えば親父と母親はこいつに殺されたのかもしれない。


ダンジョンと呼ばれる洞窟に入る。


魔獣が沸いて来る場所ダンジョン。 その中を重い荷物を背負って進んだ。


全て一撃で魔獣を倒すカケル。


経験値がどうのこうの言っていたが当時の俺には解らなかった。


下へ下へひたすら潜っていく。


ついていくだけの俺、賢者も魔法を使って魔獣を倒す。


聞いたのと見ているのでは大きく違った。




最後に大きな洞窟に入る。


一つ目の怪物サイクロプス。


聖女の補助魔法を受けた勇者はそれも一撃で倒してしまう。


この世の物とは思えない火力だった。


奥の扉が開く、何の躊躇も無く入って行く3人。


俺も付いていくしか無かった。



紫の空、魔界に来たのだとそう思った。


不気味な空以外は普通の風景。


扉の出口を出た所で、魔人に初めて出会った。


有無を言わさず殺す勇者。


また経験値だなんだのと3人で話し合っている。



それから整備された道を進む。


永遠に続く荒野。 草も水も無い。


途中出会う、馬や魔人、ケンタウロスやレッサードラゴン。


全てを殺して進む一行。


俺は正直、おかしいと思った。 これはただの侵攻では無いか?


翌日も、また翌日も同じことの繰り返し。


小さな村を見つけては全てを奪う。


経験値、またその言葉だ。 何をしに来たか解らなくなる。


次の日の夜。 こいつらが怖く成って野営中に逃げ出した。


追ってはこなかった、1本だけ剣を置いて行ったのが良かったのかもしれない。


その街道をわき目に、あのダンジョンの扉を目指す。


殺戮を行った跡がまだ街道に残る。


早く帰りたいと思った。




考えが甘かった、兵隊と思わしき魔人に見つかってしまう。


命からがら逃げた森の中、俺は街道から離れすぎて何処に居るのか分からなく成った。


ひたすら歩き続ける。


途中魔獣にも会った。 ただただ身を隠すしか無かった。


2週間は歩いただろうか、ボロボロの服。 でも荷物だけは手放さなかった。


背中に背負った大きなバッグには食料と俺の作品9点が入っている。


山が見えて、誰も居ない街道が戻ってきた。


門が見える、鉄の門。


その奥に大きな煙突。 あれは溶鉱炉ではないか?


嗅いだことのある匂い鉄の香り。


ススカに初めて出会ったんだ。



門で検問やらを受ける。


奴隷か、角なしか、殺されるかと思ったが、殺され無かった。


刀を見て魔人は、鍛冶師か?と聞いてきたので答えると、街の中へ入れてくれた。


ススカの北門にたどり着いた俺は、中の景色を見て感動した。


鉄で出来た街、その真ん中には高炉。


心が躍った、魔界にもこんな場所があるんだと。



しかし簡単では無かった、人間だった俺、周りには魔人しか居ない。


歩く魔人は皆ツノを生やして、歩いている。


ケンタウロスや馬が、ひたすら鉄を詰んだ馬車を引いていた。


それを何日もかけて、どこに行っているか調べる。


その馬車の終着点をひたすら探る。


大通りの鍛冶屋や、家を建てる現場色々外れを引いた。


遂に見つけた、細い路地の刀マークの店。


今の俺の鍛冶屋。


中に居た魔人は俺と同じでツノが無かった。


でも鉄を撃つその姿に、弟子にしてくれと頼んだ。


あっさりと了承された。


彼の名は、ガンズ。 老人の鍛冶師だった。


俺の作品を見て、「良い刀だ。」 と頷く。


それ以上何も言わずに、また鉄を撃ち始める。


人が鉄を撃つ姿を見たのは親父以来だった。


鍛冶場の横で寝る生活。 そんな生活をずっと続けて居た。


炉の改修も手伝った。 俺の持てるだけの知識を出して今の鍛冶場が出来上がる。


魔界の剣は全て魔力が要る。 そう話すカンズも魔力が使えないデーモンだった。


包丁や桑なんかをひたすら打ち続ける。


彼の包丁も見ていて飽きない物だった。


俺の作品を1点店に並べて置いておいた、ずっと売れ残っていたそれ。


高炉長?とか言うのが来て買って行った。 芸術品として家に飾るのだとか。


そこから鍛冶場で刀を撃たせてもらえる事が多くなる。


カンズも歳なのか、あまり鍛冶場で打つことは無く成り、店番が多く成っていく。


たまに売れる刀、注文が入るように成った、槍や大剣、魔界にはデカイ奴も沢山居る。


だが全て実用する武器ではなく、置物としての注文。


意地で研いで刃は作っていた。


ひたすら鍛冶場で鉄を撃ち続ける日々。 そんな日々をずっと過ごして居た。


あの見えた煙突は高炉という炉らしい。 この街の鉄は人間界に居た時よりも数段良かった。




何も考えず良い時間を過ごした。


戦争も無く、ひたすら鉄を撃ち続ける日々。 人生で一番集中できた時間だった。



ある日ガンズは死んだと鉄の納入している魔物から言われる。


別に家があったガンズここに来る途中、邪魔だと言われて殺されたのだとか。


唯一このススカで嫌な事がカンズに振りかかってしまう。


種族差別が酷いこのススカでは、角の無いデーモンは家畜以下の存在でしかない。


俺は店から出ないと決めた。


食料も鉄を納入してくれる魔物から買う。


その代わり安く卸してくれと言われた桑や、鎌をひたすら作り続けた。


俺は魔界での親父を失ったのだ。


その気を紛らわすように金が続く限り、好きな物を作った。


そんな時、女の恰好をした大男が店に来る。


メルサ、料理人を名乗るその男は、店の包丁を買って行った。


何でも街の南で変わり者が集まる宿をやっているのだとか。


その日メルサと馬車で初めて、この世界の宿に行った。


客は少ない、白いヘルキャットが暇そうにカウンターに居るだけの店。


出された料理は絶品だった。 酒も旨い。



それから金が溜まってはその店に行くように成る。


次第に角なしのデーモンの知合いもその店で出来る。


鉄を納入してくれるデーモンは鉄だけを持ってくるように成った。


裏路地で全てが揃う。 酒を飲むのだけがメルサの所に行かなければならなかった。


実用品より高い芸術品。 金欲しさに余った時間全てを芸術品に使ってしまう。


店の壁がそれで一杯に成ってしまった。


ゴチャゴチャした店内、それでも買って行く人はポツポツ現れる。


売れては飲みに行く。 人生が楽しく回り始めた。



そして今日、も客が来る。


鉄を打っている最中に扉が開いて空気が動いた。


店の中を見ているんだろう。 この桑を打ち終わったら行こう。


そう思いながら今日も鉄を打つ。

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