魔界編 ススカ 43
目の前には私の黒い鎧。
メランの宿に戻ってきた。 どうやら転移は成功した様だ。
「ニャ、ニャ、宿に戻ってきたニャ。」
「ムー、体は大丈夫なの?」
「大丈夫だニャ、熱いのも無く成ったニャ。」
魂を急に沢山取り込んだムー。
大丈夫だと思ってやったが、私の予想はきちんと当たっていたようだ。
"ゴーン" "ゴーン”
先ほどから鳴り続ける鐘の音、西と東から。
木を植えた時、木が鳴るように思い描いたのが既に鳴っている。
何かが起こっている。
西からベルゼブブの気配。 こちらはなんとかやっている様だ。
門を破られても居ない。
東、知らない感覚。 中に入ってきている異物の感覚。
「ねぇ、ムー体が慣れてきたら西門を助けてあげてくれない?」
「ムーが助けるニャ?」
「今のムーなら出来るはずよ。」
「ニャニャ、出来そうなら行くニャ。」
「そうそう、出来そうならで良いからね。」
ムーを床に置いて、窓を開ける。
「私は東に行くから、よろしくね、ムー。」
手を振るムーを後に窓から飛び出した。
相変わらずセリカやルルちゃんの気配は無い。
私達だけ戻ってきたようだ。
街中は、いつもより騒がしいが、異物は入ってきていない。
炉の建設は続いている様で、まだそんなに時間は経っていない。 その周辺は多くの人でごった返す。
東西南北に逃げ惑う魔人達。 彼らを尻目に、旧東門跡地を出て、草原へ抜ける。
見渡す限りの黒い獣や黒い魔人で覆われた新しい東門。
その中に雷撃や炎が見える。
必死で戦う冒険者達や衛兵達、あの雷撃はヒヒだろうか。
私達が消えてから何かに襲われている。
街道の上空を真っすぐ飛ぶ。
街道に馬車が所々走っている。 追加の衛兵を乗せた馬車。
皆で街を守ろうと必死に成っている。 なんだか胸から込み上げてくる物がある。
早く東門に行こう目を向けた時に、炎の塊が目の前を襲った。
手でそれを吸収すると、黒いドラゴンが6体、なにやら下を見ている。
門の奥に他より少し大きな感じが1匹
多数の小さい感じが無数にこちらに向かってきている。
何も無く成った街道と、漂う魂。
守っていた皆が死んだ? そう思った。
この時異物を全部殺そうと決めた。 一匹残らず全部。
お腹から魔力が溢れてくる。 でも魔力をそのままぶつけると皆の魂まで変わってしまう。
木を植えた時に魂が逃げないように細工をしたから、セリカみたいな存在が居ない限り彼等の魂は無事なはずだ。
所々に居る黒い犬を太刀で切り捨てながら心を静める。
その東門の上空についた。
聞こえてくる馬鹿にしたような女の高笑い。
この状況を楽しんでいるように感じる。
すぐにでも殺してやりたくなる。 皆をこんな事にした奴ら。
私達を飛ばして街を蹂躙しようと思って居たんだと思うと、はらわたが煮えくり返る。
でも先に彼等をなんとかしないと、浮んでいる魂に肉体と、魔力を再結合させる。
足らない分は私の魔力で補う。
気付いていない異物。 よほど楽しいんだろう。
余計に腹が立つ。 この笑っているのは後だ。
一応生き返ったダンに声を掛けて
西門を確認する。
壁を乗り越えてくるサイクロプス。
そのサイクロプス達に雷撃が何発か撃たれ焦げて絶命するサイクロプス。
あのベルゼブブの城で見た羊頭の上から火の玉が、地面の衛兵を焼いている。
立ち向かう衛兵達、それをあざ笑うかのように打ち出される火の玉。
横を見ると、魔獣共は寝ていた。
何をしているんだあいつ等は、これまでの怒りが合わさって、私の中の感情が沸き上がった。
「一郎、二郎、寝てるんじゃないの! そこの何とかしなさい!」
全部吐き出したら魔獣共が固まってしまう。 口調は無理に柔らかく。
南の方から、白い大きな猫が家の上を飛んで西を目指している。
ムーだ。
力の使い方が分かったのか尻尾を9本生やした大きな白い猫。
それが戦場に向かって飛んでいる。
魔獣共は雄たけびをあげて走り出した。
ただ、走るだけ飛ぶだけのそれ、真面目にやっていると思えない。
頭が熱くなる。 殺してやろうか。
「本気でやらないと、殺すよ。」
今度は意思を乗せる。 いい加減、ちゃんと動け。
本能で理解したのかやっと魔法で攻撃を始める。
あちらは大丈夫そうだ。
向こうで浮いている魂にも肉体と魂を補填する。
次はこちら東門だ。
一面に見える黒いだけの軍隊。
魂に何か魔法が掛かっているだけのオモチャ。
それを北の山の方から、ただ力で切る。
一匹も漏らさない、一匹一匹確実にひたすら腕を振り太刀で切り捨てる。
イライラが止まらない。 その作業に集中する。
あの笑っていたのは後だ、あれだけ肉体がある。
すぐに全部なくなってしまった。
ダンの元に戻り、何が起きたか聞きたかった。
何故が私が切り捨てた方を見ているダン。
敵は後一匹トンネルの奥なのに。
「ちょっと、弛んでるんじゃない?」
ダンに言うと錆びたロボットのような動きでこちらに振り返る。
弛むんじゃなくて錆びてるのかな?
「メラン、お前どっかに飛ばされたんじゃないのか?」
普通に戻ったダンは、私に聞いて来る。
「帰ってきたわよ。 どういう状況なの? 教えて。」
状況を知りたい私が居ない間に何があったんだ。
「帰ってきたってお前、どこに飛ばされたんだよ。」
まともに返事してくれないダンに少しイラつく。
でもその顔は心配してくれている顔だ。 少し心が安らいだ。
唯一肉体を持つ異物から放たれる小さい魔力。
さっき私を襲ってきた火と似たような魔力。
「私の軍隊、殺しちゃダメじゃん?」
小さい放たれた魔力は手で吸い取る。
こんな魔力、反らすまでも無い。
それが喋った。 私の軍隊? あなたの軍隊が私の街の住民をこんなことにしたの?
体に力が入る頭がボーっとする。 太刀がそれ以上は握るのをやめてくれと鼓動を返してくる。
皆、あれにやられたの?
ダンもロレーヌもヒヒも周りの衛兵も冒険者達も皆頷いている。
「なんなのよぉ、あんた! 余裕かまして、気分悪いじゃん。」
気分が悪い? 私もあなたのせいで気分悪いんだけど。
無意識にそいつに近づいて逃げないように頭を掴む。
神の時の教訓だ。
このまま握りつぶせと本能が叫ぶが、それではすぐに終わってしまうと脳が返す。
コイツがやったのか、睨みつけているであろう顔をよく見る。
何処にでもいるデーモン、そんな感じだった。
「飛ばしたはずじゃん? なんでこんなのが居るじゃん。」
それが喋る。 飛ばす? そうだこいつは知っているかもしれない。
何かすると壊してしまいそうだ。 繊細な生き物。 慎重に声を出して聞いてみる、
「あなたが飛ばしてくれたの? ねぇ、他の子達はどこなの?」
「私が知るわけないじゃん。 どっかの人間界じゃん?」
あっけらかんと言うそれ。
お前が仕組んだんだろ。 お前が。
「わ、私がしたわけじゃないじゃん。 人間の賢者共が飛ばしたんじゃん。」
こいつがしたわけじゃないのか、使えないもう要らないじゃないか。
「だから、その手やめてほしいじゃん?」
まだ、喋るこれ。命令までしてくる。
もういいや。
本能が勝つ、そのままそれをトンネルの側面に投げ飛ばす。
気が晴れない。 毎回こうだ。
こいつらは私達の大切な物を壊して治しもできない。
口から何か出さないとせっかく植えた木を吹き飛ばしてしまいそうだ。
「ねぇ、あなた誰なのよ。」
どうでも良い事を聞いてみる。
あれが持って居た水晶が転がっている。
魂の沢山入った水晶。 これで黒いのを操ってたのか。
そんな物で私の街を。 足で踏みつぶす。 その魂は私が貰う。
何の足しにもならない魂。
「わ、私はスカサハじゃん。 私を殺したら、ルシファー様が来てしまうじゃん?」
ルシファーが来るんだ。 この世界壊さずに居られるかな。
「私からルシファー様にお願いするじゃん。 もうここは攻めないように言うじゃん。」
攻める? 攻めてたんだ。 私の街を。
どうしてやろうかこれ。
「魔界で一番強いルシファー様じゃん? でも、私が言えばなんとかなるジャン?」
なんとかなる? 意味が解らない。
貴方に私が頼むの?
ルシファーとかどうでもいいの、貴方その前に言うことあるんじゃないの。
「わ、悪かったじゃん。 だからもうしないじゃん。」
悪かった? 舐めてるのかこれは。
もういいや、何も情報取れないし。 私の前から消えてよ。
付きつけていた剣をそのまま刺して、逆側の壁に撃ち当てる。
それは消えた。
少しだけ気が晴れた。
ダンと話をしている最中だった事を思い出す。
「ねぇ、セリカとルルちゃん何処に行ったか分からないの?」
「スマン、分からないんだ。 急に消えてしまって。」
ダンの顔が恐怖に歪んでいる。
そんなに怖い私? 髪から血が垂れて視界に入った。
これか、ゴメンね気付いてなかった。
召喚魔法をやったのは誰なんだろう。
あの時急な出来事でわからなかった。
「皆、その魔法をしたら死んじまったよ。」
死んじゃったの? 何か残ってるかもしれない。
それはどこにあるの?
衛兵の一人が門の階段を上がって行った。
持ってきてくれるのかな?
「メラン、お前何処から帰ってきたんだよ。」
「私? 人間界だけど、どうして?」
「人間界に飛ばされたのか、よく帰って来れたな。」
「滅ぼしてきたのよ、ベルゼブブが滅ぼしたら帰れるって言ってたから。」
唖然するダンと周り、神様も殺しちゃったけど言わなくて良かったかな?
階段を上がった衛兵が死体を持ってくる。
疲れているのにありがとう。 言葉を掛けてその死体を調べる。
あの神にしたのと同じだ。
私の魔力をそれに流す。 魂が残っているかもしれない。
最初のは無かった。
次も無いし、最後の無い。
ここは魂が上がって消えないように細工してある場所だ。
それが無いという事は、魂を消費して召喚をしたのか。
自爆覚悟の召喚。 一体だれのためにそんな事をしたのだろう。
「メラン、何してるんだよそれ。」
何って、魂に聞いてるんだけどね。
あまり腑に落ちていない皆。
あんまり見えるものじゃないし、しかたないよね。
とりあえず、セリカやルルちゃんが帰って来るのを待つしかない。
何処にいるか解らないし、私が行ったらまた街が同じ事に成ってしまう。
ダンが顔色を変えて焦ったように西が攻められたと言ってくる。
ベルゼブブ? あいつも後で清算させないと。
でもムーも居るしもう大丈夫だと思うよ?
それよりセリカやルルちゃんだ、ダンは何か知っているだろうか。
「私から説明させていただきます。 メラン様。」
ロレーヌが答えてくれた。
ドラゴン退治の為に、他の街から冒険者呼んだんだって。
それ以外は解らないという答え。
そんなにドラゴン退治が大変なら言ってほしかったな。
カレンの練習にもなるだろうしさ。
ロレーヌが責任を感じてか頭を上げてくれない。
別に彼女が悪いわけじゃないのに。 肩に手を乗せて気にしないように言っておく。
こんな事が起きたんだ、次は飛ばされないけど皆の武器とかも考えないとね。
人間界も勇者が一番強いみたいだし他の皆は大丈夫だろう。
少し心配だが私はこの街を離れられない。
メルサさんのご飯でも食べて、考え事をまとめよう。
皆には悪いけど私も楽しみなんだメルサのご飯。
ラーナちゃんの事、両親にも言わないとね。
その後いつもの馬車に乗って、ヒヒの自慢話を聞きながらメルサの宿に向かうのだった。
ヒヒ本当に雷使えたんだ。




