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底から  作者: ぼんさい
52/98

魔界編 ススカ 42

立派な大きな白い城、高くそびえるその城はいくつもの塔を有し、見る者を魅了させる。


その城を真ん中に円状に広がる城下町も、皆白く美しい。


街を囲む城壁も白く輝いている。


バンブー国の首都バンブー。



白く綺麗な街並みは、やけに静かで住民を見つけることは難しい。


静まり返った街、城壁の外はその街とは反対に、森と川は枯れ不毛の大地が続いている。


街道も誰も歩いていない街バンブー。


その城の一番上の王座の間で、人が集まっていた。




外は夜に成り暗く成っているが、光魔法のシャンデリアで照らされた王座の間、


赤いカーペットが入口の宝石の散りばめられた真っ白な扉から続いている。


5段は高い所の王座に座る白い髭を生やした老人。

その体は、贅沢の極みを取り込み丸々と太っている。


禿げた頭を王冠で隠し赤いマントを羽織った老人。

この国の国王バンブー国王は、青い目で段の下にある魔法陣を見つめていた。


「バンバーソ大臣、いつに成ったらこの魔法陣は役に立つのだ。」


国王の5段下、床に立つ、スーツを着た小柄の老齢の男性

茶色の髪を後ろで纏め、同じ色のした目を同じように魔法陣に向けている。


「国王様、これ以上召喚をすると、もう国民が居なくなってしまいます。

山も枯れ、川も枯れて。 この国が無くなってしまいます。」


「やかましいぞ大臣、バンブス将軍情報は確かなんだろうな?」


大臣の逆側に立つ白い鎧を着た金髪の青目の男

その鎧は勇者の者と違い輝いていないが、どこまでも白い。


「国王様、間違いありません。 マッシュルーム国は勇者の召喚に成功しています。」


「ほらみろ、大臣。 奴らは勇者でこの戦争を終わらせようとしている。我が国も対抗せねば成らんのだ。」


「国王様、既に辺境の村々からも、大人子供が召喚に呼び寄せています。 蛮族は使い果たし、これ以上国民を失うと、本当に国が滅びますぞ。」


「攻め落とされるよりましじゃ、もう大地から魔力を吸い取れんのだから仕方ないではないか。マッシュルーム国に勝ってから、再建すればよかろう。」


「兵も勇者にやられ、減ってきています。 どうか召喚に理解をしてくだされ大臣。」



元々様々な種族の暮らしていたこの世界。 獣人やエルフ、ドワーフといった種族は全て滅んでしまった。


全て、マッシュルーム王国とバンブー王国の召喚の生贄として消耗してしまった。


蛮族が居なくなってしまった両国、大地の魔力を生贄に召喚合戦を始める。


そして大地は枯れ、不毛一色となったこの世界。 ついには同種の人間にまで手を出していた。



2国の争いは、この世界全てを巻き込んで今も継続している。


勇者と悪魔を召喚し、ひたすらに戦わせる両国。 それ以外の兵は塵のように消えていく。


今回は、マッシュルーム王国が勇者の召喚に成功してしまっていた。


「早くせんと、あいつらの勇者がここに来てしまうぞ。 速くなる方法は無いのか、スェン魔法大臣よ。」


小柄な体に尖り帽子を被った女性、長い茶色の髪は地面に付いてしまって居る。


木の棒を持つ彼女は魔法使いの恰好をした魔法大臣のスェンだ。


「国王様、魔法陣は完成しております、あとは運のみかと。」


「どいつもこいつも役に立たん! さっさとせんと負けてしまうぞ!」


国王が、指を鳴らすと、メイド服を着た女性がワインを持ってくる。


グラスを手に取った国王は、そこでワインを楽しみ始める。


魔法陣を見つめる一行、遂に魔法陣は光り出す。


その瞬間、バンブーの街にわずかに残った何百人の命が消えた。







4個の門に、巨木を生やして強化し終わった所で、知らない奴に飛ばされてしまった。


神力召喚とか言っていたそれは、セリカとカレン、ルルちゃんとラーナちゃんを目の前から消し去った。


どうしようもできなかった、なんでも出来るんじゃなかったのか私は。


自分に腹が立つ。


ムーまで巻き込んでしまった、彼女は黙り込んでしまっている。


ひたすら真っ暗な空間、その空間に一つの光が見えた。




豪華なシャンデリア、嫌というほど白い室内。


足元には赤い絨毯、目の前には階段があって、太った男が座っている。


「角なしデーモンとヘルキャット…… 国王様失敗です。」


「なんだと、もう後が無いのだぞ!」


とんがり帽子の女性と、その太ったのが何かを喋っている。


「もう何でもよい、将軍、こいつを連れて戦場へ行ってまいれ。」


太った男が手に持ったワイングラスを私に投げてくる。


頭に当たったワイングラス。 その中にあったワインは私の白い髪を赤く染める。


「ねぇ、元の場所に、返してほしいんだけど。」


「この悪魔、勝手にしゃべったぞ、制御が効いてないぞ。 近衛兵!」


横の白い鎧を着た金髪男が何か言っている。


なにか宝石が無秩序に光る扉が後ろで開くと、似たような鎧を頭まで被ったのが出てくる。


私を取り囲うように槍先を向けている鎧達。


「悪魔よ、頭を下げなさい。 ここは召喚主である、王の御前ですぞ。」


スーツを着た茶髪が何か言っている。


召喚主? こいつが私達を召喚したのか。


「他の子達はどこにやったのよ。」


「他だと? そんなもの無いわ! はずれが! もう良いやってしまえ。」


何やら怒っている太った男、ここにはセリカとルルちゃん達は来てないんだ。


「ねぇ、ちょっとお話ぐらいさせてよ。」


「やかましい! やれ!」



周囲の鎧を着た連中が私に槍を突き刺してくる。


体に触れる瞬間に、その槍は砕けてしまった。


近衛兵と呼ばれた甲冑達は腰にあった剣を抜いて、こちらに構えてくる。


「ミスリルの槍が砕けた…… 国王こいつは勇者に当てても行けるかもしれませんぞ。」


金髪の白い鎧が勇者と言っている。


勇者が居るのか、当てる? 戦わせるって事かな。


「壁ぐらいにはなるのか、すぐ戦場に送り込んで勇者を止めてくるのじゃ。」


「おい、角なし付いてこい。」


落ち着きを取り戻した太った男が命令すると、私の目の前に居た近衛兵が喉元に、剣を突き付けてくる。


馬鹿らしい、さっさと戻りたいのに。


イライラしてくる、こいつら勝手に召喚しておいて、私を戦わせようとしている。


「おい、動け貴様!」


突き付けられた剣を、手で握りつぶしてやる。


パラパラと砕ける剣、ヘルメットの奥の青い目が見開いているのが解る。


「魔法大臣なんとかせんか!」


とんがり帽子が、何やら光った輪っかの様な物をこちらに掛けてくる。


首に掛かる輪っか、何の変哲もない鉄の首輪。


「隷属魔法です。 これでいう事を聞くようになります。」


「よくやったぞ魔法大臣、後で褒美をやろうではないか。」


とんがり帽子と、太った男が喋っている。


こんなオモチャで隷属なんてするわけないじゃない。


手で、その首輪を取る。 簡単に砕けた首輪。


「隷属魔法の首輪を手で砕いた……」


「ヘルキャットは従属しているのでしょう? 国王様、あれにやられるのです。」


「ヘルキャット、その角なしを従えろ!」


スーツの男が言うと、太った男が叫ぶ。



片手でずっと持って居たムーが、私の腕を噛んだ。


ムーの口から血が流れる。ずっと止まらない。


いつもの様に頭を撫でてあげる。


ムーの目からは涙が流れてくる。



何か情報とか、どうでも良く成った、こいつ等私のムーに何してくれるんだ。


空いている手で太刀を抜く。


「なんだ、あの魔剣は!」


「禍々しい! 近衛兵掛かれ!」


周辺が騒いでいるがどうでもいい。


この下の模様が召喚陣か? これを壊せばムーは戻るかもしれない。


涙を流しながら、腕を噛み続けるムー、歯が欠けて歯茎が私の腕に当たっている。


見ていられない。



少し飛び上がり、周りの鎧と一緒に召喚陣を床事壊す。


血を吹きながら切れる鎧と、何の抵抗もない床。


そのまま床が崩れ去って落ちた。


「おい! 誰かあいつを止めろ!」


太ったのがまた叫んでいる。 五月蠅い。


ムーがまだ噛んでいる。


一度この場所から離れたほうが良さそうだ。



「悪魔が逃げたぞ!」


「撃ち落とせ! 魔法兵、弓兵、撃てぇ!」


天井を切って、空に上がる。


暗い夜。 魔界には無い夜だった。 空には2個の青い月。


上空に上がるとその白い城から、無数の魔法や、魔法が乗った弓が飛んでくる。


ラーナちゃんの方が強そうな魔法の数々。


適当に太刀であしらう。



ムーに意識を裂く。


彼女の魂の周りに何かゴミが付いている。


魔法陣の様な物が6面に6個。


私の魔力で、それを呑み込む。 ムーの魂を傷つけないように慎重に慎重に。


「メラン、ごめんだニャ。 ムーは、ムーは何をしてしまったんだニャ。」


涙を流し、その顔を必死で上げて私を見てくるムー。


口からごっそり歯が無くなって血まみれに成っている歯茎。


ムーの白い目から涙が止まらない。



久々に感情が抑えられない。


下から放たれる魔法がウザったい。


太刀を振るう。 久々に全力で。


城が切れ、街が切れ、大地が裂けた。 そこからあふれ出たマグマは街を呑み込んでいく。


それだけで止んでしまう魔法。


太刀を持ったまま、ムーを撫でてあげる。


「いいのよ、ムー。 彼らにお仕置きしないとね。」



ムーに治癒魔法を掛けて、服の中に入れる。


また顔だけ出したスタイルのムーは、落ち込んでか何も言わない。


こんな世界どうでもいい、そう思った。


より高く上空へ上がる。 遠くの山にはドラゴンが飛んでいる。


しかし、大地は殆ど土が向き出しで、木が枯れている。


半分終わっている世界。 ムーをこんな目に会わせた世界。


下から何か光っているが、私にはもう届かない。



両手で太刀を持つ。 久々の全力。


魔力を太刀に流す。 鼓動する太刀。 この子も喜んでいる。


腕に力を入れて上から思いっきり振りかぶる。


飛ぶ斬撃、上と下に扇状に広がっていく斬撃は、雲を裂き、山を裂く。


斬撃が当たった地面からはマグマが噴き出して周囲を呑み込んでいく。



何か自分やった感じがしない。


下に急降下する。 


そのままの勢いで、地面に太刀を突き刺す。


低空飛行で地面のスレスレを飛ぶ。


途中何やらシルバーの鎧同士で戦っていたが、そんなのはもうどうでも良い。


前に山が見えて来た。


その山に向かって力だけの斬撃。


吹き飛ぶ山、私の下の地面と、山からマグマがあふれ出す。


何回も何回もそれをやる。


途中街や似たような城があったが、気が収まらない。


それに、ベルゼブブの言葉を思い出す。


"人間界を滅ぼすと魔界に帰る"


ただひたすらに体を動かし続けた。


途中昼に成ったり夜に成ったり、高速でこの世界を切り刻む。


最後に思いっきり地面に向けて太刀を放つと、地面が割れて裂けて行った。


そこから噴き出すマグマは、天高く吹きあがる。


私も高度を上げる。


マグマに覆われた真っ赤な大地だけがそこにあった。


「ムー、魂を食べた事ある?」


「ニャ、無いニャ、ムーは魔獣に近いニャ。」


「そうなんだ、痛かったら言ってね。」


「ニャ、ニャ、わかったニャ。」


死に絶えた大地に魂が1万個ぐらいだろうか。


ちっぽけな魂がそこら中に浮いているのを集めて、ムーに入れる。


ムーは少し白く光るとそのままの姿だった。


「ニャ、なんだか体が熱いニャ。」


「魂を取り込んだからじゃない? 痛く無い大丈夫?」


「痛くは無いニャ。」


私の服の下でモゾモゾと体を確かめているムー。


可愛く成って、手で頭を撫でる。 ゴロゴロ言うムー。


大きな変化は無さそうだ。




魂を全てムーに入れた所で、目の前の空間が割れた。


その白い不自然な割れ目から、黒髪の男が出てくる。


普通の市民の恰好をした普通の魔人の様な男。


気持ち悪いぐらい平均的な男が話しかけてくる。


「お前が新しい魔王か、名を示せ。」


イライラしている私、なんか偉そうなコイツに腹が立つ。


「あんたが私を返してくれるの?」


胸倉をつかんで、さっさと返せと要求する。


「貴様、我はヴェーダ、選別の神ぞ。 なんという凶暴さ。」


「いいから、さっさと帰してよ。」


「このような侮辱は始めてだ、悪魔ごときが神に逆らうのか!」


私が持った布の服を無理やり破り距離をとるヴェーダ。


右手に光る剣を出現させたヴェーダは、その剣を両手に持って振りかぶって来る。


何てことの無い筋、遅い動き。 光る剣を太刀で切り返すと、その剣は消えた。


「なんだ、貴様。 最近半分世界が消えたり、神界も半分無くなり忙しいのに、こんな変なのまで出てくるのか。」


「どうでも良いから、さっさと帰しなさいよ。 殺されたいの?」


「神を殺すだと。」

急に笑い出したヴェーダ。 何がおかしいんだろうか。

コイツにも腹が立ってくる。 さっさとしてほしい。


「世界の狭間で、永遠に彷徨っておくが良い!」


また右手から何か光の玉みたいなのを飛ばしてくる。


目の前で広がるその玉、私を包み込むように広がる。


あの神力召喚とかいう召喚に似た感覚。



広がる光の玉を手に取ってみる。


ただの魔力の塊。 こうなってるんだ。


なんとなく構造が解る。


「貴様、それを触るだと!?」


「何よ、触れるじゃない。 いい加減早く帰してよ。 魔界に帰りたいの。」


私が光の玉をその膜から引きちぎると、膜は消えてしまう。


下では、まだ赤く煮える大地が見える。


「ここで一生を過ごして居ろ! 俺はもう知らん!」


現れた裂け目に逃げようとする神、勝手な神様だ。


逃がすわけないよね。


その裂け目との間に移動して、逃げないように頭を手で鷲掴みにする。


何か現実味の無い感触。 これ本当に存在するんだろうか。


「貴様何をするか、離さぬか!」


「ダメ、さっさと私を帰してくれないからこうなるよの。 あなたのせいね。」


手でこの男に私の魔力を無理やり流し込む。


男の身体中から、何か電気の様な物が走りしびれている。


彼の情報が私に入ってくる。


転送の仕組みや、管理している人間界。


無数にある人間界のどこかにセリカやルルちゃんは居るのだろうか。


半分黒い何かに呑み込まれた神界と人間界。


それぐらいしか情報が無い。


「使えないわね。 あなた。」


男は泡を吹いて目が上向いて、逝ってしまっている。


魔力を流しすぎて壊してしまっただろうか。


どうでもいい、とりあえず帰ろう。


男を赤くマグマが煮える大地に捨てる。


比較的大きな魂が浮いて来る。


「ムー、もう一回行ける?」


「ニャニャ、行けるけど、何の魂ニャ?」


「さっきの神とか言ってたのよ。」


「神ニャ?」


浮いている魂をムーに入れる。


しばらく光るムー。


光が消えても姿はそのままだった。


「熱いニャ、お腹がすごく熱いニャ。」


「なんか破裂しそうとか無い? 大丈夫?」


ムーの身体の中を魔力を通してみる。


体の中で白い魔力が回っている。 経験したことの無い魔力に熱いと言っているだけだろう。


「少し寝てれば治ると思うわ。 帰りましょうか。」


「ニャ? メラン帰れるのかニャ?」


私の鎧、その気配を手繰る。


その気配を見つけて、そこに飛んでいく。



メランとムーを包んだ黒い魔力の塊は、小さく成って消えてしまう。


その後に人間界だった赤い球体が、ただひたすらに火を吐き続けていた。


見えていなかったメラン達の反対側は離れて行ってしまう。


その二つの半球は徐々に丸に成り、2個の赤い塊になる。


冷え固まった丸い玉に大気が生まれ、天使たちが弾いた魂がそこに付着する。


この双子惑星が、また争いを始めるのは遠い未来の話である。

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