魔界編 序章 4
蛇のセリカを見て逃げ出したサイクロプス達。
その後、"ルル"と呼ばれていたぬいぐるみ達の村を回るが、他は一匹も居なかった。
仲間が皆死んでしまったルル。
今はショックだろうが、喋れる相手はこの子しか居ない。
世界の事を教えてもらわなけらば。
セリカはチロチロする舌を加速させながら、私の肩に乗っている。
そのセリカをずっと睨んでいるルルに話を切り出す。
「ルルちゃんで良かったかな? 仲間残念だったね………」
「いえ、大丈夫です。 慣れていますので。」
「嫌だったらかまわないんだけど、奴隷っての教えてくれない?」
「はい………
"奴隷"気になる言葉だ、頭が痛くなった言葉にこの世界の話を聞く。
ルルちゃんから聞けたのはこんな話だ。
この世界は、太古の昔、悪魔と魔物の世界が合体して出来た神話がある。
そこから、喋れるのが魔人で、喋れないのが魔獣。
喋れるが魔人の中でも弱い種族が奴隷とされているようだ。
ルルちゃんは奴隷の中でも一番弱い種族のプチデーモンあんな簡単に殺されてしまう。
魔獣はどうかは解らないが、魔人は稀に人間界に呼び出されて消えていく。
基本的には帰って来ない。
帰ってきた旧悪魔が、この世界を分割統治しているとの事。
今居るこの場所は、ベルゼブブの収める地域でそこにルルちゃんは生まれてから奴隷と言われている。
魔人の前で喋る事も許されていない。
普段は魔人の為に、雑用や重労働をさせられていて、住む場所もこのように危険な場所しか与えてくれない。
あの森は未開の森と呼ばれ、強い魔物で溢れかえる危険な森の認識の様だ。
ベルゼブブでさえ、あの森は入ったら帰って来れない森だそうだ。
そんなに危険な森だったんだ、あの時下に降りなくて良かった。と思う。
その森に住んでいたセリカはすごい魔物のようだ。確かに先ほどから火を口から吹いている。
「レッドセリカサーペントって火吹くんですね、知りませんでした。」
「この子珍しいの?」
「はい、飛べるセリカサーペントは、現れると街を何個も滅ぼしてしまうと言われています。」
「そんなに凄いんだ。」
セリカの頭を撫でてあげる。チロチロ舌を出すのが可愛い。
「物語上の存在でしか無いので、現物は初めて見ました、それに赤いのは聞いたことありません。」
「この子特別なのかもね。」
「詳しく知りたいのであれば、街に行って<<ステータス>>を見てもらうといいですよ。 大騒ぎになるかもしれませんが。」
「そうなのね、街があるのね。」
「はい、私たちは生まれた時しか入れませんが、サイクロプスの様な人が住んでますね。」
"奴隷"彼女は一般的では無い生活をしているようだ。
「それで、ルルちゃんはこれからどうするの?」
「私は村が私だけに成っちゃったので、街に行ってまた奴隷先を探さなくては、いけません。」
生まれながらにその生活をしてきたのだろう、逃げるという選択肢は無いようだ。
その可愛い狐のヌイグルミを思わず抱きしめてしまった。
「あの魔人さん、お名前なんて言うんですか。」
私の胸に埋まっているルルが問いかけてくる。
"名前"そうだ自分は何者なんだろう。"メラン"あの墓石の文字が私の名前の気がする。
違っても良い少し借りよう。
「メランっていうの、よろしくねルルちゃん。」
「メランさんですか、よろしくお願いします。古い名前ですね。」
古い名前、そうかあの墓地がくたびれていたのを思い出す。
彼女の知り合いの名前では無いようだ。
「ずっと森に住んでたからね、古いのかもしれないわね。」
笑いながら返すと、胸元のルルは少し笑っているような気がした。
その後、ルルちゃんに案内されて誰も居なくなった村を去り、あぜ道を進む。
結局ルルちゃんの行く"ススカ"の街に行くことに成る。
風景は変わり、周囲は普通サイズの森と高くても膝までの草、花まで咲いている。
沢山の初めてに楽しくなる。
ふわふわと浮かぶセリカとルルちゃん。ルルちゃんのスピードはゆっくりだ。
真ん中で歩いている私、歩調をルルちゃんと合わせる。
進んでいるとルルちゃんに紫色の蝶が止まる。
ふと空が気になった。
「ルルちゃん、ここはずっと明るいの?」
「森の中以外は明るいですね。」
「時間とかどうしてるの?寝ないの?」
「白時間と赤時間があります。今は赤い月が昇っているので赤時間ですね。」
あの丸は月のようだ。ただの丸にしか見えないけど。
「寝る時間はあの月で決めてるんだ。」
「そうですね普通の魔人達はそうしてます。私たちは寝られる時に。」
また普通とは違う、奴隷のルルちゃんが出てくる。
今日ぐらいは寝かせてあげたい。
「ルルちゃん、良かったら私が背負ていくから休憩しておいてよ。」
そう言うや否や服の中にもぐりこんでくるセリカ。やっぱり言葉を理解している。
それにしても少し大きく成ってないだろうかこの子。
「いえ、そんな私なんかに………。」
「いいの!私が歩くから、ね?」
そう言うとそのまま飛んでいるルルちゃんを抱きよせる。
モフモフした毛、さっきも思ったが肌触りが良い。
「メランさん!?」
このままのスピードではいつ着くか解らない。
それに魔人達にとっては今は夜なのだろう。上に見える赤い丸。
人目にも付かないだろうと飛んでいこうと思う。
「少し甘えさせてもらいます。」
ルルちゃんとセリカをセットした。このままあの森の疾走感が思い出され、気持ちがうれしくなる。
足に少し力を入れ、地面を蹴る。
流れる風景、速度が弱まるとまた地面を蹴る。
やっぱり、この速度が気持ちいい。自分が風の様にあぜ道をひたすら進む。
「ちょ、えっ、あの。」
ゆっくりしてればいいのに、ルルちゃんはその狐の顔で周りをキョロキョロ見ている。
ぐんぐん加速していく私、ルルちゃんがずっと似たような反応をしている。可愛い。
途中火を囲う集団や、森の中でじっとしている集団を見つけたが、すぐ流れていく。
1分ぐらい加速を続けると、目の前に石畳みの道が出て来た。
どちらに行けば良いのか分からない。ルルちゃんに聞こう。
彼女は腕の中で気絶していた。
セリカを見て逃げ出したサイクロプス達、何故かその後来ない魔物達にあの災害級の蛇に魔物達も逃げ出したのだろうと、逃げるのを止め野営していた。
幸いあの蛇は足は速くない。
赤の時間だ、普段なら寝ている時間。少し疲れた道の外れで暖を取る。
"シュゥゥゥゥゥゥ"急に何かが未開の森の方からやってきて、気が付くとあぜ道を抜けて行った。
風が後から吹き荒れて、残り火だった火が消えてしまう。
早くこの成果をベルゼブブ様に報告しなくては!
また歩き出す一行、あぜ道に何故か小さなクレーターが出来ていた。
ルルちゃんが気絶しているとどっちに行って、いいか解らない。
誰も通らない石畳みの道、遠くには山しか見えない。
知らない間に草原に出ていたようで、周りには背の丈より高い岩以外何も見えない。
ずっと続く石畳みの道、右側に意識を集中するとポツポツとある反応の奥に、多くの魔人の反応がある。
サイクロプスの様な反応。
あそこには街があるのでは無いか。と思うが、結局どうしていいか解らず、セリカと遊んで時間を潰すのだった。
疲れているのか全く起きないルルちゃん。
セリカの口から出る火でまわりの草を燃やしたりして遊んでいると、街の逆の方から馬車がやってきた。
漆黒の角の生えたやたらデカイ馬、目は充血している。
その後ろに馬の丈ほどの馬車、こちらは普通だ。
それが5台ほど列を成して通り過ぎる。
パカパカとゆっくりな速度で歩く馬の後に、木の車輪をカラカラと鳴らし、その振動で馬車が揺れている。
その馬車の一行を見ていると、最後の馬車に乗った、灰色の肌色をした人間の男と目があった。
その奥には同じような男が何人か中に居るのが見える。
「おい、ツノなしの別嬪が居るぞ。 馬車を止めろ。」
止まる馬車、中からゾロゾロと灰色が出てくる。体系は様々だが、きちんと服を着ていて靴も履いている。
どこか中世の市民のような恰好をしている灰色の男達。
頭にはそれぞれ角を生やしていた。
「あんなのが街道に落ちてるのかよ、持って帰って遊ぼうぜ!」
「でもどっかの貴族のかもしれねぇ。」
「背中見ればわかるだろ、さっさと連れて行くぜ。」
「なんか周り火事でもあったのか、草むら焦げてるぜ。」
15人の灰色の男が一斉にこちらに向かって歩いて来る。
"人間"
喋るその二足歩行は、サイクロプスともルルちゃん達とも違い、私に近い形の人間だ。
嬉しくなる。
「すいません、ススカ街はどちらでしょうか。どっちに行ったら良いか解らなくて。」
灰色の男たちが笑いだす。
「ススカかい?俺たちが今から行くよ。角無しのネェチャン。」
「声まで綺麗だな、おい、楽しんだら、売ろうぜ。」
腕を捲ってこちらに近る居てくる一番大きい男。
そいつがどんどん近づいて来る。
ポン!その男のシャツに火が付く。
広がる炎、男は咄嗟にシャツを脱ぐ。
「メランさん!逃げてください。」
「プチデーモンが居るぞ、奴隷の癖に反抗しやがって。」
男達が一斉にルルちゃんの方に何かを飛ばす。
火や氷や風の塊、その魔力はあまりにも小さかった。
胸元からスッと出てくるセリカ。
そのまま大蛇のように膨れ上がり、ルルちゃんと男たちの間に入る。
そして体でその男達からの魔法を受け止めた。
"グオォォォォ"男達に威嚇するセリカ。その体は2階建ての建物よりはるかに大きい。
首をもたげ、男達に火を吹こうとその口を開けている。
「小龍だ、どこから出て来た。赤いぞ、火を吹くかもしれん気をつけろ!」
男達は先ほどと比べ物に成らない程の魔力をセリカにぶつけようとする。
後ろではさらに大きい魔力を練っているのが5人。
頭の中に知らない風景が広がる。
目の前でサーベルに刺さる大切な人、銃弾に撃たれ倒れる仲間、光に飲まれ蒸発するように消える大切な子供。
またあの頭痛が襲ってくる。
セリカやルルちゃんを失いたくない。
「あなた達、やめなさい。」
セリカが口から火を吐いて男達に応戦している。
その赤と褐色の鱗に当たる魔法。
後ろでより大きい魔法が放たれようとしている。
ルルちゃんはセリカに隠れてながら小さな魔法を撃っている。
また無くすのか、大切な仲間、何回繰り返すんだ。
チロチロ舌を出すセリカ、モフモフのルルちゃん。
頭がガンガン痛い。
体中から何かが溢れてくる。
「やめなさい! いってるでしょぉぉぉ!」
目の前の男達に向けて、黒い極太のレーザーが私の手から放たれる。
黒に呑まれる男達、スッっと消えて行った。
レーザーの通った所は全て黒く飲まれ、大地が黒い何かがグツグツとしている。
近くにあった草は、黒に飲まれ周辺はチリチリと焦げている。
音は何もしなかった。あの最初の静寂。
ずっと続く黒く変色したレーザーの跡と周辺に燃える草。
遠くに見える山が丸く無く成っていた。
頭が痛い意識を失いそうだ。
一つだけ残っていた馬車、向こう側にひっくり返っている。馬が話している。
「た・・・助けてくれ、俺の意思じゃないんだ。」
どうでもいい、頭が痛い。
「大丈夫か、主!」
女性の声が聞こえた。