魔界編 ススカ 39 ~ダン編 2~
蒼穹は何をやったんだ。
急な事に頭を冷静にする。
"いや、あれが噂のか?"
確認していた、なんでルシファー領から始めてきた奴が知ってるんだ。
ただの冒険者だぞ。
狙ってやったのか? 何かヤバイ。 ヤバイ気がする。
ヒヒは、周りをキョロキョロと見渡して探しているが見つけられない様だ。
場所が変わった東門、その周りには草原しかない。
残りの衛兵達だけが続々と新しい門に到着する。
向こうからはあれ以降誰も来ない。
誰一人入ってこない。
木のトンネルの向こう側を見る。
続く街道、草原。 誰も居ない。
遠くで黒いのが蠢いてないか?
旗をもっているような、真っな旗。
"ゴーーン" ”ゴーーン"
気が震える、鐘のごもった音。
「敵襲だ! 門を閉めろ!」
ジャラジャラ鳴る鎖の音が木のトンネルから聞こえる。
だが門は降りてこない。
上側しかない門、勇者に破壊されてそのままだった門は下側が無いままだった。
「黒い旗だ、ルシファー軍が攻めて来たぞ!」
門の中の階段から降りてくる衛兵が叫んでいる。
50人ぐらいしか居ない衛兵。 俺とヒヒ。
門は無い、相手は一面を埋め尽くすほどの量。
彼女達は居ない。
完全に、計算されている。
鳴り続ける鐘にもう一つ同じ音が重なる。
西門?何故かそんな気がする。
衛兵たちも一斉に西を見ていた。
「誰か、応援を呼んで来い。 ここを抜かれたら街が占領されるぞ!」
何故か叫んでいた、守備隊でもないのに。
ダンテはここに居ない。
従う甲冑達は、無い門の後ろで、盾と剣を構え一列に並ぶ。
大きな東門は3列目の途中で人員が居なくなってしまう。
その後ろにヒヒと俺。
壁を超えられたらすぐ終わりだ。
木の穴から出た所で全体を見回す。
門の横から何人か弓兵は出ているがこの壁は広すぎる。
全然人が足らない。
黒い軍団は土煙を上げながら急接近してきている。
狼や、蛇、魔人、サイクロプスの様な奴ら。
全員真っ黒で、目が無い。
ただただ黒い塊が形を成してこちらに走って来る。
走って追いついて来た衛兵が門の列を4列まで増やす。
フルプレートアーマーの壁が唯一のそこの防衛線だった。
もう木のトンネルに黒の塊が入るのではないか、という段階で全ての黒いのが止まる。
風の音だけが聞こえるその場所。
真ん中が空いて、一人の女が出てくる。
グレー髪に同じ色の肌。 緑の目をした女は、ローブだけを纏い、中は水着の様な布しか付けていない。
手に水晶のような物を持った、呪術師の様な恰好の女。
「あいつ等うまくやったじゃん。 雑魚しかいないじゃん。」
高笑いしている女。 周りの黒い兵隊は何も言わない。
「ルシファー様が4階、スカアハがあんた達滅ぼすじゃん。」
スカアハ、影を操るルシファーの将。
一人で軍隊の戦力を持つ女、それがここに攻めて来た。
「この木、なんなの。 邪魔じゃん?」
女の水晶が赤く光る。
そこから放たれる炎がトンネルの上部に当たる。
「とりあえず、この邪魔な木からやるじゃん。」
メルサが生やした木、その木が焼かれている。
燃え上がる木を想像しながら、またススカは終わるのかと思った。
煙さえ上がらない。 何も起こらない。
「この木、燃えないじゃん! いいわ、めんどくさい、お前ら行くじゃん。」
影の兵隊達が、門に押し寄せてくる。
狼や、魔人の陰、木のトンネルを埋め尽くしながら入り込んでくる。
「前列! 構え!」
衛兵達の声がする。
ルシファー軍の侵攻が始まった。
門では衛兵が列を乱さずに戦っている。
黒い兵は倒せない部類の物では無い様だ。
だが、奥から、火や水の魔法が飛んでくる。
黒いスケルトンや、デーモンから放たれるそれは威力は強くない物の、前列のアーマー達を徐々に体力を削っていく。
壁がさきほどからドンドン鳴っている。 壁も突き崩す気だろうか。
上で数人の弓兵が弓を放つと、数百の魔法が帰って来る。
数が違いすぎる。
スカアハは動かない、様子を見て楽しそうに笑っている。
壁を打ち破るのを諦めたのか、昇って来る黒い兵隊。
弓兵が一人一人とやられていく。
その兵隊を雷撃が襲う。
ヒヒの角から放たれた雷撃は、壁を昇ってきた黒い兵を次々と消していた。
「俺だって、魔法ぐらい撃てるんだぜ。」
彼女達の馬車の引手は普通のオロバスとは少し違うようだ。
門の中は乱戦状態になってしまっている。
そこを抜けて来た黒いのを俺が切る。
俺も冒険者やってたんだ、負けていられない。
実態があるような感触、だが血は出ない。
ただ頭を突き、刺さると消える黒い兵隊。
抜けてくる黒い兵隊が増え始める。
いつ終わるか分からない戦いが続いていた。
「門も抜けないじゃん? 壁も壊れないしどうなってるのよぉ!」
スカアハの声が聞こえてくる。
そちらを見たいがそれどころじゃない。
次々に抜けてくる黒い兵、防衛線は完全に崩壊している。
「これで行けるじゃん?」
デカいのが門の中に入ってくる。
10Mは高さのあるトンネル半分はある黒い兵、サイクロプスの様な見た目のそれには目は無い。
手に持った黒いこん棒を振り回すと、最前線で戦っている衛兵がここまで吹き飛ばされてくる。
一緒に飛ばされてくる黒い兵は地面に付くなり消えてしまう。
味方ごと薙ぎ払った黒いサイクロプスは、大きな黒い足を地面に打ち鳴らす。
潰れる鎧。
その姿に、衛兵たちが下がって来る。
もう何体も街の方に抜けている黒い兵。
俺も黒い兵にやられたのか血が服に染みて肌にくっ付いて来る。
後ろから、火の玉が飛んでいった。
黒いサイクロプスに火の玉が当たると、そのサイクロプスは少し後ろに下がる。
何発もやって来る、火の玉。
サイクロプスは消えた。
「ダン、加戦しますよ。」
牛頭骨の彼女、冒険者ギルドマスターのロレーヌがそこに居た。
何体も入ってくるサイクロプスをロレーヌが魔法で焼き払う。
後ろから掛けてくる馬車から見慣れた顔が出てくる。
冒険者達。
奴らも抜けた黒い兵を倒してて回る。
徐々に押し返す俺達、勝てるかもしれない。
「なんか、ちょっと強いのいるじゃん? こいつを追加するじゃん。」
呑気なスカアハの声。
何を出してくるんだ。
黒い大きな口、牙の生えそろった口が、トンネルの出口から見える。
「門から離れろ!」
黒いドラゴンが、赤い炎を、こちらに向かって吹いてきた。
トンネルを埋め尽くす火。 なんとかその射線から逃れたが、街道が焦げて、トンネルの中は全て消えていた。
また口を開けるドラゴン。
ロレーヌが、水のレーザーを放つ。
口に当たったそのレーザー。 ドラゴンが怯む。
「こいつでもダメじゃん? いいわ、そろそろ飽きて来たしぃ。」
トンネルに入ってきた、スカアハがドラゴンを片手を払い、木のトンネルの側面に撃ち当てるとドラゴンは消えてしまう。
「雑魚なんだから、さっさと滅びれば良いじゃん。」
水晶が真っ赤に染まる。
ロレーヌはトンネルの入り口にシールドを張る。
壁からまだなだれ込んで来る黒い兵。
その対応に冒険者は必至だ。
頭上から羽ばたくの音がする。
口を開けてこちらに向けてきている、飛んでいる黒いドラゴン。
口に水や、雷を溜めている。
6体は居るそいつらは、俺達に向かってブレスを溜めている。
にやけているスカノハ、その水晶が赤く輝きだす。
上では収縮しはじめるドラゴンのブレス。
「ダン、備えて!」
上にもシールドを張るマスター。
前と上から、火と水と雷と氷と… 色々な魔法が振りかかる。
シールドに触れた瞬間割って突き破ってきたそれは、俺達を呑み込んだ。
「やっぱ、雑魚じゃん!」
高笑いするスカノハの声が最後に聞こえた。




