魔界編 ススカ 38 ~ダン編 1~
よぉダンだ。 久しぶりだな。
街が勇者に襲われてから、メランが魔王に成った。
何を言ってるか、わからないだろ?
俺も全く実感がない。
メランは、一回死んだ冒険者ギルドのメンバーさえも、生き返らせた。
簡単に勇者も倒した。
俺も助けられた。
あいつ等は何かおかしい、色々次元が違う。
でも、喋ると普通なんだよな。 美人だしな。
そんな俺は、今ギルドを出て、南の街道を歩いている。
鐘が鳴ってまた勇者が来たのか、と思ってギルドに走ったが
途中、衛兵が、「門から離れろ、壁から離れろ死ぬぞ!」と言いまわっていた。
先に壁壊しちまうのか? 大丈夫なのかよ。
時間無駄にしちまった。
そして、西に大きな木が急に生えていた、大きな赤い葉っぱの木。
どうせメランがなんかやったんだろ。 もう驚くのはやめだ。
ベルゼブブとの会話で、ドラゴン退治だけは続けろと言われたようで、冒険者ギルドにムジがその話を振ってきた。
今このススカに灰色の剣は居ない、消えちまった。
ドラゴン退治でドジったんだろうか。
そうすると、やるやつが居ない。
マスターは他の冒険者ギルドに掛け合って、ルシファー領のムムジで一番の冒険者を手配した。
ルシファー領の冒険者なんて大丈夫なのかよ。
そう思ったが、助けてくれるんだ有難い。
そして、今東門に迎えに行ってるわけだ。
ルシファー領の奴らだ土地勘も無いだろう。
こちらからの依頼だ、あまり無碍にはできない。
俺に馬車なんてない歩きだ。
高炉の再建が進む広場、その真ん中に黒い葉の木がある。
メランが植えた木、その木は一瞬であの大きさに成ったみたいだ。
西の木みたいに急に大きく成ったりしてな。
そのまま東門を目指す。
相変わらず難民が多いこの地域。 路上で寝ている人やひたすら西を目指す人が多い。
そんな人を横目に、東門につくと、あいつらの馬車が居た。
ヒヒとかいうオロバスが引く普通の馬車。
その馬車には、白いワーキャットと、黄色髪の少女が話をしている。
その馬車の横には赤い髪、褐色の肌の女。 セリカだ。
衛兵と魔人が遠くから見つめているその輪に入り、何が始まるんだと見入る。
セリカが爪を伸ばした。
でも冒険者ギルドので初めて見た時みたいに黒くない爪。
爪で何するんだ?
そのまま飛んで門に爪を立てるセリカ。
また訳の分からん事をしている。
一度元の場所に戻ると、門が浮いて上がって行った。
爪で切り取ったのか、あの女。
俺は驚かないんだそう決めたんだ。
そのままセリカが馬車に何か話している。
そういえば、東門が急に無くなった困るぞ、それは。
群衆から抜け出して、セリカに声を掛ける。
「お前ら東門どこ持って行くんだよ。」
「ダンかねぇ。 新しい所なのさ。」
「新しい所? いいや、馬車乗せてくれよ。」
「ヒヒ、頼むのさ。」
「わかったぜ、セリカねぇ。 ダン、乗るんなら乗るんだぜ。」
「ありがてぇ、連れてってくれ。」
馬車に乗り込むと、セリカは飛んで行ってしまった。
飛べるんだよなあいつ等、良いよなぁ。
馬車の中には、白いヘルキャットと黄色髪の少女。
ずっと少女が、手から電気を出している。
「お嬢ちゃん、魔法使えるのか? すごいな。」
「魔法、これ以上出ないのです……」
「そんだけ出せるだけでもすごいぞ。 俺なんて何も出ないからな。」
「そうなのです? ダン?さんは魔法使えないのですか?」
「俺は強化魔法だけなんだよ。 ちょっと体の強く成る奴な。」
「ムーも何も出ないニャ。」
このヘルキャット、真っ白だな珍しい。
「それラーナもできるんです?」
「嬢ちゃん、やってみるかい?」
そこからこのラーナという少女に強化魔法を教えてやる。
出来たりできなかったりムラがあるんだよなこの嬢ちゃん。
ヘルキャットは無理だと思うぞ。
ずっと教えている内に、馬車が止まった。
ドン!という振動と共に、門が落ちてくる。
その両脇に石壁が出来てるじゃねぇか。
いつの間に作ったんだ。
セリカが馬車に乗り込んでくる。
「ラーナ、魔法出来たのかい?」
「ダンに、強化魔法教えてもらってたです。」
「そうかい、ありがとうなのさダン。」
「いや、結局あんまり上手くいかなかったけどな。」
このセリカって女も美人なんだよなぁ。 でかいしな色々。
「あの門どうするんだよ。」
「あれかい? 今から木で覆うのさ。」
西の方の木はやはりメラン達がやったのか。
門を覆う? どういう事なんだ。 あんまり考えるのは辞めよう。
「木って、どうすりゃあんなの生えるんだ?」
「魔力で育てるのさ、主しか出来ないけどねぇ。」
「メランおねぇちゃんは、凄いのです。」
「相変わらず訳わかんねぇな。 それでメラン待ってるのか。」
「そうなのさ、来たんだねぇ。」
メランが俺達の馬車の後ろに降りてくる。
もう当たり前のように、あの黒髪はルルだったよな。
あの青い髪の女は誰だ?
「皆、お待たせしたかな。」
メランと、他の奴らが喋っている。
俺は途中乗車だからな、メランと目があった。 挨拶しねぇと。
「お邪魔してるぜ、メラン。」
「ダン、何サボってるのよ。」
サボってるんじゃねぇよ。 仕事だよ。
なんなら目的地お前らが動かしたんだからな。
俺の言葉を無視して、ヘルキャットと、お嬢さんを連れて行くメラン。
魔力を貸してくれとか言っている。
そんな事出来ないだろ。 でも何するんだ?
俺も気に成って馬車を降りる。
「ダンさん、初めましてカレンと申します。」
青髪の女に声を掛けられた。
しっかりしたお辞儀、一瞬使用人でも雇ったのかと思ったが。
飛んでいたし、背中の鎌かそれ。 そんなもん俺でも持てないぞ。
「ダンだ、冒険者ギルドで受付やっている。 よろしくなカレン。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
「それで、カレン、これから何が始まるんだ。」
「主様が、木を生やします。」
「そうか、まぁ見とくぜ。」
「はい、失礼します。」
カレンは、セリカの元に行ってしまう。
特等席で見させてもらおうじゃないか。
置かれた門の中に入っていた4人。 ルルもあの嬢ちゃんの手を握っている。
そこで、何かを埋めている。 あれが実か?
禍々しいメランの太刀を抜くと、あの嬢ちゃんに握らせている。
その太刀が地面に向いて、その剣先から何かが地面に放たれている。
瞬間ツタが地面から現れて、一瞬で門を覆った。
そこからすごい勢いで上に伸びていく蔦。
上に伸びてまた広がっていく。
気付くと、見上げるほどの白い幹と、黄色の葉をした木が生えていた。
街道の部分だけ大きな口を開けた幹は、両端の石壁を呑み込んでいる。
訳が分からなかった、本当に木が生えた。
オロバスに同意を求める。
「なぁヒヒだっけか。 俺は何を見てるんだ。」
「諦めるんだぜ、ダンテにも言ったんだぜ。」
そうだな、こいつも色々見てきたんだろうな。
考えるのは諦めよう。
メランが、木の下から出てきていた。
どうなったのか聞きたかった。
あの青い髪のカレンという奴が、背中にあった鎌を手に持って、セリカに指導を受けている。
なんだあの鎌、青いし、なにか見てると引き込まれそうだ。
木の事を聞きたかったのに、鎌の事を聞いてしまった。
木よりも鎌の方が悪い気がする。
そんな超常現象に誰も近づいていない中、奥から3人のフードを深くかぶった奴らが現れる。
前情報通りだ、<<蒼穹>>の奴らだろう。
俺の仕事をする。
近づいて声を掛ける。
「<<蒼穹>>の3人か? 遅かったな。」
「いや、あれが噂のか?」
「そうだ、うちのボスだぜ。」
にやけた顔でメランを見ると、少し睨まれた。
「「神力召喚。」」
ローブの2人がそれだけ言うと、そこに糸が切れた人形のように倒れる。
「ルルちゃん! 下!」
メランが叫んでいる、その方向には誰も無い。
セリカとカレンも居なくないか? 丸い魔法陣だけがかすかに見える。
「神力召喚だ、消えてしまえ!」
最後の一人が言う。
メランの下にあの魔法陣だ。
召喚? どっかに飛ばしちまったのか、こいつ等なんなんだ。
聞こうとしたが、もう一人も死んでいた。
「おいヒヒ、見てたか?」
「ダン、見てたぜ、急に消えちまったぜ。」
「どこ行ったかわかんねぇのか。 すげぇ嫌な気がする、」
遅れてやってきた衛兵たちが、木を見て、驚き。
死体を片付けながら、門に入って行った。
彼女達はあっさり消えてしまったんだ。




