魔界編 ススカ 36
私の街ススカ。
いつからあるか分からない町の石壁は、ススカの街の発展をそこで止めていた。
街の拡張を図るべく、元の街の3倍の広さがある石壁で私とセリカで作る。
門を古い壁から切外し、新しい壁に取り付けると、そこで未開の森の巨木を使って、門を補強する。
100mに成る巨木。 セリカの魔力で育った巨木は、赤い葉を付けている。
作業が一段落した所で、ヒヒ達が街の方からやって来る。
私達は、巨木の元でお昼ご飯を始めるのだった。
甲冑を着た衛兵が次から次へと新しい門に到着する。
木のトンネルを見た衛兵は、一度足を止めその巨木を見上げると、顔が真上を向いて固まる。
門の中に既に着いている衛兵から呼ばれ、慌てて再び駆けだす衛兵。
その門では、あの検問が再開されていた。
その門の外、木の根元で、街道を外れて草原に座って、お昼ご飯を始める。
「この木立派ですね、森にある奴より太い気がします。」
「ルル、そうだねぇ。 あんまり脆くない気がするねぇ。」
「ルルさん、私もそう思います。 なんだか魔力で溢れている様な。」
「セリカの魔力で成長させたのよ。 そこら辺の巨木とは違うわ。」
「おっきい木です。 お姉ちゃん達すごいのです!」
「ニャニャ、セリカがこの木育てたのかニャ。 外は不思議が一杯だニャ。」
生えた巨木を見て、皆感想を述べる。
ヒヒは、山に成った人参を食べている。
ムーが馬車から取り出した布の袋、開けると長細い髪に包まれたのが出てくる。
私もセリカからその紙袋を貰う。
紙袋を開けると、パンにソーセージが挟まったホットドックが入っていた。
ケチャップとマスタードだけのシンプルなホットドッグ。
パンが挟みきれない、大きさのソーセージがボリュームを持たせる。
ルルとセリカがそれをみて目を輝かせている。
「ソーセージは自家製なのニャ。 昨日から仕込んで置いたのニャ。」
「ムーが作ったの? このソーセージ。」
「そうにゃ、今日の宿の昼はこれを出す予定だったのニャ。」
「ムーちゃん、凄いです。 どうやって食べるんです?」
「このままかぶりつくのにゃ。」
紙袋を半分だけ剥いたホットドッグを持ったムーは、大きく口を開けて、かぶりつく。
モグモグ食べているムー。
それをまねして、皆がかぶりつく。
「肉だねぇ、うまいのさこれ。」
「このソーセージから出てくる旨味と香りが良いです。」
「ムーさん、美味しいです。 ありがとうございます。」
「ムーちゃん、これ美味しいよ。 ムーちゃんすごいのです。」
私も食べてみる。
ソーセージの皮が弾けると、口に広がる肉の味、複雑なスパイスがその味を引き立たせる。
パンにも何か味がするスープが軽く塗ってある。
ケチャップとマスタードがしつこさを消してくれて美味しい。
「ムー。 これ美味しいわ、一番かもしれない。」
「皆、照れるニャァ。 ただのホットドッグにゃ。」
底から皆でワイワイ言いながら食べる。 この世界に来て初めてのピクニックは満足行くものだった。
門からダンテが出てきてこちらに向かってくる。
「セリカ、すげぇなあの木、中が階段に成ってて、上から見張れるじゃねぇか。」
「良かったわね、ダンテ。 これからは貴方の物よ。」
「俺の物って言われてもなぁ。」
「変えたいところあればいうのさ、主の誘導を感じてたら少しは出来る気がするのさ。」
「変える所なんて、今の所ねぇよ。 ありがとな。」
頭をガシガシ書きながら言うダンテ。
「あと、3本立つから、それも説明よろしくね。」
「全部の門にやるのか? これ。」
「そうよ、西だけってバランス悪いじゃない。」
「そうだけどよぉ…… わかったけど、人が居ない事だけ確認してくれな。」
「ダンテ、よろしく頼むわよ。」
後ろから他の衛兵に呼ばれるダンテ。
なんだかんだ忙しいんだこの男。
その後、ホットドッグの余韻に浸りながら、皆で話す。
カレンがコテツの所で何か見つけて決めた様だ。
馬車の中からそれを取り出す。 大きな折り畳みの出来る大鎌だった。
カレンの背丈ほどある鉄の持手。 そこには滑り止めだろうか、白い布が巻かれている。
その持手の鉄は青く、複雑な曲線を描きながら刃の部分まで続く。
折りたたまれた刃は、また白い布で覆われていたが、取り払ってカレンは見せてくれた。
青い刀身、刃の部分は紫色で、そこに一本の赤い線が通っている。
「カレン、いいのさ。 それは鎌かね。」
「セリカ様、そうです、一目見てこれに決めました。」
「その魔力は、ルルちゃんが流したの?」
「そうです。 メランさん。 なんとか上手くできました。」
ルルちゃんも自分で出来るように成ったようだ。
そのルルちゃんが2本刀を刺している。
「ルルちゃんはもう一本作ったの?」
「はい、もう一本作っちゃいました。」
抜いて見せてくれる刀は、青い刀身に紫の刃、紫の刃には黄色と青白い線が複雑に絡み合い模様を描き、
青い刀身には白の斜めの線が何本も入っている。
「カレンとムーちゃんとラーナちゃんの魔力を貰って作ってみました。」
「そんな一杯込めれるなんですごいわ。 ルルちゃん。」
「なんか出来ちゃいました。」
照れているルル、セリカがその刀をじっと真剣な目で見ている。
何が出来るのか考えているのだろうか。
ルルちゃんの魔法制御は凄い。
5個の魔力を同時に刀に込めるなんて私にもできるかな。
「ルルちゃん、出来たばっかりの刀だけど、試し切りしない?」
「またあそこ行くんですか?」
「違うの、古い壁切り崩してほしいのよ。」
「壁ですか! わかりました。」
「その前に門を作らないといけないから、セリカとムーとラーナちゃんは東門にヒヒと行って待ってて。
セリカ出来れば門を据え付けておいてくれると助かるわ。」
「わかったのさ、主。 そこまでやっとくのさ。」
「門をつくるです~!」
「ニャ、あの木生やすのかニャ」
「そうよ、ちょっと魔力貸してね。」
3人とも解ってくれたようで、ヒヒの馬車に乗り込む。
「よろしくね、ヒヒ。」
「メランねぇ、任せとくんだぜ。」
ヒヒは皆を引いて、街の方に向かって行った。
「カレンは一人でごめんなさい、北門を切って置いておいてほしいのよ。」
「主様、承知いたしました。 出来る範囲でさせていただきます。」
「よろしくねカレン、南終わったらすぐ行くから。」
深く礼をするとそのまま北門に飛んでいくカレン。
あの鎌折りたためて便利だなぁ。
「ルルちゃんは一緒に行こう。」
「はい、メランさん。」
そこから、ルルちゃんと飛んで南門に行く。
「メランさん、相談なんですけど。」
「どうしたの? ルルちゃん。」
「ラーナちゃんなんですけど、あんまり魔法上達しなくて、一度メランさんに見てもらえないかなって。」
「良いわよ、ルルちゃんに出来ない事、私が出来ると思わないけどね。」
「そんな事ないですよ、メランさんは凄いんですから!」
南門に着くまでの僅かな間、ルルちゃんにラーナちゃんの状況を聞く。
あの手から電気が出る状態で止まっている様だ。
ルルちゃん曰く、魔力はあるが、出口が小さいらしい。
そんな事わかるんだ、ルルちゃん。
南門に着く、ダンテの警報のおかげか、誰も居ない。
「ルルちゃんやる?」
「はい! やります。」
以前の刀を構えるルルちゃん。
その刀の黒い刀身に、紫の線が蜘蛛の巣模様に入っていた。
コテツがやった奴かな、そこから濃い何かを感じる。
ルルちゃんが動く。
前より早い!
瞬間走った3個の斬撃。
ルルちゃんの魔力で、門が浮いた。
「メランさん、これ持って行けばいいですか?」
「お願いするわ。 ルルちゃん。」
門と一緒に、新しい壁まで移動する。
同じ様に、あの実を出して、少し草の残る街道の脇に埋める。
「ルルちゃん、ちょっと魔力貸してね。」
「どうぞ、メランさん」
そこからはセリカと同じだ。
ルルちゃんの魔力を、その実に込める。
吸われていく魔力、でもルルちゃんの魔力はどんどん流れていく、2種類あるような魔力、途中で混ざり合って実まで届く。
セリカと違って従順な魔力は素直に実が吸うまで流れ切った。
「メランさん、終わりですか?」
「えぇ、ルルちゃん。 ありがとう。」
外に出て見てみると、西と同じ100mはありそうな木に紫の葉が茂っていた。
森の中にたたずむ不自然なぐらい大きい木。 これがルルちゃんの魔力の木だ。
「私の魔力の木ですか?」
「そうよルルちゃんの魔力の木ね。」
「すごいです、やっぱりメランさんは凄いのです。」
「ありがとう、ルルちゃん。」
次は北だ、カレンが待っている。
「ルルちゃん、ゆっくりでいいから、古い壁片付けといてくれる?」
「はい、解りました! 余った石は海に捨てちゃいます?」
「西門の近くで加工してる魔人が居るから、そこに置いてあげてよ。
終わったら、東門に来てね。」
「わかりました、メランさん。 また後で。」
ルルちゃんはそのまま飛んでいく。
私も北に行かなきゃ。
ルルちゃんを追いかけて飛んでいくと、前で石が浮き始める。
石壁を切っているルルちゃん、本当に10分で終わらせる気だろうか。
次から次へ浮いていく石を後にして、北へ向かう。
作業の進む炉はもうすぐで完成しそうだ。 私の木が炉に埋まってしまっている。
北門は切り取られていた。 途中で衛兵たちが、北に向かっているのが見える。
南門は誰も居ないのだろうか。 ふと心配に成る。
カレンが見えて来た。
山から急に出てくる石壁の間に、綺麗に収まっている門。
隙間もほとんどない。
「カレン、お待たせ。 待った?」
「主様、今終わった所です。 力不足で申し訳ございません。」
「そんな、謝らなくて良いのよ。 始めましょうか、ちょっと魔力貸してほしいの。」
「魔力ですか? どうぞいくらでも使用してください。」
少し頭をかしげながら言うカレン。 彼女の魔力には初めて触れる。
どんな魔力なんだろう。
門の下で、土がむき出しに成った道の端に実を埋める。
同じようにカレンの腕を持って、その実に流し始める。
静かな魔力、サラサラと流れる彼女の魔力を実に注いでいく。
セリカやルルちゃんの様に莫大な魔力ではないが、力強い魔力が実に注がれる。
ずっと触って居たいようなその魔力。 結構な時間流し続けると実が魔力を吸わなくなった。
目を開けると、木の下に居ることが解る。
カレンは少し、辛そうだ。
「カレン、大丈夫?」
「主様の魔力は凄いですね。 少し意識を持って行かれそうになりました。」
「疲れたなら、休んでて良いわよ。」
「いえ、大丈夫です。 全て出たわけではありませんので。」
いつものカレンに戻る。 本当に大丈夫なんだろうか。
本人が大丈夫と言っているから良いか。
そう思って、外に出てみる。
歩いていた衛兵が近くまで来ていたようだ。
尻もちをついて指を差している。
同じ大きさまでなった巨木は、青白い葉をつけてそこにあった。
あった谷はその木に呑みこまれ、山に挟まれる木という、少し変な風景が広がっている。
「主様、これは私の魔力の木ですか?」
「そうよ、カレンの魔力ね。 あなたの魔力綺麗ねホントに。」
「褒めていただきありがとうございます。」
深々と頭を下げるカレン。 いつものカレンに戻ったようだ。
衛兵たちに、階段がある事を伝えて東門に飛ぶ。
最後の門だ。 一段落着いたら、メルサの宿でご飯を食べよう。
今日はどんな晩御飯なんだろうか。
楽しみに成っているメルサのご飯を思いながら、東門に向かうのだった。




