魔界編 ススカ 35
西門の外、イノシシの一郎達が積んだ石の山の前に帰ってきた私とムジ。
山を削って下準備は終わった、あとは積むだけだ。
「お帰りですか、どうでしたかな? 北門の場所は。」
「ミドラ、もう山削ってきたんだぜ。」
「主だからねぇ。」
黙り込むミドラ。
「早く終わって良いでしょ! 次は壁つくるのよ。」
「そ、そうでしたな魔王様でしたな。 失礼しました。」
「いいのよミドラ、次はどうるのムジ。」
地面に降りたムジ、私を見上げて言ってくる。
「次って、この石全部加工して、積み上げないとダメだぜ?」
「加工ってどうすればいいの?」
「石の形を見て、面を作って組み上げていくんだよ。」
「へぇ、高さは今と同じぐらい?」
「そうだな、その予定だ。」
さっさとやってしまいたい。
この石の山をとりあえず積み上げて、壁にすればいいんでしょ?
なんだか出来そうだ。
「主、先に良いかね。」
「どうしたの? セリカ。」
「あの木をミドラに売るんだねぇ。」
さっきあった巨木が、木の板に加工されて置いてある。 その奥で一郎達が、仰向けで寝ているのが見える。
元々ミドラに言われて持ってきたんだもんね、良いんじゃないの?
私に何を聞くんだろう。
「売った金を、コテツの所とメルサの所に分けようと思うのさ。 いいかねぇ?」
「良いんじゃない? ミドラいくらで買い取るのよ。」
「100万金貨でいかがでしょうか。」
「その木100万金貨もするのか!?」
「未開の森の巨木ですよ。 一生に一回倒れるか解らない巨木。 耐火性もあって丈夫。 一番掛かる加工が終わっています。
これだけで街が買えてしまいます。」
「じゃぁ50万づつ、送っておいてよ。 それでいいの? セリカ。」
「ありがとうなのさ、主。 ミドラよろしくなのさ。」
「魔王様、これ領外に売る許可を頂きたいのです。 他国を助ける事に成るかもしれませんが。」
「良いわよ、そんな脆い木、何につかうのよ。」
「私もわからないねぇ。 食器にでもするのかね。」
「食器ですか…… 魔王様達ですからねぇ。」
ミドラのいつも崩れない顔が引きつっている。
具合でも悪いんだろうか。
「私は販売の準備がございますので、これで失礼いたします。」
深々と礼をすると、自分の馬車に乗り込んでしまった。
「ミドラ、またなのさ。 お金に困ったら相談するのさ。」
「セリカさん、今後ともよろしくお願いいたします。」
馬車の中で立ってお辞儀をしながら遠ざかっていくミドラ。
今はそれより壁だ。
「主、やるのかね?」
「そうねぇ、門は今の門移設するので良いの?」
「あぁ、かまわねぇが、何する気なんだよ。」
「壁を作るのよ。 セリカ西側お願いできる?」
「主、任されたのさ。」
目の前の石山をそのまま魔力で浮かせる。
横の山も浮いている、
「セリカ、競争ね。」
「主、負けないのさ!」
「ねぇちゃん達、ほんと滅茶苦茶だな。」
ムジが何か言っているが、今日はやることが一杯あるんだ。
そのまま浮かせて街を横切る。 後ろではばらけた石が地面に向かって飛んでいる。
セリカが壁を作り出したんだろう。
下で魔人達が浮いた石を見て叫んでいる。
また言うの忘れちゃったなぁ。
申し訳ない気持ちで、東門を超えて、東の街道に着く。
パラパラいる程度の東の街道、奥には草が少しか生えていない荒野が見えていた。
向こうにあるサタン領、こんな風景の国なのかもしれない。
浮いている石の山に意識を集中する。
門は再利用するんだから、少し街道から離れた所に最初の石を飛ばす。
1段目をとりあえず並べていく。 あのくぐった西門ぐらいの幅で大小それぞれな石をそこに飛ばす。
流星群のように流れ落ちていく石達、何も無かった草原に、一本の石の道ができてきた。
さっき削った山の際まで並べると2段目を始める。
ムジは、面を加工すると言っていた。
太刀を手に構え、面を意識する。
1段目の上に適当に石を飛ばして、上に乗るように石の面を切る。
それを流星群に何回も何回も続ける。
3段目 4段目 5段目とした時には、石の壁が出来上がっていた。
いまある石壁より大きい石は、それだけで今の高さぐらいに成ってしまう、
街道を行く馬車が止まって、ずっとこっちを見てる。
被害は無い様だ、そのまま山の中にも同じ事を繰り返す。
1段目が終わった時、セリカはまだ見えなかった。
私より遅い様だ。
同じように繰り返す。
3段目 4段目 5段目終わり際に、セリカが見えた。
逆側から一気に5段積んで迫って来るセリカ。
石を切るのではなくて、当てて砕いて噛ませている。
あの方が早いかもしれない。
でも、もう最後まで切ってしまった石。
少しだけ石を残して、北の街道迄石の壁が出来た。
「主、私の方が早かったのさ。」
腰に手を当てて、勝ち誇るセリカ。
「石を砕いたのね、その方が早いわね。 負けたわセリカ。」
「主、は切ってそのスピードかねぇ。 勝った気しないねぇ。」
二人で、ムジの元に戻った。
「石足りなかったか? まだまだあるぞ!」
ガハハハと笑うムジ。
「終わったから南側の場所教えてよ。」
そのままムジを抱き上げる。
一緒に残りの石山を全部浮かせる。
街道の列がざわついているが、仕方ない。
「お、終わったのかよ。 どんだけ速いんだよ。」
「自分で見れば良いじゃない。」
上から見るとよくわかる、セリカが積んだ石壁がずーっと山迄続いている。
「ほんとに終わったんだな……」
「まだ半分あるでしょ、セリカ私がムジの指示で、1段目置くからその上お願い。」
「わかったのさ、主」
そこからは早かった、地図を見ながら、指さす先に石を振らせていく。
森が途中あったが、そのまま石をぶつけて木をなぎ倒していく。
南の街道を少し外して、同じ事を続ける。 この辺で綺麗な青い海が南に見えた。
遠ざかる海、ムジの指示のまま石を振らせていく。
その上に勢いよく乗せるセリカ。 力任せではなく、ちゃんと計算されている。
30分程で、街を囲う石壁が出来た。
「ムジ、終わったわよ。 次は門ね。」
「あぁ、門だな。 そうだな。」
「ダンテどこに居るのかしら。」
「西門だなあいつは。」
「セリカ、西門行くわよ。 残った奴は元の場所に戻しましょ。」
「主、わかったのさ。」
「今日出来ちまうな、石壁。」
「古いのもさっさと、取り壊しましょ。」
「そこまでやるのか?」
「まだ色々あるのよ。」
西に戻り際、ルルちゃんが切った壁が見える、壁の解体はルルちゃんに任せよう。
石を元の場所に置いて、西門へ降りる。
一郎達はまだ寝ていた。 石を戻すと加工していた魔人達が、一斉にまた動き出す。
材料を取っちゃってたんだゴメンね。
腕の中でムジがずっとブツブツ何か言っている。 高炉の事でも考えているんだろう。
いつもの様に列を作っている西門、その中にダンテを見つける、
「ダンテ、ちょっといいかしら。」
「なんだ、メラン。 ムジさん、えらく可愛く収まったな。」
「うるせぇ、ダンテ。 笑ってねぇでこっち来い!」
「すまねぇってムジさん。 なんだ、話って。」
「これから門移動させるから、皆どいてもらうように言って。 あと壁際の人達避難させてね。」
「門を移動? 2カ月ぐらい先じゃねぇのか?」
「もう、壁ができちまったのよ。」
「何言ってるんだ、ムジさん。 石の壁だろ?」
「お前、見て見ろ。」
地面から見るとわかりやすい、石壁が続く風景。
綺麗に積めたようだ。
「メラン、またお前か。」
「セリカもやったわよ。 ねぇセリカ?」
「そうだねぇ、早く門もやってしまうのさね。 お昼食べたいねぇ。」
「もうなんも言わねぇよ。 わかったよ! わかった!」
ダンテがまわりの甲冑に話をする。
「門と壁からはなれろ! 死ぬぞ!」
叫びまわる衛兵達。
"カーン” ”カーン”
鳴り始める鐘に、待機していた列が一斉に街の中になだれ込む。
検問の意味あるんだろうか、後で聞いてみよう。
相変わらず叫びまわる衛兵、ケンタウロスが街の中を走って、叫びまわる。
「ちょっと、大げさじゃない?」
「お前らそれだけの事やってんだよ。」
「主だからねぇ。」
けたたましく鳴る鐘に、人がすぐに掃けた、外の壁の住民も草原に逃げ出している。
「セリカ、やる?」
「主の見てからやるのさ。」
「わかったわ。 皆どいててね。」
太刀を抜く、大体の大きさで良い、後で揃えればいいんだから。
それにあれも生やすしね。
両側を適当な大きさに切る。
そして浮かす。
向こうに驚いている魔人達が見える。 成功した様だ。
鐘が浮いたことで、うるさく鳴っているが仕方ない。
「持って行くわ、セリカ、ダンテ連れて行って。」
ダンテを背負うセリカ。 やはりセリカの方が背が高い。
大剣にしがみつくダンテは、必死で剣を掴んでいる。
私はムジを拾い上げて、あの三叉路の目前まで飛んでいく。
「皆、そこに門置くから、避難しててね。」
街道に少し人が居るので、どいてもらうように言った。
蜘蛛を散らすように遠ざかっていく人と馬車。
そこに、門を置く。
少しの土煙を上げたが、綺麗にいったようだ。
門は開いていて、街道もきちんと残っている。
少し細い道、これだけ後でムジに広げてもらおう。
「ねぇちゃん、端がちょっと空いてるんだが石詰めるか?」
「ちょっと考えがあってね。 見ててよ。」
「今も見てるだけだけどな。」
「そんな拗ねなくていいじゃないムジ。」
「拗ねてねぇよ!」
そのまま地面に降りる。
門はそこに確かに有った。
胸元からあの巨木の実を取り出す。
これを門に植えて、あの隙間を塞ぐんだ。
「セリカ、ちょっと魔力貸してくれない?」
「良いのさ、主、何するんだい?」
「門を木で囲うのよ。」
「そうなのかねぇ、まぁやってみるかね。」
「お前、今なんて言った。 木で囲う?」
「ダンテ、まぁ見ててよ。」
門より狭い道、門の中に入って、道の端の地面にそのどんぐりを植える。
「セリカ、手貸してね。」
「いいんだねぇ、久しぶりなのさ。 主の魔力。」
「私もセリカの魔力久しぶりよ。」
セリカの腕を握って、セリカの魔力を通す。
セリカは集中しているのか目を閉じている。
私も一発丈夫だ、目を閉じて集中する。
メランとセリカが、目を閉じて、実に魔力を流すと、それに反応して発芽する木の実。
メランの誘導に従って流されるセリカの赤い魔力は、実を発芽させた。
そこかた一気に地面に根を張る巨木。 の空間を避けるように伸びるツタは、鐘がある門の最上部まで達する。
そこから横に広がる蔦は、やがて門を超え、城壁の一部も飲み込む大きさまで広がっていく。
僅かに有った城壁と門の隙間もツタが蠢き覆ってしまう。
そこから円柱状に広がっていく緑のツタ。
ある程度広がると、木の幹の色に成る。
横に伸びきった蔦は、そのまま上へ上へと進んでいく。
鐘の所から人が通れる空間の階段を残して少し穴を開けた蔦は、中に螺旋階段を作って、途中に外が見える窓を作る。
幾重にも重なるその階段、高く高く伸び続けるツタは、80mほどで分離して、枝を作る。
そこから20mほど行った所で、ツタの成鳥は止まる。
枝分かれしたツタが、横に横に伸びて赤い葉を茂らせる。
最後に全体が赤く光った蔦は、木に変わってしまう。
門の所だけ口を開けたその巨木は、一部城壁を吞み込んで成長を止めた。
周辺が静かだ、誰もしゃべらない。
目を開けると、門の景色だが、前より少し涼しい。
石の天井の向こうには、木の天井があって、その空間は途中で途切れている。
逆側も同じだ。 上手くいったようだ。
「木が生えて、門を吞んじまったぞ。 ねぇちゃんがやったのか?」
「そうね、セリカの魔力でやったわ。」
「本当に滅茶苦茶だなねぇちゃん。」
「ダンテ、西門は今日からここね。 他の門もやっちゃうからよろしくね。」
「メラン、良いけどよ、良いんだけどよ。」
また頭を手で挟んでいるダンテ、ダンテのクセの様だ。
そこから、ダンテに、木の階段の事も伝える。
驚いていたダンテだったが、衛兵と一緒に門の階段に飛び込んで行った。
「木が生えたんだぜ。 メランねぇまた偉い事してるんだぜ?」
街の方からヒヒがやって来る。
そろそろお昼の時間だ。




