魔界編 ススカ 34
目が覚める。
見える鉄の天井。 少しベッドが恋しいが体を起こす。
「メランねぇ、目覚めたのぜ。 皆先に下いったぜ。」
「ヒヒ、おはよう。 皆早いのね。」
「メランねぇが遅いかもしれねぇぜ。」
「あら、そうなの。」
ここずっと皆より起きるのが遅い。
起きた皆にも全く気付かないし、疲れてるのかな私。
部屋の片隅に置いてある鎧。
今日は街の中だし、着なくて良いか。
そうだ、靴だ。 作ろうと思って居た靴を出そう。
ベッドに腰かけて、魔法で洗って畳んであったパンストを履く。
その上から皮のブーツを思い浮かべる。
このドレスに合ったブーツ、あの踵が高いのが良いなぁ。
茶色のレースアップショートブーツが足に付いていた。
紐まで茶色なそれは、結んだ紐が長く垂れて可愛い。
踵が高いデザインは、鎧のブーツと一緒だ。
先っぽが尖っていてスタイルが良いブーツ。
「ねぇヒヒ、どうかな。」
「メランねぇ、今何したんだよ。 メランねぇだしなぁ。 似合ってるぜ。」
「ありがとうヒヒ。 いってくるね。」
新しい靴を履いて、外に出る。
廊下の人たちと軽く挨拶をして、一階に降りる。
またパンの焼ける良い匂いがしてくる。
昨日の場所に椅子が6個並ぶ大きな木のテーブル。
そこに皆が座って、サンドイッチをかじっていた。
「おはよう、皆」
「おはようございますメランさん!」
「おはようなのさ、主。」
「主様、おはようございます。」
「メランお姉ちゃん、おはよう!」
「おはようなのニャ。」
ラーナと、ムーも一緒だ。
皆でサンドイッチを食べて話している。
私も空いている一番奥の席に着く。
「メランちゃん、おはよぉぉ。 今日は、卵サンドよん!
あと、ムーちゃんよろしくねん。」
お皿を持ってきて、置いていくメルサ。 仕事が早い出来る男だ。
「ムーちゃんも行くの?」
「ムーは今日休みなのニャ! 連れて行ってほしいのニャ!」
「どっちが良い? ルル達の方が良いと思うけど、」
「そうニャ! ルル達と一緒にお買い物に行くニャ!」
「メランさん、良いですよね?」
「良いわよ、じゃぁ、ヒヒはルルちゃん達と一緒ね。」
「お馬さんだ! パカパカ!」
ラーナちゃんが手で空中を掻いて、ヒヒの真似をしている。
皆で笑う。 良い一日の始まりだ。
私がサンドイッチを食べた後、ムーが布の包みをカウンターの奥から2個持ってくる。
そのうち一個をセリカに渡す。
「ムー、ありがとうねぇ。」
「それ何なの?ムー。」
「お昼ご飯にゃ、中身は開けてからのお楽しみニャ!」
「そんなの用意してくれたんだ、ありがとうムー。」
「ニャニャ良いのニャ。 お出かけだもんニャ。」
嬉しそうなムー。 よっぽど楽しみなんだろう。
宿を出る私達。
私とセリカ以外は、待っていたヒヒに乗り込む。
「メランお姉ちゃん、セリカお姉ちゃん。 また後でねぇ。」
「行ってくるのニャ!」
ラーナとムーが馬車から手を振って出ていくヒヒ。
ルルちゃんとカレンもなんだか楽しそうだ。
周辺の家は、木材を詰んだ馬車からオークが木材を取り出し、家の壁を貼り付けている。
黒いはっぴに、鉢巻き姿の魔人達。 背中に〇の中にカと書かれた模様?が描かれている。
今まで見た事無い格好だ、なんだろう。
見回していると、セリカが声を掛けてくる。
「主、壁ってどうするのさ?」
「まずは、一郎達を見に行きましょ。」
「あいつ等ちゃんとやってるのかねぇ。」
セリカと空に飛んで、西門を目指す。
点のような人が沢山街に見える。
西門の外は相変わらず列ができている。
その向こうで、イノシシと鶏が、大きな石の山を6個も作っているのが見える。
横に横たわる巨木はそのままだ、
そのイノシシの高さほどある石山のふもとに大勢の人、何をしているんだろう。
その人が集まる場所を目指して飛んでいく。
なんだか当たり前に成ってしまった魔法での飛行。
セリカも普通について来る。
「セリカ、それ使えるようになったのね。」
「主の見て、できたのさ。」
セリカも習得できたようだ。 見ただけで出来るの凄いと思うんだけど。
「あれムジとミドラだねぇ。 なにしてるのさ。」
「とりあえず行って聞いてみましょう。」
あの群衆を目指す。
少しして、魔人達がのこぎりで石を切っているのが見えてくる。
もう石材の加工を進めているようだ。
ムジとミドラの所に降り立つ。
「ムジ、もう石材の加工やってるのね。」
「おお、ねぇちゃん。 壁作り直すって言ってたからな。
それよりあいつ等止めてくれねぇか。 どんだけデカイ壁作るんだよ。」
言い続けてる間も、石を運んで積んでいるイノシシ。
鶏も飛んで空から運んでいる。
あの鶏飛べるんだ。
彼等寝ないんだろうか。
「あなた達、ありがとう! もう石は良いわよ。」
ンモ!ンモ!
ギエェッェエェ!
そこで座り込む魔獣たち。
やっぱり疲れてるじゃない。
「根性ないねぇ。 まだ動けるのさ。」
「彼等も疲れてるのよ、多分ずっとやってたんでしょ。」
「そうかねぇ。 主に感謝するのさ。」
ウルウルした目で見てくる魔獣たち。
そのまま倒れて寝てしまった。
「白髪のねぇちゃんの事、ホントにいう事聞くんだなぁ。」
「あなた達のいう事は聞かないの?」
「もう良いって言ったんだけどなぁ、辞めないんだよ。」
「なんだ、いう事聞けないのかねぇ」
突然起き上がる魔獣達。 首を横に必死で振っている。
「セリカ、言ってなかったんだから良いじゃない。
今度からムジのいう事も聞いてあげてね。」
「主は優しいのさ。」
またウルウルしながら首を縦に振る魔獣達。
「休んでてね、まだ仕事あるんだから。」
ンモ! ンモ!
また眠りに入る魔獣達。 なんだか可愛く成ってくる。
「こんだけ石あるんだ、壁なんだがよ。 こんなのでどうだ?」
紙を広げるムジ。
上を北方向に向いている地図、今のススカの門の位置が掛かれている。
山の手前の北、草原で何もない東西、出てすぐの森の南。
新しい円はそれの3倍ぐらい大きい。
北は山を縫って城壁を作り、山の谷間に北門。
西は、あの3叉路に西門を置く。
東は何もないが、今の3倍先。
南は森の奥まで行ってその先は海と書かれている。
「ねぇ、海があるの?」
「あるぜ、あんまり近寄れないがよ。 海の奴らに食われちまう。」
「海にも生物居るんだ。」
「シーサイドの街の近くの海は小さいのばかりなんだがよ、南門の先のはデカすぎて手に負えねぇ。」
「そうなんだ、北の先には何があるの?」
「北の山を越えると森があって、それを抜けるとアモデウス領だな。滅茶苦茶遠いけどな。」
「そうなんだ、じゃぁ南の海の先は何も無し?」
「ぃや、南にはレヴィアタンの島がある。 行った事は無いけどな。」
北にアモデウス 南は未開の森みたいに誰も行けないので大丈夫だろう。
これで良いんじゃないかな?
でも、北のぐにゃぐにゃが気になる。
「この北の方の曲がってるのはなんで?」
「そらぁ山があるからだろ。」
「そんなの切っちゃえばいいじゃない。」
「切るって、ねえちゃん出来るのかよ。」
抉れた北の山を指さすとムジとミドラが其方を向く。
「出来れば、お願いしてもよろしいでしょうか。」
「良いわよ、やってくるわね。 その前に門の場所教えてよ。」
「ムジさん、お願いできないでしょうか。 私は少しセリカ様と話がございまして。」
「ミドラ、お前にげるんか、っておい!」
ムジを抱き上げて、そのまま飛ぶ。
「主、後でなのさ~。」
セリカが下で手を振っていた。
「ねぇちゃん、離さないでくれよ。」
「そんな事しないわよ。 ムジ怖いの?」
「怖くないやい!」
ずんぐりむっくりが腕の中で拗ねている。
ムジも何か可愛いのよ。
北の山を過ぎて、続く街道が見えてくる。
山は意外とすぐに終わり、森が見えて来た。
「あの森の堺ぐらいだな、ねぇちゃん。」
「わかったわ、一回降りるわね。」
誰も居ない街道が森の中に続いている、森の中は薄暗く、道の先が見えない。
左右を山に囲まれたこの場所に北門を作るんだ。
「後ろの山も要らないんじゃない?」
「あれは、鉱石があるんだ。 残してくれよ。」
「わかったわ、じゃぁ西側からね。」
ムジを下に降ろして、太刀を握る。
久しぶりにこの子に手伝ってもらおう。
「おい、何するんだよ。」
「あの山誰も居ないわよね?」
「居ねぇけどよ。 ほんとに切るのか。 ねぇちゃん。」
私を見てくるムジに、頷きだけ返すと意識を集中する。
周りの山は吹き飛ばさないようにだ。
”シュ"
居合の構えから、斬撃を山に放つ。
ドォォン!
少し丸めた魔力が斬撃に乗って、山を押し流す。
そのままどこかへ行ってしまった。
街道の10倍はある幅の突然現れる谷。 その両側にはそそり立つ山の残骸がある。
「切るってか、なんだ、考えるの辞めるわ。」
「出来たでしょ? ムジ。」
「おう、じゃ次頼むわ。」
地図を持ったムジと、ひたすら山を削って、少しRの付いた道を作っていく。
途中からめんどくさくなって飛びながら片手でやったら出来た。
そのまま腕を振るい、山を削りながら進んでいくと、草原が見えた。
西側は終わりだな。 東側も頼むぜ。
「人使い荒いわね。」
「ねぇちゃんが、やるって言ったんだろ!」
「ハイ、ハイ。」
腕に中でバタバタ暴れるムジ。 あんまり暴れると落としちゃうよ?
逆側も、東の草原が見えるまで削る。
案外早く終わった。
「ほんとに終わっちまったよ。」
「何か言った? ムジ。」
「なんもねぇよ。 また頼むわ。」
そのまま飛んで、石の山迄帰るのだった。




