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底から  作者: ぼんさい
43/98

魔界編 ススカ 33

賑やかな店内、どこに座ろうかと辺りを見渡すとラーナちゃんが飛び出していく。


「ママ、パパ、ただいま!」


テトテトと走って行く先には、彼女の両親が居る。


一角ツノを持つデーモン。


白い肌で、くすんだ赤茶色の髪と目をした彼女の両親。


テーブルに座って、シチューを食べていた。


彼女が両親の元に行くと、両手を広げ、抱き抱える母親。


ラーナちゃんも嬉しそうだ。



こちらに気付いた両親、ラーナちゃんを抱きかかえたまま、こちらに頭を下げてくる。


自然とそのテーブルに歩みを進める。


「一緒に座ってもいいかしら。」


「えぇ、是非。」


「メランお姉ちゃんと一緒!」


父親もうなずいて、手を空いている席に向けてくれている。


4席しかないテーブル。 横の開いている席に、セリカとルルちゃんとカレンが座る。


さっきから顔が変わらなかったカレンが少し楽しそうな顔でルルちゃんと喋っているのが印象に残る。


「いつもこの子の面倒を見てくれてありがとうございます。 私は母親のカタリーナと言います。

ご挨拶が遅れてすいません。」


「ママだよ、メランお姉ちゃん!」


腕に抱かれていたラーナちゃんが、椅子に座って紹介してくれる。


「私からもありがとうございます。 娘が毎日楽しそうで感謝しています。

私は、父親のリオネルと言います。」


「パパだよ、メランお姉ちゃん!」


ラーナちゃんが、また紹介してくれる。


顔の堀が深い両親。 ラーナちゃんもあんな風に成るんだろうか。



横の席では、料理が到着したようで、ムーも座っている。


一皿に盛られたシチューをスプーンで食べている4人。


カレンが目を輝かせている。 最初のメランの料理はああ成るよね。


ルルちゃんも相変わらず一口食べる事に手が止まる。


それを見もせずひたすら食べ続けるセリカに、メルサが出てきて皿を5個も出してきていた。


「また、知合いが増えたのね! メルサよ、よろしくねぇん。」

顔に両手をスリスリしながら、カレンに挨拶するメルサ。


「カレンと申します、よろしくお願いします。」


食事を止めて立ち上がって頭を下げて挨拶しているセリカにムーが何か突っこんでいた。



そんな風景を見ていると、私の前にも黒いワーキャットのエーテがシチューを持ってきてくれる。


茶色のシチュー、ゴロゴロ入ったお肉はスプーンを刺しただけで裂けそうだ。


スパイスの香りが、鼻からお腹を刺激する。


「ベルカウルのシチューだニ゛ャ、ゆっくり食べるニ゛ャ。」


ラーナちゃんに同じことを言ったエーテは、メルサと一緒にカウンターの奥へ入って行く。


エーテとメルサも楽しそうに何か話しながら、内股を擦りカウンターの奥へ消えていく。


「ラーナちゃん、頂きますしないとね。」


「うん、いただきます!」


スプーンを両手で持ち手を合わせたラーナちゃんは、その口には大きすぎるスプーンの先を使ってチョコチョコ食べ始める。


父親がラーナの口を食べる度に拭いて、面倒を見ていた。


私も食べよう! スプーンを手に持ち、シチューに入れる。


簡単に崩れるお肉に人参、ジャガイモ。


この街でこれが作れればいいなと、農作地の風景を浮かべる。


いつしか、横の席のルルちゃんの所へ走って行ってしまうラーナちゃん。


ムーとルルちゃんと何かお話している。


少なくなったスープを食べていると、母親から話しかけられる。


「ラーナが、あんな顔して笑ってる、最近なんですよ。」


「そうなの? ずっとあんな感じだと思ってたけど。」



母親と話す。


ラーナちゃんは実の子では無くて、元々近所に住んでいた子。


活発な彼女は家を抜け出して、何度もカタリーナの店に遊びに来ていた。


魔法が少しできたラーナちゃんの実の両親。

あまり魔法を使う魔人に給料が良くないこの街を出て、仕事を求めてラーナちゃんと一緒にサタン領へ行ってしまう。


何回か前の勇者襲撃が会った時、両親は死んでしまったようだ。


サタン領のどこかの街を守っていただろうその両親。


一人に成ったラーナちゃんは生まれたこの街に一人で来た。


衛兵に抱えられて、カタリーナの店にやってきたラーナちゃん。


"家具屋のカタリーナ"とブツブツ言い続ける彼女は、今よりも幼かった。


その姿が、最初はボロボロで誰だか分からなかったそうだ。




そこから昔の元気な姿は無く、廃人の様に成ってしまったラーナちゃん。


あまり反応の無い彼女は、周辺の環境にもなじめずに居た。


なんとかラーナちゃんから聞き出した情報で、彼女が一人に成ったのだと知る。


リオネルと相談して、最後まで育てようと決めたカタリーナ。


毎日話しかけている内に昔のように戻るラーナちゃん。


でも他の人は怖かったようで、あまり周囲に馴染めない。


一人で外に出て遊んでいる事が多かった彼女。


ここ最近やっと、リオネルとカタリーナには笑顔を向けてくれるようになった矢先、勇者襲撃を受けるススカ。


鐘が鳴る中、店で籠ろうと決めたカタリーナは、食料を2階に上げて備えようとしていた。


急に高くなる景色。 そのまま横の壁に打ち付けられたかと思うと、意識が飛んでしまったそうだ。



気付くと傷一つない綺麗な体。 天地はひっくり返り天井だった場所が潰れていた。


辛うじて空いている窓からリオネルが救い出してくれる。


店とは違う場所、周りの建物も所々無い。


自分達の記憶を頼りに、店のあった場所まで戻る。


途中、潰れている建物と、空から悲鳴が聞こえる度に、ラーナちゃんが心配に成った。


店があったであろう場所の周りは数件の家を残してどこかに行ってしまっている。


その一つの陰に、黄色い髪の女の子を見つける。


悲鳴のする方、彼女が何を見ているのか、少し怖かったが助けたい思いが勝つ。


近づくとやはり、ラーナちゃんが遠くで起こっている惨劇を見ていた。


思わず抱き着いて目を隠そうとするカタリーナ。


ラーナちゃんは、その手を必死で退かせて来る。


「ママとパパもああやって……。」


それだけ呟く彼女に、どうしていいか分からないカタリーナ。


小さな顔をなんとか隠そうとするが、小さいながらも必死で抵抗するラーナちゃん。


衛兵に連れて来られた時に戻ってしまう。 そんな恐怖が、カタリーナを支配する。



そこにルルが現れる。


勇者を倒すルルを見たラーナちゃんは、そこから黙り込んでしまった。


何も話さないラーナちゃん。 あまり刺激してはいけないと、リオネルと決める。



3人で、一度潰れた家に戻るが、この中ではどうしようもないと、店のあった場所の近所に助けを求める事にする。


記憶のある限り、あまり残っていなかった魔人と家。



そこで、メルサの店を見つけた3人。 近所に有るが、いつもさびれている店。


気に食わない客は追い出されると聞く。


怖かったが、背に腹は変えられないと入ってみる。


後ろから見つめる魔人が沢山居る中、先陣を切って入った店。


そこにさっき見た、黒髪の女性ルルちゃんが居た。


勇者を簡単に倒してしまった彼女、その時の怖い雰囲気が忘れられない。


気付くと、ラーナちゃんがルルを指さして走って行く。


そこからラーナちゃんと普通に話しているルルちゃんと一緒に食事を取った。


一緒に食事を食べる、全然違う雰囲気のルルちゃん。


ラーナが今まで他の人に向けなかった笑顔をルルちゃんに向けているのが印象的だったという。


そこから、夜はカタリーナ達と一緒に寝るが、昼間はルルちゃんと一緒に行動をしているラーナちゃん。


夜ラーナちゃんの話を聞くたびに、ラーナちゃんの笑顔が増えていく。


リオネルと話し合って、ルルちゃんが良いならラーナの好きにさせようと決めたカタリーナ。


それが今日まで続いているようだ。


「私達、怖くて一度もラーナの実両親がどうなったのか、ちゃんと聞けていないんです。」


「一回聞いたんじゃないの?」


「パパとママは死んだ。 それしか言わなかったので…… そこから怖くて聞けません。」


「そうなんだ、私達も気を付けるようにするね。」


「ありがとうございます、面倒まで見てもらって。」


「良いのよ、それにルルちゃんは面倒を見てるなんて思ってないと思うわよ。」


ムーとルルちゃんとラーナで、まだ食べ続けているセリカをヤジっている。


楽しそうな顔、あの顔は最近できたんだ。




「ラーナちゃん最近魔法が使えるように成ったみたいなの。」


「そうなんですか。 あの子もやっぱり魔法が得意なんですね。」


「それでね、昼間は私達がラーナちゃんに魔法教えるから、預かってて良いかな。」


「そんな、助けてもらって、ラーナに魔法まで。」


「カタリーナ、良いじゃないか。 彼女達にお願いしようよ。」


ずっと黙って聞いていたリオネルが、こちらを見て言う。


「大切な子なんだ、勝手言って申し訳なく思うが、よろしくお願いします。」


「私からも、よろしくお願いします。」


「いいわよ、絶対、夜にはこの宿に帰ってくるようにするからね。」


座りながら頭を下げる彼等と約束をして、楽しそうなラーナちゃんを見ていた。


はしゃぎつかれたのか、ウトウトしてくるラーナちゃん。


テトテトとこちらに向かってくる。


「ラーナ眠たいの?」


「うん、お部屋戻る。」


「すいませんが、私達はこれで失礼しますね。」


「お姉ちゃんたち、また明日。」


カタリーナと手を繋いだラーナは2階へ上がって行った。



気付けばカウンターで騒いでいる男達以外、皆いなくなっている。


私達も部屋に帰ろう。 ふとカレンが目に入る。


彼女のベッドが無い。


「1個ベッド持って行っといたわよぉぉ。」


メルサが、カウンターの奥からウインクして叫んでいる。


なんでも出来る男?だ、メルサは。




部屋に戻って、みると、隙間なくキチキチに4個並んだベッド。


本当に増やしてくれたようだ。


川の字に成って寝そべる、カレンはセリカの向こう側だ。


彼女達に、さっきカタリーナと話したラーナちゃんの話をする。


「そんな事があったんですね、ラーナちゃん。 全然知りませんでした。」


「今の感じだと分かんないよね。」


最初から一緒に居た、ルルちゃんも知らなかったようだ。


「明日から、魔法おしえるんだねぇ。 明日はどうするのさ。」


「ルルちゃんと、カレンと、ラーナちゃんでコテツの所行くでしょ?

私とセリカで、壁の話をしに行きましょうか。」


「主、わかったのさ。」

「メランさん、それでお願いします。」

「主様、ありがとうございます。」


そこからルルちゃんに、カレンの話をして4人で楽しく過ごした。


毎晩楽しくて、良い日が続く。 こんな当たり前が続いている事に感謝だ。


明日は、私の街の改造をしなきゃ。


する事を心に纏めて意識が遠のくのだった。

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