魔界編 ススカ 32
ベルゼブブとの会話を終えて、ススカの街へ戻るメラン。
途中セリカに巨木の実の採集を任すと、
イノシシ2匹、鶏4匹、巨木1本
そして自分の同じ種族の蛇を持って帰って来る。
その青い目の蛇にカレンと名付けた途端、青い龍に成ってしまう蛇。
人型に成ったカレン共に、ススカの街に帰る。
ススカの街が見えて来た頃、セリカが連れて来た魔獣たちを見て、駆け寄ってくるダンテ。
そのダンテに魔獣がセリカの物だと伝えると、ヒヒと二人で抱き合って生還を祝っていた。
「セリカ、彼等に石集めてもらっておけば良いんじゃない?」
「主、そうさね、元々そのために連れて来たのさ。」
「お前達、石集めておいてほしいのさ。 壁作り直すのさ。」
ンモ!ンモ! と言いながら立ち上がる大きなイノシシの一郎と二郎。
周辺の岩を拾って、座っている場所に積み上げていく。
「魔人踏んじゃダメよ。 セリカに食べられるわよ。」
此方を見てまたすごい勢いで縦に首を振る。
「ほんとに従えてるのか、あれを。」
ダンテが両手で頭を両方から押していた。
とりあえず、門まで向かう。
乗り込んでくるダンテ、私の横に座る。
「おい、美人さん増えてるじゃないか。」
「ダンテさん、初めましてカレンと申します。」
「おう、ダンテだこの街で守備隊長をやっている。」
「よろしくお願いします。」
なにやら照れているダンテ。
私達には何もなかったのに。
「あれか、カレンも家持ち上げたり出来んのか。」
「カレン、出来るわよね?」
「主様、おそらく出来ると思います。」
「だって、ダンテ。」
「ダンテ、諦めろって言ったぜ、カレンは龍だぜ。 青い龍。」
「龍なのか?」
「はい、主様にしていただきました。」
「して、いただきましたってお前。」
「なんか成っちゃったのよ。」
また頭に手を当てるダンテ。
そうこうしている内に、門まで付く。
検問の待機列の無い門を抜けると、そこにルルちゃんが居た。
ラーナと手を繋いで一緒に手を振っている。
「おかえりなさい、メランさん、セリカ。 新しい人ですか?」
「ルルちゃん、カレンよ。 セリカと同じ種族だったの。」
「ルルさん初めまして、カレンと申します。 よろしくおねがいします。」
「ルルです。 よろしくです。 カレン」
馬車の中から頭を下げて言うカレンに、頭を下げて言うルルちゃん。
そのままラーナちゃんと二人で馬車に乗る。
「俺は仕事あるからここで降りるわ。 ありがとうなヒヒ。」
「いいんだぜ、ダンテ。」
門の仕事に戻っていくダンテ。
周りの衛兵と何やら話を聞いている。
「カレンだって、ラーナちゃん。」
「カレンおねぇさんです。 セリカおねぇさんみたいに大きいのです。」
「ラーナさん、カレンです。 よろしくお願いします。」
挨拶を済ませると、そのままムジの元に向かう。
ベルゼブブとの会話の結果を伝えるためだ。
そう言えばダンテ聞いて来なかったな。 仕事忘れてるんじゃない?
6人でムジの元に向かう。 新しい炉の建設現場、街の中心地へ。
馬車の中で、ラーナちゃんが、何やら手から電気を出している。
その小さい両手を黄色い目で真剣に見つめているラーナちゃん。
手からパチパチと弾けるような雷魔法は、すぐに消えてしまう。
「ラーナちゃん、魔法使えるのね。」
「はい! ルルお姉ちゃんに教えてもらいました!」
「雷なら俺も使えんだぜ。」
ヒヒは雷を撃てるようだ。 見た事無いなぁ。
「コテツの所に行ってたら、勝手に手から魔法出してただけです。」
「ルルお姉ちゃん凄いんだよ、刀持ってパァァァって!」
ルルちゃんも何かしてもらったんだろうか、そう言えば今は刀を持って居ない。
「コテツに今手直ししてもらってるんですけどね。」
「コテツは腕だけは確かなのさ。」
「セリカのはどうだったのよ?」
「私のは、良かったのさ、変わるねぇ。 いい仕事するのさ。」
そこから武器の話で盛り上がる馬車。
カレンが少し寂しそうな顔をしている。
「カレンも何かあそこで見つけれると良いね。 明日でもルルちゃんとコテツの所、行ってこれば良いんじゃない?」
「主様、ありがとうございます。」
「カレン、一緒に行こうね!」
「ルルさん、よろしくお願いしますね。」
「カレン、大きいのが良いのさ。」
あんなのが良い、こんなのが良いと話している間
ラーナは、珍しく黙って自分の手を見続けていた。
広場に着く。
会議の後、ムジに言って炉の場所を変えてもらった。
中心に巨木を植えて、巨木を囲むように東西南北に1個づつ、4個の炉。
全ての炉で、魔人達がレンガを詰んでいる。
既に底は出来た様で、もう横の壁に取り掛かっている。
今回のは三角フラスコの様な形に積み上げるそうだ。
その炉の真ん中で、ミドラと話しているムジ。
馬車を降りて、皆で向かう。
「おう、戻ってきたか。 ねぇちゃん、大勢で来たんだな。 ベルゼブブに食われなかったか?」
ガハハハと豪快に笑うムジ。
「魔王様、ご無事で何よりです。」
腰を折って丁寧にこちらに礼をするミドラ。
「ちゃんと話してきたわよ、セリカが、サイクロプスの脚切っちゃったけど。」
「お前ら本当に話し合いしてきたのか?」
「ベルゼブブとかいうのも大した事無かったのさ。」
「主様とセリカ様です。 当然です。」
「見ねぇ顔のねえちゃん増えてるじゃねぇか。」
「ムジさん、ミドラさん、カレンと申します。 よろしくお願いします。」
ミドラに負けないぐらい丁寧に礼をするカレン。
「お、おぅよろしくな、青髪のねぇちゃん。」
「カレン様、ミドラで御座います。 お見知りおきを。」
二人とカレンが挨拶をした所で、ベルゼブブとの会話結果を報告する。
とりあえず全て要望は通った。
食料の貿易、街道の安全。 どちらもベルゼブブ本人から了承を得た。
ドラゴンの退治だけ条件に言われた事を伝える。
「ドラゴン退治か、冒険者ギルドだな。 俺から伝えとくぜ。」
「全て要望通り。 流石魔王様です。」
すんなり行った交渉。 とりあえず直近は大丈夫そうだ。
「後、西門の前にヘルキングボアと、ファットコカトリスっての居るから、皆に言っておいてよ。」
「ねぇちゃん、なに持って帰ってきてるんだよ。 木の実じゃなかったのかよ。」
そうだ木の実だ。 忘れていた。
セリカから貰った木の実を、石碑が埋まっていた所に埋める。
多分ここが真ん中だ。
石碑は後でどこに置いておくかみんなで決めよう。
「それが、あの森の木の実か。 なんだ普通だな。」
「私も初めて見ました、こんな小さい実から、あれが出来るとは……」
何か思い出したようにセリカの方に行ってしまうミドラ。
あの巨木、ミドラに頼まれて持ってきてたんだよね。
「何百年かかるんだろうな。 毎日水やらねぇとな。」
髭をスリスリしながら埋めた場所を見ているムジ。
私は、目を閉じて、そこに魔力を送る。 大きな木、街の象徴。
すくすく育つように、おまじないの魔力。
「お、おい逃げろ!」
ムジの声、どうしたんだろう。
目を開けると、そこには木の幹があった。
普通サイズの木は私の顔のスレスレまで幹を大きくしていた。
黒い葉、未開の森とは違うその葉っぱ。
大きく枝を伸ばし、生い茂った草は空からの光を遮断している。
「すぐ、大きく成りそうね。」
「ねぇちゃん、やる前に言ってくれよ。 死ぬかと思ったぜ。」
ムジと周りの魔人がこっちを見ている。
急に木が生えただけで死ぬの?
石碑がその木に吞まれている事に気付いてしまう。
別に見なくても問題無いか。
風が、木の葉を揺らす。
まだ作り掛けの炉よりも低い木、この木は何処まで大きく成るんだろう。
なんだか楽しみだ。
今日はそのまま皆で、宿に向かう。
馬車の中で、ラーナちゃんはまだ真剣に手で電気を発生させている。
ずっと、やってるの大丈夫なのかな?
目の前でカレンが氷の塊を出して、ラーナちゃんに見せていた。
ルルちゃんとラーナちゃんが、目をキラキラさせて見ている。
これだけ連れまわしているラーナちゃん。
一度両親ときちんと話さないと。
皆で魔法の練習をしながら、ラーナちゃんに色々教えていると、メルサさんの宿に着いた。
周りに作り掛けの木の家が沢山ある。
赤の丸が昇っている。 今は作業を止めているのだろう。
何も無かったぽっかり空いた場所に街ができようとしていた。
「おかえりニャ。」
ムーが出てきて、ヒヒの治具を外している。
「今日はお肉のシチューにゃ。 美味しいのニャ!」
セリカとルルちゃんとラーナちゃんが目を輝かせている。
「肉なのさ、肉なのさ。」
「新しい奴です。 楽しみです!」
どうやら二人は待ちきれないようだ。
ヒヒに挨拶をして、鉄の扉を開ける。
今日は早い時間だからか、そのシチューを頬張っている人が沢山居る。
当たり前に成っているこの風景、何かほっとした気持ちになるのだった。




