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底から  作者: ぼんさい
40/98

魔界編 ススカ 30

ススカの街を出て、ベルゼブブと話に向かう。


ヒヒの馬車に揺られて丸1日の旅工程だ。


相変わらずヒヒの尻しか見えない前、もうちょっと大きい馬車を買っても良いかもしれない。


三又の交差点を抜けて、真ん中の道に入る。


草原一色だった風景が、左側が森に変わる。


そして、周囲から誰も居なくなった。




セリカが黙って先の道を見ている。


前とは違い足を組んで、手を煽り掛け身を幌に預けている。


「ヒヒ、ベルゼブブってのはどんな奴なんだい?」


「俺も見た事ねぇんだぜ。 ススカの街には一度も来たことが無いみたいだぜ。」


「来た事も無いのに、所有者だったの?」


「そこらへんは俺も解らないんだぜ。 でもどこの領土でも魔王を見る機会なんて無いと思うんだぜ。」


「そうなの? 本当に居るのそれ。」


「すまないんだぜ、ルシファーだけは、よく見るって聞いたんだぜ。」


「そうなんだ、全部ルシファーだったりしてね。」


「正直解らないんだぜ、ただ城は確かにあるぜ。」


「どんな所なのさ、ベルゼブブの城ってのはさ。」


城下町、その国の最高機関が集まる街はさぞ壮大なんだろう。


「なんもないぜ、テントと城しかねぇぜ。 俺も柵の外からしか見た事ねぇんだぜ。」


違うようだ、テントしかない? どんな風景なんだろう。


「行くのは食い物と武器だけで、柵の前で渡すから多分誰も知らないんだぜ。」


思って居た場所と全然違うようだ。


「あとドラゴンの山が近くにあるぜ、それぐらいだぜ。」


ドラゴンの山なんてあるんだ、全然この世界に詳しくない。




白い丸と赤の丸が交差する頃、あのあぜ道に着く。


不自然に綺麗な街道、誰か直したんだろう。


「すまないんだぜ、もし手が空いてたらそこの人参投げてほしいんだぜ。」


馬車にはヒヒ用の水と人参しか積んでいない。


私達は何も食べなくても良いからだ。


最小限の荷物で行こうとしたら、ヒヒが先に自分の食べ物だけ積んでいた。


「これかねぇ、私もメルサに何か作って貰えば良かったねぇ。」


床の人参をセリカが投げると、ヒヒが器用に口で咥える。


「すまねぇんだぜ、流石に何か持ってくると思ったんだぜ。」


「ヒヒ様の負担を減らす為だねぇ。」


悪い顔で笑うセリカ。


言いながら人参をポイポイ投げている。


「悪かったんだぜ、勘弁してくれよ。」


謝りながら、口でキャッチし続けるヒヒ。


帰りもこんな感じだと良いなぁ。




そこから左側の森沿いに進む。


木の種類が変わってきて、とんがり頭の針葉樹林ばかりに成る。


逆側に見える山からは緑が無くなり、岩肌を露出した山が現れる。


草原は相変わらずだ。


「この辺の山は、枯れてるんだねぇ。」


「ベルゼブブが全部食っちまったって話だぜ。」


「よっぽど、大食らいなんだねぇ。」


体制を変えないセリカが、ヒヒと話している。


そんなに食べるんだ、ベルゼブブって。



馬車が右へと曲がる。


「見えて来たぜ、あれがベルゼブブの城の街だ。」


街?を覆うようにめぐらされた鉄柵、その奥には薄い色のテントが何百とある。


テントより低い柵、何の意味があるんだろう。


テントの奥から煙が沢山上がっている。 生活をしているんだろうか。


道の先にはサイクロプスが見える。


ルルちゃんと出会った村で見たサイクロプスそれがそこに2人立っている。


奥には灰色の四角い城が見える。


その背後の山は全て禿山で岩がむき出しだ。


少し重い雰囲気を感じながらヒヒは進む。




サイクロプスのが近づいてきて、その柵が低いのではなく、テントが大きいのだと気付く。


セリカの背より大きな鉄柵は、人が入れないほどに密接して地面に打ち込まれていた。


「何の用だ、オロバス。 今日の納品は終わったぞ。」


上から声が聞こえる、前にはサイクロプスの太い足しか見えない。


ココからは私の仕事だ、馬車を出てそのサイクロプスを見上げる。


「"角なし"が、なんでこんな所に居るんだ。」


"角なし"久しぶりに聞いたその言葉、後ろに居るセリカの身体に力が入っている。


「セリカ。」


声を掛けると、何をしに来たか彼女も解って居る様で、少し体から力が抜けた。



「ススカの街から来たの、ベルゼブブと話がしたいのだけど。」


「ベルゼブブ様とだと、お前よく見ると美人だな。 俺が使ってやるよ。」


鼻で笑ったサイクロプスは、どこかで聞いた言葉を掛けてくると、手をこちらに向ける。


後ろで、何か恐ろしい気配がする。


「主は、ベルゼブブと話をしにきたのさ。 お前らと話してる時間なんて無いねぇ。」


赤い毛を、浮き上がらせたセリカは、顔から牙を出している。


「な、なんだお前。 竜人か!?」


その言葉に、テントから出てくる他のサイクロプス達、策を跨ぎ越して地面を揺らして私達を囲う。


一つ目の大男達が、口を開けてヘラヘラ笑いながら、こちらを見ている。


「生きがいいのがいるじゃねぇか。 ここが城前だってわかってんのか?」


サイクロプスの一人が言う。


そちらを睨むセリカ、少し身を引いたサイクロプス。


「もう一度だけ言うのさ、ベルゼブブに会わせるのさ。」


「ベルゼブブ様に会わせろだって? 角なしの癖に?」

大声で笑うサイクロプス。


セリカは動かない。


「10秒待ってやるのさ、返事をよこすのさ。」


赤い魔力が彼女から見えている。


「そんなもん返事はこれに決まってんだろ!」


私達を踏みつぶそうと、足を上げるサイクロプス。


セリカが、大剣の布も取らずに、サイクロプスの両足を根本から切る。


「アガァァァァ」


土煙を上げながら、泡を吹いて倒れるサイクロプス。


そこに飛び乗る、セリカ。


「後5秒だねぇ。」


首元に布が被さったままの剣を向け、他のサイクロプス達を睨みつけるセリカ。



「わ、わかった竜人待て、聞くだけ聞いてやる。」


最初に話したサイクロプスが、そのまま柵を飛び越え城までの道を走って行った。


「動くんじゃないのさ、動いたら殺すよ。」


セリカのその言葉に、周囲のサイクロプス達は固まっていた。


よく見るとこの鉄柵、門が無い。


続く道を遮るように突き刺されている鉄柵。 誰かが入る事を想定していないのだろうか。




時間だけが流れる。


イライラしだすセリカ、足がサイクロプスの体を叩いている。


城からさっきのサイクロプスが出て来た。


また走ってこっちに向かってくる。


「お、驚くなよ。 お会いになるそうだ。 来い。」


柵の向こうから行ってくるサイクロプス。


「主、馬車の中に居るのさ。」


「セリカねぇさん、俺も行くんですかい?」


「ヒヒ、ここに一人で居たいのかねぇ?」


固まるサイクロプスを横に馬車に乗り込む。


鉄柵へ近づくセリカ。


「邪魔だねぇ。」


道幅の鉄柵を溶かして、草原に投げ捨てる。


馬車に乗り込んだセリカ。


「ヒヒ行くのさ。」


「会話しに来たんだよな……。」


「何か言ったかね?」


黙ってしまうヒヒだった。



少し小走りでヒヒがサイクロプスについていく。


周りから視線を感じるが、襲ってはこない。


会話しに来たのだから。



城の前に立つサイクロプスを横目に、中に入る。


薄暗い場内、石の壁と床と天井、松明。 それだけの空間。


少し行くと、羊頭の鎧を着た門番と、大きな門が見える。


「ススカの奴らだ。」


サイクロプスが言うと、門番が門を開ける。


サイクロプスはそこまでのようで、ヒヒが進んでいく。


目の前にバカでかい階段があるが幌のせいで上が見えない。


「止まれ、控えよ。 ベルゼブブ様の御前にある。」


ヒヒが止まって、前足を開いて頭を下げる。


赤い絨毯の掛かった壁しか見えないので、外に出る。




3段上がった場所に、階段と似合わない小さな王座。


その奥に焼かれた肉や魚が山盛りにしてある。 王座の周辺には、その食べ跡の骨が散乱している。


その王座に真っ黒な一角ツノを生やした金髪の男居た。


マントを背負った男、椅子に座りながら足を大きく組んで、骨のついた肉を食べている。


その青い目がこちらを見ている。



その右側には、骸骨のヌイグルミのような、なんとプチデーモン。


パタパタと骨の羽を動かして空中に浮いている。



逆側にはローブを着た男だろうか、緑の髪の奥は顔まで被ったローブで見えない。


手に大きな赤い宝石の着いた杖を持ってこちらを向いている。



「控えろと言っている、わからないのか。」

ローブの男が言っている。


なんで話するのに頭下げなければ成らないのか。


「ヒヒ良いわよ、頭下げなくて。」


「で、でもよぉ。」


「貴様、何しに来たのだ! 殺すぞ!」

怒るローブの男。


めんどくさいなぁ。


「おい、もういいアスタロト。」


「し、しかしベルゼブブ様。」


王座に座った男、この男がベルゼブブか。


「ベルゼブブ、あんたに話しに来たのよ。」


「あ、あんたって不敬だッピ。」


プチデーモンが言う。 口調が可愛いのが腹が立つ。


「リリスも黙れ。」


あのプチデーモン、リリスと言うようだ。


「俺がベルゼブブだ、お前は誰だ、ススカの街から来たんじゃないのか?」


話し終わると、肉をかじりだすベルゼブブ。 ずっと何か食べている。


「私はメランよ、後ろの赤髪はセリカね。 オロバスはヒヒ。」


「おう、メラン。 何しに来たんだ。 挨拶だけじゃねぇだろ?」


急に本題を聞いて来るベルゼブブ。 また肉をかじっている。


「そうね、まず、街の石碑の所有者が私に成ったの。」


「ススカの街が? おのれ戦争をしに来たのか!」

ローブが激高する。


「アスタロト黙れ、話に成らんぞ。」

抑えるように言う、ベルゼブブ。


案外話出来る男のようだ。



「メラン、お前、街の奴全員殺したのか?」


「違うわ、勇者が来て倒したら変わったと思うの。」


「勇者倒したっピ?」


「えぇ、3人来て、3人倒した。」


「3人もッピ?」


「それでお前が魔王か、それで人間界は何個滅ぼしたんだ?」


「人間界? そんな事してないわよ。」


「ゼロか、大した事ねぇな。」


「貴方、人間界滅ぼした事あるの?」


「俺は、3だな。 それで魔王に成った。 ルシファーが5で俺が二番目だ。」


人間界とは何個もあるようだ、それで滅ぼすと魔王に成るの?


私何もしてないけど。


「ねぇ、人間界ってどうやって行くのよ。」


「行くのか? 街持ったらいけねぇよ。 サタンの所とルシファーの所に門がある。 そこから行ける。

そこに跳ぶかわかんねぇけどな。」


ニヤニヤ笑いながらまた肉をかじる男。



「そうなの、教えてくれてありがとう。 ススカの件は良いの?」


「俺は飯しか興味ねぇ、やるよ。 その代わり攻めてくんなよ、めんどくせぇ。」


なんかくれるみたいだ、案外簡単にくれた。


「ベルゼブブ様、そんな簡単に! 反逆ですよ!」


「うるせぇ、アスタロト。 俺が決めたんだ文句ねぇだろ。」


ローブが何か言っているが良いみたいだ。 街道の件続けないと。


「ベルゼブブ、その飯の件だけど、ススカの街と貿易認めてほしいのよ。

ススカは食べ物作れないでしょ。」


「かまわねぇぜ、ただドラゴンの肉だけ用意しろ、いっつもススカに頼んでるだろ。」


ドラゴンの牙があったんだ、冒険者ギルドで出来ると思う。


「良いわよ、後、鉱山とかの街道に居る馬車襲わないでね。」


「しねぇよ。 それだけか?」

すんなり認められた。


あっけなかった。


どうしてもプチデーモンが気になる。


「言いたいことは言ったわ。 あんたの横に居るプチデーモン何なのよ、

私の仲間がプチデーモンってだけで辛い思いしてるんだけど?」


「おい、リリスどういう事なんだよ。」


「同族はリリス以外要らないっピ。 そういう事だっピ。」


「どういう事なんだよ、リリス。」


「私も同族は私だけで良いですね。」


「アスタロトもかよ。 めんどくせぇなぁ。 お前の所持って行けよ、それでいいだろ?」


「えぇ、私は良いわよ。」


この側近が勝手にやっていたようだ。 そんな事でルルちゃんはあんな目に会っていたのか。

少し腹が立つ。


「他はねぇのか、無いなら帰れ。 二度とくんな。」


「えぇ二度と来ないわ、ありがとうベルゼブブ。」


「あ、そうだ。 サタンが死んだらルシファーが攻めてくるかもしれねぇ。 お前の所で食い止めろよ。」


食べるのを辞めて、こちらを見てニヤニヤ見ている。


最初から、それが頭にあったんだ。


「えぇ、ご忠告ありがとう。 精々頑張るわよ。」


「へへ、頼むぜ。」


体に力の入ってるセリカに笑顔を見せて、一緒に馬車に乗り込む。


結局頭を下げっぱなしのヒヒに声を掛けて、城を後にする。


すんなりと終わったベルゼブブとの会話。


次は未開の森だ。

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