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底から  作者: ぼんさい
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魔界編 序章 3 ~セリカ編~

その日、森が揺れた。


日頃から大きな奴の足音に怯えながら暮らしているが、それとは別の何かだ。


奥の方から恐怖の塊を感じる。


他の奴らもそれを感じ取ったのか、一斉に逆側へ走りまじめる。


私はまだだ、デカイイノシシやデカイクマに踏みつぶされたら、一瞬で死んでしまう。

それは避けないと意味がない。


普段暮らしている木の根元でじっと待つ。


周りから奴らの鳴き声が聞こえてくる。

そこら中から足音がする。

いったいいつに成ったら出れるんだろう。



3日ぐらい待っただろうか。だいぶ足音が無くなってきた。

周りの小さい奴らも動き出している。


仲間には飛べるのも居るがあれは特別だ、いっぱい食わなきゃならない。

いつか成ってみたいが、到底手の届かない存在だ。


慎重な私はまだ動かない。

潰されたら意味が無いのだ。


すると大きな音と共に巨木が倒れる音がする。

珍しい、たまに腐って倒れるのだ。


また同じ方から同じ音がする。

おかしい、こんな何本も倒れない。

"あれ"が暴れている。


そう感じた瞬間、巣穴から飛び出した。

木ごと潰されてしまうかもしれない。


這う事しかできない私は必死で"あれ"から逃げる。

木が何本か倒れた後は、衝撃波だ。恐怖を乗せてドンドン近づいて来る。

"怖い"普段感じない恐怖を背にひたすらに逃げるのだった。



何故か衝撃波が止んだ、でも"あれ"が来ると殺される。

本能が逃げろと行って体を突き動かす。

森の中で小さな私達は恐らく最後尾だろう。

せめて外まで出なければ・・・・。


その時、後ろから風が吹いた。

猛烈な風、そこには魔人の女が居た。

彼女の後ろの草は何故か全部倒れており、道が出来ている。

その前にある普通のブーツそれは倒した草を踏んでいる。

私は小さいのだ。


日頃、脅威にもしない魔人、大きいだけの存在。

その魔人は角が無い、私たちのエサだ。


角が付いてるのは色々魔法を飛ばしたりしてくるので厄介だ。

だが角が無いのは何もしてこない。噛んで毒を回せば一発だ。

私達が食うのは、肉体じゃない。魂なのだ。


だが、この魔人を襲ってはいけないと本能が警告してくる。

その魔人の目を見ると、彼女が"あれ"だと本能が察してしまった。


白い髪を靡かせ、赤い目で見つめてくる彼女。

その彼女の目から溢れる魔力の力。若干可視化できてしまう。

こんなの見たことない。

どれだけの魔力を秘めている魔人なのかと、"逃げろ"と本能が言うが、体はあの目に見つめられて動けない。


「怖がらなくていいよ?」


言葉からもかなり魔力を感じる、これには逆らってはいけないんだ。


すると彼女はしゃがみこんできた。

目が近くなる。溢れる魔力で威圧してくる。

もう逃げる事は敵わないだろう。小さな心臓が徐々に収まっていくのを感じる。


草が揺れてあいつが見える。

あの黒いネズミは普通のネズミに見えて、毛に魔力が通ると私の歯でも通らないのだ。

"オリハルコンラット"魔人たちから聞いた名前だ。


目を見ていないあいつは気付いていない。

こんな危険な存在が目の前に居るのに、飢えたネズミは私を襲おうとしてくる。


"シャァァァ"反射的にそのネズミを威嚇する。


あぁ、貴方にしたんじゃないんだ、分かってくれ。


彼女は私の威嚇の意味が解ったのか、ネズミの方を見る。


「喧嘩はダメよ?ネズミさん。」


目と声がネズミを捉えると、ネズミも恐怖を感じて状況を理解したのか逃げてしまった。


よく考えれば、あのネズミに注意が向けば私が助かったかもしれない。


だが、それは彼女の自由だ。彼女の前に文字通りちっぽけな私は何もできなかった。

蛇ににらまれた蛙、私が蛙とは実に滑稽だ。


なにかもうどうでも良かった、もう死ぬんだ。

それしか思わなかった。


その時彼女の指が私の頭に触れる。

彼女の魔力が私を支配する。

魔力から寂しさを感じる。

彼女は寂しがっているのだ。


「じゃぁ行くね。気を付けるんだよ。」


こんな魔力を持つ彼女があんな乱暴な"あれ"な訳は無い。


”連れて行ってくれ!” そう思い彼女の腕に昇る。


「一緒に行ってくれるの?」


”そうだ行くんだ” その魔力があれば"あれ"にも対抗できるだろ。


まだ目を向けて首をかしげる彼女に一緒に行く意思を伝えなければ。


彼女の肩を目指す。


「ちょっと、くすぐったいって」


クスクス笑いながら楽しんでいる彼女、良い反応だ。私は敵じゃ無いアピールできてるじゃないか。


そのまま肩で蜷局を巻く。

さぁ"あれ"から逃げよう。


「ふふふ、可愛いわね貴方。 でもそこじゃ吹き飛んじゃうよ?」


吹き飛んじゃう? どういう事だ、意味があまりわからない。


彼女の指が伸びてきて私を優しく包んでくれる。

彼女の魔力から寂しいは消えている。


そのままお腹に入れられた私。彼女の動力源が近くに有る。

服で解らなかったが、バカでかい魔力が、そこから溢れている。


「じゃぁ、行こっか!」



彼女はこの魔界を滅ぼす気なのだろうか。

膨大な魔力を眺めていると、力も爆破した。


多分移動しているのだろう、あの木を蹴る度に、恐れていた"小さいあれ"が身近に感じられる。


彼女は森を揺るがした張本人だ。


下から、上から、膨大な数の魔物の気配を感じる。

普段私に気づかないで踏みつぶすような奴らが必死で走っている。


それさえも追い越す彼女。


しばらくすると腹の力が止んだ。


小さい小さい魔力を前方から感じる。

力だけの奴も何人か居る。


あれらは恐怖じゃない。

エサの類だ。


「おい、魔人か? 森から出てきたぞ。」


力が何か喋っている。彼女が姿を晒したようだ。


「角無いぞ、下級じゃねぇか。」


「人間かもしれねぇぞ。どっちにしても弱えぇが」


彼女の服の中からだと様子が見えないが、どうやら目を見ていないようだ。


私も最初解らなかった。


「すいません。 森から出た事が無くて、この辺について教えてもらえないでしょうか?」


彼女が喋った。その濃厚な魔力に、あいつらも気付くだろう。


「おい、あいつ美人じゃねぇか?」


「よく見ると上玉だ。 仕事前に楽しもうぜ。」


力の方はバカだ、これほどの魔力を感じれないのか。


「あれ、強いですよ。 魔力が滲み出てます。」


小さい魔力が喋った。

解るやつが居るじゃないか、我が主は危ないのだ。


それからやり取りはあった物の、力が気付く気配は無い。


小さな魔力が一杯消えていく。


何が起きているんだ、確かめたく成り、服を出て彼女の肩に乗る。


魔人共の言うサイクロプスがプチデーモンを潰していた。


それよりこいつだ、迫って来るサイクロプス。

こいつは、我が主を捉えようとしている。


そんなの無理だ、絶対に無理だ。

止めてくれ彼女の機嫌を損ねないでくれ。


こちらに手を伸ばす力だけのサイクロプス。

桁違いの力が彼女から湧き上がる。


"ダメだ、止めろ!" そう思って彼女の肩からサイクロプスの腕に噛みついた。

牙から毒を回す。

こいつを早く止めないと、また森で起こった爆発が起こるぞ。


後ろで力が爆発していた、触れただけでサイクロプスの手が吹き飛んだ。


「アァァァァ!いでぇぇぇぇ!」


痛がるサイクロプス。

違う、お前が止まらないと私が危ないんだ。

早く止まれ!


「レッドデビルサーペントだ!逃げろ!」


そんなの良いから主を早く止めてやってくれ。


願いが届いたのか、サイクロプスの力が消えていく。

なんとか耐えきった、生きてる。


主に戻る途中、サイクロプスからの魂を吸い出す。

小さいけど、良いんだ地道にやるさ。


主がしゃがんでまた頭を撫でてくれる。


「守ってくれてありがとう。」


優しい感情の魔力が声に乗ってやってくる。

そうだ、怒らないでこのままで行こうじゃないか。

でも目から溢れる魔力が全然収まってないぞ、大丈夫か。


その時、サイクロプスと主の魔力が溶け合い、膨大な魂に変わった。

それを受け取った私は、体中が熱くなる。

これが噂に聞く進化か。


魂が魔力と力に変わる感覚、私の存在が大きく変わっていく。

収まった時、私は浮いていた。


あの憧れの飛べる存在に成ったのだ。


主がくれた気がした、主はなんて力を持っているのだ。


周りを見渡すと、存在全てが以前より小さく感じる。

初めての体験にいろんな物を見て大きさの確認をしていると、わが主はあの小さい存在に魔力を放った。


「あなた、大丈夫?」


その魔力の籠った声を放ち、をの魔力を受けたプチデビルが意識を取り戻した。

進化前よりかなり魔の存在が小さい。


「貴方無事だったんですね!」


ある意味無事だ、吹き飛ばなくてよかったなプチデビル。


そんなプチデビルが仲間の跡を見ていると、また主から

膨大な力と魔力を感じる、ダメだ主それ以上どっちも練ってはいけない。

周囲が吹き飛ぶぞ。


タイミング悪く、魔物群れの足音が近づいて来る。

お前ら主から逃げてるんだろ、気付いてくれ。


「魔物の群れが来てますよ! 早く逃げないと!」


主を今、刺激するなプチデビル。

わからないのかこの危険な状態を。


主の拳に集まる力。

それが、後ろに有った巨木に放たれる。


その魔力と力に耐えられるはずも無い巨木はあっけなく倒れる。

同時に恐怖心の塊のような衝撃波を主が後方に飛ばす


魔物の群れが止まった。

私は怖くて主の腹の中に帰った。

とても見ていられなかった。


衝撃波を感じ取り、逆側に逃げていく魔物達。

私も少し逃げたくなってしまった。


その後、しばらく沈黙した主、横の腹の中ではグルグルと魔力を練り続けている。

この魔界を滅ぼしそうな魔力が練られては消え、練られては消えを繰り返す。


そのたびに放たれるあの最初の衝撃ような恐怖の魔力。

私も正直怖いが、主の様子を見ていると、その辛そうな顔の方が心配に成っていた。



プチデビルが私の事を知っているようだ。

サイクロプスを倒したのは私だとプチデビルに説明してくれる主


魔力の渦が、収まったお腹の中から出ていくと、私を見て恐怖するプチデビル。


お前はもっと怖い物を近くで見ていたはずだ。

私なんかに悲鳴を上げている場合では無いぞ。


「浮くレッドデビルサーペント、まさかセリカサーペント!?」


魔人共はそう呼ぶのか、よく知っているなプチデビル

私も初めて聞いたぞ。


「この子そういう名間なんだ。"セリカ"だね。よろしく。」


主が言うと、また私の存在が書き換えられる。

さっきの比ではない。


"セリカ"私の名前。


心臓がバクバクする。


プチデビルが何か言っているが、わからない。それぐらい体の中から何かが溢れてくる。


気付くと周りの物の存在が一回りも二回りも小さく成り、あのプチデビルが地面に伏していた。

今ならあの熊にも尻尾で勝てそうだ。体が大きく成りたがる反動を抑えて必死に堪える。

大きく成ったら、主の服の中に避難できないではないか。



大切そうに、プチデビルを近くの藁を集めて寝かせる主。


周りの住居をしらみつぶしに見て回っている。

何にスイッチが入るか解らない主に、いざという時余計な事を言わないよう、プチデビルを見張る私。


でも、主が名前をくれる切っ掛けに成ったこいつを、そんなに悪い奴だとは思えなかった。


墓を見てまた魔力を練っている主、一体どれだけ魔力量があるのか、質は上がっていく一方だ。

今回はすぐ収まった。


プチデビルが気付いた。


パタパタ上がってくるこいつ、また主が少し危険な状態の時に起きて来た。


主が大切そうにしている物を、私が何かする事は無いが、主を暴走させるのはダメだ。


「ヒッ!」


それだけ言うとじっとこっちを見てくるプチデビル


喋れないので黙れという魔力だけ送る。


解っているのか、ただじっとこっちを見つめてくるプチデビル。


奴の存在は前よりはるかに小さい。

主から見ると、小さすぎる私達には気付けないのだろう。

頑張らなくては、とまた思えた。



主が散策を終えて戻ってきた。


「何、仲良くなったの?」

いや、警戒をしていたんだ、読み取ってくれたよなプチデビル


「目を離せないんです。 咬まれたら死んじゃいますよ。」

おい、分かってなかったのかお前


「そんな事しないよね? セリカ。」

そうだ、分かってくれるのは主だけだ。その名をもっと呼んでくれ。


飛行にも慣れて来た、うまく主の肩に乗れた。


また頭を撫でてくれた主。

そうだこのまま平和な時間を過ごそう。


「あわわ………肩に載せてます。」

お前も羨ましいだろ? プチデビル。

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