魔界編 ススカ 27
鉄板を使い果たしてしまった。
まだ少し穴が開いている家がある。
街の北東壁まで来ていて、全部やらないのはもったいない。
家の前で見ている魔人もいる。
なんとか成らないか。
穴の空いた壁を一度溶かして、そこに再び広げてみる。
ちょっと薄く成るけど、応急処置って言ってたし、これで良いんじゃないのかな。
そこを固めると、綺麗な銀色の壁が出来た。
下で建物の持ち主の魔人が礼を言っている。
軽く手を振って、他の建物はその方法で全部直した。
北東はこれで終わりだ。
西の方では浮いている鉄板が近づいてきている。
セリカが後はやるだろう。
そう思って、高炉に引き返した。
また3人で何か話している。
高炉にはレンガや鉄板を配っていた人たちが、炉に群がって壊していた。
まだ白い丸が沈んでいない、半日で家の修復は終わったようだ。
3人の元へ行く。
「ねえちゃんもう帰ってきたのか?」
ムジが珍しくびっくりしている。
「ええ、全部終わったわよ。」
「全部終わったのか? 全部。」
ダンが聞いて来る、全部って言ってるじゃない。
「言ってるじゃない、全部終わったって。」
「あぁ、わけが分からん。」
ダンテが鎧に包んだ手で頭を抱えていた。
「後はこの炉を壊して積み上げるだけだな!」
ムジが群がる人を見て言う。
叩いてはレンガを取り外し、下に回している魔人達。
別のレンガの山が南側に出来ていた。
「ねぇ、あれも全部ああすればいいの?」
「炉に居る奴ら! 離れろ! 死ぬぞ!」
「ダン、死なないってば。」
血相を掻いて炉から離れる魔人達、広場の端っこまで走る。
そんな所まで行かなくても大丈夫なのに。
人が掃けたむき出しの炉。
底には少し鉄が残っている。
「ねぇちゃん、本当に大丈夫なのか?」
「見ててね。 鉄はどうする?」
「鉄? 底に残ってるやつか? 鉄板に出来れば良いが。」
「わかった!」
魔力を炉4個に染み渡らせる。
鉄が先だ、固まったまま空中に退かす、そのまま溶かしてまた赤い玉が出来る。
それを鉄板にして、さっき鉄板があった場所に置く。
後は炉だ。
今回は数が多い、目を閉じる。
炉に光の線が入ったような絵が浮かぶ。
レンガの形に網に成った線。 幾重にも広がるその線を今度は面にして、レンガを保護する。
居合の構え、太刀に手を掛ける。
切るんじゃない、魔力を飛ばして吹き飛ばす。
"シュ"
バラバラに成る炉、でも少し下の方が残っている。
奥には街と魔人が居る、横薙ぎにはできない。
ならば地面に向かってと、上段に構える、太刀が伸びるようなイメージ。
そのまま太刀から延びた魔力を薄い板の様にするイメージ。
羽子板のような魔力。
太刀が鼓動で答える。 それを地面に叩きつける。
一つ完全に細かくできた。
後3個、連続で繰り返す。
目を開けると、上空一面に浮かぶレンガ。
それを、さっき積んであった南の方のレンガ置き場に並べる。
こっちはピラミッド型に。
「ほんとにやっちまったよ。」
「明日には、炉出来てるんじゃないか。」
「ねぇちゃん、やっぱすごいな!」
3人が感想を述べていた。
誰も怪我させてないし、誰も死んでない。
少し地面が凹んだがまぁ良いだろう。
「他にやる事ある?」
「「「ねぇよ」」」
3人で言わなくても良いじゃない。
近くまでレンガと持って行こうか提案したが、仕事が無く成ると拒否された。
地面に円を描いて、そこにレンガを敷き詰めていく魔人達。
馬車が忙しそうにレンガを運んでいる。
ダンは冒険者ギルドに、ダンテは東門に帰ってしまった。
ムジに炉の構造を教えてもらっていると、オーガがこちらに向かってくる。
「ムジさん、石碑が見つかりましたぜ!」
石碑?なんだろう。
「おう、ベルゼブブは生きてたか?」
笑いながらムジが言っている。
ベルゼブブも死んだの? 逆側から勇者が来る。
思わず、私の身体の中から魔力が溢れてくる。
「ねぇちゃん、何怖い顔してんだよ。」
「ベルゼブブが死んだんでしょ? 勇者が来るんじゃないの?」
「違うぜ、ねぇちゃん。 街の石碑だ。 一緒に見に行こうぜ。」
オーガの案内で、ムジの後を付いていく。
2個目の円を描いている集団が途中で辞めて皆待っている。
そんな大事な物なんだろうか、石碑。
オーガが、書きかけの円の途中で止まる。
地面から少し出ている三角形、あれが石碑だろうか。
「ムジさん、掘り出しますか?」
「ねえちゃんがぶっ壊した時に、埋まったのかもな。」
ガハハハと笑っているムジ。
何か大事な物を粗末に扱ってしまっただろうか。
少し申し訳ない気持ちに成って、私の魔力で浮かす。
白い光で文字が掛かれている石板を、その場に立たせた。
腰ぐらいまでの将棋の駒のような石は、文字が白く光っている。
あの光、聖女の杖の光の様な。
思考を引き裂いてムジが話しかけてくる。
「ねぇちゃん上げてくれたのか、ありがとうな!」
その石碑を見に行く、ムジ。
周りの魔人も皆興味があるようで見ている。
見た人が皆固まっている。 なんなんだろう?
「それ、何が書いてあるの?」
「ね、ねぇちゃん、名前メランだったよな。」
「そうだけど、何なの? なんか関係あるの?」
「見て見ろ、この石碑。」
私の前から人が掃けて道に成る。
なんだろう? 何が書いてあるんだろう。
その石碑にはこう書いてある。
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名前 :ススカ
所有者:メラン
人口 :251--人
高度発展中
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名前はこの街の名前だろう。
人口は、数字が目まぐるしく変わっている。 リアルタイムなんだろうか。
高度発展中。 復興中だからね。
所有者だ、所有者が私の名前に成っている。
「ねぇ、ムジ、他にメランって人居るの? この街の創設者?」
「ちげぇよ、ねぇちゃんだよ。 前まではブルゼブブだった。」
ブルゼブブ、この街を支配していた魔王。
そこから私が街を取っちゃったの?
「ねぇちゃん、魔王だったんだな。 納得だわ。」
ケラケラ笑うムジ。 周りの魔人達が膝を着いて頭を下げだす。
「ちょっと、頭なんて下げなくて良いわよ。 この石碑なんなのよ、教えてよ。」
皆が頭を上げた、命令したわけじゃないんだけど。
そこからムジが話してくれる。
街には、どの街にも真ん中に石碑がある。
ススカでは中心に炉があって、外壁で隠されていて見えなかった。
その石碑でどの魔王の支配下にあるか解る。
ルシファー領やサタン領と言っているのはこの石碑を見て皆が言っている。
この石碑は何をしても壊れないそうだ。
なんか壊せそうな気がする、このいい加減な石碑壊してやろうか。
本当に私の街になってしまった。 でも何にも解らないよ?私。
「臨時の街会議だ、長共を呼んで来い。 此処でやる。 代理は無しだ。」
ムジが周りにいた馬車の引手達に言う。
4方に散っていく馬車。 何やら会議が始まるようだ。
その辺の家から椅子を持ってきて石碑の横に、配置しはじめる魔人達。
長方形の机に椅子が6個。 短辺に1個づつ。 長編に2個づつ。
全部鉄だ。
椅子を準備したデーモンの女がどうぞと北側の短辺の椅子を薦めてくれる。
とりあえずそこに座る。
反対側の南側にはムジが座った。
遠いんだけど。
そこから、また炉の話をしていると、馬車が到着し始める。
西側から1台 ヒヒが馬車を引いている。
「メランねぇさん、久しぶりだぜ。 昨日は、ありがとうだぜ。」
「なんだねぇ、主、何かまたやったのかねぇ。」
ケラケラ笑いながら降りてくるセリカ。
その後ろから、シルクハットを被った、タキシードのデーモンが降りてくる。
白肌の彼は、セリカよりくすんだ朱色の髪、朱色の目をしている。
馬車から降りてきて、こちらを向くと、帽子を取って胸に当てる。
そのまま跪いて、頭を下げる。
「始めまして、メラン様。 新しい魔王にお会いできるとは光栄です。
商業ギルドの長をしております、ミドラと申します。 以降お見知りおきを。」
「まだ、魔王やるって言ってないんだから。 メランよよろしく。」
「おや? そうでしたかな失礼いたしました。」
机の西側ムジの方に座る。 その仕草も優雅だ。
白い手袋をはめた手を、机に組んで置いて背筋を伸ばして、目を閉じている。
「相変わらずだなぁ、ミドラ。 元気だったかよ。」
「ムジさんも相変わらずですね。 今日はお酒もってらっしゃらない?」
「いっつも飲んでるわけじゃねぇよ。」
ケラケラ笑っているムジとミドラは顔見知りのようだ。
「主、魔王になったのかい? 今更だねぇ。」
「セリカまで、やめてよ。」
こちらもケラケラ笑いながら、いつの間にか私の後ろに置いてあった椅子に座って、足を組んで座るセリカ。
大剣を地面に突き刺している。
東から1台、ケンタウロスが馬車を引いてやってきた。
そこから降りてくるのはダンテ。 相変わらずのスタイルだ。
「なんだ、ムジ急に呼び出すなよ、忙しいんだこっちは。」
「理由は後で言うからよ、まぁ座れや。」
「メランも居るじゃねぇか、セリカまで居るのか、なんだ何の会議だ。 また勇者でも攻めてくんのか。」
ブツブツ言いながら、東側に座るダンテ、私側だ。
「なぁ、何やったんだよ。」
「主、この男知ってるのかね?」
セリカに今日の馴れ初めを話してあげる。
「お前ら二人、滅茶苦茶だなぁ。」
ダンテが何か言っているが無視してセリカと話す。
南から1台、ユニコーンの馬車が来る。
降りてくる牛骨頭、冒険者ギルドのマスターだ。
相変わらずローブで体を隠している。
続いてダンも出てくる。
「これは、メラン様、またお会いしましたね。 龍様もご一緒で。」
頭を下げる冒険者ギルドのマスター、そういえば名前知らない。
「貴方名前なんていうの? 聞いてなかったわ。」
「失礼しまいた、私、ススカ冒険者ギルドのマスターをしております、ロレーヌと申します。」
「ロレーヌね、メランよ、よろしくね。」
ダンテの横に座る彼女。
ムジとなにやら楽しそうに話をしている。
ダンは何も言わず、ロレーヌの後ろに椅子を持ってきて座っていた。
南からもう一台、オバロンの馬車が来る。
この街ではあまり見かけない私達と同じ木製の馬車だ。
そこから、ムジと同じような背丈の女性が出てくる。
「わたしゃ、忙しいんだよ。 なんだい急に会議って。」
「カガラ、そう怒るなや、皆忙しいんだ。」
「それなら会議なんて要らないだろうに。 あら新顔だね。」
此方を向いて来るカガラと呼ばれた女性。
コテツの様な肌色に、緑髪、緑目。 普通の市民の恰好をした彼女。
背中には体と同じぐらいのノコギリを背負っていた。
「メランです。 よろしくねカガラ。」
「カガラだよ。 木工ギルドのギルドマスターをやってるんだ。 よろしくな、メラン。」
空いている東側の席に座るカガラ
「相変わらず固い恰好しとるね、ミドラ元気してたか。」
「カガラさん、お元気そうで何よりです。」
私、以外皆知合いみたいだ。
「メランさん。 セリカ。 ここに居たんですね。」
「なんだルルの知合いかい?」
「はいカガラさん、メランさんと、セリカです。」
カガラの馬車から出て来たルル。
どうやら二人は顔見知りの様だ。
私の後ろに置かれた椅子に座る。 いつ持ってきたんだろう?
「ルルちゃん、ラーナちゃんは?」
「馬車の中で寝ちゃってます。」
結局ココまでラーナちゃんは、ルルちゃんと一緒に来てしまったようだ。
寝ているんだ、そっとしておこう。
「皆、忙しい中集まってくれてありがとう。 これから臨時の街会議をする。」
椅子に立ち上がったムジを机に着いた皆が見ている。
高炉長のムジ
守備隊長のダンテ
冒険者ギルドのロレーヌとダン
木工ギルドのカガラ
商業ギルドのミドラ
そして私達。 私と、セリカとルルちゃん。
高炉の跡地、紫空の下臨時会議が始まった。




