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底から  作者: ぼんさい
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魔界編 ススカ 26

まだ綺麗な街並みを眼下に、高炉へ向かう。


街の象徴"だった"その建物は、今は周りの外壁も取り払われて、レンガを詰まれた瓢箪型の炉が4個だけ並んでいるのが見える。


鷹の顔をした者や、スズメの顔をした者が、飛びながら鉄のハンマーでその炉を取り崩しているのが見える。


下では残った製品を運び出す馬車の群れ、オロバスやケンタウロスが平たい馬車に鉄板を乗せて、北へ東へ西へひたすら運んでいく。



東門へと続く大通りは石畳の姿を復活させていた。


途中から赤茶色に変わる道、引き直した道との境がはっきりわかる。


両側では勇者がやった剣筋の入った家の壁に、馬車が持って行った鉄板をくっつけて補修していた。


あれがオーガだろうか、3mはありそうな緑の大男。 それが鉄板を4人掛で持ち上げ、体で壁に押し当てている。


周りで、デーモン達が手に持つ鉄棒を、魔法で出した火で溶かし当てて、溶接している様だ。


その横で膝から崩れ、泣いている魔人。


彼は、同居人の魂を勇者共に食われてしまったのだろうか。


少し悔しい気持ちに成る。



北からは、土の塊と、白い塊を乗せた馬車がこちらに向かってやってくる。


たまに見かける空に成った馬車。

運んで行った分の帰りだろうか。


道は馬車でごった返している。


その邪魔をするように、道のど真ん中で土を練って木箱に詰める魔人達


その先では、土を焼いている魔人。


なにやらそこに骨が、魔法を掛けている。


長く続く焼き場の最後にはレンガが山のように積まれていた。

ひたすら積み上げるレンガは大きく周りの家の高さを超えている。


西方面には鉄板を運ぶ馬車と、空の馬車が綺麗に左右に分かれて通行していた。

人の往来も活発だ。


広場で高炉の解体作業を見ているムジを見かける。 横にダンも居るようだ。


様子を見に其方へ飛ぶ。


崩れた炉の中では、またオーガが鉄のハンマーを振るって炉の取り壊しをしていた。



「白髪のねえちゃんじゃねぇか。 また来てくれたのか?」


ムジが小さい腕を振って降り立つ前の私に挨拶をしてくる。


「そうよ、何か手伝えると思って。」


「メラン、体は大丈夫なのか。 昨日あんな事してたんだぞ。」


ダンが両手を組んで顔だけ向けてくる。


「大したことじゃないわよ、もう一回やる?」


「冗談だろ、勘弁してくれって。」


そこから状況を聞いてみる。


北から昨日コテツが持ってきた石灰を切り出して持ってきて、


その北から来る土と一緒にレンガを生成している。


今ある炉は全て壊して、残っているレンガは一部家の暖炉などに使うようだ。


東は、勇者の斬撃で壁を破壊した家が沢山あるため、それの修理に鉄板を張り付ける。


北東も同じようだ。 レーザーを放っていた勇者は壁に穴を開けている。


それが北西まで続いているのだと。


北は居なくなった人が多い。 北を廻った勇者は魂を狩りながら前進したようだ。



話していると、東門の方から鎧を着た男が走って来る。


最初に街で見た気がする。 ヒヒの知り合いのダンテだ。


そういえば私は鎧を着ていない。 何か能力が変わる訳じゃない。


タイトな黒いドレスだけのその姿に、この鎧のブーツはなんだか似合わない。


宿に帰ったら新しい靴を作ろうと決める。


なにかダンの視線が胸を見ている気がする。

少し手で胸を揺らしてやると視線を逸らした。


ずっと同じ服着てるじゃないって?

あなた達、生活魔法も使えないのね。


「どっかで見た女だな。 新顔か?」


「これがメランだ、ダンテ。 救世主様だよ。」


「そら、すまなかった守備隊長として礼を言わせてくれ。」


右手を拳にして左胸に当て、そのまま腰をおって礼をしてくるダンテ。


「いいのよ。 したくて、したことだし。」


「それでも、感謝だ。 お前達が居なかったら街は死んでいた。 受け取ってくれ。」


「もう良いって言ってるじゃないか、ダンテ。 お前さん本当に固いのぉ」


ムジが髭をさすりながら、笑っている。


今日は酒を持っていない、きちんと仕事をしているようだ。


「私も何か手伝えること無い?」


3人が何か考えている。


「鉄板が足りないかもしれない。 でも姉ちゃんに出せたりしなよな?」

笑いながら言ってくるムジ。


鉄板? そういえば上から見た時、もうそんなに無かった。


「鉄ならなんでもいいの?」


「あぁ、補修用だからな、くっ付けばいい。」


北の山に乗っている鉄の玉。 あれを切れば良いんじゃないか。


片手を見えている鉄玉に向けて、魔力を送る。


私の魔力が空を伝って、鉄玉に当たり周りを包んだ。


「おい、何やってるんだメラン。」

ダンテが聞いて来る。


「あそこに大きい鉄あるじゃない。 鉄板作れば良いんでしょ?」



3人が一斉に北の山を向く。 浮いている鉄球に目を真ん丸にする3人。


私はそれをこちらの上空に持ってくる。


白い空気を纏いながら飛んで来るそれは、私の上空で止まった。


道行く人が、馬車が皆手を顔にあてて怖がっている。


「ごめんなさい、先に言うべきだったわね。」


「いいんだけどよ、落ちてこないだろうなあれ。」


「落ちたらお陀仏だな。 ありゃ。」

ダンテとムジが喋っている。


そんなヘマはしない。


太刀に手を掛ける。

そのまま私は鉄玉の前に浮く。


「鉄板の周りの人離れるように言って。」


「お、おう」


3人で鉄板置き場に走っていく。


「鉄板から離れろ! しんじまうぞぉぉぉ!」


死んじゃうって、失礼な彼等だ。



鉄球が目の前にある、私よりはるかに大きい鉄球。


街が下にあるんだ、横に切ろう。


意識を集中する。


周囲の音が聞こえなく成る。


僅かに鼓動で答えた太刀、それを鞘から抜いて、そのまま鉄球に切りつける。


"シュ” 


横に輪切りに成った鉄球。

まだ大きさがバラバラだ、大きい所を真ん中から切る。


端が丸い、そこを落とす。


置いてあるのと似たような大きさに成った鉄板を、出来た傍から置き場に魔法で持って行く。


それをしながら、他のを整えていく。


夢中でしていたら、鉄のクズしか残っていない。


これも使えるかもしれないと、集めて溶かす。


真っ赤に成る私ぐらいの鉄の玉。

中で鉄が溶けて液体のように回っている。


それを鉄板の大きさに長方形にする。


少し熱いかな? 熱いままだが太刀で切って調整。


魔法で冷やす。


出来た鉄板を同じように魔法で戻した。


地上に降りてみると、炉より高い鉄板の塔ができていた。


「ありがてぇけどよ、これじゃ降ろせねぇや。」

ガハハハと笑っているムジ。


横で固まる二人とその周囲の人々。


「ねぇ、これどこに持って行くの?」


「どこって、裂かれた家だよ。ねぇちゃん」


「わかった、くっ付ければいいのね?」


「あぁそうだけどよ……」



また跳ぶ私。


修理をしていたオーガたちも鉄球を見てか作業が止まっている。


丁度いい、見えている勇者の斬撃が入っている家に、魔法で鉄板を持ってきて、少し溶かして冷やす。


そのままくっ付く鉄。


簡単じゃない。


何個も繰り返す、時には5軒一緒にだとか。


とりあえずくっつける。


中に何かいる建物は後でどいてもらおう。


やっている内に楽しくなってあらかた終わってしまった。


「相変わらず滅茶苦茶だな。 ねぇちゃん。」


ムジだけが笑っていた。




下に降りる。


「ねぇ、家の中に居る人出るように言ってよ。 ケガしちゃうかもしれないじゃない?」


「「お、おう」」


仲良く二人で返事をした、ダンとダンテはそのまま走って言ってしまった。


「ねぇちゃん、西も足りねェと思うんだ。 馬車にのっけてくれねぇか。」


「いいわよ。 4枚ずつぐらいでいいの?」


「そうだな、それぐらいにしてくれ。」


まだ、2/3ぐらいは残っている鉄板、空いている馬車に魔法で乗せていく。


自分の馬車に鉄板が載ると時が動き出す引手達。


こちらに向かってきている馬車にもとりあえず乗せる。


「私が行ったほうが早いんじゃないの?」


「なんか、西でもやってるみたいだしな。」


1/3ぐらいに成った鉄板。 馬車が一斉に西へ北へ流れ出す。


南西の空では、鉄板が何百枚と浮いていた。


セリカだろう。 彼女も手伝っているんだ。


「ねぇちゃんも火使えるのか。 すまんが、レンガも手伝ってやってくれねぇか。」


「良いわよ、あれ焼けば良いの?」


「焼いて固めて、水魔法でコーティングしてくれれば良いんだ。 コーティングはあいつらがやるからよ。」


「全部出来るわよ。 あれ全部やっていいの?」


「水も使えるのか、頼んだ。」


「わかった。 皆に離れるように伝えてね。」



ムジを抱えて、レンガを作っていた所まで飛ぶ。


「おぉ~コリャ良いねぇ。 お前ら、道の端に退けろ! 死んじまうぞ!」


「死なないわよ。 おおげさね。」


一斉に道の端に避ける魔人達。


一気に済ませてしまおう。 木枠に入った土をルルちゃんがやっていたように焼く。


道の真ん中に陽炎が立っている。


それを冷やして、骨がやっていたようにコーティングする。


出来たレンガを魔法で積み上げていく。


「お前ら、とりあえず混ぜて、木枠に入れてネェチャンの方に投げろ。」


固まっていた魔人達が一斉に動き出すと、土の山からスコップで木枠に入れて、こちらに投げてくる。


積んであったのが終わったので、そちらを始める。


木枠も少なくなってきているので、土だけ焼いて固める。


木枠は彼らの横に帰してあげた。


「もう、言わねぇよ。 俺はなんも言わねぇ。」


腕に中でムジが、ずっと呟いていた。




同じことを繰り返していると、土の山の魔人が疲れてきて遅くなってきている。


「あなた達休んでてよ!」


その方向に飛んで移動して伝える。


ワラワラと道の端に移動する魔人達。


彼等の背丈5倍はありそうなその土の山。


「ねぇ、ムジあれ全部レンガにしていいの?」


「あぁ、かまわねぇが、混ぜないといけないぞ。」


「解ってるわよ。」


土の山をさっきみたいに球体にして浮かせる。


その奥にある白い小山をその球体の中に入れてかき混ぜる。


少し風土の球体から風が出ているが気にしない。


それを、一気にレンガの形に分ける。


視界いっぱいに広がった茶色い長方形。


それを全部焼いて、コーティングする。


あんまり高くすると大変だと、なるべく低く積んでいく。


止まってしまって居る馬車、見える限りの馬車から土を貰う。


白い山も一緒だ。


何やらビックリしているが、仕事が減るんだから良いだろう。


それも同じようにして積み上げていく。


最後は階段に成るように並べて終わった。


「ムジ終わったけど、これでいいの?」


「あぁ、十分だ。 ねえちゃん、ほんと滅茶苦茶だな。」


北門までの道の人が固まっていた。

疲れているんだろうと、そのまま高炉の方に戻る。


ムジがいるのでゆっくりだ。


高炉の前に戻ると、ダンとダンテがその風景を見ていたのか固まっていた。


「メラン、お前ひとりで全部できるんじゃないのか。」


「家の中とか、炉の構造とかは解んないわよ。」


「それ以外は出来るんだな。」


ダンがまた顔を手で覆ってしまう。


「退避完了したぞ、メラン。 お願いする。」


「俺も終わったぞ、やってくれ。」


それから、鉄板を浮かせてまた、家の修復に向かうのだった。

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