魔界編 ススカ 24
高炉から流れ出た鉄を溶かして山の上に捨てた私達。
何を言っているか変だが、事実だ。
退避していた群衆に戻る。
コテツが起きていた。
「お前ら滅茶苦茶すぎないか。 街が持ち上がってたぞ。」
「掃除よね? ルルちゃん。」
「そうです! コテツさんの刀切れ味抜群ですよ!」
「あれぐらいなら片手だねぇ。」
「片手って、鉄も切れるとは思うが、なんかそれ前と変わってないか?」
「日々進化していくのです。」
「そうかそうか、もうあきらめるよ。」
顔に手を当てたコテツ考えるのを辞めた様だ。
「なんだ知合いか? 俺はムジだ。」
相変わらず手を出しているムジ、とりあえず挨拶する派なのか急に割り込んでくる。
ダンとも挨拶をしたコテツ何しに来たんだろう。
「コテツ何しに来たの?」
「あぁ、そうだこれ使えると思ってな。」
手に持って居た白い粉、それをコテツは手の平に乗せる。
「高炉が爆発したのを見てさ、俺の国ではこれをレンガに入れるんだ。」
「レンガにだと? これどこで手に入るんだ。」
「北の山だよ、俺の店の炉作るときに探したんだ。 なんかぶっ飛んでるけどな。」
ジムと、コテツが話している、なにやら入れると良いものみたいだ。
「主だねぇ。」
「セリカもやってるじゃない。」
「主が直してくれたのさ。」
「あれを直したとは言わないだろ…
私の山にしとくんだった。 ダンあれは直したんだよ。
「そうなのか、ちょっとレンガの土持ってきてくれ。」
冒険者が木枠に入った土を持ってくる。
「こいつを焼くんだが、ねぇさん方手伝ってくれねぇか。」
「私がやるかねぇ、どれぐらいがいいのさ?」
「とにかく高温で、やってくれ。」
手を土の入った木枠に向けるセリカ。道路の跡なので下は地面だ。
セリカの高温で溶けないものあるんだろうか。 皆が本能で離れる。
セリカの手に集まる火。 どんどん収縮していく。
青く光るそれは、また周囲に陽炎をつくり空気を焼いている。
"ジュ"
青い玉が当たると、地面ごと溶けてしまった。
周りが火を吹いている。
「溶けたねぇ、コテツ違うの持ってきたんじゃないかい?」
「お前の火力が馬鹿すぎるんだよ。 地面溶けてるじゃねぇか。」
「そうなのかい? 細かいのは苦手なのさ。」
今までびっくりしてなかったムジが目を真ん丸にして見ている。
「もうちょっと落とせないのか火力。」
「ルルならできるねぇ。 お願いするのさ。」
「いいですよ、セリカ」
木枠を2個持ってくる冒険者。 地面に置く。
片方に全部振りかけて混ぜるコテツ。
「ルル、徐々に温度上げて行ってくれ。」
「ハイ! わかりましたコテツ。」
赤い火が木枠を覆い、木を焼き切る。
その中にある四角い土。
徐々に黄色がかってくると、何もしていない土は火を吹き崩れ始める。
コテツの方はまだ崩れていない。
「おお! こりゃすげぇな。 まだ魔力かけてないんだぞ。」
時が動き出したムジが手をバタバタさせて喜んでいる。
そのまま火が黄色に成ると、コテツのも燃えてしまった。
「それ何て言うんだ? せっかくだから全部やり直す。」
「俺の国では、石灰て呼んでたぜ。」
「石灰か、お前何処の出身だ。」
「俺は人間だ。 人間界には魔力使えない奴がいっぱいいるからな。」
「そうか人間か! 勉強になったぜコテツ。」
また手を差し出すムジ。 この男握手が好きだ。
「変わりといってはなんだが、出来たら鉄を分けてくれないか。 俺鍛冶屋なんだ。」
「それぐらい良いぜ、1tか? 2tか?」
「そんな要らねぇよ、ちょっとで良いからさ。」
それからお互いの知っている事を話し始める二人。
少し長くなりそうだ。
「ルルちゃん、制御うまくなったね。」
「えへへ、一杯練習したので。」
照れているルル。 急にムジが寄ってくる。
「黒髪のねぇちゃん、火入れ手伝ってくれよ頼む。」
「火入れ?よくわからないけど良いですよ。」
「おう、よろしく頼むぜ。」
それだけ言うと、コテツの元に戻っていった。
遠くで冒険者達が、石畳を地面に並べている。
「ダン、もう今日は遅いんじゃないの? 彼等大丈夫なの?」
「一回死んでから眠くないんだと、なんかしたんじゃないのかメラン。」
「何もしてないけど、それなら良いんだけど。」
「後は俺らに任せて、お前らこそ休めよ。 大金星だぞ。」
「あんまり疲れてないけどね。」
「言うなよ、俺らが悲しくなるやい。」
この場所はダンとムジに任せて宿に帰る事にする。
コテツはムジと話があるという事だったので、置いていく。
私とセリカとルルとムーで歩いて宿まで行く。
途中誰も居ない建物は、直しながら進んでいく。
ルルも、セリカもやり方を教えたらわかったようで、凹んでいる建物を次々直しては置きなおす。
勇者に破壊された街だが、ほとんどは潰れていたり、裂けたりしているだけだ。
結構復興は速いかもしれない。
そんな事をしながら歩いている内に、宿に着いた。
「おかえりなさいませ! ルル殿!」
メルサが宿を自分で叩いて直している。
手を止めて、直立敬礼している。
ルルちゃん何をしたんだろうか。
道行く人も同じようにしている人が何人か居る。
この周囲だけ、やたらと建屋が潰れているのは何かあったんだろうか。
不自然な場所にある宿。
それを同じ要領膨らまして治し、馬車のある場所に戻す。
メルサが口を開けて、唖然としている。
「メルサさん、おかえりなのにゃ!」
セリカに抱えられたムーがメルサに挨拶していた。
「ムーちゃんおかえり~! みんなご飯食べる? 作っといたわよ~」
メルサがいつものメルサに戻った。
中に入ると、カウンターはひび割れて、テーブルも椅子も残っている物は少なかった。
かろうじて残っているテーブルとイスに座る。
「ちょっと待ってねぇ!」
「ムーも手伝うニャ!」
二人はカウンターの奥に行ってしまう。
「ルルちゃん、メルサがおかしく成ってたわよ。」
「そうなんですよ、メランさん。 何か勇者?と戦ってから皆の反応がおかしくて……」
その語、やったことの話をセリカと聞く。
ルルちゃんを怒らすなんて馬鹿な奴らだ。 私も気を付けよう。
奥からムーがお皿を持ってくる。
頭と両手に3枚。
今日はシチューを用意してくれたようだ。
「食器持ってくるニャ、もうちょっと待つニャ」
3人で匂いを嗅ぐ。
良い香りだ。
ルルちゃんは、じっと見て目を輝かせている。
セリカは鼻がシチューに付きそうなぐらい顔を近づけている。
メルサとムーがスプーンと、自分たちの分を持ってカウンターの奥から出てくる。
「今日はムクムク鳥のシチューよ。 ごめんね、食材が色々ダメに成っててこんなんしか出せなくて。」
「メルサさんの料理なら大丈夫です! おいしそうです!」
「その代わり痛んでない食材一杯入れたから、沢山あるわよ。 一杯食べてね!」
スプーンを持って戦闘態勢のセリカ。
ルルちゃんの言葉にうなずいて、メルサの言葉に目を輝かせる。
その時、宿の扉が開いた。
デーモンが数人。 少し自信のない顔でこちらを見ている。
セリカはシチューしか見ていない。
「あの、すいません。 ご飯出していただけないでしょうか。 家が無くなってしまって。」
「いいわよぉ、でも沢山居るのね。 席が無いわ。」
「メルサさん、私床で良いですよ!」
「私も別に床で座ってたべるのさ。」
「私も床でいいわよ。」
「あら、ありがとう。 じゃぁ空いてるところ座って。」
食器を持って立つ私達、ムーとメルサはそのまま奥に行ってしまう。
「私達も床で良いです。 ありがとうございます。」
ゾロゾロ入ってくるデーモン達。
その中の女の子がルルを指さして言う。
「黒髪のおねぇちゃんだ!」
「こら、ラーナ! すいません。 子供ですので。」
母親だろうか、女の子を制止している。
ルルがその子に手を振ると、テケテケ入口からこちらに走って来る女の子。
こら! と母親が制止するも、それをすり抜ける。
ルルにそのまま抱き着いて無垢に言う。
「おねぇちゃん、助けてくれてありがとう。」
「一緒にご飯食べようね。」
ルルは、そのままその女の子と座って食事をするようだ。
「おねぇちゃんすごかったよ、刀ずさぁぁ~って」
女の子のいう事をニコニコ聞いているルル。
母親もその横に座る。
「あの時、助けていただいて、ありがとうございました。 ほらあなたも。」
父親だろうか、男のデーモンも近くに寄って4人で座る。
「あら、ルルちゃん知合いが増えたのね。」
「ムーも見てたニャ!」
「あー、あの時の猫ちゃんだ!」
お皿を持ってきたムーも、一緒に座って床で囲いを作り始める。
声を聞いたのか続々と入ってくるデーモンやコボルト、ゴブリン、骨まで居る。
店の中が一杯に成った。 ガヤガヤしだす店内。
机と椅子は端に退けられてしまって居る。
ずっと動き続けるメルサとムーに、街の人々が自分で取りに行くように成る。
「あの、メルサさん? ですよね! 見てました高炉では、ありがとうございます。」
あれを見てた魔人が居るのか、感謝されて悪い気はしない。
「赤い髪の人だ! ねぇ大剣見せてよ! かっこいいぃ」
「そうかねぇ、坊主わかるねぇ」
セリカも取り囲まれている。
「今日は、お祝いね!」
店の奥から樽を2個担いで出てくるメルサ。
酒とジュースを振舞いだす。
勝手に回って来るコップ。
「ススカに乾杯。」
誰かが言うと、皆がコップを上にかざす。
ルルちゃんも女の子の顔を見ながら、ムーと一緒にやっていた。
私もまねて、乾杯をする。
そこからは速かった。
満員の店内に、魔人がまだ流れてきて、皆で楽しんでいる。
白猫だ、角なしだと言っていた魔人は居ない。
こういううのも良いなぁと、私達の街がもっと好きに成った。




