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底から  作者: ぼんさい
33/98

魔界編 ススカ 23

鉄の街ススカは、3人の勇者と3人の聖女の襲撃を受けて、街の半分以上侵攻を受けた。


街の最も壁側を通る道沿いに破壊された町。


北側は店舗街の半分以上を勇者のレーザーによって破壊されている。


南側は、重力を操る勇者によって、南西方面まで綺麗に建物が無くなってしまい、

南西の壁には綺麗なV字の穴。


最も大きい被害は、街の真ん中にある高炉。


その炉を勇者を食い止めるために爆発させた高炉は、煙突はおろかその炉自体も完全に沈黙していた。



そこに、勇者の侵攻を食い止めた一人白髪メランが街の住民と話をしている。

爆破した炉を見ながら、東門を背に3人で並ぶ。

一人はメラン、一人はダン、もう一人はムジだ。


「こんなに簡単に片付いちまうなら、炉続けとけばよかったなぁ」

ガハハハと豪快に笑う男。


ずんぐりむっくりな体に黒肌の彼は、高炉長のダークドワーフのムジだ。

この炉を爆破させた張本人、外壁の吹き飛んでむき出しにした炉を見て、笑っている。


「でも、ねぇちゃんありがとうな。 あんた来なかったら皆死んでたぜ。」


「ムジさん、相変わらずだなぁ。 こんな時も酒飲んでるのかよ。」


「お酒? 私も頂こうかしら。」


「おぉ、ねぇちゃんいける口かい?」


ムジは破壊した炉を当てに酒を飲んでいた。

その体の身長はありそうな酒を、口を付けず手で持ち上げ開けた口に注ぎ込んでいる。


呆れた顔のダン。


まだ気持ちが収まらない私は、少し頂くことにする。


"お酒"また気になるが、なんともない。


ムジがその短い手で、酒瓶をこちらに向けて差し出している。


「ムジ、コップとか無いの?」


「そんなもんは皆吹き飛んじまったさ。」


またガハハと笑うムジ。


私は、彼がしているように、口に注ぎ込むことにする。


手で髪を搔き上げ、酒を持ち上げて、顔を上にする。


紫の空が見える。

もう白の丸が沈みかけて、赤の丸が顔を出している。


口の中に注がれるお酒"日本酒"の様な酒。


雑味だらけの味は高い酒とは言えない。  酔いは全く来ないが、何か美味しく感じる。


周辺が急に静かに成った。


「メラン、お前、ほんとに美人だよな。」


「ガハハ! ちげえねぇ、ちょっと見ちまった。」


手に持った酒をムジに帰す。


そのまま飲み始めるムジ、近くで見ると少し悲しそうな目をしている。


「ありがとう、ムジ。 おいしかったわ。 それでこれどうするの?」


「全部爆破しちまったからなぁ、今鉱山から人呼んでるがいつ来るやら。」


「ムジさん、材料とかはあるのか?」


「あぁそれも北の山から取ってきてる。」


北の山、5個ある山、真ん中が一番高くて、その左右が少し高い。

その左右はもう一つ低くなっており、全部先っぽの尖っていた山。


2番目に高い山が丸く抉られている。

右側は私だが、左側はセリカだろう。


一体彼女は何をして山を削ったんだろう。


「ねぇちゃん、メランだっけか、あの山削ったのお前さんかい?」


「えぇ、片方はそうだけど。」


「すげぇな、後で探索に言ってくるわ!」


山の中に新しい鉱石があるかもしれない。


そう言いながらムジは目を輝かせている。


山を削っていい事もあるんだね。




道行く人が東へ東へ戻っていく、その足取りは重い。


自分の家があるのか分からないからだ。


元々家の無い難民も居る。



そんな風景を眺めながら、さっきの勇者の戦いをあれやこれやと聞いて来るムジと話していると赤い髪の彼女がやってきた。


後ろに大剣とコテツを負ぶって飛んでくるセリカ


「主~~!」


上空で急転換したセリカは、真っすぐに下に急降下してくる。

うしろのコテツが泡を吹いている。


地面に音もなく降りた立った彼女。 周辺を通る人が唖然としている。


「主、街ぶっ飛ばさなかったのさ。」


ケラケラ笑うセリカ、彼女も元気そうだ。


「セリカ、どうだったの勇者は。」


「手ごたえ無かったねぇ、あんなもんかい。 主、黒い玉見えたんだがなんだね? あれ。」


「黒い玉? あれね、閉じ込めてちょっとわからせてあげたの。」


「ちょっとって回数じゃなかったのさ。」


中で何が起こっていたか察知しているセリカ。 流石だと思った。


「それよりコテツ泡吹いちゃってるけど。」


「コテツ、だらしないねぇ。 この男は。」


黒い布を被った大剣に、抱き着くようにして気絶しているコテツ。


そのコテツをむりやり剥がし、床に寝かせるセリカ。


「りゅ、龍様?」


「セリカでいいや、ダンだっけか生きてたんだねぇ。」


「いや、そんな急には変えれないって。」


「噂の龍か、ムジだよろしくな。」


のけ反るってタジタジなダン。


短い腕を出して、握手を求めるムジ。


「よろしくなのさ。ムジ。」


その手を取って握手するセリカ。


「ムジさん、そいつは。」


「なんだねぇ、また、のされたいかね。」


ケラケラ笑うセリカ。


「勘弁してくれよ。」


相変わらずタジタジのダンだった。



セリカと山の穴がどっちが大きいか論争をしていると、南側から黒髪の彼女が歩いて現れる。


少し赤く汚れた胴着に、ムーを入れた彼女。


ゆっくりした足取りでこちらに向かい、手を振っている。



「メランさん~~~!」


ニコニコ嬉しそうに手を振る彼女の胸元で、ムーも手を振っている。

可愛い二人、そんな印象だ。


急に飛んでこっちに来るルルちゃん。 ムーの顔が引きつっている。


「最後になっちゃいました。」

ムーの頭を撫でながら私に言ってくる。


「ルルちゃん、そっちの勇者はどうだった?」


「あれ勇者だったんですか、なんか弱かったですねぇ。」


「ルルさんは凄いのニャ、凄い速さで片付けたのにゃ。」


ムーが必死で喋っている。

私も頭撫でたくなってくる。


「ルルちゃんも、あんまり苦戦しなかったんだ。」


しゃがんで、ルルちゃんの胸元にいる、ムーに視線を合わせて頭を撫でる。

ゴロゴロ言うムー。 可愛い。


「ムーちゃんを虐めてたので、少し懲らしめてやりました。」


「それは重罪だねぇ。」


セリカも撫でたそうだ、私がどけると、セリカも同じようにしていた。


「メランさん、この足元なんですか?」


「鉄が溶けて固まった跡だよ黒髪のねぇちゃん。 ムジだよろしくな。」

またムジが手を出している。


「そうなんですね、ムジさん、よろしくおねがいします。」


後ろで名残惜しそうにするセリカ。


それを無視するように、ムジと握手をするルルちゃん。


「猫もよろしくな。」


「ニャニャ、ムーと握手なんてして良いのニャ。」


よくわからない顔をしているムジ。 こいつも良い奴なのかもしれない。


「もう、ムーの悪口いう奴なんて、いないと思うよ。 ね?ダン」


「あぁ、色々考え方改めないとな。」


私達を見て固まっている周囲の冒険者と通行人。


所詮、迷信なのだ。


白いヘルキャットが不吉。


少なくても周りにそんな事いう奴は居ない。


「ニャ! ムジ、よろしくなのニャ!」


嬉しそうに、ルルちゃんの胸元から両手でムジの手を握ってブンブンしているムー。


そこにダンが近づく。


「俺はダンだ、よろしくなムー。」


「ニャ! ダン、よろしくなのニャ!」


同じように手を握って騒いでいるムーに周りの冒険者が集まって来る。


都度都度に手を差し出しては、握っていく光景に少し癒される。


「なんだ、この前はすまなかったな。 一回死んで考えが変わったよ。」


「ニャ、良いのニャまた来てニャ。」


あの朝来た冒険者も中に居た様だ。


ムーは良い子だ、何も言わず許してあげている。

その顔は本当に嬉しそうだった。


「主、一回死んだってなんなのさ?」


「魂だけ浮んでたからね、そのまま肉体と魔力適当に補ってあげたのよ」


「適当にって、主なんでもありだねぇ。」


「メランさんは凄いのです!」


話をしている内に、この鉄の床をどうにかしたくなる。


動くたびにカンカンうるさいし、固い。


「ねぇ、ムジこの鉄は要らないの?」


床を足で踏みながらムジに聞いてみる。


「適当に冷やされてるからなぁ、溶かす炉もないし、大変だなこりゃ。」


またガハハハと笑いだすムジ。


「皆さん上からどいてもらえますか?」


ルルちゃんが言う。


「ルル出来るのかねぇ。」


「セリカも手伝ってください。」


何か二人に考えがあるようだ。


東門一杯に広がった鉄。


周囲の建物も巻き込んで辺り一面に広がっている。


周囲に居た魔人達も冒険者が誘導してどかせていた。


一面誰も居なくなった広場と、東門までの道。


鉄くずの積み上がって居た所まで引き下がる。


セリカと何か相談しているルル。


セリカがその鉄くずの山に近づく。


「ムジ、あの外壁は良いのかね? くっついて上がっちまうよ。」


「あぁ、よくわからねぇがどうせ崩すぜ。」


「じゃぁ、少し離れてるのさ。」


ムーはいつの間にかルルの胸から降りて、私の足元に避難してきている。

何が始まるんだろう。


「家は切り取りますからね、セリカ始めてください。」


「わかったのさ。」


セリカが地面に指を入れる。


セリカがそのまま上げると、鉄に呑まれた町が浮いた。


手を上に向けて伸びの体制に成るセリカ。


そのまま真上に飛ぶ。


セリカの足元の地面が凹むが、誰も何も言わない。



ルルちゃんが持ち上がった上を飛び回り、家をその鉄の塊から切り取っている。


その板から落ちる家、家。


全てを切り取り終えるまで、10秒と掛かっていない。


ルルちゃんが手を家を切り取った後の鉄板に向ける。


空中で溶け始める鉄、その溶けた鉄がルルちゃんの頭上に集まって来る。


ここまで来る熱気、ルルちゃんの周りが陽炎で覆われる。


周りの魔人達は、顔に手を当てている。


ムーだけ、魔法で覆ってあげた。


「なにしてるんだ、あれ!」


「掃除だねぇ。 もう少しでおわるのさ。」


ダンが顔を腕で隠しながら叫んでいる。


持ち上げているセリカが、上空からダンに答えていた。

セリカも魔力で浮いている。 私のを見ていたんだろうか。


溶けた鉄はルルちゃんの頭上に集まる。


高炉も炉だけ丸裸に成る。

その壺みたいな形が露に成った。



私も手伝おうと、ムーちゃんを抱いて、ルルに近寄る。


「ニャニャ? ムーはここで良いのニャ!」


動いてから言っても遅いよムー。 とりあえず撫でてあげる。


ルルが集めた鉄の塊、小さな太陽のようになっているそれを、私が片手で貰う。


「メランさん!?」


「あの山セリカがやったのよね。」


「そうだよ主、私なのさ。」


セリカがえぐった北の山にその太陽を投げる。


真っ赤に渦巻きながら跳んでいく太陽。


山に当たったと思った瞬間、急激に冷やす。


少し爆発しながら固まった太陽は山の上で黒い鉄球に成って山の上にあった。



ついでに、周囲で落ちて潰れている建物を少し温めて、中で魔力をその形に膨張させる。


元通りになる建物、それを地面に降ろす。


ルルちゃんが切り取った分全部だ。


「主、相変わらずだねぇ。」


「メランさん! 後でやり方教えてください!」


二人が話しかけてくる、石畳がボコボコ地面に落ちていた。



「ほんと無茶苦茶だなお前ら!」


「何を見てるんだ俺。」


ガハハハと笑うムジ。 頭に手を押し付けて見ているダン。


「なんかもう慣れてきたニャ。」


ムーが一番落ち着いていた。 また頭を撫でるのだった。

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