魔界編 ススカ 21 ~ルル編 6~
その後3人で鳥を食べた。
味はやっぱりメルサさんの料理がおいしいけど、あんなに食べたのは初めてだ。
お腹が一杯に成ったのか寝てしまって居た。
セリカが何かやっている気配で起きる。
赤い魔力は襲ってくるとすぐわかる。
「メランさん、セリカ、おはようございます!」
起きている二人に挨拶をして、水の玉を出す。
この作業も無意識で出来るように成った。
セリカとメランさんのおかげだ。
二人にお礼とばかりに水を渡す。
セリカにも水玉を魔法で取られた。
なんだか悔しい。
腰に刀を戻して、ススカに戻る。
メランさんは木を蹴って森を進んでいた、同じことをしていてもやっぱりメランさんは速い。
セリカも速い。
昨日の戦闘でより研ぎ澄まされた魔力操作は私より確実に上だ。
彼女に勝てる日は来るんだろうか……
途中セリカが、メランさんに指摘していた。
メランさんは空中を蹴っている事を自覚していなかったみたいだ。
自覚しないで出来るって、やっぱり滅茶苦茶だこの二人は。
途中セリカを抜いた。
「負けませんからね!」
それだけ言って抜かすと、後ろから物凄い魔力を感じる。
昨日と桁違いのセリカの魔力。 絞っていたんだろうか。
簡単に抜き去られる私、セリカが笑っている。
「力勝負なら負けないねぇ」
悔しい、なんとかして抜かないと。
その前にいるメランさんが声を掛けてくる。
「二人とも、付いて来れる?」
結構なスピードなはずなのにまだ伸びるメランさん。
黒い魔力がまた遠のく。
そこからは速い、森をすぐ抜けると、すぐあぜ道を抜けそうになる。
加速を辞めない二人。
でも私も付いていける。
90度急に曲がるメランさん。
少し減速して曲がろうとするセリカ。
私は最初から外回りでセリカのINを突く。
私が空中を横に走る、セリカが外に出た。
膨大な魔力で空間を蹴る。
でも私が内側だ、初速は私が速い。
セリカが前に出た。 力の暴力は強い。
私も頑張らないと。
街道が下に見える、流れる魔力。
こんな綺麗に見えるんだ。
小さな光が一杯、ひたすらこっちに向かって流れている。
なんで全部同じ方向に流れているの?
私達が早すぎるから?
違う、皆同じ方向に動いている。
その列が、見えてきたススカからずっと皆同じ方向。
ススカの街から出ている人、人、人。
「なぁ主、なんか街がおかしくないかい?」
「私も思うのです。 人が出て行ってばかりです。 何か逃げているような。」
「変ね、急ぎましょう。」
皆も感じている様だ、牙を投げ捨て、メランさんに付いていく。
ヒヒだ! ヒヒが見えた。
多少乱暴だが、着地する。
なんでそんな魔力が揺らいでいるの?
「メラン! メルサとムーを助けてやってくれ!」
体が勝手に動いた、何が起きているか解らないが、ムーちゃんとメルサの危機だ。
宿の方に白い魔力に包まれた建物が浮いている。
明らかに異常だ。
跳ぶ速度を速める。
他より濃い白い魔力が見えた。
大小2個
その周りは微かな魔力、その魔力が揺れている。
怯えている?
その奥、東側には何もない。
建屋も、魔人も居ない、ごっそり抜き取られた街
壁側沿いの街が無くなっている。
その脇には落ちたのか上下左右を無視して潰れている建物。
そしてそこから流れている赤い血
不安が過る。
周りの建物が少ない地帯。
その境に濃い魔力は居た。
「ケビン、この猫処分してよ。 噛んだの!」
猫? 処分?
「サーシャちゃん痛く無いでしょ? 600もあるんだよ防御力。」
600?
「防御力じゃないの! このクソ猫!」
クソ猫?
状況を確認しようとして止まってしまった。
あの血を垂らしている白はムーちゃんじゃない?
クソ猫? 胸が爆発しそうになる。
ムーちゃんが噛んだ? 処分する?
浮いているムーちゃん。 魔力が弱い。
そのまま突っ込んで抱きかかえる。
紫色の魔力が、ムーちゃんと、消えそうに成っている魔力の魔人を無意識に包む。
少し濃く成る各々の魔力。 ムーちゃんも白の魔力がはっきりしてきた。
ガタガタ震えているムーちゃん。
その震えが体に伝わる。
どんな経験をしたらこんなことに成るんだろう。
とりあえず声を掛けてあげる。
「ムーちゃん、大丈夫?」
少しガタガタは止まった。 でもまだ震えている。
優しく魔力と体で包んであげる。
「ちょっと、なんなのあんた! そのクソ猫は殺すのよ!」
その声の、後ろに見える<メルサの店>の看板、建物が潰れている。
横に赤い染み。
奥歯を自然と噛みしめる。
経験したことのない魔力と怒りがこみ上げる。
頑張って居場所を見つけたムーちゃん。 その大切な場所が、あんなことに成っている。
あの元気なメルサさんも見えない。
私の初めてが沢山の場所。
そして血まみれのムーちゃん。
心の堤防が崩れた。
やったのはあれか。
私の魔力がザワツキだす。
黙って従え。
静まる魔力。
そうだ、黙って従え。
片手で刀を持って、小さい方の両腕を切る。
「いやぁぁぁぁ!」
うるさい、声が耳障りだ。
「くそ! なんでお前上がらないんだよ!」
大きいのが何か言っている、白い薄い魔力がわたしに纏わりついている。
こんなので、私をどうにか出来ると思っているの?
雑魚。
「俺の魔力1000あるんだぞ! ふざけるなよ!」
どうでもいい。
その白い魔力を纏った建物がこちらに沢山飛んでくる。
勝手に紫の魔力が私を包む。
「所詮雑魚が! 逆らうからこうなるんだよ!」
誰が雑魚なの?
邪魔だ。あいつも殺す。
片手で剣を振るう。
そのまま破片を、その何かにぶっ刺してやる。
「お前! 舐めるなよ!」
死なない。殺す。
ムーちゃんのガタガタが止まった。
優しく魔力で包んで、胴着に入れてあげる。
小さい方が何かを大きい方に送っている。
「あなた、先に死にたいの?」
「私ね、怒ってるの。 邪魔しないでくれる?」
小さいのが喋る。
「ごめんなさい、ごめんなざい。」
邪魔! うるさい!
小さい方の脚を切った。
「ああ゛あぁぁぁぁ、いだい゛ぃぃぃぃ」
うるさい。 邪魔。
「邪魔しないでくれる? うるさいの。」
「全重力ぅぅぅぅ! しねぇぇぇぇ!」
大きいのが後ろから何かしてくる。
どうでもいい、適当に刀で受ける。
「お前! どうなってんだよ。 俺は勇者だぞ!」
うるさい。 お前は後。
小さいのに聞く。
「で? 黙らないの?」
呻いてる。 うるさい。
「まだ、うるさいんじゃない?」
黙らない、うっとおしい。
水の魔力が勝手に小さいのを包む。
小さいのは静かに成った。
次は大きい方。
「で、貴方は謝ってくれるの?」
「誰が魔人なんかに謝るかぁぁぁぁ!」
謝らないんだ。
許さない。
邪魔なそれを受けていた手で払う。
生意気に着地する。
その地面ごと死なない程度で、ぶっ壊してやる。
上から叩く。
大きいのの脚が潰れた。
「謝ってくれないと気が済まないの。 ちゃんとムーちゃんに謝って?」
「あ゛あぁぁぁ、誰か、あ゛ぁぁ猫なんかに!!!」
猫…… なんか?
何かが小さい白い魔力を飛ばしてくる。
まだ動いてるの? あれ。
動いていいと思ってるの?
「それ攻撃なの?」
大きいのが動くのを辞めない。
「答えなさいよ。ねぇ。」
まだ動いている。
邪魔。
剣と、両手を切る。
「ずいません、調子に乗りましだ、ごめんなざい」
謝ってるの? ダメ。
勝手に火の魔法が大きいのを包む
「あ゛あぁぁっぁ」
うるさい、黙るまでやれ。
しばらくして、大きいのが黙った。
勝手に消える火と水
大きいの頭を掴んで引きずる。
まだ収まらない。 許せない。
小さいのの横に投げる。
「土下座。」
もぞもぞしている。
何してるの?
何してるの?
「土下座!」
もぞもぞしている。
もうどうでも良いこんなの。
「もういいわ。あなた達。」
両手で刀を握る。
魔力を故意に溜めて、ムーちゃんが大丈夫な量で放つ。
魂から剥がれる魔法と肉体。
小さい魂。
ほんと、どうでも良い。
適当に口に入れる。
体に染み渡る。
少しだけ気が晴れた。
ムーちゃんは大丈夫だったんだろうか。
声を掛ける。
「ムーは大丈夫ですニャ。」
その声に、収まる胸の内。
「ぁ!メルサさんが!」
メルサ、忘れてた!
「ルルちゃん! こわいぃぃ!」
元気なメルサさんがそこに居た。
初めて振り切れた怒り。
ちょっとやり過ぎたかもしれない。
目の前の壁は綺麗にV字に無くなっている。
でも北側は山がえぐれている。
赤い魔力と黒い魔力が見える。
二人でなにしてるんだろう。
私は、ましだ。
高炉の方で、黒い球体が何かをしている。
バカでかい魔力。 確実にメランさんだ。
とりあえず、ゆっくりメランさんの方に行こうか。
「メルサさん、あの黒い球の方に行こうと思うんですけど、一緒に行きます?」
「いえ! 結構であります!」
急に男になったメルサさん、背筋を伸ばして敬礼している。
「ん? 行かないんですか? 結構て、どっちの意味です?」
「失礼しました! 小職は此方で、残っている家具などを探します。」
背が完全に反って上を向いてしまっている。 宿の事が心配だよね。
「じゃぁ、私行ってきますね。」
「ハッ! ルル殿のご武運をお祈りしております。」
最初の敬礼の姿のまま、ピクリとも動かないメルサさん。
「ニャニャ、ムーも行くのかニャ?」
急にバタバタしだすムーちゃん。
「ムーちゃん行かないの?」
「ニャニャ、行きますニャ。 行きますニャ」
「良かったです。行きましょうか。」
ずいぶん変わってしまった街並みを、ゆっくり歩いてメランさんの元に向かう。
ムーちゃんは何にそんなに怯えているのか、またガタガタしている。
頭を撫でてあげる。
少ししか収まらないガタガタ。
あの球体がそんなに怖いのかな? あんなに優しい黒い魔力なのに。
それで私の魔力達も何をザワザワしているの?
ピタッと止んだ。




