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底から  作者: ぼんさい
29/98

魔界編 ススカ 19 ~ルル編 4~

ルサの料理は美味しかった。


昨日の初めてを超える美味しいがあった。


サンドイッチ、大好きな"味"だ。

こんな経験が増えていくんだろうか、少しワクワクしている。


今日はメランさんと、セリカで、買い物に行く。

武器を買いに行くんだ。


少し寂しいけどムーちゃんと、メルサさんと別れて、宿を後にする。


ヒヒがどうだったか聞いてくれた。

こんな大切な場所を教えてくれるヒヒに、ありがとうを伝える。


私にも合う武器があるだろうか、あの手に残った魔法剣の感触が忘れられない。


居てもたっても居られず、移動の馬車でひたすらあの訓練を繰り返す。


右手と左手に出てくる玉、水と火の玉。

かなり朝より大きく成った。


セリカがそれを合わせて大きい球にしてみろ、と言う。

合わせる。

また難しい、2個の玉のバランスが難しい。


すぐに爆発してしまう。


セリカがどっちが大きかったか指摘してくれるが、中々上手くいかない。


私の続けて合わせている水玉と火玉の間に、大きな黒い魔力が急に現れる。

混ざる魔力。 大きく膨らんでいく。


必死で抑える。 抑えるだけじゃ間に合わない。


その魔力を体が吸っていた。

優しい魔力、また体に染み渡る。


前とは違う膨大な魔力量。

私の中で何かが変わるような感覚。


一体何をしたんですか、メランさん。


そこからメランさんが先生に変わった。


すごい抽象的なメランさん、でも必死で教えてくれる。


その通りずっとやってみる。


もっと混ざり合う意識がとか、

溶けあうような感じが足りないとか。


でもメランさんの言う通りの感じでやっていると、どんどん混ざってくる魔力。


やっぱりメランさんは凄い。



もう一個変わったことがあった。


周りの魔人達の魔力が少し解るように成ってきた。


青や紫、黄色の魔力。


メランさんと、セリカは膨大すぎて、空間にはみ出ている。


そこら辺の魔人は小さい。 体の中心にあるわずかな光。

それが見ていないのに解る。


あの優しい魔力を吸った瞬間から視野が変わってしまった。

出来るが増えた。 心の中でガッツポーズをする。





初めて見る商店の並ぶ道を進んでいると、ヒヒが急に変な事を言い出した。


「なぁ、今日は諦めて帰る選択肢は無いのかよ?」


「なんなのさ、疲れたのかね?」


ヒヒが疲れているなら仕方ない。

メルサさんのご飯も食べれるかもしれないし。


「いや違うんだ、怒らないって約束してくれ。 それと、買い物は難しいかもな。」


外を見るメランさんと、セリカ。



セリカの赤い魔力で馬車が埋まってしまう。

続いてメランさんの魔力がセリカの魔力を押し返して真っ黒に染めてしまう。


お買い物出来ないんだ。 怒っている二人に何かがあったのだとすぐに解る。


セリカなんか、体から濃い赤があふれ出している。


私も気に成って、訓練を辞めて外を見る。


<角なしデーモン入店禁止>


見渡す限り全ての商店に、それが貼ってあった。


メランさんが、メルサに貰った地図をヒヒに見せている。


「裏路地か、馬車は道の入口までしか行けないから、道で待っとくぜ。」


どうやらお買い物できる店があるようだ。

少し嬉しくなる。


セリカの赤い魔法は収まら無い。

メランさんがずっとセリカをなだめている。



少し経つと、ヒヒが止まる。


「俺はここで待ってるからよ、楽しんでくるんだぜ。」


着いたみたいだ。


暗い狭い裏路地、そこに店があるようだ。


近くに魔人が一杯居るが、やはり気に成らない。

私の心は少し成長したようだ。




途中の店に入る。


壁一面の武器。


あの私が出した魔法剣に似た剣がある。


"刀"そう書かれた武器。


その中でも一つ気になる物がある。

他と何が違うのかわからないが、何か惹かれる。


自然と手に持つ。

手になじむ感触、自分の身体の一部の様だ。


初めて持った武器、この刀、銀色の背が見える。

刃の部分は少し白く、鋭利に成っている。

当たり前なのだが、すごく尖って見えた。


自然と振りかぶる。


違和感が無い、これが欲しい。




「ほぉ、心得があるのか。」


私を見て、男が声を掛けて来た。


黒い髭の男。 私と同じ黒だ。


大きな体をした男だが、恐怖は感じない。


なにか柔和な男。

不思議な感じがした。


メランさんと男が話をしていると、藁の束を出してくれる。


「まぁなんでもいいや、嬢ちゃん、これ切って見な。」


切って良いの?嬉しかった。

初めての刀、何故か使い方が解るような気がする。


息を整える。


この子との初めての共同作業。


"シュッ"


この子のしたいように体を動かす。


走る刃、藁を抜ける。


少し時間が経つと、藁の束が切れて落ちた。


何にも感じなかった、ただ体の延長が藁を通ったようだった。


「それどこで習ったんだ? 中々見ない立ち辻だな。」


朝、セリカに聞いたんだ。思い出す。


「わたしゃ、そこまで教えてないねぇ。 ルルちゃんの天性なのさ。」


私の天性? セリカには悪いが違う気がする。

この子の能力だと思う。 この子のしたいがままにしただけだ。


メランさんの感想が気になる。


「うん、ルルちゃん綺麗だったよ。」

メランさんが褒めてくれた、嬉しい。


「良い物見せてもらった、これ鞘だ。」

男が鞘を見せてくれる。


何も考えず手に取って、腰に当ててみる。

この服じゃ刺す所が無い。


でも、この子が欲しい。


私は、構えてじっとその刀を見ている。

動いていないのに、その刀はいろんな表情をしてくれる。

不思議な子だ。 見ていて飽きない。


メランさんが値段の話を男としている。


どうやら買ってくれるようだ。

私の相棒、どんな物を切れるんだろうか。

ワクワクしてくる。

初めての大切な物、新しい仲間。


セリカも決めたようだ。

大きな剣、馬車も切れそうな大きなセリカの身の丈ぐらいある剣。


大きさは小さいが、この子も負けない。

どこかで一度練習しないと。


男が奥に入って行く。


セリカがそのタイミングで話し出す。


「主、この刀とやら魔力を纏ってないぞ。 形は好きだが、魔物切れないのさ。」

魔力、この子から魔力をそういえば感じない。


纏ってしまえば良いのでは? この子を手放したくない。


「そうなの? 何か仕掛けがあるのかも、後で聞いてみましょ。」

仕掛け、この子の別の姿が見れるんだ。

嬉しいが増えた。


ずっと見て居られる刀。

時間を忘れて見ている。


知らぬ間に男が戻ってきて、藁を出している。


メランさんが私より少し大きい刀を持って構えている、自然な形。


周りが静かに成る。


"シュッ"


残像が走る。


藁がバラバラに成って地面に落ちた。


見えなかった、何回振るったのかわからない程バラバラな藁。


空中に黒い魔力の残像が漂っている。

空気の揺らぎと共にあやふやになるその魔力。


やっぱりメランさんは凄い。



あの男の人はコテツというようだ。


メランさんが話している。


金額の事を話している様だ。 足りるのだろうか。


「500? 高すぎんだろ20ぐらいが相場だ。」


「そんな安いの? 安すぎない?」


「俺は人間だからよ、魔力込めれないんだ。 何処まで行っても鉄の塊だそれは。」


金額は良いみたいだが、仕掛けは無かったようだ。

残念だ、私でなんとか出来ないか。


此処で、この子とお別れなんてしたくない。


メランさんが急に黙って、自分の太刀を見ている。


黒くに染まる店内の空気。

メランさんの魔力だ。


濃い黒が、その剣を手元から侵すように流れていく。


どんどん流れる濃い黒、黒すぎて怖いぐらいだ。


徐々に徐々に剣先に流れていくそれは、濃い黒を膨らましたり、吸収したりしている。


剣先に流れ終わった時、背に赤の模様、刃に白の線が入った太刀がそこにあった。


刀身の黒は、魔力が大きすぎるのか、まだ膨らましたり、吸収したりしている。

赤と白の模様がそれを押さえつけているかの様だ。


「いや違う、そうじゃない。 どうしたらそうなるんだ。」


「どうって魔力込めたんじゃない?」


メランさんは魔力を込めれるようだ。

全くどうやったら良いか分からない。



私も集中してみる。

目を閉じる。


この子に魔力を流し込む。


手先に集まる魔力。

だがそれだけだ、悔しい、この子だってあんな風にしてあげたい。


誰かの手が私の手を握る。

優しい黒い魔力が私に流れ込む。


メランさんの手だ。


何も言わないけど解る。

助けてくれている。


指先から出る魔力が、メランさんの魔力に乗ってどんどん刀に流れ込んでいく。


私にも入って来るその黒い魔力。


不思議な感覚に成る。

魔力が話してくれているような感覚。


私の魔力達、彼等の行きたいように刀に流す。

彼等がしたいように。


メランさんの手が離れると、そこに姿を変えた刀があった。

私のように変わった刀。


黒い刀身は同じように魔力を膨らましたり、吸収したりしている。

その魔力を抑えるように模様を描く私の魔力。


彼等の色は青と赤。 線が絡み合うその刃には確かに私の魔力が刻まれている。


「わぁぁ、ありがとうございますメランさん!」


嬉しかった、この子が大切な仲間に成った。


じっと魔力の流れを見ている。私が通せば瞬間に剣先まで届く魔力。


引けば戻って来る。 その一部に行ってほしいと思うと、そこに集まる魔力。

何回も何回もあの訓練のように繰り返す。


この子と二人の空間が生まれる。


どこかできちんと実践してみたい。



背後から濃い魔力を感じた。


黒と赤が混ざり合って、セリカの大剣に注がれている。

同じことをしているようで少し違う気がする。


セリカの魔力は確かに赤だが、そこに緑の筋が浮かんでくる。

その毒々しい魔力。

地面を溶かしていたあの毒を思い出させるような緑。


「主、わかってるじゃないかぁ。 ありがとうなのさ。」


刀身が真っ赤に成った、緑のツタの模様が入った大剣がそこにあった。


思わず息を呑む。


存在感がすごい。 赤が暴れている。 ひたすらに外に出ようとする赤。

それをセリカが上から更に赤い魔力で抑え込む。


観念した様に、静かに成る赤。


でも彼女が背中にあてがって確認しているとまた暴れよう、外に出ようとしてくる赤い魔力。


荒い彼女の様な魔力を纏った大剣。 セリカらしいと思ってしまう。



メランさんがコテツと人間の話をしている。


人間、見たのは初めてだ。


魔人と違い弱い魔力。


コテツからは何も感じない。 見えないが正しいんだと思う。


横に居るメランさんが濃すぎるのもあると思うけど、根本的に無い。

そんな感じだ。


人間は魔力を持って居ないんだろうか。



頭に手を当てて、カウンターをゴソゴソし出すコテツ。


服を出す。 コテツの国の服。


「俺の国で刀を使う者が持つ衣装なんだ。 よかったら使ってくれよ。

女性物の草履もつけとくぜ。」


"刀”私のこの子。


「ルルちゃんこれ着る?」


メランさんは優しい、私にくれるみたいだ。


急いで着替える。


今着ている服を脱いで、そのコテツの国の服に袖を通す。


草履も足袋も袴も良い。 帯も締まる。

胴着、これが胸が邪魔してか、入らない。


ちょっと小さい、どうも着れそうにない。

この店に来て2回目の残念。


でもこの子が居るから良いんだ。


「服屋他にあるのさ、見て回るのさ。」


セリカが言うように、他で見れば何かあるかもしれない。


少し名残惜しいが、その胴着を肩から外す。


黒い魔力が私を覆ったと思うと、違う服を着ていた。

この魔力の感じはメランさんだ。


「メランさん!? 何かしました?」


「なんかね、服作れるみたい。」


「主、なんでもありだねぇ。」


メランさんは本当になんでも出来てしまう。

セリカも呆れ顔だ。


さっき小さかった胴着はきちんと羽織ると羽織れる。


このサラシ?が胸をしっかり固定して、邪魔しない。


利き手の右手が出ている方が動きやすい。


なによりこの袴、この子を刺せる。

しっくり来る腰の位置。


この店に来て、嬉しいと、大切な物が一気に増える。


コテツというこの人間は、私に大切な物を沢山くれる。

私の出来るを増やしてくれる。

良い店だと思う。


メルサさんにきちんとお礼を言わないと。




メランさんが、小さい鎧を着た格好に成っていた。

黒い魔力の残滓が見える。


また魔力で出したようだ。


その姿はカッコいい。 白い髪に黒い鎧と、黒いドレス。

少し濃淡の違うその姿は、戦神のようだ。



セリカとも会話している途端にメランさんの黒に包まれるセリカ。


皮の上着に、胸までしかない伸縮性のある布、彼女の大きいのをしっかりと抑えている。


革の短いスカートに、短いブーツ。 メランさんと同じようなデザインだが皮で出来ている。


黒いメランさんの魔力が消えると、そこに赤い魔力が浸食してくる。

セリカはその服を自分の物にしたようだ。


私もやってみる、私の青と赤の魔力。

彼等にこの服を、包んでくれるようにお願いする。


どんどん進んでくる両方の色。

途中で混ざり合って、紫色に変色する。


紫に変色した所から全身に広がる私の魔力。


この服も私の仲間に成ってくれた。



メランさんがどこかに消えたコテツを呼ぶ。


「おぉ、着れたか、流しみたいだなルル。」


流し?なんの事だろう。 気にするなと言われてしまった。



その後、店を出る前にセリカの大剣を覆う布と、背負うための皮の治具をコテツがセリカに付けていた。


セリカの身体に触れる度に、赤くなるその肌。

この時には、何か2画面を同時に見ている様な感覚に成る。


魔法の色が見える面、目が見ている色が見える面。


その治具がセリカの赤に染まる。


コテツも真っ赤だった。

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