魔界編 ススカ 18 ~ルル編 3~
目が覚める。
ベッドで初めて寝た、気持ちよかった。
なんだか気分も少し良くなった。
今日も頑張らないと!
セリカが何やら自分の身体を見て、真剣な顔をしている。
動く目線。
一体何をしているのだろう。
先に挨拶しないと。
前は喋って挨拶なんか出来なかった。
でも今は出来る。
「ルル、おはようだねぇ。」
きちんと帰してくれるセリカ。
それだけで嬉しい。
でもまた貰ってしまった。
メランさんは寝ているようだ。
セリカに何をしているか聞くと、魔力を操る練習をしているという。
セリカも練習とかするんだ。
あの姿が思い浮かぶ、赤い魔法を纏うセリカ。
少しでも近づけるかもしれない。
私にも魔力だけはある。
何にも使えていない魔力。
それを使えれば。
必死でセリカに教えてもらってやる。
手に足に指先に、自分の魔力を集める。
最初は動かすことも難しかった。
どんどん出来るように成る。
すごく嬉しかった。
それに魔力は尽きる事を知らない。
どんどんお腹から出てくる。
願えば願うほどに。
勢い余って、体から魔力が飛び出そうに成る。
外に出す?
前の時は何か勝手に出て行った魔力。
ただただ出ていくだけ。
今は沸いて来る魔力を体に巡らせている。
これを出したらどうなるんだろう。
「外? 制御できるなら出してみるといいねぇ。」
セリカが見てくれている。
何かが起こってもなんとかしてくれそうだ。
右手にから魔力を出す。
視界に一瞬水が出る。
これが水の魔力か!
でもすぐに消えてしまう。 難しい。
何回も何回もやる。 必死だった。
左手に別の感覚を出すと小さな火が出てくる。
「ルルはどっちも使えるんだねぇ。」
セリカが見てくれている、もっともっと出来るように成らないと。
また何度もやる。 全然出来ない。
セリカも練習するぐらいなんだ。
何よりこれが出来れば、何か変わるかもしれない。
その気持ちがひたすら私を突き動かす。
繰り返している内に、水玉が出来た。
ずっと魔力を流し続けて浮いている。
出来た! 嬉しくてセリカに言うとセリカが笑顔で返してくれる。
「いいじゃないのさ、ルル、そこから大きくしてみるのさ。」
大きくする。 この魔力をそこに込めて大きくする。
水玉はすぐに割れてしまう。
速すぎるのか、出ていないのか。
確かに魔力は流れている、体には感じる。
でもそれが外に出ていくと、何段も難易度が上がる。
少しづつ大きく成って行っている気がする。
嬉しい。
ずっと続ける、もっと大きく、もっと強く。
「ルル、体大丈夫かい?」
「大丈夫です、私自分に自信を付けたいんです。」
「自信かい?」
集中しているからか、セリカだからか、本音が口から出てしまう。
私の今の心境、何もできない自分、怖がっている自分。
セリカは何も言わず聞いてくれた。
ずっと私の練習を見守ってくれている。
「ルルが言うなら、私が見た魔人の戦い方の話聞くかね?」
戦い方、聞きたい!
私も彼女達の仲間にきちんとなりたい。
一度、口に出してさらけ出した私の心配事。
それを、馬鹿にしないできちんと受け止めてくれたセリカ。
それだけで気持ちが切り替わる。心の端に追いやっていた気持ちがどこかに消えてしまう。
奈落の底まで落ちた心に魔力が溜まり溢れる。
仲間とはこういう事なのか。 こんな気分は始めてだ。
"仲間"
初めての大きな体験だった。
蛇の時代のセリカの話。
村の魔人が、魔法剣というのを使って戦っていたそうだ。
魔力だけはある自分。
その戦い方が出来れば、彼女達の仲間に成れるかもしれない。
剣・・魔法剣。 必死で手に作ろうとする。
中々出来ない。
イメージはあるけど、全然形に成ってくれない。
悔しい。 どうすれば。
「まずは、その玉を大きくするところからだねぇ」
ここまで付き合ってくれたセリカが助言をくれる。
まずは、大きくする所から。
大きく、この玉を大きく。
ひたすら繰り返す作業。
でも今までで一番楽しい作業だ。
メランさんが起きる音がする。
「おはよう、主」
「おはようございます、メランさん!」
挨拶をする、少し具合が悪そうなメランさん。
大丈夫だろうか、すぐ元のメランさんに戻った。
「ルルちゃん、何か練習してるの?」
私を見て聞いて来るメランさん。
「セリカが魔法の使い方教えてくれてるんです!」
「大した事じゃないけどさ」
セリカには当たり前に出来る事なんだ、私も頑張らないと。
ヒヒも一緒に挨拶をする。
ヒヒは人参をひたすら食べている。
私も食べる出来るんだぞ!
「朝飯食いに来るようにメルサに言われたぜ。 行ってくると良いぜ。」
昨日の美味しいが待っているんだ。
少し気持ちが浮つく。
でもこの訓練もしたい。
ずっとずっと続けて居たいが、彼女達と居る為の訓練だ。
一緒に時間を過ごさなきゃ。
昨日とは違う考え方に成っている。
セリカには感謝しかない。 私を変えてくれている。
出た水玉をセリカにもあげる。
使ってくれた。
嬉しかった。
メランさんにも使ってほしい、簡単に水玉が出てくるように成った。
そこに魔力が乗っかかる。
黒い魔力、優しい魔力。 メランさんの魔力だ。
すこし私に逆流する魔力。
体に溶け込んでいく。 優しい気持ち。
気付くと私の水玉がメランさんの方に寄って行っていた。
メランさんはすごい。 何をしたのか分からなかった。
「ルルちゃんなら出来るわよ。」
そう言ってくれたメランさん。 メランさんが言うなら出来るんだ。
頑張らなきゃ。
私の中で、何もできないを食い破る光が見え始めた。
部屋を出て、階段を降りる。
良い匂いがする。 パンが焼ける匂い。
嗅いだことはあるが、美味しいと感じてからの感覚は全然違う。
体が美味しいを欲する。
下に行くと、ムーちゃんがカウンターに座っていた。
彼女の大切なこの場所、彼女が必死で磨いている接客。
それが彼女を輝かせている。
ムーちゃんと、4人で色んな話をする。
メランさんと、セリカとヒヒも良かったが、ムーちゃんが入ると、
笑顔がより増える。
大事なムーちゃん。 彼女に負けないように頑張らないと。
急に店の扉が開く。
昨日言っていた常連さんだろうか。
3人の魔人。
私達の空間に入ってきたそれはやはり少し怖い。
勝手に座って、ムーちゃんの方を向く。
「おい、あのヘルキャット白く無いか。」
「目まで白いわ、不吉よ。 なんで街中にいるのよ。」
何を言っているんだこの人達は、ムーちゃんの事、なんて言った?
あんなに元気に喋っていたムーちゃんがカウンターに隠れてしまう。
「おい、あの客角なしじゃねぇか。」
「角なしが店で飯食うかよ!」
「ほんとに角なしだわ。草でも食ってればいいのに。」
私達の事を馬鹿にする3人。
私は良い、メランさんとセリカを馬鹿にするな。
怖いなんてなかった、ただひたすらに胸からあふれ出る怒り。
怒りが私を動かす。
「白いからなんなんですか? ムーちゃんに謝ってください。」
「ルル、いいのにゃ。いいのにゃ。」
ムーちゃんの声が聞こえる。
いいわけが無い、こんなに頑張ってるムーちゃんがこんな奴らに馬鹿にされるなんておかしい。
お腹から制御できない魔力と胸から制御できない怒りが込み上げてくる。
なんなんだこいつ等、何様なんだ。
「なんだよ、角なしが逆らうのか?」
「綺麗な角なしじゃない、売っちゃいましょうよ。」
逆らう? 売る? 一つ一つの言葉が土足で私の心を荒らしていく。
「他の高いのはビビって出て来ねぇのに、一番小さいのが何いきがってやがる。」
小さいの? あなた達はもっと小さいはず。
勝手に入ってきて、荒らしてきて何様なんだ。
「うるさいんです! 雑魚は草でも食ってればいいんです!」
思わず口に出てしまった、後悔はしていない。
事実だ。
「雑魚だと!」
「雑魚ってあなたじゃない。」
逆上して振りかぶってくる3人の魔人。
今までにない量の魔力が右手に集中する。
「誰の店でやってんだよ、あぁぁぁん?」
メルサが立っていた。
鬼のような顔、すごい圧力。
3人の魔人は、それを見て逃げていく。
いい気味だ二度と見たくない。
私の手に剣があった。
魔力の塊、必死に作ろうとしていた剣。
それが手元にある。
「出来たじゃないのさ、ルル」
嬉しかった、私に大きな出来るが増えた。
「魔法剣ね! そんなに長い間維持できるのすごいわねぇ」
メルサも褒めてくれる。
「ありがとうなのにゃ、ルル」
ムーからも感謝される。
初めて何かをしてあげられた気がした。
とても嬉しい。
「ムーちゃん虐める奴は、私が切っちゃうんだから!」
魔人が恐ろしいという気持ちはこれ以降無くなった。
私の中で大きく世界が変わった朝の出来事だった。




