魔界編 ススカ 15 ~セリカ編5~
目が覚める。
たらふく鳥を食べて寝てしまっていた。
この体、食べて喉を通った後分解されるのだろうか、体に消えるように無くなってしまう。
物理的にお腹に溜まる事が無い。
焼いた鳥は美味しかったが、やはりメルサの料理の方が上手い。
帰って早く食べたい。
主が起きている、挨拶をせねば。
手で土を払っていると、ルルも起きた。
軽く挨拶を済ませる。
「メランさん、お水です!」
昨日の水玉を簡単に出すルル、この子の成長速度はすごい。
礼を言って、顔を洗う。
この水は気持ちいいな。
剣を背中に仕舞い、ススカに戻る。
さっきから主が巨木を蹴って跳んでいる。
「主、空間は蹴らないのかい?」
「セリカ、そんな事できるの!?」
「主がやってたのさ。」
そこから空間を蹴って、森の上空まで上がる主
「これ気持ち良いね!」
「主がやってたんだけどねぇ。」
無意識にやっていたのか、主
ルルが追い付いて抜いていく。
「負けませんからね!」
私も力いっぱい空間を蹴る。
ルルを追い越す。
「力勝負なら負けないねぇ」
「二人とも、付いて来れる?」
主が点の様に消えてしまった。
必死で空間を蹴って、なんとか追いつくとまた離される。
あぜ道が終わったカーブは壮絶だった。
ルルが体を真横にして、横の空間を走りながら曲がっていく。
大分追いつかれてしまった。
主は蹴る方向を変えるだけで曲がってしまう。
下の街道に多くの魔人が見える。
一瞬で流れる人々、街に戻ってきたんだと少し嬉しくなった。
皆元気でやってるだろうか。
なんだか気配がおかしい、全部こっちに迫ってきている。
見たことない存在も感じる、3個、今まで見た小さいの中ではかなり大きい。
「なぁ主、なんか街がおかしくないかい?」
「私も思うのです。 人が出て行ってばかりです。 何か逃げているような。」
「変ね、急ぎましょう。」
主が急に方向を変える、ヒヒが見えた。
その前に降り立つ多少雑だが仕方ない。
なんだヒヒなんでそんな怯えた顔してるんだ。
「メラン! メルサとムーを助けてやってくれ!」
ルルが宿の方に跳んで行った、ルルならあの程度の存在大丈夫だろう。
「ねぇ、もっと詳しく教えて。 何かに襲われてるの?」
「勇者だ、勇者が3人襲ってきたんだ!」
あの3個か。
「主、北に1 東に1 ルルが向かった南に1」
主に顔を合わせると、頷く主。
一緒にまっすぐ上に跳ぶ。
あるはずの煙突が全部向こう側に倒れている。
ぽっかり存在の抜けた向こう側、手前では多くの存在がこちらへ流れてきている。
その境目にある少し大きな存在、勇者か。
主の魔力がバンバン膨れ上がっている。 かなり怒っているようだ。
高炉が爆発した。
「セリカ、北。」
高炉の方へすっ飛んでいく主。
私も北を見る。
欲しかった賞品があった店が、何かに射抜かれている。
その周辺に魂の無い肉体。
勇者が私たちの大切に過ごした場所を破壊している。
ずっと無かったイライラが噴火するように頭に昇る。
その勇者の魔力が上がって行っている。
力いっぱい空間を蹴った。
コテツがなぜか空中に浮いている、受け止めるが息が無い。
こいつは死んではだめな奴だ。
イライラする、私たちの時間を作ってくれる奴を。
あふれ出る魔力と力。 でも制御はできている。
怒ってはいるが意識ははっきりしている。
ドンドン出てくる私の魔力。何か役に立てお前ら。
お前らコテツを、なんとかしろ!
魔力に包まれるコテツ。
息が戻って来る。
目線を戻す、近づいて来る勇者。
黒いシールドが見える。 マスターとか言った奴だ。
あいつも街を守ろうとしているのか、だがそのシールドじゃ無理だ。
あの勇者の魔力がぶつかると街が消し飛ぶ。
だが、あの勇者チンタラ溜めていやがる。
余裕ぶって。
この怒りお前で抑さえてくれよな。
「経験値の癖に、俺をだましてるんじゃねぇよ」
何か叫んでいる小さな存在。でも街には脅威だ。
腹が立つこんなのに邪魔される。
シールドの前に立って、放たれたレーザーを指で弾いて上に逸らす。
何の感覚も無かった、重みも何も無い。
「また雑魚が暴れてるのかね、この街はホントにダメだねぇ」
こんなのに負けてるんじゃないぞ街の住民よ。
それにしても、ルルとの戦闘が役に立つ。
「お前なんだ! クソ!」
もう一発さっきより小さいのを飛ばしてくる。
イライラする。 さっさと吹き飛ばしたいが周りが先だ。
言わないと分からないのかこいつは。
「そんな攻撃きかないねぇ、雑魚は雑魚って言わないとわからないのかねぇ。」
「セリカか、お前遅いんだよ、どんだけ試し切りしたんだよ。」
私の魔法はいう事を効いてくれたのか、この男憎まれ口を叩くまで回復した。
「あんたに、この剣の改良の相談したかったのさ。 勝手に死にかけないでくれるかい?」
少し笑っているコテツ、そうさあんたが居なきゃ剣が作れないだろ?
「ハハハ!その男に剣の相談だと、こんな、なまくら刀、何の価値があるんだ。」
力があふれ出る。魔力が体で凝縮している。
なんと言ったこいつ? なまくら刀だと。
普通には殺さん、地獄を見せてやる。
「雑魚にはわからないのさ、なぁコテツ」
「そうだな、すまんちょっと限界だ。」
コテツは寝てしまう。 私の魔力制御ではあんまりきちんと出来ない。
コイツからしたら前の存在はどうしようも無いだろう。
一体コテツに何をしたんだ。
一段上がる怒り、それと同時に、力と魔力があふれ出る。
「龍様では?」
黒いシールドを張っていたマスターと呼ばれていた彼女。
「頑張ってはいますが、見ての通りで。」
何があったのか体がヒビだらけだ、死にかけてるじゃないか。
存在が揺らいでいる。
あんなに憎かったこの女も、今はそんなに思わない。
大切な場所を守ってくれているからだろうか。
なんだか心配に成る。
「そうかい、そうかい。 もう後は私がやるのさ。」
あれも死んだら後で後悔しそうだ。
そう思うだけで、私の魔力が彼女を覆う。
頭より魔力の方が素直かもしれない。
横で邪魔物が何かしてくる。
どうでもいい適当に消す。
「お前なんなんだよ、俺は強化魔法で平均1000超えるんだぞ。 魔王だって倒して…」
魔王がなんだ、勝手にやってろ、雑魚同士の争いで私の大事な場所を汚すな。
まだ出てくる魔力と力、こいつ先に黙らせてやろうか。
「魔王を雑魚って、お前なんなんだよ!」
黙ってろ、周りが先だ。
あの門で見たヒヒの仲間もいるじゃないか。
こいつ偉い奴だったよな。 一応聞いとこう。
ダメと言われたら殺そう。
「あぁ、頼む、街を救ってくれ……」
"街を救う"、私はこの街が好きに成っているんじゃないか。
この守備隊長も勇者に比べれば、ちっぽけな存在だ。
それが血反吐を吐いて壁に埋もれている。
大事な場所を守ったんだと状況が語る。
皆死にかけで守っていたんだ。 一体どうしたらこうなる。
なぁ、お前の番だ。
あまり見ていなかったが女も居る、杖を持った女。
勇者に何か送っている。 仲間か。
その白い服に真っ赤な血を付けている。
足までだ。
小さい存在を沢山感じる。
ぽっかり空いた向こう側。
コイツがやったのか。
足から守備隊長とコテツの魔力を僅かに感じる。
ああなったのはこいつのせいか……
街を吹き飛ばしてはいけない。
ただこいつ等に地獄を見せないと気が済まない。
「どうって…… 死ぬのはお前だぁぁぁ!」
私が死ぬ? 誰がお前みたいな雑魚に殺されるか。
遊んでやろう。
お前の言うコテツが作った"なまくら"でな。
「見てくれだけの剣だろぉぉぉ!」
何やら魔法を纏った剣を振るってくる。
仕方なく剣で受け止めてやる。
小さい、軽い、これで私が殺せるわけないだろうが!
「な! 聖剣だぞ! 受け止めるなんて。」
いい加減ウザったい。お前が弱いんだよ。
私の大切な場所かき回しやがって。
また怒りが上がり続ける。
早くやってしまおうか。
適当にはじき返すと、家に吹き飛ぶ勇者。
私の剣で溶ける勇者の剣。
しょうもない剣だ。
「俺の剣、おまえ! いいかげんにしろよ!」
何をいい加減にするんだい?
もう、何をしてもおさまらない。
もう消してしまおう。
「た、助けて、ごめんなさい。」
うるさい、助ける? するわけないだろ。
適当に払う。
「す…すいませんでした、謝ります。 だから」
謝る? コテツが死にかけてたんだぞ、そんな次元とうに超えている。
両手に力が入る。体が暴れろと震えている。
あんたは、抑えてくれるのかい?
初めて力を入れて剣を振るう。
街が破壊されないように上空にだ。
上に撃ちあがった家が私の毒で溶けていた。
体と魔力が剥がれた魂がここにある。
小さいこんな小さいのか。
「あと二人居るんだ、なんとかお願いできないか。」
あと二人ねぇ、私より怒ってる二人はもう消し飛ばしてるんじゃないのか。
高炉の方で、主が何かやっている。
宿の方で石壁が一部無くなっている。
ルルは終わったみたいだ、あの存在が感じられない。
主は何をやっているんだい? 何回も存在を消滅させて、何回繰り返すんだい?
それ、なんで死なないんだい?
そういえば私もあの勇者のレーザーできるかもしれない。
少し解消不足だ。
あの山にやってみよう。
大剣を山に向けて、イライラを乗せて、北の山に放つ。
極太の赤いレーザーが、山をごっそり削り、空に消えて行った。
山に着く前に消えると思ったのに消えなかった。
信じられない顔をしている守備隊長。
やってしまったかもしれない、あそこに魔人居ないよな?
「守備隊長さんよ、あの山は無人かい?」
「そうだが、お前今何やったんだよ。」
「何って、あの勇者の真似なのさ。」
「真似でああなるかよ!」
とりあえず主の方へ行こう。 こいつは元気だ。




