魔界編 ススカ 14 ~セリカ編4~
その後店を出て、ヒヒの所に戻る。
ルルが刀を自慢している。
そうだろ?お前も欲しいだろヒヒ。
ヒヒは何やら一回巣に帰りたいそうだ。
ヒヒにも事情があるんだろう。
主とルルとこの剣を試そうでは無いか!
門を出て、ヒヒと別れる。
歩くなんて久々だ。訛った体とこの新しい靴の感触を確かめながら歩く。
あんなに居た馬車や人が居ない。
空には赤い月が昇っていた。
知らぬ間に結構経っていたのかと、ずっと夢中で気付かなかった。
コテツも良い時間を作るでは無いか。
主が急に街道を反れる。
とりあえずついていく、そっちなのか? 主
「ねぇ、ルルちゃん、セリカ、あの飛ぶの出来る?」
森から街道までやった奴か、多分出来る。 やったことないが……
岩陰まで歩いていく、街道から隠れた場所だ。
前は草原しかない。
主の脚に魔力が溜まっていく。
私も見様見真似で脚に送る。
「じゃぁ、行くわよ!」
主が点に成ってしまった。
私も地面を蹴る。
ドン! ドン!
ルルも蹴ったようだ。
風を割り、加速していく体、地面がただの緑に染まる。
途中居た街道の人が一瞬で流れ去る。
そして気持ちいい。 風が体に触れて流れていく。 この感覚は良いものだ。
主が見えてこない。 また地面を蹴ると加速する。
主はこれをやっていたのか。 どんどん近づいて来る主。
白い髪が暴れて尾びれのようだ。
主が地面を蹴る。
また離れる。 私も追いつかねばと地面を蹴る。
急に主が、地面に足を突き刺し、減速した。
成るほどあの踵か。
真似して、地面に突っ込む。
"ズゥゥゥゥ"
上がる土煙、めくれる草原。
ド!
主が違う方向に飛んだ。 あのあぜ道だ。
何か魔人が溜まっているがどうでもいい、主に追いつかなくては。
緑が流れる。あまり何があるのか分からない。
主がどんどん浮いていく。 空間を蹴っているのか?
私も蹴ってみる。
何もない空間を蹴れた。
加速する体。
なんだこれ楽しい。
どんどん蹴る、でも主には追い付かない。
横にルルが並んでくる。
この子も楽しいようで笑いながら跳んでいる。
「セリカ、これ楽しいね!」
「そうだねぇ、初めての感覚なのさ。」
会話できるまで余裕が出来て来た。
私の居た森が見えてくる。
ルルと会った村を抜ける。
主が太刀を構える。
切れる巨木。 そこを主が抜けていく。
私も真似をする。
でも主だから出来るのでは?
一瞬迷うだけでもう目の前にある巨木。
どうにでも成れ、振りかぶってそのまま落とす。
目の前が開けた。何の感覚も無かった。
後ろを見ると真っ二つに成っている巨木。
すこし遅かったのか私の身体が当たった所がえぐれている。
こんな脆かったか……
考えるとすぐに次の巨木が迫る。
切る。 前で主が切った木が倒れ掛かっている。
進路を塞ごうとする、主が切った木。
そのまま体で当たると、砕けてしまう。
でも少しスビードが落ちた。
「セリカ、体で破壊して進んでますよ。」
笑いながら言ってくるルルが横を抜けていく。
「負けないねぇ!」
そこから、二人で邪魔な巨木を切り倒しながら、なんとか主に追いついた。
途中魔物が一杯居た気がするが、夢中でそれどころでは無かった。
突然広がる何もない大地。 ここがあの異変の場所か。 やはり主がやったんだな。
真ん中に佇む主の近くで、空気を蹴って止まる。
「巨木って意外にもろいんですねぇ。」
ルルが強く成ったんだと思う。 私もだあんな体が触れただけで砕けるとは思わなかった。
主は何か考えているのか、地面を見ている。
顔を起こした主
「じゃぁ、始めましょうか! セリカ、龍に成っちゃダメよ。 剣使えないからね。」
こいつを試すときが来たのだ。 楽しみで仕方なかった。
その何もない大地に3人で出来るだけ離れる。
私のすぐ後ろには森だ、だが存在も気配も感じない。
あの恐怖の塊が3人、私も昔だったら逃げていただろう。
でも今は違う、私みたいな存在の大きさのルルと
得体のしれない大きさの主の2人の存在しか感じない。
誰も動かない、先手必勝!
足に魔力を込めて、主へ飛ぶ。
近づいて来る、主。 速い。
だが捉えられない程度では無い。
自然に構える主に私の一撃を見舞ってやる。
手にはあの太刀だ。
「主、かくごぉぉぉぉ!」
主の太刀に止められた。
押しても押しても動かない太刀。
「セリカ、まだまだ出来るんじゃない?」
「主、真向から受けられたらどうしようも無いのさ。」
力いっぱい体の魔力を振り絞り押しているが押せない。
そのまま地面が近づいて来る。
「メランさん、隙ありです!」
ルルが横から跳んでくる。
このまま落ちれば主に一手入るぞ!
行くんだルル!
剣が簡単に薙ぎ払われた。
主の太刀を薙ぎ払った勢いで剣が勝手に上に上がってしまう。
それに引っ張られて一緒に飛んでいく私。
「なっ、主そんな!」
口に出てしまう。やはり主は強い。
がチャンスはある。
勢いを殺し、空間を蹴る。
ルルが主とやりあって居る、良いぞ距離を取った、
勢いのまま、剣を主にぶつけるんだ。
主は両足でしっかり地面に付き、太刀を腰に構えなおしている。
私の剣の方がデカいんだ!
腹から魔力を絞り出す、腕と剣に全力で投入する。
「うぉぉぉぉ!」
主が動いたと思った瞬間、また剣が跳ね上がり私を道連れにする。
「主、そんなぁぁぁ!」
どうしても勢いを殺しきれず、地面に突き刺さる私の剣。
そこに小さなクレーターが出来ていた。
やっぱり主は強い。
「逆に飛ばされるとか、あんまりですぅぅ!」
ルルの声もする、やはり飛ばされてしまったようだ。
剣を持ったまま両手を上げて主の元に寄る。
「主、強すぎるのさ。なんで私が飛ばされるのさ。」
「メランさん、滅茶苦茶ですよもう。」
ルルも同じ気持ちの様だ、何しても勝てる気がしない。
「それよりなんで私と貴方たち2人の戦いに成ってんのよ。」
「そりゃ、メランさんですし?」
「主だからねぇ。」
やはりルルも同じ気持ちの様だ。
主は休憩するというので、ルルと手合わせをする。
今度は見える距離だ
主のように自然に構えるルル。
顔が魔法の訓練をしていた時より真剣だ。
私より存在が少し小さいルル。
この時は簡単に勝てると思って居た。
私から動く、地面を蹴ってルルへ突進する、剣を横薙ぎに払う。
上空に飛び上がるルル。
そうだ、上に逃げたら終わりだぞルル。
私も地面を蹴って追いかける、ルルは空間を蹴ってこちらに降ってくる。刀を横に構えている。
私も横薙ぎで吹き飛ばしてやろうと、力を入れて剣を横に振る。
カン!
当たった瞬間、その勢いを生かして回転するルル。
回転しながら私を狙って刀を構えてもう一度横薙ぎする気だ。
私も遠心力で遠ざかる剣を無理やり手元に戻し、もう一度薙ぎ払う。
ドン!
回転力を加えたルルの剣は私の剣を受け止めた。
「セリカには負けませんよぉぉ!」
「言うようになったねぇ、ルル!」
一度離れて地面まで落ちる。
今度はルルが仕掛けてくる。
速い!
思わず気配のした方に、縦に剣を構えた。
そこに襲い掛かるルルの刀。
また、はじき返す勢いで、逆に高速回転しながら振るってくる。
それならばと、少し離れて、その剣を避ける。
上に振りかぶって力を込めて、叩き潰すように剣をルルに振り下ろす。
ルルが剣を横薙ぎに振るうと、私の剣の軌道がずれて、地面に突き刺さった。
「はやいねぇ、ルル。」
「力押しには、負けませんよぉぉ。」
その隙を見逃さないルル、また防戦に成ってしまう私。
剣でルルの横薙ぎを受け止める。
地面が陥没する。
今度はそのまま力で押してくるルル。
前と違う、力強い。
「ルルちゃん、セリカ ちょっと魔物狩って来るね!」
「いってらっさい!」
「主、気を付けていくのさ!」
主が森へ跳んで行った。
私も受け流しをやってみようと、空に跳んだ状態のルルを横に逸らすようにしてみる。
少し体制を崩しながら、回転するルル。
そこに回転に合わせる向きで横薙ぎを放つ。
こんどは上に跳ね飛ばされる剣。
ルルは益々加速していた。
そんな攻防を何回繰り返しただろうか。
最後はひたすら剣を弾きあって居た。
私の方が力は一段上のハズなのに。
ちょっと悔しい。
ルルは相当魔力を消耗したようで、肩で息をしている。
「セリカ! ありがとうございました!」
「ルル、ありがとうねぇ。 勉強になったのさ。」
心から勉強に成った、力を受け流されるとどうしようも無いのだ。
「メランさん、魔物狩りに行くって言ってましたね。」
「ヒヒに全部お金あげちゃったからねぇ。 素材取りに行ったんじゃないかい?」
「私達も、協力しないと。」
「そうだねぇ、私は主と逆側いくのさ。」
「じゃぁ私は違う方行きますね!」
ド!っと跳んで行ってしまうルル。
彼女もまだ魔力が残っているようだ。
私も向かう、主の逆側。
空間を蹴る練習をしながらひたすら跳ぶ。
クマが逃げている。
あの強かったクマ。こんな小さい存在に成ってしまった。
必死で逃げるクマの前に立つ。
"ゴォォォォ”
真っ赤な目をこちらに向けて、両手をあげ、爪をこちらに振ってくる。
受け流しの練習をしたかった。
少し力を逸らすように、剣を振るう。
"ギャァァァァ"
腕が吹き飛んでしまった。
その後何匹か試すが、上手く行かない。
力加減が難しすぎる。
ふと空に飛ぶ鳥が目に入る。
あれの成鳥を食べたことが無い。 そういえば少しお腹が空いた。
その場で、主の構えを思い出す。
斜めに腰で構え、剣を下に向ける。
地面を引き裂きながら、魔力を乗せて鳥に振るう。
切ってしまわないように、丸い魔力。
"ギャ"
上空で消えてしまった。
何回も何回も狙ってやる、地面がズタズタだが練習の為だ仕方ない。
全部消えてしまう。 魂は入ってくるが目的が違う。
少し遠くに逃げてしまった奴、巨木の枝が邪魔だかあれでやろう。
無理なら直接殴りに行こう。
力を最小限に抑える。 乗せる魔力も少しだ。
とにかく体に集中する。
剣を動かす。 飛んでいく斬撃。
途中の枝を切り落とし、鳥にまっすぐ向かう。
"ギャ"
森に落ちた。
出来た! 嬉しかった。
地面を盛大に蹴って、草を裂いて、巨木をぶち破る。
真っすぐそこに向かう。
綺麗な鳥が落ちている。
そこに空間を蹴って止まる。
風だけが後からついてくる。
きちんと制御して止まれた。
草が地面に残っている。
私の足元から何か出てくる。
赤と褐色のストライプ。
同族だ。
首をもたげ、こちらをじっと見ている。
主がやったように、指で頭を撫でてやる。
チロチロ出す舌。
主も、こんな気分だったんだろうか。
「お前も、良い主をみつけるのさ。」
言い残して、鳥を担ぎ上げて上に跳んだ。
あの何もない大地が見える。
そのまま、そこに空間を蹴って跳んでいく。
「セリカ~~~!」
ルルが自分の背丈より大きい牙を掲げていた。
近くにふわっと降り立つ。
ドン!
鳥が重くて地面に砂煙が起きる、空気を汚すとは厄介な奴だ。
「蛇かね?」
「そうです! なんか大きい蛇に食べられそうになったので、それを持ってきました。」
「食べられそうになったのかい?」
ケラケラ笑ってしまう。
ルルも笑ってその時の状況を教えてくれた。
二人で話していると主が帰ってきた。
手に牙と爪を持って居る、クマの奴だろうか。
また砂煙を上げて、地面に置く主。
「メランさんおかえりなさい!」
「ただいまルルちゃん。 セリカはそれどうするの?」
「主、ここで焼いてたべるのさ。」
鳥の成鳥おいしそうだ、とりあえず焼くんだ。
巨木に剣を構える。
出来るだけ細かく刻む。
崩れながら手の平ほどに出来た。
それを山にして、ルルに火をつけてもらう。
私の魔力操作では全て焼き尽くしてしまうのだ。
力だけを指先に送るとできた、爪が変色せず長くなっている。
鳥に当てるだけで切れるその爪。
皮をはいで、出来た肉の塊から、火に投げて入れて行く。
「豪快ね、セリカ。」
「細かいのは苦手なのさ。」
「そうね、似合わないわ。」
主は意地悪だ。 でも自然に笑ってしまった。
「メランさん、あんまり言うと調子に乗っちゃいますよ!」
「なんだぁ? ルルもう一回やるかね!」
「良いですよ。 負けませんからね。」
ルルも大分自信を持ったようだ。 良かったなルル。
主が先に食べている。 私にも食わせてくれ!




