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底から  作者: ぼんさい
23/98

魔界編 ススカ 13 ~セリカ編3~

目が覚める。このベッドと言うのは良いものだ。

体が休まった感じがする。


他の二人はどうだろうか、スヤスヤ眠る主。

寝顔がなんとも魅力的だ、魔力が周りで踊っているように見える。

神秘的。 そんな主。


ルルもまだ起きていないようだ、存在は感じるが、動いていない。


無意識に周囲の確認作業をしていると、頭が冴えてきてしまう。

体を伸ばす。

広い空間は良いもんだ。


「セリカねぇ、起きたか。 ちゃんと休めたんだぜ?」


外に居るヒヒが、声を掛けてくれた。


「あぁ、あんたに感謝だねぇ。 良い店知ってるのさ。」


「俺を褒めても何にも出せないんだぜ。」


顔を下げるヒヒ。 地面にある山盛りの人参をムシャムシャ食っている。


ヒヒのお陰で、今のこの状況だ。 本当に感謝しているのだ。


起きない二人、ヒヒは自分の食事に必死だ。

私はまた魔力を練る練習をする。


足に、手に、指先に。

違う所に集めては移動させる。


「セリカ、おはよう!」


どれほど経っていただろうか、集中してしまった。

ルルが元気に挨拶してくれる。


「ルル、おはようだねぇ。」


主はまだ寝ている。 まだ周りで魔力が踊っている。

主は寝ている時魔力を躍らせるのだろうか。


「セリカ、早いですね。 なにしてるんです?」


「魔力を操る練習をしていたのさ。」


「なんですそれ? ルルにも教えてください!」


私のベッドに座るルル。

主が寝ているのだ、逆側を向いて、ルルと魔法の練習を一緒にやる。


「セリカ、これ外に出すとどうなるんですか?」


「外? 制御できるなら出してみるといいねぇ。」


ルルの右手から、小さい水の玉が出ては消えている。


「難しいですね。 これ。」


何度も何度も出ては消える水の玉。


「こっちはどうですかね。」


左手に小さな火が灯る。 そしてまた消える。


「ルルはどっちも使えるんだねぇ。」


集中しているのか、両方の手から何回も出てくる水と炎の玉。


出ては消えてを繰り返す。 どんどんその勢いが早く成ってくる。


右手と左手の水と火を入れ替えたりしている内に、飴玉ぐらいの玉がそこに居座るようになった。


「なんかできました!」

嬉しそうなルル、こちらを向いて笑顔だ。


「いいじゃないのさ、ルル、そこから大きくしてみるのさ。」

真剣な顔に変わったルル。


少し魔力を込めると、弾けてしまう玉。


また出しては玉を作る。


命を削ってまで主を守ろうとしたこの子、こんなに魔力を消費して大丈夫なんだろうか。

心配になり声を掛ける。


「ルル、体大丈夫かい?」


「大丈夫です、私自分に自信を付けたいんです。」


「自信かい?」



そこからルルは思っている事を話してくれた。


主や私が魔人共に恐れず立ち向かっていく姿。

それを見ているだけの自分は、何もできないと悩んでいると。


なんならまだ怖いと。

奴隷だった頃の記憶がまだ体にあって、魔人を見ると体が恐怖を感じるのだと。


冒険者ギルドに行く途中私が笑い飛ばしてしまったが、心の底は変わっていないようだ。


あの時、きちんともっと聞いてやればよかったと思った。

何か、ルルの為にしてあげたい。


「ルルが言うなら、私が見た魔人の戦い方の話聞くかね?」


「是非! 聞かせてください」


私が村へ魂を狩りに出た時、出会った魔人の男。

その男は魔力を剣に変えて、私に振るって生きた。


ルルも人型でニュイデーモン?とかいう種族らしい。

似たような戦いができるかもしれない。


その話をルルにすると、「魔力の剣、魔力の剣」と呟きながら、両手で必死に形を作っていた。


「まずは、その玉を大きくするところからだねぇ」


「はい。 やってみます。」


真剣なルル、徐々に出来る玉が大きくなっていった。




主が起きた、頭を持ち上げて座っている。


「おはよう、主」

「おはようございます、メランさん!」


ルルも気付いたのか一緒に挨拶をする。


たまに顔を歪める主、朝は弱いのだろうか。

そう言えば、まともに寝ている主を初めて見た気がする。

疲れていたのだろうか。


ヒヒも外から挨拶してくる。 あいつまだ人参食ってるのか。


私も何か食べたい。


「朝飯食いに来るようにメルサに言われたぜ。 行ってくると良いぜ。」


やはりヒヒは出来る奴だ。


ルルが自分で出した水玉を使って、顔を洗っている。


私も貰う、顔がさっぱりする。 水魔法私も使いたいな。


ふと、主がルルの水玉を自分に引き寄せる。

主はなんでも出来る。 すごい人だ。


主に言われて、練習しだした玉は今までで一番大きかった。

主が何かしたのだろうか?

でも、今は飯だ。 あの幸福をもう一度味わうのだ。


階段を下がっている最中、嗅いだことの無い良い匂いが漂ってくる。

たまらん! これだ!


下に行くとムーが挨拶してくれた。

今日もルルちゃんとムーは楽しく会話している。


ムーも仲間だと思えた。


楽しい空間に、邪魔物が入る。

昨日見た冒険者ギルドに居るような恰好のデーモン3人が店に入ってくる。


勝手に座って、勝手に話し始める。


「おい、あのヘルキャット白く無いか。」


「目まで白いわ、不吉よ。 なんで街中にいるのよ。」


ムーが隠れてしまう。


またこいつらは私達の時間を奪うのか。

でも昨日自分で決めたんだ、全部壊すのは違うって。


「おい、あの客角なしじゃねぇか。」


「角なしが店で飯食うかよ!」


「ほんとに角なしだわ。草でも食ってればいいのに。」


角なし


馬鹿にしてくるデーモン達。

こいつ等だけなら良いんじゃないか?


「白いからなんなんですか? ムーちゃんに謝ってください。」


「ルル、いいのにゃ。いいのにゃ。」


ルルが先に怒っている。

私はルルが先に怒って気持ちが収まってしまった。


朝の話を聞いた、ルルが自信を持つ時間だ。

その小さい存在を蹴散らしてしまえ。


主がルルを助けようと立とうとする。

今、ルルを助けたら機会を失う。あの子の自信を取り戻させるチャンスだ。


何も言わず主の腕をつかむと、主は解ってくれたようで、そのまま座ってくれた。

さぁ、ルル見せてくれ。


ルルが怒っているのを初めて見た。 あんな顔するんだあの子。


いつも穏やかな顔は、眉を眉間に寄せて、大きな目が3人のデーモンを睨んでいる。


「うるさいんです! 雑魚は草でも食ってればいいんです!」


言うじゃないかルル。吹っ切れたのか?


手に水の魔法が濃く現れる。


なんと水の剣を出したじゃないか。

ルルも成長が早い、でもそんな強大な魔力を振るうと店が吹っ飛ぶぞ?



「誰の店でやってんだよ、あぁぁぁん?」


メルサが居た、鬼のような顔。 鬼人族だったか、さっきムーが言っていた。

それより、声が違うぞ、相変わらず変な奴だ。


その手に持っているのが昨日言ってた料理ってやつか? はやく食べてみたい。


その恰好のまま、追い払ってしまうメルサ。

メルサも私達を守ってくれる仲間だ。 旨い飯くれるしな。


ルルが自分の出した水の剣を見ている。

そうだ、自分で出したんだぞ、あんなに頑張ったんだ、褒めて上げねば。


私はイメージを伝えただけだ、それが出来るルルはすごいぞ。

嬉しいのは解るが、先に飯食べようぞ! ルル


「ルルちゃん、冷めちゃうから食べましょう?」


主は解ってくれている。 やっぱり主だなんでも出来る。


サンドイッチとやらは旨かった。

植物を食べたのは初めてだが、こんなに旨いのか。

やはりメルサの飯は旨い。



メルサ宿を出て、馬車に乗る。

今日の晩は何を食べさせてくれるのかと少し名残惜しい。


道中もルルは魔法の練習をしている。

努力家なルル。


主がそこに自分の魔力を注ぐ。

主何してるんだ、どんだけ流すんだ。


ルルが、その魔力を抑え込んで自分に入れて行く。


魔法を吸収するのもびっくりしたが、主、気を付けてくれ。 街が吹き飛んでしまう。


気を抜くと主が暴走する。 でもなんだか前とは違う。 楽しい雰囲気だ。




「なぁ、今日は諦めて帰る選択肢は無いのかよ?」


なんだ、ヒヒ食いすぎか? 昨日はあんなに買い物に行くのに協力してくれたじゃないか。


「いや違うんだ、怒らないって約束してくれ。 それと、買い物は難しいかもな。」


何を言ってるんだ。


辺りを見渡す主。


私も見てみる。


<角なしデーモン入店禁止>

昨日は無かった張り紙が沢山してある。


私言ったよな? 次やったら魂貰うぞって。

アイツらはダメだ、やはり解り合えないようだ。


今日は昨日みたいには、成らなかった。


感情を制御する。

意識するだけでこんなに違う。

魔力は溢れてしまったけども。


何かメルサの知合いの店は行けそうだ、冒険者ギルドなんてどうでも良く成っていた。

早くあの武器とやらが欲しい。


細い道に主と入って行く。


暗い道に目的の店はあった。


中に入ると壁一面の武器。

沢山ある。


目に入った、一番大きい剣が気になる。


他の二人には悪いと思ったが、先に手に取ってみる。

大きい事は良い事だ、図体がデカいだけでそれは利点に成る。


森のクマや私と同じで大きいだけの蛇だって、デカイだけで我が物顔で闊歩していた。


よく見てみる、幾度も叩いた跡がある。

この剣を作った物は魂を込めて作ったのだろう。

普通の魂とは違う、何か気配的な魂。


でもこいつ魔力が無い。

存在が全くない。 そこら辺のテーブルと一緒だ。

惜しい、でも欲しい。


「ほぉ、心得があるのか。」


カウンターの奥から出てくる男。

いつの間にか刀と呼ばれる武器を持ったルルを見て感嘆している。


コイツがこれを作ったのか。


主がなんでこの店に来たのか話をしている。

メルサは良い奴だ、こんな武器私じゃ作れない。

見ていた他のとも違う。


これに魔力があれば完璧なのにな。


男は藁を用意する。

そこに切り込むルル。


"シュッ"


早かった、朝少し教えただけなのに使う部位にだけ魔力を集めて使っているようだ。

ルルは飲み込みが早い。


ルルが腰に当てて持てるかどうか確認している。

私もこれ持てるのかな、ちょっと狭いなこの部屋。


背中に背負えるんじゃないか。

あぁ魔力さえあればなぁ、主なんとかしてくれるんじゃないか。


「セリカはそれね、そんな簡単に決めて良いの?」


「本能がこれを持てと言っているのさ。」


買ってくれるのか主、でも魔力無いぞこの武器。


男が奥に入って行く。 良いものを作る男だ、あまり傷つけたくない今がチャンスだ。


「主、この刀とやら魔力を纏ってないぞ。 形は好きだが、魔物切れないのさ。」


「そうなの? 何か仕掛けがあるのかも、後で聞いてみましょ。」


こんな良い物を作る男だ、何か仕掛けがあるのかもしれない。


3本の太刀という刀を持ってくる男。


主は一番大きいのを選んだようだ。


名前はコテツと言うらしい。

コテツ、良い武器を作る人間。

心のメモに記しておく。


また藁を用意するコテツ。


主が構える。


何も見えなかった、残像しか見えなかった。


バラバラになる藁。 主には勝てる気がしない。


満足したのか値段の交渉を始める主。

仕掛けも聞いておいてくれ!


「俺は人間だからよ、魔力込めれないんだ。 何処まで行っても鉄の塊だそれは。」


仕掛け無いのか、残念だ。

なんとか成らないものか背負えるんだぞこれ。


主がその太刀を持って魔力を込め始める。

そんなに魔力込めたら、また爆発してしまうぞ主。


そんな心配をよそに、どんどん込めていく主。

その太刀が存在を持ち始めた。


なんだ奇跡でも見ているのか。


太刀の存在がどんどん大きく成っていく。

その辺の魔人がちっぽけに感じるぐらいに。


太刀がそれに耐えるように振動している。

爆発しない? 大丈夫それ?


スッと主の魔力が消えると、そこには変わってしまった太刀があった。

真っ黒な魔力を帯びて、グルグル回っている。


何度も何度も収縮と拡大を繰り返すそれは次第に元の形に収まった。


「お・・おぃ、何してんだよそれ。」

私も同じ気持ちだ。 今一体何をしたんだ。


「どうって魔力込めたんじゃない?」

分かるが、分かるんだが…… 主は本当になんでも出来るようだ。


主が鞘に太刀を収めると、鞘まで魔力で染まっていく。


それを見ているコテツ。 私と目が合う。

とりあえず頷いておいた。


そんな鞘を見ていると、ルルの刀が変わっているでは無いか!

私のもお願いしたい!


念じて主を見ていると、私の腕を握って、魔力を送ってきてくれた。

何も言わない主、目を閉じて集中している。


私の魔力を押し出して、その剣に流し込もうとしてくれている。

私も目を閉じる。


主のガイドに従って、魔力を流す、出来るだけちょっとづつ。

一瞬、量を間違えて流しそうに成ると、主が調整してくれる。


こんなに主は魔法の調節が上手いのか。

私の理解の及ばないぐらい緻密に制御された魔力が剣に入って行く。

ゆっくりと、確実に。 だが膨大な量だ。


とにかく集中して流し続ける。


「セリカ、終わったよ。」


目を開けると、真っ赤な剣、緑のツタが張ったような模様。

そして、渦巻く魔力。 主との同じように収縮と拡大を繰り返している。

主はなんでも出来る。 本当にすごい。


「主、わかってるじゃないかぁ。 ありがとうなのさ。」


笑顔で返してくれる主、私は彼女に何か返せるんだろうか。


コテツは口をあけてこっちを見ていた。


どうだ、すごいだろ、我が主は!



主が人間について話をしている。


あんまり種族に興味が無い私、この剣が収まる様子を見ていた。

この剣、飽きない。


サタンが死んだとか言っている。 魔王って死ぬんだな。


勇者、見たことない。 森にも来た事が無い。


魔王より強いのか、でも私達の楽しみを壊す存在ならどんな奴でも関係ない。


主の大切な物を守るのが、私にできる主に帰せることだと、心に刻む。


コテツが何か服を出して着た。

見たことない服。 コテツの故郷人間界である服だそうだ。


レア物だちょっと欲しい。

人間界、いつか私達で行くことがあるんだろうか。


サイズ的にルルのサイズだ。


主が着せている。


また目がキラキラしているルル。 良い時間だ。


「ちょっと小さいですねこれ… 残念ですけど着れないです。」


ルルが残念そうにしている、上着が小さいようだ。


他にも店があるし、そこで探そうじゃ無いか。 そんな残念そうな顔するなルル。


切れなかった服を脱いだルル。


何故か脱いだ服と少し違うものがルルに現れる。


「メランさん!? 何かしました?」


「なんかね、服作れるみたい。」


主ほんとに何でもできてしまうんだな。


主も目を閉じて何やらブツブツ言っている。


着ていた服が変わった。 小さい鎧のような服。

カッコいいじゃないか!


私も!私も欲しい!


「主、わたしのは無いのかねぇ」


「セリカはどんなのが良いの?」


「お任せするねぇ。」


「文句言わないでね。うぅん・・・」


文句なんて言わない、主のくれるものだ。


着ていた服が変わった。


この靴、踵がやたら高いんだがそういう物なのか?


でも動きやすい、踏み込みやすい気がする。


足と首元が空気に触れて気持ちいい。


「良いねぇ、動きやすいねぇこれ 主ありがとうなのさ。」


また貰ってしまった。 主何かお望みはありませんかね。



どこかに消えたコテツを呼び出す主。


戦争?行かないが、少しこの剣を使ってみたい。


主も同じようだ。 この体に成ってから思う存分動いていない。


コテツも場所を思い浮かばないようだ。


主が思いついたのか、悩ませた顔をいつもの顔に戻した。


コテツはこの剣の為に布と背中に掛ける皮の治具を渡してくれた。

付け方を実践してくれるコテツ。


アフターサービスまで十分じゃないか。


「コテツ、ありがとうなのさ。」


何赤く成ってるんだこいつ。

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