魔界編 ススカ 11 ~セリカ編1~
目の前には白い髪の主メランと、黒い髪のルルが横に並んで座っている。
ルルはお疲れの様で主の肩に頭を乗せて、スヤスヤと眠っている。
ルルに魂を入れ込んだ途端、原型が無くなり人型に成ってしまった。
あの大量の魂はどこから来たんだろう。
そして、主は一体何者なんだろうか。
私も体の言うままに解放すると、龍に成ってしまっていた。
小さく見える馬車や岩や木、そして主とルル。
あんなに大きかった馬車が、豆サイズだ。
今でも龍の姿にはなれる、だけどこの人型の身体で主やルルと話している時が一番楽しいんだ。
色々考えていると寝てしまっていた。
この馬車は狭い、すぐに手が天井に当たる、伸びも満足に出来ない。
ヒヒとかいう馬も、もうちょっと振動を抑えて走れないのか。
なんだか、今は振動が無いな。
「なんで止まってるんだい?ファァァ……」
思わずあくびが出てしまう。
巨木の下で暮らしていた頃には無かった現象だ。
こんなに寝たのはいつぶりだろう、振動や大きな存在が近づく事で起きる事しか今まで無かった。
主が傍に居るだけでこんなに違う。
主もなんで止まっているか解らないみたいだ。
検問?とか言うのを待ってるらしい、魔人の世界もめんどくさい。
辺りに大量の魔人の気配を感じる。
見渡すと、大勢の魔人。
そして石の壁があった。
その石の壁のぽっかり空いた空間からずっと並んでいる魔人の群れ。
大きいサイズの龍に一回成ってから、周りの存在があまりにも小さい。
もう、感じられないぐらいに。
今も正直感じられなかった、気配と存在は違う。初めての感覚だった。
ルルはまだ寝ている、相当疲れたのだろう。
一回死にかけてるんだもんなあの子。
初めての感覚といえば、体の中の魔力を動かすことが出来るように成っている。
手に魔力を込めたりだとか、足に魔力を込めたりだとか。
これも魔力が増えたからだろうか、ただ慣れないのか集中していないと今までの感覚に戻る。
魔力で言えば無尽蔵に沸いて来る魔力。
この体のお腹から欲しい分だけ出てくる。
限界を知らないようだ。ずっと空腹のようだが、願えば満腹に成るこの感覚。
主から貰ったこの体、早く成れなくては、また主が爆発してしまう。
魔力を体中に巡らせて色々試していると、その検問とやらに着いたそうだ。
馬が茶髪の魔人と話している。
あの魔人少し存在が周りよりも大きい。
そんな事も分かるように成っていた。
その茶髪に馬が私達を商品だとか行っている。
売るつもりなのか、やっぱりこいつと一緒に来たのは間違いだっただろうか。
でも主に問題を起こすなとさっき言われたばかりだ。
我慢だ、でもあの馬何かしようとしたら、そのまま殺してやる。
穴を抜けて、街に入る。
私も村には行った事があるが、街は初めてだ。
鉄といわれる魔人共が使っている素材で出来た街だそうだ。
あんな家の壁は見た事が無い。
そして、主やルル、私のような存在が居ない。
皆、消えそうなほど小さい。
あまり脅威は無さそうだ。
相変わらず気配だけが多い、こんなに魔人が集まっている場所があるのか。
その鉄を使った魔人共の箱が並ぶ、防具なんかを箱の中に飾ってある。
人型に成ったんだし、防具を着てみたい。
あの剣とかいう武器も使ってみたい。
主も見える武器や防具を見ている。
一緒に取りに行こうでは無いか。
でも今は、この馬が何かしないか見張らないといけない。
もどかしい。
馬が止まる、まだ防具や武器が見える地域だ。
ここで私達を売る気なのかこの馬は、警戒を強めなければ。
「セリカねぇさん、勘弁してくだせぇ」
馬がそんな事を言ってくる、どうも嘘をついて検問?とやらを通り過ぎたようだ。
やるではないか、この馬、分かっている。
何かアホらしくなって、緊張が解けた。
この小さな存在の中で何があろうと、"私達"に危害を加える者は無いだろう。
石の壁も手で破壊できそうだ、逃げるのも簡単だ。
今を楽しもうと切り替えた。
「ステータスを見たいのよ、教会に連れて行って。」
主がステータスを見たいと言っている。
私も自分が何者なのか見てみたい。
教会?とかいう所に行けば分かるみたいだ、教会でヒヒが何かしないか、まだ疑っている。
主はすぐに爆発してしまうんだ。 気を付けないと。
また、あの武器やらが並んでいる箱がいっぱいある。
少し警戒心を緩めた私は、その辺を見渡す。
色んな種類があるんだと、心にメモを残す。
ちょっと主におねだりしたくて鎌をかける。
「鎧かねぇ、見てみたいねぇ。この服もきついのさ。」
「後で、見てみるのも良いかもね。」
主が釣れた嬉しかった。自然に笑いが出た。
そのステータスを見終わったら、武器や防具を見に行くんだ。
これだけ箱があるんだ、何か好きなのがあるだろう。
あれもこれも心にメモを残す。
思わず主と欲しい物の話をしてしまう。
それに馬が、補足を入れてくれる。
このヒヒとかいう馬できるではないか、もっと主を押してくれ。
少し通りを曲がると、その武器やらを見せてくれる箱は無くなった。
少し残念だ。
でも今は教会に向かうのだ、私たちの今を知るために。
まだ主とさっき見た服の話をしていると、ルルが起きた。
ずっと寝ていたルル、2日ぶりぐらいの目覚めじゃないのか。
体は大丈夫だろうか。
「寝ちゃってました? この街並み……着いたんですね。」
主の肩から頭を離し、目をこすって言うルル。
なんだが言葉に元気がない、急激な変化でやっぱりおかしいんだろうか。
一個だけ独特な白い建物の教会とやらに着いた。
誰も居ない、魔人共はあまり自分のステータスとやらを見ないんだろうか。
またヒヒが情報収集してくれた、神界がおかしい?
神のような存在の主が目の前にいるがな。
なんだか、あながち間違いでは無い気がするのが怖い。
冒険者ギルドとやらに行けばステータスとやらは見れるそうだ。
さっさと向かって買い物に行きたい。
主も早く済ませたいようだ。
途中何やらバカでかい鉄の建物が見える。
ヒヒなら何か知ってるだろうと聞いてみる。
「ここが高炉ですぜ、熱が漏れて伝わってくるぜ。」
ヒヒは物知りだ、こいつは使える。
熱?全く感じない。 ヒヒはどれだけ暑がりなんだ。
確かに中から火の魔力が感じられる。
でも小さい。そこら辺の魔人よりは大きいが、あんな大きな建物が居るんだろうか。
「セリカねぇさんの火と比べちゃいけねぇぜ。」
主に色々教えてもらったからな。
ヒヒは解っている、こいつは良い奴だ。
主がルルの心配をしている、先ほどから元気がない。
本当に体の調子が悪いのだろうか心配だ。
見えている存在も何か曖昧な感じだ。
でも、そこら辺の消えそうな存在と全然違いしっかり存在がある。
「いえ、体は良いですし熱くありません。 ただ…」
やっぱり何か悪いのか、ちゃんと言ってくれよルル、出来る事ならなんでもするぞ。
「ステータスの事を考えると、また奴隷に成っちゃうんじゃないかって。」
「ルルが奴隷? そんな事心配してたのかね。」
思わず笑ってしまう。
ルルが奴隷。
この街全部襲ってきても、跳ね返せる存在の奴隷。
そんな事で心配してたのかこの子は、可愛いなこの子は。
ヒヒもちゃんとケアしてるじゃないか。
私もしてあげないと。
「ルルちゃん、大丈夫だよ。私達仲間しょ?」
主がそんな言葉を言う、”仲間”そうか。
この関係を仲間というのか。
ずっと森に居た頃は一人だった。
同族は居たが、エサを奪い合う存在でしかなかった。
この”仲間”に何かあれば、私もこの街ごと壊してしまうかもしれない。
主が爆発したように。
よく考えれば、主は私達の為に爆発していたんではないか。
思い返せばそんな気がしてくる。
仲間大切にしようと心のメモを増やす。
ルルは不安が取れたのか、そこから元気なルルだった。
存在が大きくなっていくルル。
本当に奴隷に成る心配をしていたようだ。
ルルも初めての街の風景なのか、あれやこれやと見える物について話をしている。
ヒヒの説明もあって、話が盛り上がる。
ヒヒも大切な仲間かもしれない。
楽しい時間の内に、冒険者ギルドとやらに付く。
似たような見た目の建物。
少し大きい存在があるが、そこら辺のと比べてだ。
私達の比ではない。
あの灰色の魔人もこんな物になってしまったのか。
この力をくれた主に感謝だ。
でもまだ主の存在は大きい。底知れない。
なんだか考える度に主の存在が大きくなっている気がする。
ヒヒがステータスを見るための金が無いという。
「忘れてたんだぜ!」
忘れてた?とぼけてるのかこいつは、まさか此処で売る気じゃないか。
元々灰色の魔人と一緒に行動してたこの馬だ。
可能性は十分あるのではないか。
「じょ、冗談だって! 馬車の中になんか魔獣の部位落ちてねぇか?」
冗談はもっとわかりやすく行ってほしい物だ。
もうちょっとで殺してしまう所だったでは無いか、ヒヒ。
横にある荷物、この中に魔獣の部位があるのか。
木箱や樽が一杯ある。メンドクサイ何処にあるんだ。
脆い木箱を破壊しているとなんだか楽しくなってしまった。
昔はこの中によく隠れたもんだ。
それがこんなに脆い。
気付くと全部壊してしまっていた、何をしていたんだっけか。
牙があるじゃぁないか。
そうだステータスだ。 こいつを持って行けば良いんだな。
なんか軽いなこれ、こんなんが売れるのか。
握っただけで砕けてしまう牙、魔人共はこれを何に使うんだ。
「セリカねぇさん、お金貰えなくなっちまうぜ。」
そうだ、ステータスを見る為だった。
我ながら失敗してしまった。
ヒヒそういうのは最初に言うんだぞ!
主が道行く冒険者を見ている、あの服や武器の並んだ箱に取りに行くのの参考にしてるんだな。
ヒヒよくやったぞ、作戦成功だ。
急に主の顔がゆがむ。
「大丈夫か主。」
「えぇ、大丈夫よ、行きましょ。」
心配だ主、何か貴方に有ったら私はどうなってしまうか解らないぞ。
私は牙を壊してしまったのでルルが持って行く事に成る。
こんなに軽い牙だルルでも大丈夫だろう。
中に入るとやはり小さい存在しか居ない。
右側の3人は少し大きいだろうか。
でも本当にちっぽけだ。
主が周りを確認しているとその小さい存在がぶつかって去り際に
私達を奴隷だ。 と言ってくる。
せっかく元気になったルルが、少しまた存在が揺らぎ始める。
あいつら許さないからな。 でも主が問題は起こすなと言っていた。
ステータスが優先だ、今は我慢だ忘れよう。
買い取りカウンターとやらに向かう主。
その後を付いていく。
「どこの奴隷だ。」
開口一番それだ、私達が奴隷だと。
主に背中を見せろと言っている。
いい加減、馬鹿にされるのが我慢できなく成ってくる。
なんでこんな奴らに私達の感情を、支配されなければ成らないんだ。
主が振り向いて笑顔で私を見ている。
なんとかそれで飲み込めた。
ルルがカウンターに牙を置くと、奴らの使っている鉄とやらが凹む。
こんな脆いものに住んでいるのか。
「角なしなのに魔法使えるのか? まぁいいか。」
"角なし"灰色の魔人も同じ事を言っていた。
ルルはあの扉の奴に奴隷と言われてから元気が無くなってしまっている。
こいつらは"仲間"を傷つける存在なのか。
あの武器も、服もこんな小さな存在が持っている者だ、全部殺して奪ってしまえばいい。
でもあの主の顔が浮かんでくる。 主は気にしていないようだ。
モヤモヤが残る。
男の魔人が奥に言って何かしている。
「気に食わないね、背中見せろってのさ。」
口に出さないと、このモヤモヤは消えない。
「確認って言ってたじゃない、仕事よ。」
仕事?あまりよくわからない。
「主、よく怒らないでいられるねぇ。」
「セリカが怒りっぽいだけよ。」
そうか私が怒りやすいのか、主とルルとの時間を大切にするためだ、ここは抑えよう。
ステータスを見に、違う魔人の元に向かう。
途中に居たのは、サキュバスか珍しい。
ステータスの女も連呼する。
角なし
角なしですけど一応
角なしでは無理
私が怒りっぽいんだ我慢しなきゃ。
何やら板を持って外に出る。
角なし
言葉が残る。
ただ主に付いていく。
馬車に戻ると我慢できなかった。
「角なし、角なしって、なんなのさ、消し炭にしてやろうかね。」
「セリカねぇさん、この世界じゃ仕方ねぇぜ。」
この世界じゃ仕方ない? じゃぁ世界を変えれば良いじゃないか。
あの牙で、ここに巣を買えるらしい。
要らない。
あんな奴らの近くなんて御免だ。 さっさと離れてしまいたい。
そうでないとこの気持ちが爆発してしまいそうだ。
ついヒヒに八つ当たりしてしまう。 悪気はないんだ許せ。
ルルが急に泣き出す。
あいつら何か仕込んだのか、もうぶっ飛ばしていいだろう。 消し炭にしてやる。
「プチデーモンじゃなく成ってます!」
主に抱き着くルル。
そうか、彼女の種族は変わったのか、良かったなルル。
少し気持ちが落ち着いて周りを見る余裕が出て来た。
私の手元にある板が赤く変色している。
--------------------
セリカ
黒赤龍※
体力量 : SS-
魔力量 : S+
力 : S+
防御力 : S+
魔力 : S+
---------------------
私は龍なのか、まぁそうだろう。
でも他が、良くわからない。
主に見てもらおう。
「どうだった?セリカねぇさんなら、Aとかあったりしてな!」
A?無いぞ、Sとは何なんだ・・・
ヒヒがステータスの説明をしてくれる。
やっぱりいい奴だヒヒは、さっき八つ当たりしてすまなかったな。
でも、Sの説明が無いぞ。
そのままヒヒに聞く。
「確か、ルシファーがS-ってのを持ってる。」
魔王最強の男がSなのか、私はS+だぞ。
「確かベルゼブブがA+ってのを持ってたはずだ。」
ベルゼブブが私より弱いのか。
まぁあれは未開の森に来た時、クマと戦って逃げてたからな。
でもよくわからん、ヒヒに見てもらおう。
馬車から降りて、出来るだけ冒険者ギルドの入口を見ないようにヒヒにの前まで行く。
モヤモヤがイライラに変わって残っている。
このまま何かあれば私が爆発してしまいそうだ。
「ちょっと、馬車に戻ってくれ。」
また戻るのかあっちは見たくないんだ。
ヒヒの強い薦めもあって仕方なく戻る。
ヒヒが説明をしてくれる。
やっぱりいいやつだなヒヒは。
「まず、SSってのはわかんねぇ。 わかんねぇけど、ルシファーがS-だ。
さっきの法則で言うとS+を持ってる、セリカねぇさんは確実に上だ。」
改めて言われると、実感が沸かない。
こんなに身近に主という莫大な存在があるのに、私の方がこの魔界の一番より強いなんて。
「でだ、ルルねぇさんもS-3個持ってるんだ、ぜってぇルシファーよりつええぜ」
ルルも私と劣らない存在を感じている。 私がそんなに強いなら、まぁそうだろう。
主はどれくらいなんだ。
「最後にメランねぇさんだ、全く分からないねぇなんだよ、7Sって何の記号だぜ。」
分からないのか、私も主の天井は見えない。
「まだ続きがあるんだ。」
「セリカねぇさんの種族、黒赤龍※って書いてあるだろ? 俺も噂話しか知らないんだけどよ、
昔魔界の半分を焼いたって言われる黒龍に※付けたって聞いたことあるんだ。」
確かに※と付いている、なんなんだその印。
「※は、世界を滅ぼす可能性があるんだって噂なんだぜ。 その為に現れたら魔王全員で倒しに来るんだぜ。」
魔王全員が来るのか、それは敵わないな。
あんまり爆発させないようにしないと、魔王が来て仲間が死んでしまう。
それはダメだ、我慢を覚えないと。
私は怒りっぽいんだ。
「全員で戦っても勝てるか解らないから、触るなって意味らしいぜ。 そんなの冒険者ギルドに持って行ったら、ぜってぇぇ偉いことになるぜ。」
なんだ勝てるのか、でも一応我慢しないと。
「メランさんがセリカより低いとかあるんです?」
この莫大な存在が私より弱いとかは絶対に無い。 主は規格が違う。
「一緒に滅ぼしましょうか、セリカ」
「私も手伝います!」
このイライラをどうにかしたい、本当にやっていいのかね?




