魔界編 ススカ 8 ~ダンテ編~
俺はダンテだ、このススカの街で守備隊長をしている。
ススカの街は特殊だ領主が居ない。
あの真ん中にあるデッカイ高炉長が治安に金を出している。
故に守備隊長より上の位は無い。
まぁ気楽にできる、いい仕事だ。
最近は鉱山が消えたり、龍が出たり変な事が多い。
横にあるサタン領もおかしい、サタンが倒されたとか言うじゃないか。
東門からの難民が止まらない、もう簡単な検査で入れている。
というのも、数がそんなに多くないのだ、皆殺されてしまっているという。
皆、言う事が違うのだ。 よくわからない。
南門から赤い魔力が見えた、煙突より高いく吹き上げる魔力。
何事かと兵隊を連れて見に行くと、ギルドの前の道が不自然に穴が開いている。
そして何人か泡を吹いて倒れている。
冒険者ギルドに入ると、ダンの奴が居た。
奴とは幼馴染だ。腐れ縁とも言うが。
ススカの会議でマスター代理でよく出てくる男。
実務を回しているのはこの男なのだ。
「おう、ダン何があった、すんげぇ魔力見えたぜ。」
「ダンテか、お勤めご苦労なこったな。 なんにもねぇよ。」
「前で泡吹いて倒れてんのに、何にもないって事無いだろ!」
「何にもなかったんだ、わかってくれ。」
「わかった、ダンテとしてダンに聞こう。 何があった。」
「言うなよ? あの龍が人化して冒険者ギルドに来た。
んでちょっかいを出したやつが倒れている。 以上だ。」
「おい、まじかよ!」
「赤髪、赤目、褐色、背の高い女に気をつけろ。」
「わかった、すまなかった。」
アイツが最初喋らなかったって事は、国には言うなって事だ。
龍なんか出たら討伐軍が出てしまう。
沢山死ぬ。 そういう事だ。
おとなしくしてる内は、何もしないほうが良い。
俺もそう思う。
赤髪、赤目、褐色、背の高い女どこかで見た気がする。
その後何もなく夜勤が終わる。
龍さんはおとなしくしていたようだ。
家に帰り際やたら店に張り紙が貼ってある。
<角なしデーモン入店禁止>
何かあったのだろうか、商業ギルドの奴はよくわからん。
翌日も夜勤だ、今日は東門。
一体が草原で道がずっとまっすぐな東門は先が良く見える。
その道をポツポツと今日もサタン領からの難民がやってくる。
最近は来る奴が変わってきた。
元兵士だの、元官僚だの。
国の基幹連中が逃げてきている。
本当にサタンは倒されてしまったんだろうか。
赤の時が終わり、白の時が始まろうとしている。
この時間に成ると先が見えないぐらい難民が並ぶ。
奴らも赤の時は寝たいのだ。
手続きをしていると、検問を無視して走り込んでくる奴が居た。
止めようとした、だが波になって押し寄せる。
「勇者だ、勇者が来たぞ!」
門の外を見る。
列の後ろの方で魔人が吹き飛ばされている、赤く染まる空気。
「急げ! 中には入れ! 守備兵! 門を閉める準備! 早く!」
そこから人が流れるように入って行く。
何事かと、起き出した街の連中が出てくる。
「鳴らせ!鐘を、早く鳴らせ!」
「西門に逃げろ! 伝えろ回せ! 西門に逃げろ!」
カーン、カーン!
門の上にある鐘が鳴る、他の門の鐘も一斉に鳴りだす。
「西門に逃げろ! 回せ! 西門に逃げろ!」
周りの衛兵にとりあえず西に逃げろと伝えろと言い続ける。
目の前の人の波は濁流のようにまっすぐな道を西へ流れていく。
急に頭上の鐘が静かになった。
ドン!壁の外に落ちる壁。
「閉門! 閉門!」
ジャラジャラと鎖が滑る音がする。
ドーン!
難民が入り切った所で門が閉まった。
鉄格子の壁、向こうに6人の人間が見える。
白銀の鎧の男が3人 白のローブに身を包んだ女が3人。
男はそれぞれ光り輝く剣を持って居る。
女は青い宝石を付けた杖でなにやら男に魔力を送っている。
そのデカイ魔力を纏った、一人の勇者が剣先をこちらに向ける。
「にげろぉぉ!」
光の線が城門を溶かし、そのまま高炉の煙突を一本倒してしまう。
難民や住民は、上に通った白の光線にパニックを起こす。
流れていた波が完全にグチャグチャに成った。
土煙を起こしながら此方に倒れてくる煙突。
住居や店舗をなぎ倒し、地響きを起こして、止まった。
「魔物の街か、でかいなぁ。めんどくせぇ。」
「えぇ~大きいのぉ、時間かかるじゃん。」
「ケビン、ちゃんとやらないと、彼等を滅ぼさないと。」
「そうですよサーシャ、悪は滅ぼさないと」
「経験値じゃん、もっと稼ごうぜ、なぁミノル」
「そうよ、この杖で殴っていっぱい殺さないと、ミホ」
「キース、お前熱心だよなぁ。」
「えぇ~、怠いそういうの勝手にやってよアリス」
ゆっくり歩きながらこちらに向かってくる勇者と聖女
あんな光線止められる奴居ないぞ、まともに向かってはダメだ。
「おい撤退だ、西門まで下がれ。」
「隊長それでは街が!」
「無理だあれは止められん、ブルゼブブが出てくるのを待つしかない。」
「そんな、ススカの街に来たことすらないんですよ。」
「城まで逃げろ、それしかない。」
喋っている間にも、徐々に近づいて来る勇者と聖女
全員、金髪、青目の白肌だ。気持ち悪いぐらい揃っている。
剣をぶらぶらさせている怠そうな勇者 ケビン
だるそうな聖女 サーシャ
背筋を伸ばして真っすぐ見据えてくる勇者 ミノル
真面目な聖女 ミホ
ひたすら剣を振り回す経験値が欲しい勇者 キース
戦闘狂の聖女 アリス
先ほどレーザーを放ったのはキースだ。
ダンテも最後尾で撤退準備を始める。
出来るだけ大通りは避けて、北の方角に回っていく。
「西門に逃げろ! 西門に逃げろ!」
成り続ける鐘に住民が西へ西へと流れだす。
赤く鉄が溶けた落ちた門に勇者たちがたどり着いた。
「なんだぁ、錆びくせぇ街だなぁ。」
「でも、いっぱいいるねぇ、経験値沢山だ。」
「楽しくはないけど悪は滅ぼさなくちゃ。」
門をくぐってくる勇者、遂に中に入る。
「君たち、戦意が無いなら1時間まってあげよう。残った者は排除するよ。」
「1時間もまつの怠い。まじミノルありえない。」
「おいミノルまたかよ、また逃がすのかよ! さっさと終わらせようぜ!」
「悪いのは悪い奴なんだ、関係ない奴はダメでしょ。」
後ろでウンウンいうミホ
「経験値が逃げちまうよ…… 」
「どんな顔して死ぬのかな、楽しみだね。」
勝手な事を言い出す彼等、でも1時間待つようだ。
完全に舐められているが怒っても仕方ない、絶対に勝てない相手だ。
北は人口が少ない、人を送ってとにかく進む。
北門だ、ここからも人が逃げていく。
そうだこの街は終わるんだ。
そのまま必死で西門まで人を送っていく。
商店通りまで来た。
もうすぐだ、奇跡的な速さでここまで住民を逃がしてきた。
レーザーがまた放たれ、3本の煙突が落ちる。
倒れる煙突、周囲から悲鳴があがる。
経験値男と戦闘狂が西から猛スピードで残った住民を殺しながら進んでくる。
東の方で家が、人が飛んでいる。
血しぶきが大量に上がる。
もう北門まで来ている早い、3分もたっていない。
家で隠れていた人だろうか、悲鳴がすぐそばまで聞こえる。
途中で消える悲鳴、確実に皆殺しにされている。
道路が光った。その先の家が溶けて悲鳴が途絶える。
そこに勇者キースが居た。
打ちまくるレーザーは家屋で避難している人を捉え、効率的に始末している。
聖女アリスが血まみれで立つ。
手にはデーモンの頭があった。 杖で殴り殺すのが大好きな彼女。
魔人を見つけては、その人間離れした身体能力で殴る蹴る。いたぶるのも大好きだ
「経験値いっぱいじゃん。一気にやっちまおうぜ。」
「キース私の分残しといてよ」
キースが剣先をダンテに向ける、終わりかと思った時
冒険者ギルドのマスターが来た。
頭蓋骨の顎が無くなっている彼女、勇者を一人片付けたのだろうか。
「シールド魔法を張るから早く、皆を街の外へ。」
キースの剣が光る。
あの塔を破壊したのが来る。
目の前が黒いシールドに包まれる。
そこに着弾する光のレーザー、周辺に飛び散り住居や店舗を破壊する飛び散ったレーザー。
一撃は防げた。
「へぇ~。」
聖女が、ギルドマスターに地面を蹴って跳んでくる。
その顔は狂っているのか笑って涎を垂らし、杖を振りかぶる。
ダンテは反射的に剣を持って、その杖を受け止めた。
重い、力が違いすぎる。
石畳が沈む。
「アハハハハ!もっと苦しみなさいよ!」
杖を振り上げたアリスは、ダンテの剣を打ち砕いてしまう。
地面にめり込む杖、ひび割れる石畳。
「もっと叫んでよ!」
蹴られる。
吹っ飛んだ、そのまま道を転がる。
脇腹が痛い、全部折れてるんじゃないか。
口からあふれ出す血。
「おいアリス、邪魔だぞ。」
「今良いとこなんだから、もうちょっと待ってよ。」
「強化魔法掛けろ、一発で終わらせる。」
「もう、わかったわよ。 消し炭に成れてよかったねクソ魔人共」
そういうと、もう一度蹴られる。 背中から壁に激突して埋もれる。
「まだ生きてんのあれ、早くしてよ。」
「お前が強化魔法掛けないからだろ!」
「ハイ、ハイ。」
勇者が白く輝く。
ギルドマスターがシールドを再展開する。
そのシールドの前に、男が一人歩いていく。
「おい、なにしてんだ。」
虫の息しか出ない。自殺志願者か。
「勇者殿、我が名はコテツ、人間である。 この街は私の住んでいる街だ。 やめていただけないだろうか。」
「はぁ? 何言ってんのアイツ。」
「コテツ聞いたことあるぞ、名刀天野の製作者。」
キースが剣を降ろす。
「おいコテツ武器持ってきてるんだろうな。」
「ちょっと! キース! こんな奴のいう事聞かなくて良いじゃん」
「武器強かったら経験値入りやすく成るだろ!」
言い合っている勇者と聖女。
それに向かって行く、コテツと名乗った男。
「これが、我が生涯に一振りの刀、村雨にあります。」
「なんか、カッコ良さそうじゃん。くれよ。」
「やめていただけますかな?」
「いいから寄越せよ!」
その鎧の脚でコテツを蹴る勇者。
「村雨良いじゃないか。 その男アリスにやるよ。」
「アハハハ! 裏切り者って訳ね、いたぶらなきゃ。」
キースが持って居た剣を地面に突き刺す。
なんて馬鹿力だ。
そして村雨が光り出した。
「おぉ、なんかよさそうじゃね?」
此方に剣先を向けてくるキース。
だが、そのまま光は弱まってしまった。
「お前これ駄作じゃねぇか!」
アリスが背中を殴っているコテツまで歩いていく勇者キース。
アリスを無理やりどけると、コテツを蹴って吹き飛ばす。
弧を描いて飛んでいくコテツ。
恐らく意識は無いだろう。
血だけが、コテツから流れる。
「つかえねぇな、死ねよお前ら。」
また剣を手にして先ほどとは比べ物に成らない魔力をため込む剣。
「キースそれマジな奴じゃない? 残らないじゃん。」
「アリス、うるせぇお前も消してやろうか」
限界までため込んだ剣は若干震えている。
「経験値の癖に、俺をだましてるんじゃねぇよ」
放たれたレーザー
目の前が真っ白になる。
「また雑魚が暴れてるのかね、この街はホントにダメだねぇ」
そのレーザーが真上に飛んで行った、白く染まる空、どこかに消えてしまったレーザー
赤髪の大女はギルドマスターのシールドの前に立つと、指で弾いてレーザーを上に逸らしてしまった。
赤く靡く髪、ショートプーツを履いて、生脚を丸出しにしている女は
皮のスカートと皮のジャケットを着てそこに立っていた。
背中には身の丈ほどもある大きな布で包まれた何か。
腕にはあのコテツを抱えている。
「ルルちゃんに習ったのがこんなに早く使えるとはねぇ。」
「お前なんだ! クソ!」
もう一発放つ勇者。
大女は一刺し指を出すと、吸い取ってしまう。
「そんな攻撃きかないねぇ、雑魚は雑魚って言わないとわからないのかねぇ。」
「セリカか、お前遅いんだよ、どんだけ試し切りしたんだよ。」
コテツが口を開く、なにやら赤い魔法で包まれた彼は生きているようだ。
「あんたに、この剣の改良の相談したかったのさ。 勝手に死にかけないでくれるかい?」
「ハハハ!その男に剣の相談だと、こんな、なまくら刀、何の価値があるんだ。」
「雑魚にはわからないのさ、なぁコテツ」
「そうだな、すまんちょっと限界だ。」
大事そうにコテツを地面に置くセリカと呼ばれた女、赤い目が少し心配そうな目をしている。
「龍様では?」
「あんたか、なんだ頑張ってるねぇ。」
「頑張ってはいますが、見ての通りで。」
ずっと気にしていなかったギルドマスターだが、さっきの一発でフードが吹き飛び骨にヒビが入ってしまっている。
「そうかい、そうかい。 もう後は私がやるのさ。」
赤い魔力に包まれた彼女はそのまま倒れてしまう。
会話している内に強化魔法と、剣への充填を終えた勇者は、急にレーザーを飛ばした。
「しゃべってる最中なんだねぇ、ちょっとだまっててくれるかい?」
彼女が片手を出すと、またレーザーは消えてしまう。
「お前なんなんだよ、俺は強化魔法で平均1000超えるんだぞ。 魔王だって倒して…」
「魔王が何なんだねぇ、雑魚は雑魚と戦っとくのさ。 巻き込まないでくれるかい?」
「魔王を雑魚って、お前なんなんだよ!」
横でアリスと呼ばれた聖女は怯えて、座り込んでしまっている。
「お前は後だって言ってんだろ?」
魔力を乗せた言葉に、黙る勇者。
俺も怖い。
避難してる人も固まってるぞ。
「守備隊長さんや、これは消し飛ばしていいのかね?」
「あぁ、頼む、街を救ってくれ……」
「あんたも死にかけてんのかい、皆死にかけだねぇ。」
ケラケラ笑う大女。
本当に彼女には勇者が雑魚に見えるのか。
赤い魔法が体を包む、昨日見た赤い光。 龍様。 赤髪、赤目、褐色。
ダンの言ってたのはこいつか。
「お前らの番だねぇ、どうされたいのさ。」
「どうって…… 死ぬのはお前だぁぁぁ!」
剣を振り上げて跳んでくる勇者、剣が光り輝いている。
「へぇ練習してくれるのかい?」
セリカが布を振りほどく。 またスカートと腰の間に布を挟むと、大剣が現れる。
真っ赤な大剣、そこに緑の線が光っている。
「あんたが"なまくら"って呼んだ剣さ。」
「見てくれだけの剣だろぉぉぉ!」
振りかぶる勇者、剣先に光の筋が現れ、巨大な剣になる。
セリカは背中の大剣を掴むと、前で構えて、真正面から受け止める。
「軽いねぇ、やっぱ雑魚なのさ。」
「な! 聖剣だぞ! 受け止めるなんて。」
「使い手の問題じゃないのかい? どうでも良いがね。」
そのまま薙ぎ払われる大剣、勇者が吹っ飛んで鉄の家に当たる。
ドロドロと蒸発し出す聖剣。
「聖剣ってのも大したことないねぇ、溶けてやがるのさ」
セリカの大剣、ルルとの攻撃ではわからなかったが、セリカが持って居る毒を触った者に与える。
彼女の毒が聖剣を溶かす。
「俺の剣、おまえ! いいかげんにしろよ!」
「何をだね。」
冷たく言い放つと、そのまま剣を肩に担いで勇者に近づく。
ガタガタ震える勇者、奴にはもう攻撃手段が無いのだ。
途中聖女が道の真ん中で尻もちをついている。
その横をセリカが通る。
「た、助けて、ごめんなさい。」
「助けないのさ。」
肩に担いでいた大剣を片手で横に薙ぎ払う。聖女に触れる、そこに何も無かった様に消し去られる聖女。
「アリス……」
勇者はそれを近くで見てしまう、ただ触れただけで消し飛ぶ聖女。
彼女も平均600持ちのはずだ。それが虫のように消し飛ぶ。
「す…すいませんでした、謝ります。 だから」
「ダメだね、私を怒らしたら無理だね。」
両手で大剣を握る彼女。
そのままアッパースイングで地面を引き裂きながら、勇者にその剣を当てる。
ダン!
家が吹き飛ん空中でジュウジュウ溶けて消えた。
その風景の中に勇者は居なかった。
「ちっちゃい魂だねぇ。ホントに雑魚だったのさ。」
勇者の侵攻は止まった、でもあと二人居るのだ。早く止めてくれ。
「あと二人居るんだ、なんとかお願いできないか。」
「あぁ、あと二人ねぇ。 もう死んでるんじゃないかい?」
彼女の目線の先、高炉の向こう側で、黒い丸い球体が膨らんでいた。




