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底から  作者: ぼんさい
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魔界編 ススカ 7

細い路地を出て、ヒヒが待っている馬車に乗り込む。


「なんだぜ、すごい怖い雰囲気を感じるんだぜ。」


「これ? 良いでしょ~!」

ルルが自分の刀を差しだして、ヒヒに見せる。


「なんなんだそれ、なんかやべぇ雰囲気しか感じねぇぞ。」


「メランさんと作ったの!」


「作った? どういう事なんだよ。」


「まぁ、細かい事は良いじゃない。 ヒヒ試し切りに3日ぐらい付き合ってほしいんだけど、街の外行ける?」


「すまねぇ、一回帰っていいか? 流石に厩舎に顔出さないとまずいんだぜ。」


「そうなの、残念ね、皆で歩いていきましょうか!」


「すまねぇ、また寄ってくれよ。」


少しゆっくり走る馬車、ヒヒもなんだか元気が無い。


西門を抜けた所でお別れする。


「それ残ったお金、運賃ね!」


「おい、貰いすぎだぜ。メルサの所はどうするんだよ。」


「1日だけ空けるって言っておいて~!」


「わかったぜ、ついでに馬車も置いとくぜ。」


「うん、ヒヒありがとう。」

「ヒヒ、またね!」

「ヒヒ、何かあったら言うのさ」


元々この街までの話だったヒヒ。


別にこのまま離れるんじゃないんだと、軽く挨拶を済ませ、未開の森へ歩いていく。


もう時刻は赤の時間、周りはあまり人が居ない。


ルルちゃんと出会った場所までまたあの疾走感を味わいたい。


「ねぇ、ルルちゃん、セリカ、あの飛ぶの出来る?」


「ある程度、出来るとおもうのさ。」

「頑張ります! おいて行かないでくださいね、メランさん。」


当たりを見渡す、白の時間が嘘のような人の少なさだ。

馬車も見当たらない。




人目を気にして、草原の岩陰に移動する。


「じゃぁ、行くわよ!」


ドン!あの疾走感が感じられる。

流れる景色は森の様ではないが、下の草が高速で流れていくのがわかる。


一瞬で通り過ぎる街道の馬車。


かなり早く着けそうだ。


後ろを見る。


黒い髪と白い袴をバタつかせたルルちゃん。


黒い布に包んだ大剣を担いだセリカが赤髪を暴れさせている。


まだまだ行けそうだ、


ドン!ドン!


益々加速する私、後ろの二人も地面を蹴って加速する。


疾走感が気持ちいい。


気付けば左手が森に変わっていた。




私の放ったレーザーの跡が見えてくる。


なにやら人の集まっている場所。


それを無視して、ヒールで地面を捉える。


ズゥゥゥゥ。


少し地面をえぐってしまった。


ヒールの長い線が地面に残っている。


彼女達も土煙を上げて減速する。


だがまだ、ゴールではない。



そのまま、方向を変えて地面を蹴って、あの細いあぜ道に飛び込む。


まだついて来る彼女達。


ドン!ドン!と益々加速する。


前の比ではない。横の森は緑と茶色の何かにしか見えない。


まだいける。


何度も地面を蹴る。


付いて来る彼女達。


すぐに未開の森が見えて来た。


このまま止まるのもなんだ、と思いルルちゃんの居た村を一瞬で通りすぎる。




邪魔な巨木が前に立ちふさがる。


あの太刀を構える、切りかかる。


縦に筋の入った巨木、わずかに出来た隙間に突っ込む、後ろで派手に倒れているが気にしない。


また彼女達もついて来る。


同じように木を切り倒しながら進む3人。


跳び始めて、1時間もしないうちについてしまった。


途中魔物の群れが逃げていたが、セリカから逃げているんだろう。


龍は※ついてたしね。



「巨木って意外にもろいんですねぇ。」


「ルルが強くなったんだと思うんだねぇ、私もあんな脆いと思わなかったけどさ。」


「最初メランさんが切りかかった時、どうしようかと思いましたよ。」


「跳ね返されるかもと思ったねぇ。」


息も切らさず話す彼女達。


彼女達にも満足してもらえたようだ。


私は楽しかった。





森の中突然現れる不毛の大地、私の誕生した地に戻ってきた。


遠くに見える森、今日はなんだか騒がしい。


私が居た時はあんなに静かだったのに。



「じゃぁ、始めましょうか! セリカ、龍に成っちゃダメよ。 剣使えないからね。」


「主、わかってるさ私もこいつ一回振り回してみたかったのさ。」


黒い布をほどき、スカートと腰の間に詰めるセリカ。


布が赤い髪の毛と一緒に靡いている。


その剣は緑の部分が飢えたように点滅していた。


「私もこの子使えるんですね! 楽しみです!」


腰に差した鞘から鍔を押し、そこから抜くルルちゃん。


赤と青の線がこれも飢えたように光っている。


私も同じように太刀を抜く。


刀身の黒がドクドクと流れていた。



3人で不毛の大地の端まで別れる。


後ろには未開の森、この近くに気配は何も感じない。


向こうの端で爆発が起こる。誰かが地面を蹴ったのだ。


私も太刀を構えて地面を蹴る。



セリカが大振りでこちらを狙ってきている。


「主、かくごぉぉぉぉ!」


その剣を私に向かって振り下ろす。


太刀を構え、真向から受ける。


ドッ!魔法と衝撃波が周囲に広がる。


「セリカ、まだまだ出来るんじゃない?」


「主、真向から受けられたらどうしようも無いのさ。」


キリキリと太刀と大剣を鳴らしながら互いに押し問答をする。


両手でしっかり握った柄と太刀の背。


そのまま落ちていく高度。地面が近づいて来る。


「メランさん、隙ありです!」


右からルルちゃんが飛んでくる。


力を込めて太刀を振るう、セリカごと大剣を吹き飛ばす。


「なっ、主そんな!」


上に打ち上げながら、体制を崩し後ろにのけ反るセリカ。


その勢いのまま左回りでルルちゃんの刀を受け止める。


胴を狙っているのか、刀が横を向いているルルちゃん。


やはりそう来る。そのまま私の体めがけて、赤と青のラインが光る。


回転が追い付く、上に柄、下に刃の形に成った私の太刀でルルちゃんの刀を受ける。


ドッ!また同じ音がする。


ルルちゃんはそのまま力押しせず、反動を生かして逆側に回る。


私も受けを作る。


ドッ!


それじゃぁ同じだと思って居ると地面に着いた。


一度距離を取るルルちゃん。


後ろからセリカが大振りでこちらに飛んでくる。


「主、勝負!」


居合の構えに成る私。


「うぉぉぉぉ!」


セリカの大剣が白い空気の壁を突き破った。


それを思いっきり刀で打ち返す。


ドォン! 地面が沈む。


「主、そんなぁぁぁ!」


飛んでいくセリカ。


音もなくルルちゃんが脇に迫る。


"シュ" ド!


ルルちゃんの薙ぎ払いが来るのを振り払った勢いで回転して、上から叩きつける。


すこし下を向いた刀、ルルちゃんがそのまま体を入れてきて、私と距離を取ろうと腰を蹴る。


踏ん張る私にルルちゃんは飛んで行った。


「逆に飛ばされるとか、あんまりですぅぅ!」


飛ばされた二人が両手を上にあげて飛んで来た。


「主、強すぎるのさ。なんで私が飛ばされるのさ。」


「メランさん、滅茶苦茶ですよもう。」


「それよりなんで私と貴方たち2人の戦いに成ってんのよ。」


「そりゃ、メランさんですし?」

「主だからねぇ。」




私は休憩して、二人で模擬戦闘をしている。


「セリカには負けませんよぉぉ!」


「言うようになったねぇ、ルル!」


赤と青、赤と緑の光が離れては近づきを繰り返す。


力のセリカと技のルル、良い訓練だ。 と思う。


元々魔力を数発撃っただけで死んでしまっていたルルちゃんは魔力の使い方が上手い。

使う所に使って、研ぎ澄まされていく。

動きもどんどん早くなる。


対するセリカも元々は小さな蛇だったけど、龍に成って総合力が上がっているのか、力で押す。

地面に大剣が当たると、クレータが出来る。

でも遅いわけじゃない、セリカもドンドン早く大剣を振り、動いている。



そんな風景をお茶を飲むわけでも無く見ている私。


暇に成ってきた、お金も無い事だし、未開の地の魔物の牙か爪でも取ってこよう。


「ルルちゃん、セリカ ちょっと魔物狩って来るね!」


「いってらっさい!」

「主、気を付けていくのさ!」


鍔迫り合いしている二人がこっちを見て返事をしてくる。


二人の髪の毛が衝撃で両方にたなびいている。



また地面を蹴って跳ぶ。


今度は木をちゃんと避けて駆ける。 逃げないようにだ。


やっぱりこの疾走感が楽しい、上下左右に揺れる髪、同じように靡く布の部分。


この靴は使いにくいと思ったが、ヒールで何かを刺すと急停止出来る為、動きやすい。


夢中に成って速度を上げていると、さっき走っていた集団が前に見えて来た。


逆向きにあの不毛の大地から逃げている彼等。


大きなイノシシ、大きな蛇、少し大きいクマが私のように木を飛んでいる。


地面に行くと色々いてめんどくさいので、あのクマを狙う。


15mぐらいのクマが、何かから必死で逃げている。


その巨体が巨木の幹に当たる度、ドン!ドン!と音が鳴る。


一番前を走っているクマの着地する目前で幹に飛び、進路をふさぐ。


ぐおぉぉぉぉぉ!


叫ぶクマ、腕を振りかぶってくる。


居合の構えをして、鍔に手を掛ける。


"シュッ"


周囲が静まり返る。


木の葉の音だけが聞こえる。


クマは目の前で斜めにずれて絶命していた。


逆側に逃げ出す魔物の集団。



全部はどうせ無理なので、切れた上半身の爪と牙を貰う。


両手いっぱいの爪と牙。


これを冒険者ギルドで換金してもらおう。


そう思って、ルルちゃんとセリカの所へ戻るのだった。





二人の訓練は終わったようでそれぞれ、魔物を狩っていた。

背丈より大きい牙を持ったルルちゃん。

5mぐらいの鳥を地面に置いて座っているセリカ。


「メランさんおかえりなさい!」


「ただいまルルちゃん。 セリカはそれどうするの?」


「主、ここで焼いてたべるのさ。」


この不毛の大地、木なんて無い。


ドン!鳥を置くと、そのまま未開の森に飛んでいくセリカ。

なんとなく分かった。


一本木が倒れたと思うと、細切れに成る。


それを両手いっぱいに持ってくるセリカ。


「ルル、火つけてくれるかい? 私のは強すぎてさ。」


「はいはい、セリカ、火担当のルルですよ。」


そう言うと山盛りの木っ端に火が灯る。


広がって炎に成っている木っ端の山。


セリカが爪を伸ばして竜の爪にする。


今は黒くなっていない。制御できるようになったようだ。


そのまま鳥に爪を立てると捌きだして、出来た所からポイポイ火に投げ入れる。


「豪快ね、セリカ。」


「細かいのは苦手なのさ。」


「そうね、似合わないわ。」

セリカと笑いあう。


「メランさん、あんまり言うと調子に乗っちゃいますよ!」


「なんだぁ? ルルもう一回やるかね!」


「良いですよ。 負けませんからね。」


二人で火花を散らしている。


私は目の前のお肉が焼けて来たので、火に手を突っ込んで食べてみる。


メルサの料理ほどでは無いがおいしい。


「主、私も食べるのさ」

「私も!いただきます」


手の平のより大きい肉をひたすら食べながら今日の赤い時間を3人で過ごすのだった。




気が付くと、白の丸が昇っている。


木は燃え尽きて、二人はそのまま仰向けで寝ていた。


2人が起きるのを待って、暇をつぶす。


でも出来ることはそんなにない。


ここにきて2人に会って、ヒヒに会った。


ヒヒの紹介で、メルサとムーに会った。


メルサの紹介でコテツに会った。


なんだかんだ、ススカの街が好きになったかもしれない。



「主、おはようなのさ」


セリカが起きる。その髪についた土を手ではらっていた。


小さい蛇だったセリカ、怒りっぽいが全部私たちの為に怒ってくれている。


そんな彼女。



「メランさん、セリカ、おはようございます!」


セリカのバタバタが切っ掛けに成ったのか、ルルちゃんが起きる。


最初は魔法数発で死んでしまう存在だったルルちゃん。


私を逃がすために命を削って助けてくれた。


そんな彼女。



「メランさん、お水です!」


「ありがとう。ルルちゃん」


最近は世話まで焼いてくれるようになった。


セリカにも水を渡している。


なんとなくこのままの生活が続けばいいなと思って居る


ヒヒ達は元気だろうか、まだ1日しか経っていないのにあの鉄の匂いが恋しくなってしまう。


まだ白い時になってすぐだが、帰ろう。 メルサさんのご飯が食べたい。




3人でススカに戻る、巨木が減っている森を跳んでいく。


途中競争みたいになってしまって、30分程度であの城壁が見えて来た。


街道は今日も大賑わいだ、でも違和感がする。


人がススカから離れている気がする。向かう馬車や人が見えない。


何かがおかしい、ふと、城壁を見ているとあの4本の巨大な煙突が無い。


代わりに土煙だけが上がっている。


持って居た爪や牙を投げ捨てる。



「なぁ主、なんか街がおかしくないかい?」


「私も思うのです。 人が出て行ってばかりです。 何か逃げているような。」


「変ね、急ぎましょう。」



門がはっきり見えてくる。


甲冑が門の出る人の波を案内している。


その脇にヒヒが見えた。


人目なんか気にせずその前で止まる。


ドン!  ドン!ドン!


少し地面がえぐれる。3人でヒヒの前に降り立つ。


周辺の人たちは、何事かと見ていたが、どうでもいい。


状況が知りたい。




ヒヒが泣きそうな顔をしてこちらを見てくる


「メラン! メルサとムーを助けてやってくれ!」


宿の方角で家が浮いている。


ドン! ルルちゃんが飛んで行ってしまった。


「ねぇ、もっと詳しく教えて。 何かに襲われてるの?」


「勇者だ、勇者が3人襲ってきたんだ!」

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