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底から  作者: ぼんさい
16/98

魔界編 ススカ 6

メルサさんに、地図を貰って、お金を払う。


一週間分とりあえず払っておいた、3人で1日1金貨。

ちょっと安い気がする。


ムーに別れを告げて、店を出る。

少し寂しそうにその短い手を振っていた。



外に出ると、ヒヒが道の方を向いて準備してくれていた。

馬車に乗り込む。


「ゆっくりできたかよ?」


「えぇ、貴方良い店、知ってるわね。」

「ムーちゃん可愛かったです!」

「料理が旨い店はいいのさ。」


「満足できたようで何よりだぜ。 とりあえず向かうぜ。」


南門と西門の間にあるメルサの店。


一番外周の通りをそのまま西門の方に進む。


昨日行った商店が立ち並ぶ北西エリアに行くのだ。


白の時間は活気にあふれる街、メルサの店を出た通りも昨日と雰囲気が全然違う。


行き交う人と馬車。 周りから聞こえてくる金属を叩く音。

もう昼を迎える時間だった。


馬車の中でずっと水魔法と火魔法をぶつけているルルちゃん。


セリカが、あれやこれやと指導している。


「ねぇヒヒ、ルルちゃんの魔法ってどうなの?」


「すごいんだぜ、さっきから俺の背筋がびくついてくる。」


「そんなに? こんな小さいのに?」


「質なんだよ、それおかしいぞ。」


セリカも私も基準がぶっ飛んでいるのでヒヒに聞くと、ルルちゃんもおかしいぐらいのようだ。


ずっと打ち消しあって居るルルちゃんの魔法に、私の魔法を真ん中に居れてみる。


ボン!


小さい爆発が起こった。空間が黒くゆがんでいる。


「主、やるときは言ってほしいんだね。 ルルだから制御できたけど、下手したら皆吹き飛んじまうのさ。」


「そんなになの。 ゴメンねルルちゃん。」


「メランさん、すごいです。 それどうやるんですか?」


そこからルルちゃんに感覚を指導していた。




「なぁ、今日は諦めて帰る選択肢は無いのかよ?」


急にそんな事を効いて来るヒヒ訳が分からない。


「なんなのさ、疲れたのかね?」


「ヒヒが疲れたなら、帰りますか?」

2人が心配している。


「いや違うんだ、怒らないって約束してくれ。 それと、買い物は難しいかもな。」


外を見ると、昨日の店が並ぶ道まで来ていた、知らない間に西門を超えている。


店のガラス窓に、とって付けたような張り紙がしてある。


何かのお祭りで臨時休業かな? と思って居ると普通に店に人が入って行く。


なんの張り紙なんだろう……


ヒヒが言っている意味が分かった。


<角なしデーモン入店禁止>


全ての店に張られているそれは、私たちを拒む張り紙だった。


「それが答えかね、ちょっとギルドいくかねぇ。」


セリカの髪がまた浮き始めている。


「お買い物できないんですか?」


寂しそうに見てくるルル。


どうしようか、人間の店なら行けるかもしれない。

メルサに貰った地図を取り出し、ヒヒに見せる。


「裏路地か、馬車は道の入口までしか行けないから、道で待っとくぜ。」


「よろしく、ヒヒ」


少しセリカをなだめながら向かうのだった。




人が2人並んで歩けるかどうかの裏路地。

そこに刀のマークの看板があった。


道の端に馬車よ寄せ止めるヒヒ。


「俺はここで待ってるからよ、楽しんでくるんだぜ。」


歯を見せながら言ってくる、大きな馬はなにかカッコつけているように見えた。


両脇を鉄の建物が襲ってくるような感覚になる細い路地、空の光は届かず暗い。

そこら中にゴミが落ちている。

刀の他にも靴のマーク、服のマークの店が並ぶ。


表通りで買い物できなかった角なしのデーモンが、徘徊していた。


上の服を着ていない男が一人、背中に大きな×印を焼かれている。

あれが奴隷のマークか……


そんな彼らをよそ眼に3人で縦に成って裏路地に入って行く。

突き当りは暗くて良く見えない。


その刀のマークのお店に入った。

あの張り紙はされていない。


相変わらずの鉄の床壁天井。

中は意外に広い。


左側は誰も居ないカウンター

奥で何やら叩いている音がする。


右側には商品が並ぶ。

入った目の前から四方の壁一面にかけられた武器。


ここから出せるのか分からない程大きな剣、長い長い槍、三又の槍もある。

小さな短剣、料理に使う包丁、そしてあれだ。 刀だ。


"刀” 片刃で反ったその独特な形、切る事に特化したその武器の刃に薄く白い波紋が浮かんでいる。


なるほど、良い鍛冶師のようだ。


なぜこんな事をわかるのかわからないが、魂を感じる。 芸術のような刃紋。

綺麗だと思った。


セリカはそのどうやって出すのか分からない両刃の剣を手に持ち見ていた。

あれに興味があるようだ。 あんなの振り回されたらヒヒでも近づけない。


ルルちゃんは自分の出した魔法剣に似た刀に興味を示す。

誰に習ったのか、両手で持って振りかぶって感触を確かめている。


「ほぉ、心得があるのか。」


いつからか止まっていた叩く音。


黒髭だけ生やしたイカツイ男の頭は髪が無かった。


肌色の肌、黒い目、そんなに高くない身長、私より低い。

でも体がごつい、服からでもわかる出た腹、胸は筋肉で膨らんでいる。

袖口がその太い腕で悲鳴を上げている。


着ている服は私達と同じような布の服だが、履いているのが下駄だ。

"下駄"また一瞬痛くなる頭。



「メルサさんに教えてきてもらったの。」


「メルサか、おまえも人間か?」


「いや私たちは違うわ。」


「まぁなんでもいいや、嬢ちゃん、これ切って見な。」


カウンターの奥から藁の束を出す男。


「試し切りして良いの?」


「あぁ、切らなきゃ分かんないだろ。 それは俺の自信作だ。」


すっと、剣を構えるルルちゃん。


その赤い目が藁を捉えている。


周囲が静寂につつまれる。


"シュッ"

踏み込んだと思ったら走った刃は藁の間を通る。

徐々にずれで藁の束。


ルルちゃんは、刃先を下にして血を拭うような仕草を見せる。


その仕草を見せると、切れた束が落ちた。


「それどこで習ったんだ? 中々見ない立ち辻だな。」


「セリカさんに教えてもらいました!」


「わたしゃ、そこまで教えてないねぇ。 ルルちゃんの天性なのさ。」


「どうでした? メランさん。」


何故か綺麗だと思った。

その黒髪が動いた瞬間ぶれた体。気付いたら切れている藁。


「うん、ルルちゃん綺麗だったよ。」


「良い物見せてもらった、これ鞘だ。」


またカウンターの下から出す男。


「まだ買うって決めてないわよ。」


「あれでも買わないのか?」


ニヤニヤした顔でルルを見ている男。

その先には、刀を見てじっと構えているルルちゃんが居た。


「いくらなの? 安くしてよね。」


「あぁ、値段決めてないんだ。 いくら出せる?」


「私のも見たいんだけど良いかしら、 もう少し刃が長いのは無いの?」


「ん、メランだっけかお前デカいもんな、あそこのネェチャンには負けるが。」


その大きな剣を背中に当てて運べるか確認しているセリカ。

犬のように欲しそうな顔をしている。


「セリカはそれね、そんな簡単に決めて良いの?」


「本能がこれを持てと言っているのさ。」


「セリカだっけか、お前さんそれ持てるのかよすげぇな。」


「こんなん軽い方さね。」


「なんでもいいけどよ、そうだ太刀だったな。 ちょっと待ってろ。」


そのまま奥に入ってく男。


「主、この刀とやら魔力を纏ってないぞ。 形は好きだが、魔物切れないのさ。」


「そうなの? 何か仕掛けがあるのかも、後で聞いてみましょ。」


刀を舐めそうな勢いで見ているルルちゃんと、まだ背中に背負えるか確認しているセリカ。


そうこうしていると、3本の刀を持って男が戻ってきた。


「すまねぇ、名前言ってなかったわ、コテツってんだ俺。」


「コテツよろしくね、で、それがご自慢の3本?」


「あぁ、昔に人間界で作った奴だがな。」


「人間界? コテツは人間界の人間なの?」


「あぁ、そうだが、先にこれ見てくれよ。」

この男人間界から来たという、どこかで魔界と人間界つながっているんだろうか。


3本の刀、ルルちゃんのより長い。


太刀70cmもあるその刃は全部白い波紋が浮かんでいる。


一番長いのに目が行った、80cmぐらいありそうなその太刀。


コテツが藁を用意してくれる。



両手で構える。


周囲の存在が藁だけになる。


"シュッ"


自然に息を吸うと共に、その藁に斬撃を入れる。


1回、2回・・・何回入れただろうか。


自然に息を吐く。


目の前の藁がバラバラに成って落ちて行った。


「お前、今何やったんだ。」


「切ったんだけど?」


「いやお前…… 魔界に来てから一番びっくりしてるぞ。」


「メランさんすごいです!」


「主、私にも見えなかったのさ。」


「これ良いわね、これとルルちゃんのとセリカ持ってるので500金貨でいかしら?」


「500? 高すぎんだろ20ぐらいが相場だ。」


「そんな安いの? 安すぎない?」


「俺は人間だからよ、魔力込めれないんだ。 何処まで行っても鉄の塊だそれは。」


セリカが言っていた事を思い出す。


魔力が込めれないなら、込めたら良いじゃないか。

何か出来る気がする。


私の魔力を手に持って居る太刀に集中する。

鍔と柄が消え、その刀身だけが見えてくる。


そこに私の魔力を注ぐ。

壊れないようにちょっとずつ。


メランは気付いていないが、この時濃い魔力が彼女の中で精製される。

お腹のグルグルが超高速回転をし始める。


浮んでくる白い髪、それに合わせて太刀も黒くなっていく。

だんだん現れてくる白い模様。

刃の部分だけに現れたそれは、細かい線を何重にも刻んでいく。


そこに赤の太い線が走る。

背側に現れたその線は、ガラスが割れたような模様を描きながら、手元から刃先に広がる。

最後まで広がった背の模様。


その時、彼女は魔力を止めた。


「お・・おぃ、何してんだよそれ。」


「ぁ、ごめんなさいまだ買ってなかったわ。」


「いや違う、そうじゃない。 どうしたらそうなるんだ。」


「どうって魔力込めたんじゃない?」


「出来ないから安いんだよ、なんだよそれ。」

黒くなった刀身に、背に赤の模様、刃に白い模様が入った太刀は、若干鼓動している。


「メランさん! それどうやってやるの?」

出来上がった太刀を鞘に納めてカウンターに置く。


黒の地に緑の糸が絡まってできた鞘が、黒地をそのままに、緑を赤く染め、白い線が勝手に生えてくる。

そんな事、気づかないメラン。


ルルちゃんの剣を一緒に持って、さっきと同じ事をする。

出来るだけ彼女の魔力を込める。


黒い刀身に刃先だけ炎の赤と水の青が絡み合った線の入った刀が出来た。


「わぁぁ、ありがとうございますメランさん!」


「お前…… だから…… もういい分かった。500貰う。」


セリカがまた犬のような顔をしている。


セリカの大剣も同じようにしてあげる。

今度は彼女の魔力だけで染まるように。


真っ赤な大剣、刃先は少し明るい赤、それ以外は濃い赤。

緑色の毒々しい色が赤い刀身にアラベスク模様 ツタのように曲がって刻まれる。


「主、わかってるじゃないかぁ。 ありがとうなのさ。」


コテツはもう何も言わなかった。


鞘を貰って、あの袋を渡す。


「じゃぁ500ね。 数える?」


「いや良いわ、今まで俺何してたんだろ……」


「ねぇちょっと時間良い? コテツが人間界から来た話聞きたいのよ。」


「あぁ良いぜ、もう1年は働かなくて良いからな。」


後ろで出来た武器を嬉しそうに見ている二人。

どこかで試し切りできないかな。


コテツから人間界から魔界に来た時の話を聞く。


勇者と呼ばれる男の人間について、人間界のダンジョンに入ったコテツ。

賢者と呼ばれる男、聖女と呼ばれる女

計4人で入ったそうだ。


そこの一番奥の魔物を倒したとき、扉が開いた。


そこに入ると、紫の空で、魔界に来たと分かった。


魔王討伐を目標に、周辺の魔人と魔物を殺害して回る勇者一行。

領土の主サタンを目指し、街や街道の魔人を全てなぎ倒す。


コテツはここで別れを告げた、戻ろうとしたのだ。

戦闘能力は皆無だったコテツは、一人で街道を戻る。


当然恨まれている勇者一行のコテツは途中で魔人に見つかってしまう。


必死に逃げる。その逃げ着いた先がススカの街との事だ。


門での話を思い出す。


「その話って、今の難民と関係あるの?」


「あぁ、今回の勇者は強いらしいな、なんでもサタンが倒されたって聞いた。」


「それで難民が大量に来てるのね。」


「あぁ、そのせいで俺達人間は立場無いがな。」

床を見つめ、頭に手を乗せるコテツ。

ここでの生活はそんなに良くはなさそうだ。


「辛気臭い話しちまった、サービス付けてやるよ。」


また、カウンターをゴソゴソし始めるコテツ。服を取り出す。


「俺の国で刀を使う者が持つ衣装なんだ。 よかったら使ってくれよ。

女性物の草履もつけとくぜ。」


振袖のついた白の胴着とグレーの袴、赤い帯と

靴底の厚い草履

そして白足袋。


大きさ的にルルちゃんが着れそうだ。


「ルルちゃんこれ着る?」


「メランさん! 良いんですか!」


またキラキラした目をしてその場で服を脱ぎだすルルちゃん。


「俺は、奥行ってるわ。」


コテツは手で目を隠しながら奥に消えて行った。


どうしても胴着が入らないルルちゃん。


「ちょっと小さいですねこれ… 残念ですけど着れないです。」


「そうねぇ、残念ねぇ。」


「服屋他にあるのさ、見て回るのさ。」


この世界に最初に来た時を思い出す。

私は自分で服を着なかったか?


残念そうに脱ぎだすルルちゃんの胴着を思い浮かべる。

何故かさらしを巻いた姿を思い描いてしまう。


「メランさん!? 何かしました?」


白い胴着を着てサラシを巻いて、片方の肩を出したルルちゃんがそこに居た。


「なんかね、服作れるみたい。」


「主、なんでもありだねぇ。」



私も欲しいのがある。思い浮かべる。


あの先の尖ったヒールの高い金属でできたブーツ。


黒い膝までのブーツ、鱗の様に折り重なる金属部は足の動きを自由にしてくれる、


出した部分を覆う黒いタイツ、胸が窮屈に成らないように作られた金属でできや鎧、太ももまでの鎧は足の部分が、やはり折り重なり動きを邪魔にしないようにしている。


そこから両側に足の側面だけを隠すように垂れる赤い布地


肩だけ覆う鉄の曲がった板が何枚か着いた肩鎧。


中には手を指まで覆う袖とミニ丈の黒いドレス。


姫騎士スタイルなそれを思い浮かべると、その姿の私が居た。




「主、わたしのは無いのかねぇ」


「セリカはどんなのが良いの?」


「お任せするねぇ。」


「文句言わないでね。うぅん・・・」


セリカの姿を思い浮かべる、少し暴力的な彼女。


黒の皮のジャンパーに中には白のチューブトップのシャツ、黒い革のミニスカートと、私と似たような形の黒い皮のショートブーツ。


「良いねぇ、動きやすいねぇこれ 主ありがとうなのさ。」



バラバラな出で立ちだが、まぁ良いだろう。


どうせすぐ作れるしね。


「コテツ~終わったわよ。」


「おぉ、着れたか、流しみたいだなルル。」


「流し? なにそれ。」


「あぁ気にするな。 なんで二人も変わってんだよ、お前ら今から戦争でも行くのか?」


「試し切りできる場所知らない?」


「その刀なぁ・・・。」


ふと最初に居た未開の森を思い出す。


あそこは何も無かった。皆で模擬戦闘をしよう。そう決めたのだった。

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