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底から  作者: ぼんさい
15/98

魔界編 ススカ 5

いつの間にか城壁の際まで来ている。

この街にしては静かな場所。


<メルサの宿屋>

と書かれた看板の3階建ての前で、ヒヒが止まった。

どこにでもある少し背の高い鉄製の箱、そんなイメージだった。

上の窓は全部カーテンが閉まっていて、人の気配は無い。

店の前には、馬車置き場があるが、何も止まっていなかった。


「メルサ! 客連れて来たぜ!」


ドタドタと言う音がして鉄の扉が開くと、濃い化粧をした三つ編み金髪が出て来た。

サイクロプスを小さくしたようながムキムキの"男"。

ダンとか呼ばれている冒険者ギルドの男より大きいんじゃないか。

着ている服がサイズが合っていないのか、筋肉に押されてきつそうだ。


両手を顔に擦り付け、内股で話しているその男

この男も立派な白い一角ツノを持って居る。

その額の真ん中から生える角にはピンクのリボンが結んであった。


「ヒヒじゃなぁぁい。 もう、最近顔だしてくれないじゃない。」


「ちょっと仕事忙しかったもんでな、部屋空いてるんだぜ?」


「空いてる! 空いてる! 3人かしら?」

ヒヒの隙間からこっちを見てくる男。

相変わらず内股と両手に重ねた手をスリスリしている。


「美人さんね、さぁ入って入って。 ヒヒは裏でいいかしら?」


「ああ、裏で良いぜ"あれ"頼むわ。」


「はぁぁい!」


凄い手際で馬車とルルを繋いでいる治具を取り外すメルサ。


「あいつは、角なしって言わないんだねぇ」

そう言えば言わない、彼には角があるのに。


「見たことない感じだけど良い人そうです。」


「そうね、まぁ入りましょう。ルルちゃん食べるんでしょ?」


「わぁ、食べる! 行きましょう。」


「俺は先に裏の厩舎に行ってるぜ、昔の馴染みだ、変な事しねぇよ。」


「うん、ヒヒまた後でね!」

ルルちゃんが手を振ると、蹄を鳴らしながら店の裏側に入って行った。


メルサに案内され、店内に入る。


「ねぇ、メルサだっけ。 食事をしたいのだけど、何かある?」


「まぁ!お腹すいてるのね。 余りものしかないけど、良い?」


「肉があったら欲しいねぇ。」


「あなたよく食べそうだものね。 予定変更して頑張って作っちゃうわ。 適当に座ってて。」


彼等には夜も遅い時間だろうに、そのままノシノシとカウンターの奥に消えていくメルサ。

カウンターと奥を開く入口の前で体を横にして窮屈そうに入って行った。


冒険者ギルドにあった酒場と変わらない店内。

ただ、机や椅子、カウンターは木でできている。

10席は並ぶその丸椅子。

5個はある天井の証明は2個だけ灯され、少し暗い雰囲気の店内。

でも、なんとなく柔らかい雰囲気のする店内。

その中の一番奥の丸テーブルに、腰かけるのだった。


店の入り口の横に鉄製の階段があり、階段に<宿♡>と書かれている。

あのマークはなんだろう。


「主は、何かとるのかい?」


「私は、何を食べていたのか覚えてないの。」


「覚えてないのかい!?」


「メランさんも初めての食事?」


そこから彼女達と食事事情について話をした。


セリカは、蛇の時、魂も肉体も食らっていた。

龍に成ってからは何も食べていない。

お腹が空かないようだ。


ルルちゃんは、何かを食べたことない。

プチデーモンとは寝る事でしか、回復できない種族のようだ。

あの姿に成ってからも何も食べていない。


姿が変わってから初めての皆での食事だ。


"楽しい食事の時間"少し頭が痛くなってくるが、顔にでるほどでは無い。

すっと消えていく頭痛。

彼女達と話しているから、ましになったと思えた。


話がそれて、セリカが美味しかった物ランキングの話をしている頃

カウンターの奥から言い匂いがしてくる。


そこから見慣れない2足歩行の猫が出て来た。


あの冒険者ギルドで見た猫だ。

でも色が真っ白だ。目まで真っ白でなんだか弱弱しい。


その猫が頭にステーキ、手に3個の水の入ったコップを持って、テトテトやってくる。


私達の机に近寄ると、器用に頭のステーキを机に出し、セリカの前に並べた。


皆に水も配ってくれている。


「食器持ってくるから待つニャ。」


そういうと、またテトテトと、カウンターの奥に消えて行った。


「ムーちゃぁぁん、これも出来たわよ~。」


奥からメルサの声が聞こえる。

あの猫はムーと言うようだ。


今度は頭にステーキ、左手にもステーキ

右手でナイフとフォークを抱えて持ってくる。


「熱いから冷まして食べるのにゃ。」


器用に皆の前に並べると、またカウンターの奥に戻っていた。


「あの猫さん、可愛いですね!」


「そうね、冒険者ギルドにも居たわね。」


「ヘルキャットだねぇ、ありゃぁさ。」


「セリカ知ってるの?」


「魔人共が話してるのきいたのさ。 白いのは見たことないねぇ」


「ヘルキャットのムーちゃん。可愛いです!」


フォークとナイフを使って、ステーキを切る。

そのまま口に入れると油が広がる美味しい。


「主、それどうやって使うんだね。」


「私も、教えてください!」


2人にナイフとフォークの使い方を教えていると、

頭にスープ、両手にスープを持ったムーがまた出てきてテーブルに置いた。


「ベルバッファローと玉ねぎのスープにゃ。 冷まして食べるにゃ。」


そのままテトテトと、私たちの横のテーブルに座る。


「どうしたのかにゃ、食べないのかにゃ。」


背もたれを前にして、尻尾をフラフラさせてずっと見てくるムー。


「あぁ、白いのを見ながら食べたくないかにゃ。 失礼したにゃ。」

寂しそうな声で話す。


「ムーちゃん? 可愛くて見てました。」


また目をキラキラさせながら言うルルに、その猫がびっくりした顔をしている。


「か、可愛いかにゃ 初めていわれたにゃ。」


その後食べだしたルルが、一口食べる度に両手を握りしめ喜び、10枚はお代わりするセリカであった。

私? 1枚だけ食べて満足しちゃった。


奥からメルサが出てくる。相変わらず窮屈そうだ。

ノシノシこちらに近づくと、ムーと同じテーブルに着く。


「ヘルキャットのムーちゃんよ、よろしくね。 お味はどうかしら?」


「可愛いです!美味しいです!」

「旨かったねぇ、何回も作らせて悪かったのさ。」

「美味しかったわよ。」


「うれしいわぁ! 簡単な物しか今は作れないけど明日は頑張るからねぇん!」


また両手を組んで顔にスリスリしだすメルサ。


「こんなにご飯も美味しいのに、あんまりお客さん居ないのね。」


「そうなのよぉ、この子みたいな色物しかこの店には来ないのよん。」


「色物? どういう事。」


失礼だと思ったけど聞いてしまった。

本当においしかった。

ただただ不思議だった。



メルサが話してくれる。


メルサの容姿は置いておいて、この街には色物、嫌悪される者も住んでいる。


ムーみたいな白のヘルキャットは不吉だと言われ、どこにも雇ってもらえない。


他に私達みたいな角なしで、技術を持つ者。


人間も一部いるという話。


「人間が居るの?」


「そうなのよ、一人は武器鍛冶屋やってるんだけどねぇ。 やっぱりあんまり流行ってないみたいよ。」


「他にも人間って居るの?」


「人間って結構居てね、ほらあんまり容姿変わらないじゃない。

鬼人は角あるから解るけど、普通のデーモンは角あったり無かったりだし。」


「デーモン?」


「あなた達デーモンじゃないの? 人間なの?」


「私はニュイデーモン!」


「なにそれ聞いたことないわ。 口にソースついてるわよ。」


ごつい手でルルの顔を拭いてくれるメルサ。

ルルも嫌では無いようだ。


人型の魔人はデーモンという種族のようだ、なんでも一番多い種族なんだとか。

通りで多いわけだ。


「メルサ、防具とか武器ほしいのさ、その男の店紹介してくれないかい?」


「良いわよ、でも遅いから明日にしましょう。」


ムーが眠そうに眼を掻いている。


「そうね、明日行ってみましょう。 セリカそれで良い?」


「急がないさ。 わかったよ主。」


「ムーちゃん案内してあげて、私は厨房片付けてくるわ!」


「はいにゃ、来るのにゃ。」


ムーに案内され、2階の一室に通される。


鉄の部屋だが、家具は木だ。


窓からは、横に成っているヒヒが見えた。


「ごゆっくりにゃ。」


ムーは帰っていく。


ベッドが3個だけの簡素な部屋。

でもベッドはフカフカだ。


ずっと馬車の木の上で生活してきた。

そろそろ定住の地を見つけるのも良いかもしれない。


ルルちゃんとセリカもベッドで眠るのは初めての様で、ベッドに入り話をしている。


ルルちゃん、私、セリカで並んで寝ている。

ベッドは別れているが顔は見れる。


姿が変わってからあまり皆の背を比べた事が無かった。


そこらへんのデーモン達とあまり変わらない背丈のルルちゃん。

でもちょっと高い、170cmは無いだろう。


全部が大きいセリカ、でもスタイルは良い。

守備隊長とか呼ばれていたのにも負けてない背丈は200cmはありそうだ。


その中間の私、普通のガタイのデーモンは大体私より背が低い。

あんまり目線の合うデーモンは居ない。

180cmぐらいあるんじゃないだろうか


そんな事を考えていると、意識が飛んで行った。





目が覚めた朝なのか。

空がずっと紫のこの世界ではわからない。


"朝"若干の痛みが来る。


「おはよう、主」

「おはようございます、メランさん!」


2人が挨拶してくれる。


ルルちゃんは手に水の玉を作っていた。


「ルルちゃん、何か練習してるの?」


「セリカが魔法の使い方教えてくれてるんです!」


「大した事じゃないけどさ」


どうやら二人は私よりかなり早く意識が目覚めたようだ。


「目覚めたかメランねぇ。」


外からヒヒも挨拶してくれる。

その大きな体は2階にいる私達の部屋に顔を覗かせていた。


口がモグモグして、にんじんを貪っている。


「朝飯食いに来るようにメルサに言われたぜ。 行ってくると良いぜ。」



ルルちゃんが魔法で出していた水で顔を洗う。

その水の玉を魔法で手繰り寄せた時に、ルルちゃんが目を輝かせていた。


「メランさんすごいです。」


「主、水魔法も行けるんだねぇ。」


私は無意識だ、教えるとかできないし、何ができるのかも自分ではわからない。


でもルルちゃんなら出来そうな気がする。


「ルルちゃんなら出来るわよ。」


「そうなんですか? がんばります。」


また一段と大きい水玉を手に表すルルちゃんだった。


3人で部屋を出て、階段を降りる。

着替えとかは無い、服も買わなくては。


下に着いたが、誰も居ない。

やはり他に客は居ないようだ。


小麦が焼ける良い匂いがする。


「起きたかにゃ、どこでもいいから座るにゃ。」


カウンターに居たムーが声を掛けてくれた。


昨日と同じ奥の席に座る。


今日は買い物に行くんだ。昨日見た商店が並ぶ道、あの道に行ってメルサの知合いの人間の店に行くんだ。


ムーと一緒に楽しく話していると、馬車が止まる音が外から聞こえる。



バタバタと降りてくる音。

他の客だろうか。


「こんな所に店あったかよ、昼飯食って行こうぜ。」


「おう、昨日はいっぱい取れたもんな、ギルド行く前に腹ごしらえだ。」


「一台しか馬車止まってないね、大丈夫?ここ。」


開く扉、3人角の生えたデーモンの冒険者風の男女が中に入ってくる。


「おい、あのヘルキャット白く無いか。」


「目まで白いわ、不吉よ。 なんで街中にいるのよ。」

自分もくすんだ白い髪をしているのに、ムーを見て言う。


勝手にテーブルに座った冒険者達


カウンターに隠れてしまうムー。


興味を失ったデーモン達は、こちらを見てくる。


「おい、あの客角なしじゃねぇか。」


「角なしが店で飯食うかよ!」


「ほんとに角なしだわ。草でも食ってればいいのに。」


此方を向いて言ってくるデーモン達。

セリカさんがご立腹だ、席を立とうとしている。


「白いからなんなんですか? ムーちゃんに謝ってください。」


「ルル、いいのにゃ。いいのにゃ。」


椅子を倒して立ち上がるルル。

ムーの声がこれまで聞いたことがないぐらい細い。


「なんだよ、角なしが逆らうのか?」


「綺麗な角なしじゃない、売っちゃいましょうよ。」


デーモン達は腰に付けていた武器を抜き構えてくる。


男2人は剣。 女はダガーだろうか短剣を2本。


ルルちゃんの援護をしようと、私も席を立とうとする。


前に座っていたセリカが私の腕をつかんで、顔を振っている。

そのまま座ってルルちゃんを見る事にした。


「他の高いのはビビって出て来ねぇのに、一番小さいのが何いきがってやがる。」


「うるさいんです! 雑魚は草でも食ってればいいんです!」


「雑魚だと!」

「雑魚ってあなたじゃない。」


顔を明らかに変えた冒険者、手の武器をルルに振りかぶる。


「誰の店でやってんだよ、あぁぁぁん?」


カウンターの横でサンドイッチを持ったメルサが鬼の顔をしていた。

ガラガラの男の声。

その姿を見ないとメルサだとわからない。


彼?は鬼人なのだ、さっきムーちゃんから聞いた。

デーモンより大きい体、強い力の鬼人。


数は少ないが、基本的にデーモンより強い種族。

デーモンと鬼人は彼等同士だと、どちらか解るようだ。


「おい。あれ鬼人じゃねぇのか。 なんて格好してるんだよ。」


「なんなのよ、この店。 もう来ないわ。」


武器を出したまま外に向かうデーモン達。


「二度と来るな! 次来たらボコボコにしてやるからな!」

ガラ声で叫ぶメルサ。

すぐに馬車の音が遠ざかって行った。


この店が流行らない理由が分かった気がする。


ルルちゃんの手には水魔法で出来た刀のような塊がある。

あれがルルちゃんの戦い方か。


それを見て、セリカがうなづいている。


「出来たじゃないのさ、ルル」


「セリカ、教えてもらったように出せたよ。」


その魔法の刀を掲げて嬉しそうに見ているルルちゃん


「魔法剣ね! そんなに長い間維持できるのすごいわねぇ」


いつもの口調に戻ったメルサは、ルルちゃんの刀を見て感心してる。


手に持っていたサンドイッチの皿を、私達のテーブルに並べ。

何事も無かったように内股で歩いてカウンターの奥に消えた。


「ありがとうなのにゃ、ルル」


「ムーちゃん虐める奴は、私が切っちゃうんだから!」


「ルルちゃん、冷めちゃうから食べましょう?」


「はい! メランさん!」



剣をブンブン振り回すルルに、少し怖がるムー。

そんな様子を見て早くご飯を薦めるのだった。

やっぱりメルサのご飯は美味しい、この焼き加減とチーズのとろけ具合が彼の腕を物語っている。


今日は買い物に行くんだ。

この後の事を思い、すこし楽しくなる私だった。

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