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底から  作者: ぼんさい
10/98

魔界編 序章 9 ~ヒヒ編~

時は進んでいません。おさらいです。

高い城壁、行き交う人々、そしてこの門の横にある厩舎。

ススカの街の厩舎、そこが俺ヒヒの住処だ。


オロバスと呼ばれる馬の悪魔。

それがご先祖だ、もう何万年も前に魔物と悪魔が入り混じったこの世界。

悪魔も魔物も関係なくなっているが。


俺達は馬なのに喋れる。

ユニコーンやケンタウルスは喋るが、魔獣の馬は喋れない。


安くて喋る馬。それが俺達なのだ。


毎日厩舎で噂話を聞いている。


ルシファー領で暴動だの、レヴィアタン領で暴動だの、マモン領で暴動だの。

ほとんど暴動の話ばっかりだ。


最近は、未開の森で暴動なんて話もある。


訳が分からない。



このススカは俺が生まれてからずっと平和だ。

でも、未開の森が近いからか、冒険者の馬車を良く引かされる。


他には鉱山から鉱物を持ってくるのも俺達の主な仕事だ。

商人は嫌いだ、馬車が重い。


鋼と剣、防具の街ススカはベルゼブブ領でも一番の冒険者数を誇っている。

ドラゴン退治や、戦争に狩り出される冒険者を目的地まで運ぶこともある。


今日はススカ一番の冒険者集団<<灰色の剣>>の馬車を引く。

男しか居ない集団だが、金が良い。高い人参を早く食いたい。



目の前に集まる男達。角付きの魔人である彼らは、今日は15人全員での冒険だ。

後ろから奴隷なのか角無しがずっと荷物を運んできている。


「さっさとやれ!」


「ご主人様、お助けを~」


そんなやり取りがずっと続く。

角無しも大変だ。



馬車は5台にもなる。


ベルゼブブの居るベルゼブブの城下町から少し進んだところに山がある。

そこのドラゴン退治を定期的にやっているのだ。

ドラゴンを放置しておくとたまに進化体が出てしまう。

それが出てしまうと、ベルゼブブも面倒の様で定期的に依頼があるのだ。



片道3日ぶっ続けで走るこの旅が、今始まろうとしている。

水や食料、奴らの防具や剣を詰んだ馬車は500kgにもなるが、軽い方だ。

商人は2000kgを引かせようとする。


そして金が安い、魔力消費に合わない。


街道をひた走る事2日、乗客から文句が入る。


「おい、馬もうちょっと丁寧に走れないのか。」


「これが限界です。かんべんしてくだせぇ。」


「駄馬が、せめて早く着けよ。」


灰色の剣は強いが横暴だ。

俺達より一人一人はそんなに変わらない。

大規模魔法で一網打尽が得意なのだ。


前衛はあの大男がほぼ一人でやっている。

アイツには勝てない、本能が警告する。


でもあいつは俺の馬車に乗っていない。だから適当に引っ張るのだ。

水もくれないあいつらに、サービスなんてしてやらない。


その後一日走り続け、目的の山に来た。

予定通りだ、他の馬はへばっている。


俺は大丈夫だぜ? ちょっと水くれませんか。


途中見るのはベルゼブブ軍の軍人共とその兵站を担う商人ばかりだった。

冒険者なんてこの辺には近づかない。

それだけあいつ等が強いという事なんだが。


降りて山に向かうあいつら。


「1日で戻るから待ってろ、逃げるなよ。」

ニヤニヤ笑いながら一人の男が言った。

何がおもしろいのか分からない。



その山の先は尖っていて、木は生えていない。


川の変わりにマグマが流れている、火のドラゴンの巣だ。


上空にはプチファイヤードラゴンが大量に飛んでいる。

でっぷり出た腹に太い後ろ足、巨大な顔とデカイ口。

その口から火を吐く。それがファイヤードラゴンだ。


長細いのも居るそうだが、俺は見たことない。

基本的に長細いのは龍と呼ばれ恐れられている。

龍はドラゴンより強い、それがこの世界だ。


そのマグマはベルゼブブの力の源とか言われてるが真相は謎だ。

この国の代表には会ったことも見た事も無い。

どんな姿をしているかも謎だ。

この中に居たりして名。


その山を登っていく15人、暇だ何もする事が無い。

マグマの近くで水も無ければ草も無い。

魔力補填が出来ない。


さっきの奴が笑ってたのはこれが原因なのか。


ただひたすら待つ、喉が渇くので喋らない。

全員同じ様子だ。


突然、山頂で爆発起きる。

白い光が山の一部を包むと、パタパタとコバエの様に落ちるドラゴン。


あの光攻撃があいつらの特徴だ。

全部合わせると黒になる色。

白は元々持って居ないとできない色だ。

だがその構築には何時間もかかるようで、今までずっと静かだった。


山が様々な色に光り出す。


吼えるドラゴンが、怒ってブレスを吐いている。

でも落ちていくプチドラゴン。


その中に少し赤い朱色のドラゴンが出てくる。

レッドドラゴン、そいつが居た。


あれは、あいつらが倒せなくは無いが最初の白い攻撃じゃないと倒せないはずだ。


ブレスを噴き出すレッドドラゴン、その先に居る冒険者共はシールドを張ってこちらに逃げてくる。


"グオォォ"怒った咆哮の主がこっちへ向かってくる。


こんなの聞いていない、レッドドラゴンなんかに勝てるわけない。


まぐれ当たりか、水色の攻撃がレッドドラゴンの目に当たる。

他の攻撃は跳ね返されている。


"グオォォ"また、咆哮を上げるドラゴン。

しかし少し時間を稼げている。


一斉に山に背を向ける俺達。


そこに冒険者達が乗り込んでくる。


「出せ契約違反だ、あれは倒さなくていい。」


追ってくるレッドドラゴン。

契約とかの話じゃないと思うんです。


相手は飛んでいる、ぐんぐん迫るドラゴン。


巻物を手にした冒険者がなにやら叫ぶと、あの白魔法が目の前で起こった。


直撃したのか落ちていくドラゴン。

そのまま辺りは静寂に包まれる。


「おい引き返すぞ、素材集めだ。」


それだけ言われるとまた引き返す。


そこには、レッドドラゴンが倒れていた。


手にナイフを持って蒸れる冒険者、鱗等を剥ぎ取る。

牙を取った奴は両手で牙を掲げ、雄たけびを上げている。


5mほどのその体、さっと解体されて馬車に乗せられていく。

また荷物が重くなった。


来た道を引き返す。後ろでは大盛り上がりだ。

あの巻物は何だったんだろう、ただよく見た風景が流れていく。


石畳に、草原、逆側に広がる薄気味悪い森。

その奥にはここからでも見えるバカでかい木が見える。


未開の森、魔物が強すぎて誰も全貌がつかめない森があった。

何か巨木が倒れていた気がするが気のせいだろう。

あれ一本で街が買えると言われている。滅多に倒れない巨木。取りに行くのも大変だ。


ずっと普通の森沿いに同じ風景が進む、鉱山がある山が見えて来た、もうあと1日も走ればススカに戻れる。


後ろでは酒盛りが始まっている、まだ終わっていないのに呑気な奴らだ。


ひたすら森、赤い時の時間もあって誰も歩いていない。


この辺はゆっくり走る、未開の森が近いからだ。


でかい奴は解るが、小さい奴は解らない。


たまに出てくる未開の森の蛇や蜂は突然襲ってきて、殺される。

用心してゆっくり進む。



ふと白い髪の魔人を見かける。

一人で座っている魔人、こんな所に一人。

周りの草むらが焼け焦げている。

何か違和感があった。


「とまれぇぇ!」


急に止まれと言われる。急に止まってやる。

後ろの奴らがコケている。いい気味だ。


縦に長く伸びた車列、その一番後ろからあのデカイ男が降りた。


「おい、ツノなしの別嬪が居るぞ。 馬車を止めろ。」


あぁ角なしなのか、これは白い髪の魔人はひどい目に会うな。

でもこの世界の理だ仕方ない。


「すいません、ススカ街はどちらでしょうか。どっちに行ったら良いか解らなくて。」


ススカの街に行きたいのか、調度良いじゃないか。

まともに着くか解らないがな。


だが、あの女の声魔力が乗っている気がする。

声に魔力が乗るとかルシファーぐらいだぞ。

気のせいだ。


急に男の上半身が燃えた。何か攻撃を受けたのか。


「プチデーモンが居るぞ、奴隷の癖に反抗しやがって。」


プチデーモン、あの種族か、攻撃してきて勝手に死ぬ変な種族だ。

奴隷とか言われてこき使われている。あいつらも大変だな。

プチデーモンに全員で魔力を飛ばしている。


「おぃ、おぃ、大げさだなぁありゃ。」


思わず口から出てしまう。それぐらい馬鹿な使い方だ。


突然、白い女から赤い龍が現れる。

褐色の目、赤い鱗に黒い爪。

何か一瞬もっと大きな物に見えたが、5mほどの龍だ。


「小龍だ、どこから出て来た。赤いぞ、火を吹くかもしれん気をつけろ!」


小龍、プチドラゴンの様な物だな余裕っぽいぞ、でも赤が真っ赤だ。

さっき見たドラゴンとは色の濃さが全然違う。

だからレッドドラゴンとかブルードラゴンとかは危険なんだ、色付きのドラゴンは強い。

そんなの出たら国軍が動くけどな。


それにしても、あいつら大丈夫なんだろうな。


さっき放たれた魔力は龍に当たっている。鱗に直接当たる魔力。


おかしいと思う、通常ドラゴンもだが、身を鱗と魔力で守っている。

魔力で緩和された攻撃が鱗に当たるからあんまり効かないんだ。

弱いのだとさっきのファイヤードラゴンみたいに跳ね返されてしまう。


何故があの龍は鱗で受けている、灰色の剣の連中の間に割って入った小龍。

あのプチデーモンを守ろうとしているのか。魔力で吹き飛んでしまうほどの小さな存在。

それを守るために体で受けているんだ。

そう考えると辻褄が合う。


白い髪の女はこちらからでは見えない。

きっとあいつも小龍に守られているんだろう。


灰色の剣の連中が魔法陣の準備を始めた。

ここからでも分かる魔力の渦。

大規模攻撃をしようとしている。


それが分かっているのかそこに向かって口の中で火を溜めている小龍。

あれはやばく無いか、本能が逃げろと言っている。


そこのあのデカイ男が青色の魔力をぶつけた。

少し弱まる小龍の口の中の魔力。


それでも本能が逃げろと言っている。


あんな収縮見たことない、あいつら死ぬぞ。



「やめなさい! いってるでしょぉぉぉ!」


突然バカでかい魔力が後ろを通り過ぎる。

真っ黒なそれは俺の死角から放たれた。

音もなく過ぎていくそれは、恐怖だけを感じる。


追っていくとあの鉱山が消えてなくなっていた。

景色が変わっている。

ずっと続く真っ黒の跡、地面が黒いのでグツグツしている。



"殺される"本能が叫ぶ。

あれはどこからやってきた。


通り過ぎる前に白い髪の女の声がした。

確かにそこには魔力が乗っていた。

あの女が放ったのか。


何者なんだあれは。体の震えが止まらない。


龍が居た方を見ると、赤い魔人が一人、プチデーモンを抱えている。


状況が良くわからない、効いたことがある。

強すぎるドラゴンや龍は魔人の姿をして俺達を嬲り殺しに来ると、

暇つぶしで街を襲うのだ。


「た・・・助けてくれ、俺の意思じゃないんだ。」


こちらを見もしない白髪と赤髪の女


「大丈夫か、主!」


あの赤髪の女の声か、こいつも魔力が乗っている間違いない。

主?あの赤髪の主が主なのか。


白髪の女が倒れる。


助ければ、俺も殺されないかもしれない。


何歩か歩いた。俺は助けに行くんだ


そうだ白い髪を助ければ、お情けをくれるだろ。


「来るな、殺すよ。」


赤い髪の女に睨まれて、声をぶつけられる。


動けない、恐怖が全身を支配する。逆らっちゃいけない奴だ。


「ルルダメだ、あんたが逝っちゃ、"メラン"が悲しがるよ!」


あの一連を見るだけで殺されてしまう気がする。

意識を山の方に遠退ける。


急に黒い何かが消し去った、山の方から黒い魂が流れてくる。


これも異常だ。

俺も魂を食らうが、普通は色とりどりだ全部黒なんて見たことない。


そもそも魂をこの時間停滞させること自体が異常だ。


一体何が起きているんだ。


見てしまう、プチデーモンに集まる魂。無数の魂がその体に吸い込まれていく。


ただの超常現象だ。もう驚かないぞ!


黒い何かに包まれたプチデーモンはグニャニャしながら形を変えている。


そこに黒髪の魔人が居た。


「あなた誰?」


全ての音が消えたような空間にあの黒髪の魔人の声が響く。


また魔力が乗っている。何を見せられているんだ俺は。


思わず前足を開いて頭を垂れる。


見てしまった…… 見てしまった……


泣き声が聞こえてくる、あの赤髪の女と黒髪の女

俺は見てない、ずっとこうしてたんだ!


そのまま時間が流れる。


いい加減前足がしんどい、でも何も言わず動いたらそのまま殺されそうだ。

えぇぇい、声を出してしまえ。


「申し訳ない、そろそろ限界。」


黒髪と赤髪に睨まれる、二人の赤い目がこちらを突き刺してくる。

だめだ、殺される。


「もう、動きません。」


精一杯の誠意だった。体が震えているのが分かる。


「セリカ、あの馬なんなのよ。」


白髪の方、メランさんでしたっけ、気にかけていただいてありがとうございます。

ただの駄馬です。


興味が俺から逸れて行った。

なんとか助かった。


上空に赤い魔力が漂う。


そこに居たのはさっきの赤い龍。


でも大きさが全然違う50mぐらいの龍。

あんなの国が滅んでしまう。


爪から垂れる液が、大地に落ちる。

"ジューーーー"溶ける草と大地。


毒まで持ったその龍、見たくない怖い


思わず頭をさっきのように垂れる。


動いてしまったがあの龍の存在の前ではなんでも無いだろう。

目が合うよりましだ。


「あなたは、お馬さん?」


メランさんが、俺に声を当てている。

最後のチャンスかもしれない。


体が最速で早く動く、前足がしびれていたがそんな事些細な事だ。

顔を上げてできるだけ首を伸ばす。


「俺はオロバスのヒヒと言うんだ、よろしく頼むな。」

違うそんな口調じゃだめだ。


「ススカの街に行きたいんだけど、連れて行ってくれる?」

受け入れられた、どこに行くって?聞き直せない何処でも行きますよ。


「かまわないが、」


馬車が倒れている、俺の価値がなくなっていく。

赤髪の女が近づいて来る、セリカさんでしたっけ、殺さないで・・・


馬車ごと持ち上げられる俺


そのまま地面に降ろされる。

馬車が立っている!


「たのむよ、ヒヒさんや。」

どこまでも行きます!ありがとうございます!


「セ、セリカねぇさん、かしこまりまた!」

盛大に咬んだ、でもまだ生きている。


あの魔人達は皆が笑ってくれた。

生き延びた偉いぞ俺。


そこから、裸だったルルねぇさんとセリカねぇさんは倉庫から服を出して着ていた。


さぁお運びしますよ。


馬車に乗り込んでくれた3人。


依然、恐怖を発生させながら存在する3人だがなんだか楽しそうだ。

とりあえず進む。


「なぁ、ヒヒや、もうちょっと揺れ何とかならないのかい?」


「セリカねぇ無理言わないでくれ、下の道が悪いんだよ。」


あの口調をもう変えれない。別に彼女達は怒ってないみたいだしそのまま行こう。

灰色の剣の時みたいに雑にはしていない。最新の注意を放って走っている。


本当にこれ以上どうしようもないんだ。

周りが気になる。なんだか少し目線が高い。

こんなんだったか俺……

そんな場合じゃない彼女達を無事に届けないと。


「ねぇ、ヒヒあの灰色の魔人は何だったの?」


メランさんが聞いて来る、あいつ等か、もう忘れてたぜ。

教えて差し上げますよ。


「それで、ヒヒは仲間なの?」

後ろの馬車から殺気を感じる楽しく過ごしてくれ頼む。心臓が持たない。


「勘弁してくだせぇ、俺は馬ですぜ使役されれば付いていきますよ。」

そう言わないと殺される。あいつらの仲間では無い本当なんだ。


「ヒヒさんは私たちに使役してくれるの?」


「ルルねぇさん、もちろんですとも、もちろんですとも。」

もちろん何処までもお送りしますよ。だから楽しく過ごしましょう?ね?


「害は無さそうだし、良いんじゃない。何かしても大丈夫でしょ。」


「そうですね。」「そうだねぇ。」


あの黒い何かと、赤い龍を思い出す。

こんな簡単に話していい相手なのか、今は集中しよう。

それでどこ行くんでしたっけ。


「申し訳ねぇ、どこ行くんでしたか。」


「ススカね、忘れちゃったの?大丈夫なのヒヒ。」


メランさんが言うと、他の彼女達も笑う。

人生最大の山場、なんとか乗り切った、近所じゃないか。


にぎやかな馬車を引きながら、見慣れた城壁が見えてくるのだった。

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