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009 不法入国者の解消

 アクセリアに案内され、レーイチは市民登録をするための役所に到着した。役所というだけあって綺麗なフロアが広がっており、中は明るく、多くの人が行き来をしている。


 アクセリアはレーイチに代わって受付の人に話をすると、二人はカウンターのテーブルに案内された。


「こんにちは、レーイチさん。えっと、今回はコンバーターの方の市民登録でよろしかったでしょうか」


「はい、とりあえずこの世界で生きていく上で必要な手続きをして貰えればと思ってます」


「承知しました。ではこちらの機械に手を乗せてもらってもいいですか?」


 職員が準備した片手が乗る大きさの四角いボックスの機械にレーイチは右手を乗せる。すると機械がレーイチの情報を読み取ったのか、対応する職員のPC画面には情報が映し出され、職員は慣れた手つきで手元のキーボードを操作していく。


「レーイチさんは広場のところに召喚され、そこで案内板と接触してこちらにいらしたということですね」


「はい、そうです」


「最初に案内されてから時間が経ってますが……機構の方と二人でいらっしゃったのは何か理由が?」


 職員の人が疑問に思う通り、レーイチは案内板にファーストコンタクトを取ってから寄り道をしたにしては時間が掛かりすぎていた。それについてはアクセリアが代わりに事情を説明した。


「広場でアンチコードの襲撃があったからよ。それにレーイチは巻き込まれて、私と一緒に戦ってくれたから遅れたの。このあとレーイチには用があるから一緒に付き添ってるのよ」


 その話を聞いて職員は納得の表情を返す。ゼプト防衛機構という社会的信用の厚い人物が事情を話してくれたおかげでその疑問はすぐに解決された。


「なるほど、理解しました。レーイチさんも無事で何よりでした。コンバーターでこの世界に来たばかりのはずが、まるでお二人は息の合うカップルか何かと思いまして。あのアンチコードを相手に苦難を一緒に乗り越えたということであれば納得です。このあとお楽しみのご予定のあるお二人のために出来るだけ早く終わらせますね」


「なっ!違っ!」


 職員はレーイチとアクセリアの事情を誤った方向に解釈した。簡単に言えば、若い男女が困難を乗り越え、仲良くなり、この後アクセリアが部屋に連れ込もうとしているといった具合である。


 それに気が付いたアクセリアは顔を赤くして否定すると席を立った。だがその声とガタンと椅子の音を立てたことでアクセリアは注目を浴びることになった。


「アリア」


レーイチは小声でアクセリアを諭すと、アクセリアは大人しく席に座り、次は羞恥心に駆られて顔が赤くなっていた。


「あんまりアリアをからかわないでくださいよ。このあと俺はどう生きていてばいいのか相談に乗ってもらうだけですから」


「これは失礼しました」


 職員は謝罪の言葉を口にするが、アクセリアの反応が気に入ったのか、口元は笑っていた。


「そういえばコンバーターを知っているということは、この世界には俺と同じように来た人がいるってことですよね?」


「はい、そうです。ここは地球の外周を回る人工衛星『那由多』の中に広がる仮想世界です。地球の人に打たれたナノマシンが生命情報を那由多に送っていまして、死亡すると極稀に生命情報のバックアップが復元されてこのゼプトの世界にコンバートされるんです。その……こう言っては何ですが……レーイチさんも何らかの理由でお亡くなりになったことになりますね」


「……は?」


 突然の重要な情報にレーイチは頭が追いつかなかった。


(俺は死んだ?なぜ?いや、それより那由多の中の世界?ナノマシンが情報を生命情報を那由多に送っていたって……。そうなると俺はコピーなのか?)


 レーイチの頭の中がグルグルと混乱し始める。強張ったレーイチの表情を見たアクセリアは思わずレーイチの手を握った。


「レーイチ、大丈夫?」


「あ、ああ……。ちょっと現実が受け入れられなくて。ここはどこのゲームの世界なんだって思ってたところもあったから。それにバックアップ情報のコンバートってことは、俺はコピー品か何かなのかなって……」


「違うわよレーイチ。あなたがアンチコードから子供を、私を助けたいと思ったのは紛れもなくあなた自身。大丈夫。あなたは今、生きてるの」


「アリア……。ごめん。変なこと考えてた」


 そうだ、気をしっかり持てとレーイチは自分に言い聞かせる。コピーだとかオリジナルだとかは関係ない。今の自分を受け入れていこうとレーイチは思った。


「すみません、急な情報で混乱しますよね。でもいつかは受け入れて貰わなければならない事実なので……」


 職員は申し訳なさそうな様子だが、これを伝えるのも仕事のうちであることが伺えた。レーイチはそれについて責めることはしなかった。


「いえ、ありがとうございます。先に教えてくれて。俺は大丈夫ですよ。アリアもありがとう。手を握ってくれたおかげで落ち着いたよ」


「うん、良かった」


 アクセリアはその言葉を聞いて安心し、レーイチから手を離した。


「こちらも市民登録は終わりました。少し混乱しているかと思いますので、今日はこれで終わりにしましょうか?」


 職員は色々と話をしながら並行して仕事を進めてくれたため、レーイチの市民登録が無事に完了した。これでレーイチは不法入国者という身分から無事にこの街の市民という身分を与えられた。レーイチは聞きたいことが多いが、一度情報を整理するため、次のアクセリアの事務所に行く間に整理し、続きはアクセリアの事務所で聞くことにした。


「はい、まずは最低限の目的は達成できたので、今回はこれで。ありがとうございました」


 レーイチは職員に感謝を述べると、レーイチとアクセリアは役所を出て、次の目的地、アクセリアの所属する事務所へ向かうことにした。

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