008 事件収束後の時間
戦いが終わり、レーイチは怪我の治療と同時に取り調べを受けていた。増援で現れた部隊は「ゼプト防衛機構」といい、今回の戦いの原因となったアンチコードとの戦闘及び犯罪の取締など、軍と警察を合わせたような組織だった。その組織からの取り調べに対して、ガロンと名乗っていたアンチコードの特徴についてや感じたこと、出現から撤退までの流れなど知っている限りのことを伝えた。
もう一人、アクセリアも同じような取り調べを受けていた。だが同じ仲間であるためか、どちらかと言えば報告をしているといった方が正しいのかもしれない。
取り調べはつつがなく終わり、レーイチはようやく一息つくことができた。
「はぁ……まさか早々に戦闘に巻き込まれるとはな……」
レーイチは予想外の出来事に気持ちの整理がついていなかった。これから新しい世界で頑張ろうと意気込んでいた時にその出鼻をくじかれた気分だった。
「お疲れ様」
そこに赤い髪の少女、アクセリア・ネストフィーが右手をひらひらと振りながら声をかけてきた。レーイチもそれに応えるように右手をあげて返事を返す。
「お疲れ様。怪物との戦いの怪我は大丈夫だった?」
「心配してくれてありがとう、かすり傷で済んでるわ。それよりもあなた、えっと……レーイチ……で良かったかしら?」
「ああ、レーイチ・シンドウだ。よろしく。そういう君は……アクセリア・ネストフィーで合ってるかな?」
「ええ、私はアクセリア・ネストフィーよ。アリアでいいわ。よろしくね」
「よろしく、アリア。俺もレーイチでいいよ」
戦いの緊急事態の場でお互い正式に挨拶ができなかったため、二人はようやくお互いの名前を確認し落ち着いて話ができる状況となった。そして落ち着いた状況となったことでレーイチは改めてこんな可憐な少女が戦っていたのいうことに気づかされる。戦いの時の気迫は勿論、戦闘のセンスはずば抜けており、敵として相まみえたくはないような少女であったが、戦いが終わった今は誰とでも仲良くなるようなどこか人懐っこい雰囲気であり、そのギャップが非常に魅力的であった。
「それでなんだけど、レーイチはこのあと何か予定はある?」
「予定か……。あ、そう言えば市民登録しに行くところだったんだ」
レーイチは本来の目的を思い出した。ガロン強襲の事件により危うく目的を忘れ、不法入国者を続けるところであった。
「そう言えばレーイチはコンバーターでゼプトに来たばかりだって言ってたわね」
「そう何だよ。それが来て早々命の危機に遭うっていう事態になって何とか生還したとこ」
「素直に私が助けた時に逃げてればもう少し安全だったと思うわよ」
「はは、それは確かに。……でもあの時はアリアを助けたいと思っての事だから後悔してないよ。それにこうして可愛い女の子と話ができる機会が持てて尚更助けて良かったかな」
「か、可愛いって……」
アクセリアはその思わぬ不意打ちに頬が赤くなった。
「えっと、予定を聞いてきたってことは俺に用がある感じ?」
「ああ、そうそう。助けてもらったお礼がしたいのよ」
「別にお礼なんていいよ。どっちかといえば、あの場でゼプト防衛機構であるアリアからの命令を聞かなかった俺が悪いし、逆に俺がお礼……というか謝罪をするべきだな。今更だけど言うこと聞かなくてごめん」
「はぁ……。そこまで冷静に物事が分かるのに、首を突っ込んだのね」
アクセリアのその呆れた声にレーイチは返す言葉もない。あの時は必死に助けようという気持ちが勝ってしまったのだ。
「それじゃあ、こうしましょう。あなたの助けた可愛い女の子が、あなたにお礼が出来なくて困ってるの。もう一度助けてくれるかしら?」
その無理やりな言い回しのお願いにレーイチは思わず笑ってしまった。釣られてアクセリアも笑みを見せる。ここまで言われてはレーイチも応えなければならない。
「分かった。降参。可愛い女の子のお願いを聞きますよ。で、俺は何をすればいい?」
「ふふっ、ありがとう。レーイチにはお礼も兼ねてうちに来てほしいのよ」
「いや、流石に女の子の家に転がり込むのは何というか……」
アクセリアのその言葉に、レーイチは困惑した。美少女の家に行くという健全な男子にとってはなんとも魅力的な提案は夢のある話であるが、それは軽々しく了承し難いことであった。
「あ、ごめんごめん、違うの。私の所属している事務所に顔出していかない?って話。勿論、レーイチの市民登録が終わったあとね」
それを聞いてレーイチはそういうことかと納得した。
「OK、分かった。それじゃあ、お邪魔しようかな。あとごめん、お邪魔する身で悪いんだけど、俺もこの先の生活プランが確立してない無一文の身で困っていて、その事務所に行ったときに少し相談乗ってもらってもいい?」
「ええ、勿論相談に乗るわ。それじゃあまずはレーイチの市民登録に行きましょうか」
「ありがとう、助かるよ」
そしてレーイチとアクセリアはレーイチの市民登録のために役所へ向けて移動を開始した。