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007 リメイク・カスタム

 そして場が動き出す。先に動いたのはレーイチだった。右手を天に掲げる。少女と触れてから体中にピリピリと走っている感覚を全て右手に集め、そして叫ぶ。


「リメイク・カスタム!」


 レーイチは天に掲げた右手を振りおろし、そのまま地面を掴むとありったけの力を流し込んだ。直後、レーイチの足元、そしてガロンの足元から何本も石柱が出現した。勿論そのターゲットはガロンただ一体。足元からの攻撃を空中に飛んで避けるガロン。だが、それを狙ったかのように別の石柱が追撃する。いくら素早いガロンと言えど範囲攻撃は全て避けられない。


「くらえ!」


 完全に捉えたとレーイチは確信した。


 前後左右からの攻撃に挟まれた状態となったガロンは今までのつまらなそうな表情からニヤリと楽しみを見つけた表情を浮かべる。


「ああ、戦いっていうのは、そうだよなぁ!」


 ガロンは石柱に向けて拳を放つ。拳がぶつかった石柱は砕かれ、破片へと変化し、ガロンへその攻撃は届くことはなかった。


「まだだ!」


 レーイチは地面を掴む手をまだ離してはいない。元々出鱈目な強さの怪物の相手をしていることは重々招致している。だからこそレーイチは攻撃の手を緩めない。


 ガロンが石柱を砕くことを読み、砕いた破片を目くらましにして破片を突き破り次から次へと石柱をガロンにたたみかけた。


「ッ」


 突如体を貫こうとする視覚外攻撃にガロンは直感で避ける。それは流石に避けきることはできず、かすり傷を与えた。そしてその視覚外からの攻撃がまだ止むことがないことをガロンは察知する。この危機感にガロンは尚も楽しそうであった。


「しゃらくせぇ!」


 ガロンは休むことのない石柱の猛攻撃に対し、拳を連打する。レーイチも対抗して今ある力を流し込み石柱の攻撃を叩き込む。


「オオォォォォォオオオッ!!!」


 両者の力と力のぶつかり合いとなり、激しい衝撃波と衝突音がこの場を埋め尽くし、石柱が次々に粉砕されていく。


 拮抗した両者の戦い。だがそれもやがて終わりを告げる。


 先に攻撃の手を止めたのはレーイチの方であった。放った石柱は止み、それら全てが粉々に粉砕されてしまった。


「化け物め……」


 レーイチはユニードによる攻撃が全く通じなかった事に苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。今ある最高のカードを切ってまでしても攻撃が届かない。それほどに怪物ガロンは次元が違う化け物であった。


「どうしたァ!終わりかァ!」


 ガロンはようやく面白い戦いができそうだと楽しそうに吠える。ようやく骨のある相手が出てきたことに歓喜が止まらなかった。


 対するレーイチは地面に流し込む力が完全にプツリと切れていた。何度も力を流そうとしてもガス欠したかのように何も起こらない。今の一手に手ごたえ無しというのはあまりにも非常な現実だ。ガロンは次は何かと期待をしているが、それに応えられる手は完全になくなった。そう、レーイチには。


「いいえ、まだよ!」


 ガロンの足元で赤い髪が揺れる。


 一体何かと気が付いたガロン。だが、その距離はもう既に遅い。赤い髪の少女のルビーのような瞳が飛び込んでくる。


 少女は石柱の陰、砕かれた破片の陰に隠れて密かに、そして一気にガロンに接近していた。そして拳を握り、その拳には今まで以上の白いオーラが宿っていた。


「ッ!」


 ガロンはマズいと直感が走る。だが、ガードは最早間に合わない。


 ノーガードのガロンの懐へ少女は飛び込む。


「やぁあああああっ!カウルスマッシュ!」


 少女はガロンへ白い閃光の拳を全力でその拳を叩き込んだ。


 直撃。


 少女はガロンの巨体を殴り飛ばし、ビルの壁に激突させ瓦礫の山に埋めた。それはまさに全力全開の一撃であった。


「ふん!お返しよ!」


 すっきりしたとばかりに少女は満足そうに言った。


 そしてレーイチは、地面を作り変えるという初めてのユニードの行使に、少女と事前の打ち合わせもせず上手くいった作戦に正直ホッと胸をなでおろした。


 少女の怪物への接近から打撃までのスピードが速すぎたためにレーイチにはハッキリと視認できたわけではないが、手応えというものは感じられた。通常であれば起き上がることすら困難な一撃だが、相手は未知の怪物。油断はできない。


「頼むからしばらく眠っててくれよ……」


 そう願う。だが、レーイチの思いとは裏腹に事態は進んだ。


「痛ぇ痛ぇなぁ……」


 崩れた瓦礫を押しのけ、ガロンは再び姿を現した。


「クソッ……まだ動けるのか……」


 今の一手で願わくば、しばらく動けなくなっていてほしかったところではあるが、その願望はあっさりと打ち砕かれる。今までで一番のダメージを受けているのは確かだが、行動不能というところまでは陥っていない様子だった。


 ここまでやってようやくの一撃を与えているレーイチとしては、あと何発今の攻撃を叩き込めば良いのか分からなくなり、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるしかない。


「随分とタフなのね。結構良い攻撃を叩き込んだのだつもりなのよ」


「ああ、今のは結構効いたぜ。だが俺は雑魚とは違ぇからな。こんなんじゃ俺は倒せねぇよ」


 ガロンの余裕な表情に少女は冷静な表情を返す。


「はぁ……そうみたいね。本当に嫌になるわ。でも、そろそろ幕引きよ」


 少女の言葉の意味、それは少女と同じようなジャケットやプロテクター、シールドや銃を持つ集団の到着だった。


 そしてそれはレーイチが考えていた時間を稼げば現れるであろうと考えていた人たちであり策の一つ。少女の出で立ちから、何かしらの対抗部隊がいるのではないかとレーイチは予想していた。故に時間さえ稼げれば良かったのだった。


「アンチコード捕捉!あれはリストクラスのガロンです!」


「陣形を展開し射撃体制で待て!奴は手負いだ!合図とともに一斉射撃する!」


 号令が聞こえ、続々と多くの人が現れる。訓練された素早い動きと陣の展開。怪物ガロンはあっという間に取り囲まれ、銃口を向けられてしまっていた。


「チッ、機構のやつらか。ムカつくがここで終わりだな。まだ遊び足りねぇし食い足りねぇがしょうがねぇなぁ」


 ガロンとしてはまだまだ遊び足りなさに不満があったが、手負いにこの数は流石に分が悪いと判断し撤退を決断した。ガロンはこの世界に現れたときと同じように、空間にひび割れを出現させる。


「撃てぇッ!」


 号令の合図と共に一斉射撃が始まる。その弾幕は通常であれば人を蜂の巣にし、跡形もなくなるようなものであったが、ガロンはその弾幕を浴びて傷が生まれる程度であり、それだけ頑丈であることを意味していた。


「じゃあな、レーイチ、赤いの」


 ガロンは別れ際にレーイチと少女へ言葉をかける。まるでまた会おうと言うかのようだった。それに対して二人は返事を返す。


「赤いのじゃないわ。アクセリア・ネストフィーよ」


「疫病神!二度と来るな!」


 少女は名前を名乗り、レーイチは憎たらしい相手に怒りの言葉を投げつける。


 その言葉を聞いていたのかは分からないが、怪物ガロンはひび割れた空間へと姿を消した。そしてレーイチが異世界を訪れて数時間のうちに突如として起こった戦いは幕を降ろしたのだった。

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