066 事件を終えて
「いやー、今回はお手柄だったね三人とも」
魔女の時計の事務所でアザトは事件解決に導いた三人のことを大いに褒め称えた。今回の事件の顛末がまとまったらしく、その報告がアザトから行われる。
「まずはお疲れ様、レーイチ、アリア、サクラ。特にレーイチは初陣で大変だったね」
「本当ですよ。何て仕事取ってきてるんですか」
「あはは、ごめんね。まさかリストクラスが二体も絡んでたなんて思いもしなかったし、でも生きて帰ってきてくれてアタシは嬉しいよ」
アザトは悪かったと言うが、リストクラスが絡んでいる可能性を予め読んでいたのではないかとレーイチは勘ぐった。そうなると初めての仕事にリストクラスをぶつけたということになるが、もしそうだとしてもこの魔女は「レーイチならいけると思った」などと返答するのことが予想できるためその真意を探ることはしなかった。
「今回はツトラードとツトラーサの二体のリストクラスアンチコードを討伐できたことはかなり大きな戦果だと思うよ。論功行賞ものだね。報告によると二体は兄弟で、ツトラーサはハルマ区長の前の秘書を殺害し、その空いたポストに自ら入り込んでアタシ達ゼドの隊員を狙っていたらしいね」
「本人がそう言っていたわ。アンチコードと戦える勢力を狙うっていうところがまさかってところよね」
「そうだね。けどアンチコード側からすると合理的と言えば合理的だからね。この世界で一番のコードを持つ者は日々鍛錬をしてコードが磨かれたゼドの隊員だからね」
「それってもしかして今後も俺たちゼドを狙うアンチコードが現れるってことですか?」
レーイチは今後、アンチコードの標的が変わることになるのかと気になった。
「可能性は無くはないけど、アンチコードが今後標的にするのはゼドの隊員だっていうのは安直すぎるかな。報告を読む感じだとツトラーサは周りと協調するような様子もないんでしょ。そうなると今回のようにゼドの隊員を狙ったほうが合理的だと他のアンチコードに伝えてるとは思えないんだよね。勿論それに気づいてるアンチコードもいるとは思うけど。あと今回のこの作戦をツトラーサが行えたのは人になりすまして入念な準備が出来たってことが大きいかな。他のアンチコードだと普通は先に戦闘になってゼドの隊員に囲まれて終わりだろうし」
「そうですよね。アンチコードとしてはコード量のあるゼドからコードを奪えたらそれはかなりのボーナスを得られるけど、それに見合うリスクとリターンが合わないですよね」
「そうだね。あと整理しておくことは、まさかアンチコードにもコンバーターがいたってことか。これはしばらく内部だけの秘密にしとかないとね。また変な騒動が起きる原因だ」
「そう……ですね……」
レーイチは同じ地球からの人間が敵となりうることに気持ちの整理ができてなかった。ツトラーサの時に覚悟は決めたが、それでもきっぱりと完全に受け入れられたかと言えばそうではない。
「今回はレーイチがかなり頑張ったって聞いてるよ。リストクラスとの戦いはどうだった?」
「どうって……普通に強かったですよ。サクラに鍛えられてなかったらまず瞬殺されてたと思います。あとサクラが言ってた透明なコード、何気無く教えてくれたやつだったと思うけど一瞬だけ分かったよ。あれを知らなかったら危なかった」
「だってさ、サクラ。弟子が感謝してるらしいよ」
「もっと鍛えなさい」
いつもの如くサクラはレーイチには冷たい態度を取った。それにレーイチは苦笑するしかない。
「素直じゃないね。でもレーイチはリストクラスを倒せたのは凄いよ。よくやったね」
「うん、レーイチは頑張ったわ。私を助けに来てくれたときとか格好良かった」
「捕らわれたお姫様を救うレーイチか。見てみたかったね」
「からかわないでくださいよ。アリアがピンチの時はいつでも駆けつけますよ」
「えっ……あっ……ふ、ふーん」
そう言ってアクセリアは顔を赤くして視線を下に向ける。
なぜか急に視線を合わせないアクセリアにレーイチは疑問符を浮かべた。
「レーイチ、そういうのは決まった子だけにしときなよ。これは大人のアタシから君に贈る身を守るための助言だ」
「え?はい」
レーイチは何の事かよく分からなかったがとりあえず返事を返す。アザトは面白い人間を引き入れることができたと思ったが、別方向で問題も起こしそうだと思った。
「そういえば所長、ハルマ区長は大丈夫なの?」
アクセリアは今回の事件に意図せず絡むことになってしまったハルマ区長のことが気になった。一緒に仕事をしていた仲間の秘書の命を奪われ、次は新しく雇った秘書がまさかのアンチコードであったということもあり、精神的な負担はかなりのものであると思った。
「ハルマ区長も今回のことは少し責任を感じてるらしいよ。身内にアンチコードを引き入れてしまったことには心を痛めてるらしい。けどそんなのは他の人だって気づかなかったんだから気に留めないようにって一報はアタシから入れておいたよ」
「直接話してあの人は必要な人だと思ったわ。だから立ち直ってほしいわね」
「責任感が強いからね。気にし過ぎないでというのが無理な話だけど、彼なら時間が解決するよ」
何かで力になれればとレーイチとアクセリアは思ったが、今はハルマ区長を信じるしかなかった。
「コルトネット兄弟にも今回は強力してもらったらお礼は言ってあるんだけど、レーイチのことを心配してたから怪我が治ったら顔を見せてあげるんだよ」
「分かりました。タルタスとも模擬戦する約束してるんでそのうち顔を見せに行きます」
「タルタスってコンバーターのこと嫌いだったはずだけどどんな弱みを握ったんだい?レーイチ」
「何で俺が弱みを握ってる前提なんですか。人を疑うことを止めてくださいよ、所長。ノルフィを助けたら妹を助けたやつに悪い奴はいないって言われたんですよ」
「ああ、なるほど、シスコンか」
「シスコンね」
「シスコン」
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「へっくし!!」
タルタスは大きなくしゃみをする。
「タルタス兄さん、風邪?珍しいね」
ノルフィはその大きなくしゃみを聞いて風邪を引かないタルタスのことが心配になった。
「いや、断じて風邪じゃねぇ。これは誰かが噂してるくしゃみだ」
「はは、ならそれはきっとレーイチ君だね。怪我が早く治るといいね」
「あいつ、模擬戦に来たらぜってぇボコボコにする」
「もう、タルタス兄さんったら」
言葉は乱暴ではあるが、コンバーターを毛嫌いしていた兄が少し変わってくれたことにノルフィは嬉しくなる。そして友達を待つかのような兄の姿に笑みを見せた。
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「レーイチは怪我が治ったらまた別の任務に行けそうかい?それともリストクラスとの戦いで今後はやめたいとかはあるかい?」
アザトのその質問は、これからもアンチコードと戦う決意があるかと問うものだった。命の危機にあったのであればここでやめるという選択肢も無くはない。
だがレーイチは決まっていた。
「行けますよ。むしろリストクラスの危険性が分かったので、野放しにはしたくないですね」
「そっか。分かった。まあすぐにまたアンチコードが現れるなんてことは早々ないからまずはしっかり休んで回復を優先だね」
「了解です」
こうして今回の事件に関する報告会が終了した。
レーイチにとっては異世界という場所に来て初めての仕事であり、初陣を飾る事件となった。初めはどうなることかと思ったが、色々な人に支えられて何とか生きている。与えられたユニードも人を助けるため、アンチコードと戦うために大いに活躍してくれたことは素直に良かったと思った。だが次にどんな強敵が現れても勝てるよう、サクラの言う通りまだまだ努力が必要なことも実感した。
「次も勝てるように、未来を守るために努力しないとな」
これから多くの人の未来を守っていこうとレーイチは改めて決意を新たにするのであった。
これにて第一部のお話は終わりです。
ここまで読んでくれた方には感謝。
普通にまだ続く展開ですが、第二部はまだ書いてないのでこのお話はここでストップになります。
別の作品仕掛り中なので続編書くか未定です。
なのでまたいつかまた気が向くそのときまで。




