062 クリアコードアドバンス
「カハッ」
ツトラーサは遅れてくる痛みが現実のものなのか一瞬分からなかった。なぜ、今自分がカウルソードで貫かれているのかが分からない。背後を確認するが背後には誰もおらず、代わりにカウルソードの刃が地面から伸び、それが胸を突き刺しているのだった。
「刃を変化させた。物真似は俺の得意分野なんだよ。触手の攻撃を見て思いついた」
レーイチは地面に突き刺したカウルソードの刃を作り変えるという一手を放った。飛ばされた後の勢いを殺すために地面にカウルソードを突き刺したのはツトラーサを騙す一種のフェイク。その一手が見事にツトラーサへの重い一撃を与えることとなった。
「レーイチィッ!」
怒りの頂点に達したツトラーサは触手の槍をレーイチに放つ。
疲労もコードも限界に近いレーイチ。だが、まだサクラのあの神速の剣を打ち込まれた日々に比べればまだマシだと体中のコードをかき集める。
「アクセラレーション!」
レーイチは触手の槍を引き付け、その瞬間に足場を変化させて横に飛び出した。触手の槍はレーイチが元居た場所を大きく穿ち、もし直撃しようものなら命がなかったことを物語っている。そしてレーイチは着地と同時に再度足場を変化させ、ツトラーサに向けて自身を加速させる。一瞬で距離を詰めたレーイチはツトラーサに斬りかかり、ツトラーサはそれを金属音と共に触手によって防いだ。
「リメイク・カスタム!」
間髪入れずにレーイチは足場から複数の石柱を発生させる。そしてそのままツトラーサに叩き込んだ。激しい衝突音が響き渡ったが、レーイチの石柱はツトラーサの触手によって防がれてしまっていた。
「最後にしては良かったわ。でも、これがあなたの限界ね」
「いいや!もう一手!」
レーイチはカウルソードと交わる触手を弾くと体を横にずらす。そこに現れたのはレーイチが背後で作成し、自身の体で隠していた石柱。その一撃をツトラーサに向けて放った。
「ッ!」
ツトラーサは防御が間に合わないと判断し、反射的に石柱を避ける。石柱はツトラーサの体に掠り傷を付けるに留まった。今度こそレーイチに打つ手はない。そうツトラーサは思ったが、その予想に反してレーイチは伸びたその石柱に触れる。
「リメイク・カスタム!」
直後、鈍い音が響く。レーイチの放った石柱は一度躱されはしたが、その石柱を再度作り変え、枝分かれした石柱がツトラーサの胴体に突き刺さった。
「ガハッ!」
苦痛の声が漏れるツトラーサ。レーイチはもう限界に達しているはずだった。なぜレーイチはまだその闘志の籠もった瞳を向けることが出来るのか分からない。感じられるのは諦めない、必ず勝つという信念だった。
ツトラーサをユニードで捕らえたレーイチはここだと直感が走る。
「ここで決める!」
体中のコードを全て使って斬る。レーイチは右手にあるカウルソードにコードを流し込み、白い光を輝かせる。距離もタイミングも完璧に捕らえた。
だが、それを受けようとしているツトラーサもその闘志は消えていない。
「手を隠してるのはあなただけじゃないのよ!」
その直後、レーイチの真横から触手が突如として現れる。その触手はレーイチが変化させてツトラーサに突き刺した石柱の中から触手が飛び出してきた。
「ッ!」
完全に虚を付かれたレーイチ。技を繰り出そうとしている今、真横からの触手を完全に防ぐことは不可能な状態であった。
(あと一手……ここまで来て俺は死ぬのか)
刹那、レーイチにとある記憶が蘇る。それはサクラに剣を習っていたときのことだ。
『カウルソードは体の一部だと思いなさい。質の良いコードを流し込めばそれだけ鋭くなり、量を流し込めばより強力で重いものとなるわ。装甲が硬い相手も現れても、私たちが相手にするのは同じく生きている相手よ。より研ぎ澄ましたコードをカウルソードに流し込みなさい』
『研ぎ澄ましたコードって言われてもよく分からないな。具体的にはどうすれば?』
『集中し、ただ一点、斬るという念を込めての修行をしていればいつかコードの中に透明なコードがあることに気づくはずよ。剣を習い始めたあなたがそれに気が付くのは何年後かしらね』
レーイチは意識が現実に戻る。
技を止めて回避をしようとしても真横から来るツトラーサの攻撃は必中の距離。回避した場合、どうなるか想像は難しくない。
「今、ここで、ツトラーサを斬るッ!」
レーイチは今一度サクラの言葉を思い出す。
(透明なコード、一点集中)
その言葉だけを頼りにレーイチは全神経、全コードをカウルソードに注ぐ。方法は分からないが、レーイチはただツトラーサを斬るという事だけに集中する。
その闘志にツトラーサは驚きを見せた。避けなければ触手が体を貫くというのにそれを防ぐ気も避ける気も感じられない。死が怖くないのかと疑ってしまう。
「馬鹿ね!もう限界に近いコードを使ったところで斬れはしないわ!お望み通り急所を貫いてあげる!」
ツトラーサはレーイチの攻撃を防ぐために触手を前に出し、防御体制を取る。これに剣が触れた時が最後だとツトラーサは告げる。
「集中、集中、集中、集中」
自身に死が迫る中、レーイチは絶対にツトラーサを斬るその一点だけに集中する。
そこにポトンと透明な雫が落ちる感覚があった。
レーイチは直感する。これがサクラが言っていた透明なコードのことだと。
その一滴の雫をカウルソードに流し込む。するとカウルソードはより強い煌めきの光を放った。そしてレーイチは一気に振り抜く。
「クリアコードアドバンス!!!」
一閃。
レーイチに迫っていた触手、ツトラーサの防御する触手ごとレーイチはツトラーサのことを斬り、ツトラーサは後方へと飛ばされた。
「アァァァアアアアッ!!!人間如きにィッ!!!この私がァッ!!!」
悲鳴が響き渡る。その声はツトラーサのものであった。




