006 反撃開始
嫌な予感がすると、レーイチは確認に向かう。映る光景は赤い髪の少女がビルの壁にぶつかり、地面に崩れていく姿だった。レーイチは少女が攻撃を受けたのだと直感した。赤い髪の少女は強打した体に苦痛の表情を浮かべている。まずは命があることに安心をしたが、少女が戦っていた土煙の中から黒紫の怪物がまだまだ戦える余裕の様子で現れた。
形勢が明らかに逆転しており、少女へ危機が迫っている。
「何があとは任せてだ……」
その言葉と共にレーイチは助けてくれた少女のもとへ走り出していた。命が惜しくないのかと言われれば勿論命が惜しい。二度目の人生が怪物の餌となって終わってもおかしくはない。だが、自分を救ってくれた恩人を目の前にし、逃げるほうが後悔すると思った。
本能的に動いたレーイチだが、レーイチよりも強い少女が苦戦する怪物を相手に具体的に何をすればいいのか考えはまとまっていなかった。手元には何もない。あるのは怪物の言う通り貧弱な体が一つ。少女が白いオーラを纏って戦っていたが、その発動方法は分からない。
そんな今の自分には何がある?
(何か、何かあるはずだ)
少女に触れられてから体中に走る謎の電流の違和感も合わさり、レーイチは思考が焼ききれそうであった。
(……違和感?)
何もないレーイチにピースが一つ光ったのを感じた。
そもそもこの違和感は何なのか?体に不具合をもたらしているものかと言われればそうではない。むしろ何かを解放しろと訴えかけている。それならばその解放するべきものは何か?
「……やってみるしかない。時間が稼げればそれでいい」
レーイチは覚悟を決める。運が絡んでくるが、やらなければならない。やらなければ命がない。そして考えが正しければ、時間を稼げればそれで良い。
そしてレーイチは怪物と少女の間に割り込む。先ほどのレーイチと少女の状況とは逆の形となった。
その登場に怪物も少女も驚きの表情を見せた。
「あ?逃げた貧弱が何しにきた?」
「お前をぶっ飛ばしにきた!」
威勢のいい言葉を発するレーイチの姿に少女は戸惑いが隠せない。怪物に抵抗する手段もなかった少年に何ができるのか分からなかった。それ故に少女は折角助けた少年が自ら命の危機を晒していることに腹が立った。
「何してるのよ!子供は!?なんで戻ってきたのよ!」
「子供は大人たちと一緒に避難してる。それに目の前で命の恩人を見捨てるなんて、俺が後悔する」
「後悔って……。それにあなたカウルも使ってないじゃない!」
「少し前に別の世界からきたばっかりなんだ。カウルの使い方、あとで教えてくれよ」
「別の世界って……もしかしてあなた来たばかりのコンバーターなの!?それなら尚更戦うなんて無謀すぎるわ!」
「知ってるよ。さっき攻撃受けてめっちゃ痛かったし、今も体中が痛すぎて悲鳴あげてる」
それならなぜ?と少女は思った。しかしレーイチは固い意思を持って今この場にいる。
それを見て少女は理解した。
(ああ……なるほど、きっとこれはあなたの信念ね)
そう理解して、ただそれだけのために助けに来たのかと少女は少し呆れたが、不思議と悪い気はしなかった。むしろ好みに近い。
「あと少し、時間を稼げる?」
「分からない。でも、策はある」
その答えに少女は口元が緩む。悪くない答えだった。
「じゃあ頼むわよ」
「OK、任せろ」
二人の掛け合いを聞いた怪物は割り込みに次ぐ割り込みに苛立ってはいたが、自然と歩みを止めた。歩みを止めた理由は勘だった。少し前まで何もできないだけの貧弱な人間が、今は何か違うオーラを纏って目の前にいる。まるでこの盤面をひっくり返せる策を持っているかのような面持ちだ。
(こいつは、一体何なんだ?なぜこの俺に勝てる自信をもっていやがる?)
考え過ぎかと思ったが、経験からくる直感は無視するにはリスクが高い。
「貧弱、お前名前は?」
「人の名前を聞くときはまず自分からだろ?」
「おっといけねぇな。俺はガロンだ。死ぬ前に覚えておけ」
「レーイチ・シンドウだ」
ガロンという怪物は不思議と名前を聞いていた。コードになるはずの黒髪の少年はなぜか記憶に留めてもいいと思った。