057 八つ当たり
「サクラ!」
「仕事を片付けて来てみれば、コンバーターは遊んで仕事をしてないみたいね。斬るわよ」
「待って、サクラ。これでもさっきリストクラスを一体倒してるからな?」
「そう。でもまだ敵が残っているという結果は変わってないわよ。五十歩百歩という言葉を知っているかしら?」
「辛辣」
サクラはいつものようにレーイチに毒を吐く。だがサクラの登場によりレーイチを含め全員に希望が見えてきた。
「桜色の髪の剣士……まさか、あなた、抜刀のサクラ!?もう一人いるなんて聞いてないわ!」
一方、ツトラーサは桜色の髪の剣士についての噂に聞き覚えがあった。それは抜刀のサクラという通り名として知れ渡るアンチコードの中でも強敵として名高いゼドの隊員。出会ったアンチコードは逃げられただけで幸運だったと言う。
「抜刀のサクラ?」
「サクラの通り名だよ、レーイチ君。アンチコードの中でもその強さからサクラは名前が知れ渡っているんだ。曰く、剣が納まっていても油断をしてはならない。曰く、剣が抜かれた時には命がない。曰く、視界に入ったもの全てが彼女の領域である」
「何ですかそれ……」
通り名がついたというだけで恐れられているというのがよく分かる。更にその理由がまるで出会ったら命はないと言っているようなものだった。だがレーイチとしては訓練でなければサクラに何度斬られて命を失っているか分からないことと、未だに本気を見たことがないことからもその通り名には納得が行くものであった。
ツトラーサはサクラの登場に驚きはしたが、冷静に考えればなぜ最初からレーイチたちと共に行動していないのかが疑問であった。一日遅れてきたということは別の任務にあたりレーイチ同様に連戦で全力を出せない状態だと読んだ。それであればサクラに関する与太話にそこまで怯える必要はない。
「サクラ、あなたレーイチと同じく他のとこからの連戦なのでしょう。ならあなたは今全力を出せないわよね。それなら恐れるに足りないわ。あなたもコードにして私の糧にしてあげる」
多少のリスクはあるが、ツトラーサは小型植物の手数で埋められると踏んだ。寧ろここで最強の一人のコードを手に入れられるチャンスとも言い換えても良い状況だと思った。
「サクラ、悪いけど手を貸してほしい。情けないけど今の俺にはあの小型植物のアンチコードとツトラーサを両方相手にするだけの力がない。ツトラーサは俺がやる。雑魚を頼んでもいいか?」
「……貸し一つよ」
「分かった。前あげられなかった羊羹買ってくる。ニルタさんとタルタスの二人はアリアとノルフィを見ててもらっても良いですか?」
「何言ってるんだい、僕たちも戦うよ」
ニルタはこれまでの苦戦した状況、そしてレーイチがツトラードというリストクラスと戦ってからの再度リストクラスのツトラーサとの連戦を考えて誰がどう見ても無謀にしか思えなかった。
「空間から味方を呼び出すってことは今、目に見えてる相手が敵の総数ってわけじゃないでしょう。動けないアリアとノルフィに手が及ぶ可能性だってある。俺の大切な人を守って欲しいんですよ。そうすれば俺も全力で戦えます」
「レーイチ君……」
「レーイチ……」
最早引き止めるようともレーイチはツトラーサと戦うことを諦める気はない様子だった。
その信念の籠もった眼差しをアクセリアは見たことがある。それはガロンとの戦いの時だ。それはまだレーイチがゼプトへ来てカウルすら使えない中、自分が後悔すると言って割って入ってきた時と同じだった。
「アリア、そいうわけだからちょっとあいつぶっ飛ばしてくる」
「うん、分かった。頑張って」
そしてレーイチに抱えられていたアクセリアは屋根の上に降ろされる。温もりがなくなる瞬間がすこし寂しい気がしたが、ここは快く送り出すべきだと思った。
「お話は済んだかしら?」
「ああ、こっちはな。一つ聞いていいか、ツトラーサ」
「何かしら?」
「お前、ツトラードの姉なんだろ?昼に俺のユニードを見ているはずだ。何で俺のユニードをツトラードに伝えてなかったんだ?」
レーイチは戦闘前に気にかかっていたことを一つ問い詰めた。
「何?そんなこと?そうね……理由は単純であなたを消耗させるためよ。ここにいるゼドのコードは私のもの。あなたのそのユニードは攻防に利くやっかいなものだから、ツトラードに減らしてもらおうと思ったの。路地ならあなたの領域よね。コードを減らしつつツトラードを倒してくれると思ったわ。誤算は思ったよりも早くツトラードが倒されたことと、あなたの機転の良さかしらね」
ツトラーサはまるでそれが当然だとばかりに言う。それがレーイチには癇に障った。
「仮にも弟なんだろ!ツトラーサ、お前は、仲間を!家族を!弟を!道具のように利用するなんて何を考えてる!」
レーイチは珍しく声を荒げる。レーイチの周りの人たちはその怒りの形相に驚いた。アクセリアも今のレーイチの怒りはガロンと戦った時にも見たことがなく、今までで一番の怒りをレーイチは見せていた。
「私がコードを得るためよ。レーイチ、あなたは何を怒っているの?もしかしてツトラードのことで怒っているの?あなた、敵に同情してるなんておかしいわよ」
さも当然というかのようなツトラーサの態度にレーイチは尚更怒りがこみ上げてきた。
「ああ、そうだ、これは俺の八つ当たりだ!俺は今、ツトラードが哀れでしかたないと思ってる!でもな!おかしいのはお前だ!家族を裏切るようなやつを俺は心底許せない!」
「ご高説ありがとう。全く響かないわね。私はコードを得て更に強くなりたいの。あんな弟でも最後くらいは役に立ってくれたかしらね」
レーイチはツトラーサの今の言葉で完全に心が冷めた。
「……分かった。もういい。お前を斬らないと俺の気が済まなくなってきた」
レーイチはこれ以上はもう話の無駄であると思い会話を切り上げた。そしてカウルを展開し、カウルソードに白い刃を出現させる。




