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056 不意打ち

 一瞬何が起きたのかと全員の動きが止まる。白い粒子のキラキラと輝くその光景は命の美しさを物語っているかのようだった。そしてそれはつまり、レーイチとツトラードのどちらかに決着が着いたということを意味していた。そしてその決着をつけた者はどちらなのか、その答えは直ぐに明らかとなる。屋根下から粒子を突き抜け、人影が一つ飛び上がる。


「レーイチ!」


 アクセリアは真っ先に歓喜の声をあげる。アクセリア達にとっては思わぬ援軍の到着だが、それはつまり一人でツトラードというリストクラスを倒してきたということを意味する。


 そして自身の弟を失ったツトラーサはというと、特別悲しむ様子も驚く様子もなく、ただため息をついて失望したといった念を抱いていた。


「ツトラードは負けたのね。でも、そんな分かりやすい所から現れては対応し易いものよ」


 ツトラーサは触手を鞭のようにレーイチへ放つ。空中のレーイチはそれを躱すことができずに直撃してしまい、屋根の上へ叩きつけられた。


「そんな、レーイチ!」


 アクセリアは叩きつけられたその人影に絶句する。今ならまだ助けられる、そう気持ちが焦るが、身を拘束されている今それができない。


「馬鹿ね、ツトラードとの戦いでコードも減ってる中、私と連戦しようだなんて」


 ツトラーサはその勢いよく現れたレーイチにも驚きもしなかった。むしろここまでは想定通りであったかのような様子であり、活きのいいコードをリスクなしで得られることにどこか満足そうであった。


「馬鹿なのはお前だ、ツトラーサ!」


「ッ!?」


 ツトラーサの背後の路地から別の人影が飛び出す。その人物は白い輝きを放つ剣を携えており、視界に入った時にはそれを振り抜いていた。


「フォトンスラッシュ!」


 白い斬撃がツトラーサへと襲いかかる。完全にツトラーサは虚を突かれ、直撃を回避のために自ら触手を切り離し回避するしかなかった。


 ツトラーサが触手を切り離したことで拘束されていたノルフィは触手から開放される。レーイチはすぐさまノルフィを回収し、左手を屋根に触れる。


「リメイク・カスタム!」


 息をつく間もなくレーイチは石柱を発生させ、アクセリアを縛り付けている小型植物を串刺しにし、白い粒子へと帰させると触手からアクセリアを解放した。


 触手の締め付けによるダメージがあるアクセリアは着地の体制がとれず、そのまま重力任せて落ちそうになるが、レーイチはそんなアクセリアを膝と肩を支えてお姫様を抱えるかのように受け止めた。


「待たせたな、アリア」


「レーイチ……」


 レーイチの腕に抱かれたアクセリアは安心したような表情を見せる。無事で良かったという気持ちと助けてくれてありがとうという気持ち。だが、それ以上にトクトクと鳴る心臓の音とレーイチの腕の中にいることに不思議と安心を覚えた。


「あ……レーイチ、怪我してるわ」


 アクセリアは抱きかかえられて目の前に広がるいくつもの血の跡に目が行く。どれも痛々しく、ツトラードとの戦いが激戦だったことを物語っていた。


「流石にリストクラスを無傷では無理だよ。それに全部掠り傷。平気だよ」


 レーイチの登場にツトラーサはなぜ背後から現れたのかが分からなかった。その原因を探るべく最初に空に飛び出した人影を叩きつけた先を見ると、それは人の形をした石像であった。それを見てツトラーサは納得する。


「粒子という目を引く場所からわざと石像を飛ばして目を引いて、その隙に背後からの奇襲……。随分と面白い発想をするのね、レーイチ」


 ツトラーサはレーイチの機転の利いた策に完全にしてやられたと不敵な笑みを見せる。


「それはいつもこれぐらいのことしても敵わないお師匠様を相手にしてるからな。でも安心したよ。今のが通じたってことは、ツトラーサはあのおっかない師匠より弱いってことだ」


「……アクセリアと言いレーイチと言い、揃いもそろってあなた達は勘に触るわね」


 ツトラーサは怒りを露わにする。ここまで思い通りに進んできたことが急に覆されるような感覚は不愉快極まりなかった。


 そしてレーイチ達のもとにニルタとタルタスも小型植物を片付けて合流し、ノルフィの救護に当たる。


「ノルフィ!ノルフィ!」


「ニルタ兄さん、タルタス兄さん、迷惑かけてごめんなさい」


「本当だ、ノルフィ。一人で飛び出すんじゃない。でも無事で良かった。レーイチ君ありがとう!」


「……妹を助けてくれてありがとうな、コンバーター。お前が来なかったらと思うとゾッとするぜ」


「どういたしまして。でもまだツトラーサが残ってる。あいつを倒すまでは安心できない」


 レーイチの合流により盤面は幾分か良くなったが、ひっくり返すというところまでには至っていない。ツトラーサもそれを把握しているためか、どこか余裕を見せている。


「レーイチ、あなたが来たところで私はまだ味方を呼ぶことはできるし、私は力をまだ全然使ってないのよ。あなた達に勝機は万に一つもないわ」


「そのくだらない運命は俺が作り変える。なぜなら俺がお前を斬るからだ」


「妄想が酷いわね。現実を見せてあげるわ」


 ツトラーサは自身の周りに空間の穴を出現させた。その数は二十はある。そしてそこから小型植物が姿を現し、ツトラーサの周りには小型植物の軍勢があっと言う間に形勢されてしまった。


「それで?もう一度聞くけどこれを見ても私を倒せるのかしら?」


「……」


 レーイチの頬に冷汗が伝う。周りのアクセリア、ニルタ、タルタス、ノルフィもこの状況は非常にマズいといった顔をしている。


(あの数をニルタさんとタルタスに任せて俺がツトラーサの相手をするのか?いや、アリアとノルフィが動けない今それは流石に無理だ)


 何とか起死回生の一手が欲しい、そう思った時、コツンと足音が響いた。


「何遊んでいるの?コンバーター?」


 その声は月の光に照らされた美しい桜色の髪、赤い着物に紺色の袴、凛とした出で立ち、魔女の時計の剣士サクラであった。

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