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055 屋根上の戦い

 アクセリア達の耳にレーイチからツトラードは何とかするとの返答が入る。


 本来であればアンチコードを釣り出すためにレーイチを泳がせ、アンチコードが姿を見せ次第強襲を仕掛ける計画であった。


 だがその計画は崩れ去った。チンピラ男三人の問題を解決したところで強風が吹き、アンチコードが突如として現れた。応援に駆けつけようとしたところでツトラーサが現れるという状況となり、レーイチのもとに駆けつけるということができなくなった。一人で戦うことになったレーイチのことを考えるとアクセリアは焦りを感じた。レーイチに後ろを頼むと任されたはずが、その約束を破ろうとしている自分が腹立たしい。


 アクセリアはカウルを展開し、ホルスターからハンドガンを抜いた。


「ニルタ、小さい連中は任せていいかしら」


 続いてニルタも腰からカウルソードを抜刀し、タルタスは拳を握り、ノルフィはハンドガンを構える。


「分かった。でも相手にどんな特性があるのかまだ分からないから慎重に行くんだ」


「ええ、分かってるわ」


 焦る気持ちを抑えてアクセリアは目の前の敵に集中する。


 先制はツトラーサと小型植物が蔓の触手を一斉に伸ばして仕掛けてきた。


「フォトンスラッシュ!」


 ニルタは腰に構えたカウルソードにコードを流し込み、コードを高めて一気に振り抜いた。それは飛ぶ斬撃となって向かってくる触手の群れを打ち返した。


「一気に詰めるわ」


「雑魚はこっちでやっておくぜ」


 自身に向かってくる触手が無くなったその隙を狙って、アクセリアはツトラーサへ、タルタスは小型植物へ一気に距離を詰めに掛かる。射撃武器のあるアクセリアは先制してツトラーサに射撃をする。しかし撃ち込まれた弾丸は触手によって弾かれ、ダメージがない。


 それならばとアクセリアは拳を握る。銃よりも近接の方が有利な距離となり、拳を振り抜いたがその攻撃は触手によって防がれてしまった。


 ビリビリと直撃の感触が伝わってくるが、手応えという面では全く無かった。


「硬いわね」


「ふふ、その程度で私には傷一つ付けられないわよ」


 ツトラーサは余裕の笑みを見せる。ニルタの斬撃を受けて切断されなかったところからも見た目は植物ながら硬度はかなり高いものとの予想はついていた。だが、いざ攻撃を与えても傷が付かないその防御力は予想以上であった。


 アクセリアは背後から伸びてきた触手を躱すと距離をとった。チラリと視線を横にズラすと小型植物は昼に戦ったアンチコードよりも手強い相手であることが伺えた。それは未だにニルタ達が倒せていないところから見て明らかだった。


(タルタスは数の差を自力の戦闘力で埋めて戦いは拮抗しているみたいだけど、ニルタとノルフィは数の差をニルタがノルフィをカバーしなければならないから防戦になってる状況ね)


 状況は完全にアクセリア達の劣勢。誰かがこの状況を抜けなければならない。


 アクセリアは距離を取っても伸びてくる触手を避け、避けきれない触手を拳と脚で弾き飛ばし、次の手を打つことにした。


(マガジンを変えて弾の性質を変える)


 アクセリアはハンドガンのマガジンのリロードを行う。


 アクセリアの持つ銃はカウルを弾丸にしているため、本来弾切れによるリロードというものは不要である。しかしそのマガジンというスペースをゼドの開発部は利用し、マガジンの交換という仕組みを利用して弾の性質を変化させることができるようになっていた。


 そしてアクセリアは再度距離を詰める。触手の攻撃を避け、距離が詰まってきたところで一発ツトラーサへ撃ち込んだ。


 ツトラーサは今までと同じようにその弾丸を触手で弾く。その時、弾いた弾丸が強力な閃光を放った。その閃光は目を持つ者であれば視界を奪う強力なものであった。それはツトラーサも例外ではない。


「閃光弾ッ!」


 ツトラーサはその閃光により視界を一瞬のうちに奪われた。


 この一瞬にアクセリアは右手にコードを集中させ、打撃距離まで一気に詰める。


 ツトラーサは身の危険を感じ、目が見えていないながらも触手を振り回し、前方に防御を張った。


 アクセリアは触手の攻撃を避けるとツトラーサの目の前まで迫る。そして左へステップし、前方に張られた防御を躱して側面から拳を叩き込みに入る。


「カウルスマッシュ!」


 防御されていない側面へ攻撃が入る。そう思った瞬間、アクセリアの拳は空を切った。


「え?」


 アクセリアから驚きの声が漏れる。遅れて何が起こったかを理解した。アクセリアの胴には躱したはずの触手が巻き付いており、それに引っ張られたことでツトラーサから引き離されたのだった。ではその触手の元はというと、一体の小型植物であった。ニルタ、タルタス、ノルフィが相手をしている小型植物の数は五体。つまり、アクセリアの前には時間差でもう一体の小型植物が出現していた。


「ッ!」


 アクセリアは左手にある銃を小型植物へ向けようとしたが、それよりも先に別の触手に巻きつかれてしまい、拘束される形となってしまった。


「この!離しなさい!」


 必死にもがいてはみるがカウルソードで切断できない触手にそれはあまりにも無意味であり、そのまま宙に吊るされる形となった。


「アリア!」


 異変にいち早く気づいたノルフィはアクセリアの救出のため走り出した。アクセリアが相手をしていたツトラーサに向けて銃を撃ち、ノルフィは自分に意識を向けさせようする。


「ダメだ!ノルフィ!」


 ニルタがノルフィを引き止めようとするが、ノルフィは止まらなかった。ニルタは後を追って止めようとしたがそれを小型植物が止めに入る。ノルフィがカバーしていた攻撃がニルタへ集中し、その攻撃に対処しているうちにノルフィとの距離が離れていく。


 タルタスも場の異変に気がついたがニルタと同じように小型植物が妨害をする。


「邪魔だ!どけぇ!」


 タルタスはカウルの出力を上げて対応しようとする。だがそれでもまだ突破するには足りない。その間にノルフィはツトラーサへの距離を詰めていく。


「アリアを離しなさい!」


「来ちゃダメよノルフィ!」


 アクセリアからも来るなと言われるが、それでもノルフィは弾丸を放ち、ツトラーサからアクセリアの開放を狙う。だがその直線的な弾丸はツトラーサに軽く弾かれ、傷をつけることすら出来ない。


「馬鹿な女ね」


 ツトラーサはそう言葉を吐き捨てると触手をノルフィへと向ける。ノルフィはその攻撃を躱すが、死角から伸びてきた触手を躱すことができず、ノルフィは拘束される形となった。


「力がないのって罪よね。入れ替わり先が自ら来るなんて馬鹿みたい」


「うぅッ」


 ギリギリとノルフィは触手で体を締め付けられ、苦悶の表情を浮かべながら声を漏らす。


「ノルフィ!」


「今助けるぞ二人とも!」


「邪魔だ植物共!」


 三人の必死な声がノルフィへと届いた。だがそのどれもがノルフィの元へ駆けつけるには程遠い。


 ノルフィは思った。ツトラーサの言う通り、力のない自分がとても憎い。なぜ自分には同じ血を引く兄のような運動神経もなければ同じ女性のアクセリアのような力も無いのだろう。少しでもその片鱗があれば、アクセリアを救う手助けやこうして捕まることもなかったかもしれないのに。


「無力を感じるその顔、とても素敵。あなた、みんなに愛されてるのね。でもその愛する人が壊れたらお仲間たちはもっと絶望するかしら?」


 ツトラーサの嘲笑うかのような声にノルフィは怒りを覚える。


「外道なあなたに、私は絶対に屈しない!」


「いいわ、とても。その強がりを言えなくする瞬間もコードを得る時と同じぐらいに私は好き。もっともっと吠えて頂戴」


「くぅッ」


 更にツトラーサはノルフィを締め上げる。ノルフィは肺の空気が全て押し出され、体が新たに空気を求めるが締め付けにより呼吸が出来なくなっていた。


 それを見たアクセリアは自分の不甲斐なさを恥じる。仲間を逆に危険な目に合わせておいて何もできない自分が許せない。


「ツトラーサ!あなたの狙いは私でしょ!ノルフィに手を出すのはやめなさい!」


「口の利き方が悪いわね。お願いするときは命令なんてするんじゃないわよ」


 ツトラーサはアクセリアを締め上げるように小型植物に命令を下す。アクセリアは更に苦痛の声をあげ、ツトラーサはそれに満足そうな表情を浮かべていた。


 ツトラーサは宙吊りとなっていたアクセリアを手の届く位置まで下ろすように小型植物に命令する。そして品定めをするかのようにアクセリアとノルフィをツトラーサは並べた。


「さて、これからの入れ替わる先は迷うわね。どっちも良いわ。アクセリアの赤い瞳もとても綺麗。まるで宝石みたいね。発育はそれなりで動きやすそうなバランスの取れた体もいいわ。でも今後コードを多く搾り取れそうなのはこっちのノルフィよね」


「最低よ、あなた。他人を利用している時点であなたは酷く汚れているのよ」


 他人の体を利用して自分の利益になるようなことを厭わないツトラーサにアクセリアは吐き気がする。


「ふふ、いつまで経っても減らないおしゃべりな口。そこまでおしゃべりな体だと私の口も汚くなりそう。いいわ、アクセリア。あなたは殺してあげる。でもこのまま締め上げて殺すのも芸がないから、お友達のノルフィの手にかかって死になさい」


 ツトラーサはそう告げるとノルフィへと近づいていく。それは次の入れ替わり先をノルフィとし、そのノルフィの体でアクセリアの息の根を止めるということを意味していた。


「やめろ!妹に手を出すな!」


「手を出したら殺す!」


「やめさないツトラーサ!」


 ツトラーサを止めようとする三人の声。その声を無視し、ツトラーサはノルフィの前に立つと、ノルフィへ自分の触手を近づけていった。


 その時、ツトラーサの後方で白い粒子が舞い上がった。夜闇を舞うその粒子は天へと昇っていき、その出現元はレーイチとツトラードのいる区域からだった。

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