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054 敬意

 レーイチは距離を詰めに掛かる。先ほど触手を切断できたことから、接近ができれば確実に本体へ攻撃を入れられると自信があった。


 対するツトラードはレーイチの接近を許すわけには行かなくなった。触手による迎撃を行い、接近を阻もうと試みる。


 レーイチはツトラードの触手を躱し、ツトラードはレーイチに攻撃を与えるべくその進路に触手を放つ。だが、ツトラードは命の危機を経て、攻撃にはキレが増していた。


 レーイチはその変化をすぐに肌身をもって感じ取った。躱しきれない攻撃が増え、カウルソードで弾くようになり、触手が体に掠り傷を与えて血が滲む。触手はその血を得て活力を得たかのように強力になり、結果としてレーイチはツトラードとの距離が縮められなくなっていた。


「クッ、攻撃が速い!」


「あなたのおかげで、久しぶりに命の危機を感じましたからね。火事場の馬鹿力というのでしょうか。前よりも調子が出てきましたよ」


 ツトラードは楽しそうに触手を放ってレーイチを追い詰める。その度にレーイチには傷が増え、ダメージが蓄積していく。


(このままだとこっちがジリ貧か。リメイク・カスタムはできれば相手の油断を誘ってからの切り返しに使いたい。そうなるとフォトンスラッシュから打開を掛けたいところだけど、技を放つにしてもそれにはコードをカウルソードに流し込む必要がある。攻撃を受けると流し込んだコードも散って技を放つことが出来ない……)


 そしてツトラードは打開策の一つを何も掛けてこないことからレーイチの状況に勘づいた。


「なるほど、あなたが放っていた技は溜めの時間が必要なのですね。今まで出来るだけ私の攻撃を躱していたのにも納得がいきます」


 ネタがバレたところでツトラードは余裕の笑みをみせた。


「これくらいが丁度いいハンデだ。レベルを合わせてやってるんだから感謝してほしいな」


「これは失礼。しかし、そろそろ私も片付けなければ姉に怒られてしまいますので、最後に私の技をお見せして終わりとしましょう」


 ツトラードは次の一手を放つ。触手を路地の壁に次々と這わせ、レーイチの左右は触手に囲まれ鳥かごに捕われたかのような状態となっていた。


「この鳥かごに捕われたあなたはもう逃げられませんよ。最後に多少足掻いてもらっても良いのですが、これを抜け出すために先ほどの大技も連続では出せないのでしょう?大人しくしていただければ苦しませずにその命をいただきますよ」


 まるでツトラードは勝ち誇ったかのようだった。なぜならレーイチは受けきれなかった触手による攻撃で体中にいくつもの傷をつけており、服が破れ、血がにじむ姿は痛々しく、そのような状態からカウルソードの剣一本でこの状況を打開することは不可能であると確信しているからだった。


「……」


 レーイチは逃げようにも四方を囲まれた今、逃げる選択肢は封じられてしまった。だが、レーイチには毛頭から逃げる選択肢は持ち合わせていない。むしろ今このツトラードが持てる触手を展開し、詰めにかかり油断をみせたこの状況こそ、レーイチにとって願ってもない展開だった。


「逃げる気も、コンバートされて与えられた二度目の人生も、そう安々と手放す気は全くない」


「……何を言っているのですか?」


 レーイチが余裕をみせる様子にツトラードは困惑する。これで終わりであることは確実なはずだと。何も見落としていることはないはずだとレーイチを含め周囲を警戒するが何もない。


「ツトラード、お前は勘違いをしている。なぜ、俺がカウルソード一本で戦ってると思っているんだ?」


 レーイチは左手を天に掲げ、まだ終わってないという眼差しをツトラードに送る。


 その姿、その眼差しにツトラードは悪寒が走る。


(あの左手は何ですか?何も手にはないですが、あれはマズそうです)


 レーイチが何かを仕掛けてくる前に仕留めなければならない。そう直感した。ツトラードは鳥かごを一気に収縮し、レーイチを仕留めに掛かる。触手に覆われ、姿が消えたその瞬間だった。


「リメイク・カスタム」


 突如として触手の内側から石柱が発生し、触手の壁を打ち破る。飛び出した石柱はV字に発生し、触手の束を左右の壁に釘付けにする。ツトラードは両翼を広げ、その触手の束を納めることができない状態となってしまった。


 ツトラードは今何が起きたのか分からなかった。あったのは直感的な危機感。だがそれでも完全に状況を覆せるとは思ってもいなかった。突如劣勢の状況となったツトラードは判断が鈍る。逃げなければならないという本能と混乱が入り混じり、何とか触手を切り離して離脱をしなければならないとツトラードは判断を下す。だが、既にそれは遅かった。


「アクセラレーション」


 ユニードにより一瞬で開けたその空間をレーイチは足場を変化させて加速を得るとカウルソードを光り輝かせ一気にツトラードに詰める。そしてゼロ距離となったレーイチはそのがら空きとなったそのツトラードの胴へ向けてカウルソードを振り上げた。


「アドバンススラッシュ!」


 飛ぶ斬撃、フォトンスラッシュを放てるほどのコードをカウルソードに流し込み、その斬撃が直接、ツトラードの左下から右上にかけて走った。


 遅れてその傷口から白い粒子が溢れ出し、路地の空間を粒子が埋めていく。ツトラードはその光景を目にし、自分は敗北したのだと悟った。


「なるほど……ユニーダーでしたか……。見事にメインディッシュに噛みつかれてしまいました。最後の最後までそのユニードを伏せて剣のみで戦っていたのは、私を油断させるためだったということですね……。まんまとしてやられました……」


 ツトラードは敵であるレーイチの作戦を賞賛した。


「本当はこのユニード、物質を作り変えるリメイク・カスタムは意識を削がせるために伏せてたんだよ。ツトラーサには昼の襲撃事件で一度手の内を明かしてるからな。でもツトラード、お前は俺のユニードを知らなかった。何でなんだ」


「ああ……なるほど……私はツトラーサに……騙されてしまったようです。ゼドのコードを全て自分のものに独占するため……私はあなたを消耗させられればいいだけの駒だったみたいですねぇ……」


 ツトラードのその語気にはどこか悔しさが滲んでいた。


 レーイチはその姿を見てカウルソードを握る手に自然と力がこもった。


「なぜ、あなたが怒っているのですか?」


 ツトラードはレーイチが唇を強く結び、悔しそうにしている姿に気が付いた。


「ふざけるなッ!それじゃあツトラードは、裏切られたのと同じじゃないかッ!それは……仲間が、家族が、やって良いことじゃないだろッ!」


 レーイチは悔しさと悲しさと怒りが入り混じっていた。目の前の敵を倒して晴れぬこの気持ちは何なのか。命をかけた戦い故に生まれる相手への敬意。そしてその敬意を踏みにじられたかのような感覚だった。


 ツトラードはそんなレーイチを甘い人間だとは思ったが不思議と悪い気はしなかった。


「どんな理由であれ……あなたは自分の守るべきもののために私という敵を倒した。それだけです。それは誇るべきことだと……私は思います」


 ツトラードの粒子が段々と多くなっていく。ツトラードの命の終わりが近づいていた。


「敵に慰められて情けないな……俺は……」


「その甘さと優しさが、あなたというレーイチ・シンドウなのでしょう。その甘さに判断を狂わされてその手から守るべきものが零れ落ちないよう……気をつけることです」


 ツトラードは最後にそう言い残すと、その体は完全に粒子となって散った。


 レーイチは唇を堅く結び、カウルソードを強く握ってその最後を見届けた。

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