053 策が嵌まらない
今の一撃により視界が濁ってツトラードはレーイチの姿を一時的に見失った。
「少しやりすぎましたね」
手数で押してしまおうと早まった行動だったかと反省をするツトラード。粒子が散っていないことから恐らくレーイチは後方に後退して生きているものとは思えた。
だがその予想を裏切り、そこに突如としてその視界不良の土煙を突き破り、レーイチが側面の壁を疾走して現れる。そしてその手にあるカウルソードは光り輝いていた。
「フォトンスラッシュ!」
飛ぶ斬撃、光の刃がツトラードに襲いかかる。避けられるタイミングではないことを悟ったツトラードは触手を防御に回し、その攻撃を受けることとなった。斬撃を受けた触手は切断までは行かなかったが、傷が深く入り、再生を急がねば二撃目は受けきれない。そこへ壁を疾走してきたレーイチが直接斬りかかる。
(速い!)
ツトラードは再生をかける暇もなく、傷付いた触手でレーイチのカウルソードを受け止めた。
響く金属音。止まる白い刃。
ツトラードは何とか防げたかと思った。
「良い手でしたが、詰めが甘かったですね」
ツトラードは反撃でレーイチに触手を突きさそうとした。
だがレーイチはカウルの出力を上げる。
「オオオオオオッ!」
雄叫びと共にレーイチは力任せにカウルソードを振り抜く。
「なっ!」
ツトラードはレーイチに触手を切断され驚愕する。
触手を切断したことでレーイチとツトラードの間に邪魔をするものはなくなり、お互いの顔がハッキリと見えるようになった。
「ッ!」
ツトラードはレーイチの気迫に命の危機を感じる。
(後退して距離を……いえ、今の彼には愚策ですか)
ツトラードは身を守るため、再生の時間を稼ぐために背後に逃げるかと一瞬迷った。だが一瞬で距離を詰め、その再生の手を打たせないと迫ってきたレーイチを相手に、それは寧ろ逆効果だと判断した。
「その命を貰いますよ」
ツトラードはまだ残っている触手で再度攻勢に出る。レーイチの斬撃に耐え尚且つ攻撃力を上げるために触手を螺旋状に絡ませ、槍を二本生成するとそれをレーイチに放つ。それは受けようものなら風穴を開けるどころか体が二つに別れる攻撃だ。
(あれは受けるとマズい!)
レーイチは迫りくる槍の圧力にそれら全てをカウルソードで受けきれないと判断すると、背後へ跳躍して回避した。ツトラードの槍は案の定レーイチのいた地面を大きく穿っており、一撃ならまだしも、二撃となると一撃目を受けた時点で体制を崩されて二撃目は直撃を受けていたと思った。
そしてレーイチが距離を取ったことでツトラードは再生の時間を稼ぐことに成功した。切断された触手を再生させて体制を整え、次の一手に備える。
「今のは流石に一瞬ヒヤリとしましたよ。私が後ろに逃げていたら詰んでました。よくその剣一本で私と戦ってますね」
「それはどうも。おっかない師匠が毎日鍛てくれたことを今日は感謝するよ」
ツトラードはレーイチのことを称賛する。命の危機を覚えたのは久しぶりであった。ツトラードは今まで何度かゼドの隊員とは戦ったことがあるが、いずれも複数名が相手であった。故にゼドの隊員に囲まれて近距離と遠距離の連携技を受けることがあったが、範囲攻撃のあるツトラードには数の優劣はあまり意味を成していなかった。
しかし目の前のレーイチは違っていた。たった一人、剣一本で攻撃を全て受け、果てにはその切っ先を喉元に届くかというところまで迫られた。それはこの少年のポテンシャルの高さなのか、剣を教えた師範が優秀なのか、はたまたその両方なのかは分からない。だが今までのゼドの隊員と同じようにはいかないことは理解した。そしてそれに勝利した暁に得られるコードはどれほど濃密でどれほど甘美なのだろうかと思った。
一方で称賛を受けたレーイチは言葉を返して思考に耽る。今のツトラードの言葉から、今までのツトラードの攻撃に疑問を感じていた。
(さてと……何か違和感が拭い切れないな……。あえて強力なユニードというカードを場に伏せて意識の分散を測ってるってのにどうもこの作戦が嵌まってる感じがしないな……。今まで何度か相手の隙を突いて攻勢にでる場面もあったとはいえ、路地という石柱を発生させやすい俺の有利な地形に対して、ツトラードは積極的な攻撃を仕掛けてきた。まるで俺が伏せたカードのリスクを知らないみたいじゃないか)
勿論レーイチが今尚リメイク・カスタムのユニードを伏せているように、ツトラードのこれまでの行動も罠という可能性は排除できない。だがこれまでの行動、言動からもツトラードはリメイク・カスタムを知らないという可能性が高いように思えた。
(そうなると、何でツトラーサはツトラードにユニードを教えていないんだ?仲間であるのなら事前に見た情報は普通なら共有するはずだろ……。それに相手が戦闘力のあるゼドの隊員だって時点でなぜリスクを減らしてこない。何を考えているんだ?)
レーイチはなぜツトラーサがユニードについて情報連携していないのか腑に落ちなかった。どう考えても攻防どちらにも利くユニードを事前に知っておくことはツトラードとツトラーサが本来遂げたい目的の成功可否に大きく影響する。それをしない理由が全く分からなかった。
「ツトラード、ツトラーサはお前の姉何だろ?事前に俺たちと出会って情報を先に知ってる姉は情報の使い方、人員配置を間違えてないか?」
「これは手厳しいですね。確かに今となっては増援の一つでも欲しいですが、そこそこ腕のある赤い服の剣士ならユニードもなく一人でやれるはずだと充てられたのですよ。今となっては少々姉を恨みますね」
「そこそこじゃなくて残念だったな」
(やっぱりツトラードは俺のリメイク・カスタムのユニードを知らない!)
レーイチは今ので確信した。なぜ知らないのか理由までは分からないが、このアドバンテージを生かさない手はない。
「昔から姉は私に優しくないですよ。自分を優先する人です。リスクのある戦いがあればそこに私が呼ばれます。勿論コードをある程度貰う代わりにですけどね」
「家族なんだろ。それは本当に姉のすることなのか?」
「姉と言っても血が繋がってるわけではないですよ。ただ規律で決められた兄弟なだけです。コードをどれだけ取り込めるかが私達の力に、果ては内部の力関係に直結するのですよ。それは例え家族という間柄であっても同じです。私たちアンチコードはローコードとして生まれます。そしてハイコードのアンチコードに連れられてこの世界の生き物のコードを得て成長するのです。その中でも姉は生まれながらにして強かった。私はその姉の真似をし、後を追いながら何とかここまできましたが差は埋まりませんでした。力のあるものには従うしかない。生きるために私は姉に従うしかないのです」
「それでも力のあるやつが、力のないやつを守らないでどうする!奪うだけの未来の果ては地獄だろ!」
「その通りですね。しかし私達はあなた達から命を奪い、その奪った命を勲章として誇示し進むしかないのですよ。そして今回、私の前には非常に魅力的なコードがいます。取り逃してはこの先私は益々弱くなってしまいます」
ツトラードはその運命を受け入れていた。故にゼプトの人間の命を奪うことに躊躇いはなく、強者には従うのが当たり前のことだった。
「そうか。なら、こっちはそれに抵抗するだけだ」
レーイチはツトラードの心情を察した。ツトラードはゼプトの人間の命を奪わなければ生きていけない。だがレーイチとしてはそれを許すことはしない。反対の立場に落とし所はないと感じた。であれば決着をつけるしかないとレーイチはカウルソードを構える。ツトラードは再生した触手を動かし迎撃準備を整える。




