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051 二体目の襲撃者

 レーイチとツトラードが接触する前、アクセリア達は屋根の上でレーイチがチンピラ三人衆をあしらうのを待っていた。相手は一般人ではあるが、引かないのであれば任務遂行のために多少痛みを受けてもらうのは仕方ないと判断を下す。


 一同はレーイチがアクセリアとサクラというゼドでも有力な経験を持つ者に体捌きを習っているため、レーイチが片付けるまでそう時間はかからないと思った。


 そしてその予想通り、レーイチは一分とかからずに三人をのしてしまった。


 その綺麗なまでの流れ技に一同は目を奪われた。


「レーイチ君、凄い……」


 思わずノルフィはそう言葉を漏らす。


「当然よ。毎日私とサクラが訓練してあげてるんだから」


 アクセリアは相手をしたことがあるため分かってはいたが、改めてその体術は最初とは比べ物にならないほど上達しており、いつか自分に追いつく日も近いと思った。


 一方でコルトネット兄弟は初めてレーイチのその動きを見たが、ルーキーとして噂になるだけの実力を持っていることに納得がいった。そして格下相手のため手の内を完全には明かしていないところからもまだ底知れぬ実力を感じられた。実力の差がこれではっきりとしたところを見ると、この三人衆の問題は片付いたと一同は思った。


「さて、仕切り直しね」


「そうだね。トラブルはあったけど気持ちを切り替えて行こうか」


 アクセリアとニルタは任務再開のコンタクトを取った。


 その時、突如として突風が巻き起こる。アクセリア達は屋根にしがみついて突風をやり過ごしたが、その勢いの強さに身につけていた迷彩のマントが空へと舞った。


「何?さっきの風……」


 アクセリアは飛んだ迷彩マントの行方を探していたが、それよりも重大な事件が起こる。突如階下で何かが叩きつけられるような音がした。


「アリア!コンバーターの前にアンチコードがいるぞ!」


 タルタスはいち早く状況の変化に気がつく。


 アクセリアも階下にいるレーイチを確認すると、そこには確かにアンチコードが存在していた。


「いつの間に!」


「気配もなく一瞬で現れるとはただ者じゃねぇぞ」


「ニルタ兄さん、あのアンチコード、私アンチコードリストで見たことある。確かツトラードっていう植物の特性のあるリストクラスのアンチコードよ!」


「何だって!?」


 リストクラスというキーワードだけでニルタを含めた全員が緊張の面持ちになる。アンチコードリストの名を連ねる時点で、一人で相手するには危険すぎるとニルタは判断し、すぐにレーイチを回収して体制を再度整えるべきだと全員の意見が一致する。


「アリア、レーイチ君を呼び戻そう」


「ええ」


 レーイチを呼び戻すため、アクセリアは通信を入れようとした。だが、それを阻止するかのように突如複数の箇所で空間が割れ、小型植物のアンチコードが出現する。


「アンチコード!?」


 それはアクセリアとレーイチがハルマ区長を救出した際に対峙した時と同じ小型植物のアンチコードであった。アンチコードはアクセリア達全員を取り囲むような形で出現し、必然的にアクセリア達は身動きが取れない形となった。


 アクセリアは偶然かと思案するが、余りにも出現場所とタイミングが噛み合いすぎている。これは意図的かつ待ち伏せだと直感した。


「機構の皆さん、こんばんは」


 冷徹で楽しそうにしながら触手に乗って階下から現れたのは一人の女性。それは傍から見れば眼鏡の似合う仕事のできる美女であるが、アクセリアはその人物を知っていた。


「ラーサ……さん?」


 目の前に現れたのはハルマ区長の現在の秘書ラーサ・トーラスであった。


「お昼ぶりね、アクセリアさん」


 アクセリアは状況が飲み込めていなかった。ハルマと共に人を憂いていたラーサがなぜアンチコード側にいるのか理解できなかった。


「なぜ?という顔をしているわね。私の本当の名前はツトラーサ。ツトラードの姉よ。事件が起これば機構の方々が来てくれると思って待っていたわよ」


「事件を起こして何がしたいの?私達を呼び寄せることはあなたのリスクになるわ」


「リスクの上にリターンがある。心身を鍛え、練り上げられたコードは私達アンチコードにとってとても魅力的なものなのよ」


 その言葉からようやく今回の事件の真相の真意が見えてきた。ツトラーサの狙いは一般人などではなく、鍛えられたより上質なコードを持つ者達、ゼドの隊員であった。


「つまりは、その練度のある対象が私達ゼドの隊員ってことね」


「頭が良くて助かるわ」


 ツトラーサは不敵な笑みを浮かべる。


 そんなツトラーサを見てノルフィは気がかりなことがあった。


「でも、アンチコードリストのツトラーサの姿が違ってる。確かレーイチ君の前にいるやつと同じような姿をしているはず……」


 ノルフィは記憶を探り、アンチコードリストに載っていたツトラーサの姿形を思い出したがそこに載っていたのはレーイチの前にいる細長い形状の植物と同様な姿のはずだった。


「ああ、それは使えそうな体を乗っ取ってやったわ。コードになって消えてしまわないよう、死なない程度に廃人にして骨の部分を私の触手で代用してるの。結構大変なのよ?でもおかげで区長に接触できたことで機構とも接触ができたし、今回の機構側の任務の人数も割り出せて機構の人間も釣れたしこの体は用済みね。次はアクセリアさんの体が良いかと初めて会ったときは思ったけど、そこの白い髪のお嬢さんも男ウケ良さそうな体をしてて迷うわね」


「ひっ」


 ツトラーサの舐めずるような視線にノルフィは身の毛がよだつ。思わず両手で胸を隠し、ニルタの陰に隠れた。


「そんなゲスな目的のために僕の妹に手を出させるわけには行かないな」


「兄弟愛は素敵だけどそれは守れたらね」


 そして隙を付いてノルフィの背後から触手が伸びてきた。


 それに対してノルフィとニルタは反応が遅れた。だがその触手はアクセリアとタルタスの拳によって断ち切られることとなった。


「テメェ、俺の妹に手を出そうなんざ百年早えよ」


「ツトラーサ、私の友達に手を出さないでくれる?」


 アクセリアとタルタスは声に怒りが混じっていた。二人ともツトラーサの人を侮辱する言動に限界が来ていた。


「いいわね、そのカウル。かなりの練度じゃないかしら。泳がせておけばもっと甘美に育ったでしょうけど、逃がすのも惜しいからその命貰うわね」


「命を貰うっていうなら、ツトラーサもツトラードも命を奪われる覚悟はしておきなさい」


 アクセリアは左耳に手を当てるとレーイチに通信を入れ、現状の共有を行った。

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