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050 策に嵌められた者

「おやおや、活きのいい声を聞いて来てみれば、返り討ちにあっているのですか。敗北者は先に私がいただいきましょうかね?」


 その声に男三人は脂汗が流れる。それは明確な恐怖。先ほどまで自分たちを圧倒していた人物が瞬間的に瓦礫の中に埋められた。最早レーイチの脅し文句と自分のプライドに葛藤している場合ではないと本能が告げる。背後に何かがいるが、振り返ればその姿を見たことと引き換えに命の終わりが訪れそうな予感がした。だが、振り向かないとしてもそれは死が訪れる時間をほんの数秒遅くすることだけであり、自分の人生の結末が今迎えようとしていることは変わりがなかった。


「ダメに決まってるだろ」


 閃光が走る。続いて金属音が響いた。


 そこで男達はひょろ長いアンチコードの腕とレーイチのカウルソードがぶつかり合い、レーイチが力押しで無理やりにアンチコードを後方に飛ばす姿を見た。


「痛ってぇ……。よくも壁に叩きつけたな」


 レーイチは不意打ちを受けて切れた口元の血を拭う。咄嗟にカウルを展開してダメージの軽減をしたが、それでも怪我を無くすといったことまでは不可能であった。


「おやおや、通常なら気を失ってるはずなのですが……。なるほど、その剣、もしやあなたは機構の人ですか?」


「そうだよ。ゼプト防衛機構、魔女の時計所属のレーイチ・シンドウだ。ようやく尻尾どころか本体を捉えられたな」


「これはこれはご親切に自己紹介が遅れましたね。私はツトラードです。そうなると私はまんまと釣られたわけですね」


 ツトラードと名乗ったアンチコードは困った困ったといったリアクションをしているが、レーイチにはそれがわざとらしく全く困っていないようにしか見えなかった。故に相手が何をしてくるのか分からず気を抜くことができない。


「申し訳ないが、こっちは大人しく帰す気はないぞ」


「ええ、それはこちらもです。私達も屋根の上の方たち含めて機構の人は確か五人でしたか。あなた方を大人しく返すつもりなどございませんから」


「……何でお前はそれを知ってるんだ」


 ゼド側の人数を正確に言い当てるツトラードにレーイチは不気味さを感じた。いや、不気味で片付けられるものではない。これは情報が先に漏れたことを意味している。漏れた情報があれば敵は一体何をするか?その答え合わせをするように直後、レーイチの耳に通信が入る。


『レーイチ!嵌められたわ!』


 焦りを含んだ声はアクセリアからのものだった。


「どうしたアリア!」


『私たちの前に小型植物のアンチコードが待ち伏せしてたかのように現れて合流を妨害されてるの!そしてもう一つ、悪いニュースがあるわ!リストクラスのアンチコード、ツトラーサが現れたわ!』


「ツトラーサ?待ち伏せ?リストクラス?」


 アンチコードリスト、それは名前持ちのアンチコードを記したゼドで管理するリストである。そこに名前があるということは過去に一度ゼプトへ襲来し何かしらの事件を起こし、姿をくらましたことを意味している。それはつまり、ゼドの隊員が過去に戦い、勝利できず取り逃がしたということでもあった。レーイチの目の前にいるツトラードも恐らくその内の一体か、それに匹敵する相手であることは間違いなさそうであった。そして更に問題は続く。


『それと最悪なことに、そのツトラーサは私たちが昼に話した秘書だったのよ。情報が全部ダダ漏れなのはそれが原因よ』


「何だって?」


 今の情報でこの最悪の事態が起こった全てのピースが埋まる。それは昼に起きた襲撃事件から続く罠だったということが……。


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