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005 赤い髪の少女

「あなたが時間を稼いでくれたおかげで間に合ったわ。ありがとう」


 ニコッと微笑みながらの少女からの感謝の言葉。見惚れてしまうかのようなその笑顔と透き通った声に、思わず魅了されそうになる。


「あとは任せて、その子を安全なところへ連れてってあげて」


 少女はバトンタッチと言う様に怪物に向けて握っていたレーイチの手の拳をそっと覆うと、助けた子供のためにその手を使う様に納めさせる。少女がレーイチの手を握ったその時、レーイチの体中にピリピリと電流が走った。それは少女に対する恋愛感情ではない。まるで体の中に眠っていたものが目覚めていくような感覚だった。


 そんな違和感を感じるレーイチの事情は勿論知らず、少女は怪物の方向へ向き直り、白いオーラを発動させる。


「待て!あいつは危険だ!」


「大丈夫よ。私はあいつと戦うために訓練してるから」


 少女がそう言ったところで怪物は瓦礫の中から姿を現す。攻撃を受けた場所を手で抑えながらその対象を睨みつける。そして怪物は体制を整え、怒りの矛先を少女に向けていた。


「いってぇなぁ、てめぇ。貧弱な女が俺に歯向かってんじゃねぇよ」


「その貧弱の攻撃を受けているのは、一体どこの貧弱様なのかしら?」


「あぁ?てめぇ死にてぇのか?」


「死ぬのはあなたの方よ」


 お互いの舌戦と共に上がる緊張感。張り詰めた空気は今にも二人の衝突が起こりそうだった。


「さあ、早く行って!」


「……悪い、助かる」


 巻き添えを受けると予感したレーイチは赤い髪の少女の言う通りにすぐさま女の子を抱えて安全な距離まで走り出した。助けてくれた少女を置いて逃げる何も力のない自分が正直恨めしい。だが残ったところで何もできず、今は女の子の子供を助けることが自分にできることだと呑み込んだ。


 場を離れた直後、少女が登場した時と同じような激突音が響いた。思わず抱えている子供を守るように強く抱きしめ、背後を確認する。そこではレーイチが関わることのできないような戦いが始まっていた。怪物を吹き飛ばすほどの力を持つ少女が簡単にやられてしまうわけがないと思うが、それでもレーイチは心配になった。




 少女と怪物の戦闘が行われている広場では、少女は怪物の攻撃をひらりひらりと交わしてカウンターの拳、蹴りの打撃を怪物へ打ち込み、距離を取ってはホルスターから抜いた銃を発砲し弾丸を浴びせる。それはまるで舞を踊るかのように美しかった。


 怪物はその巨躯に見合わない速さで少女に距離を詰めては何度も腕を薙ぎ払い、叩きつけ、その命を奪おうとするがどれも掠りさえしない。次第にイライラと冷静さを失ってきている怪物。場を完全に支配しているのは少女の方であった。


「ちょこまかと目障りなんだよ!さっさと死ねやぁッ!」


 怪物は地面を殴りつける。地面は瞬く間にひび割れ、土煙が少女の体を覆い尽くした。


 当たらないのであればまずは機動力を削ぐ怪物の攻撃。


「クッ……視界が……」


 目くらましにあった少女は瞬時にこの土煙からの脱出を試みる判断を下すと同時に行動へ移す。そしてどこから襲ってくるか分からない怪物に対して、少女は五感を全集中させ、怪物の動きを読む。


(どこ……)


 巨体に見合わぬ速度で動く怪物。一瞬の反応の遅れが生死を分かつと言っても過言ではない。視界を奪われた現在、その危機はより高まると同時に危機を回避するべく頭の中がクリアになっていく。


 少女の背後で物音がした。


「後ろ!」


 少女はすぐさま振り向き銃口を向けるが、そこには砕けた地面の破片が転がっていた。


「ッ!」


 マズいと少女は白いオーラの出力を上げる。直後、少女の真横から怪物の拳が直撃する。そして鈍い音と共に少女の体は土煙から飛び出した。


「カハッ!」


 ビルの壁へ背中を強打し、肺の空気を全て吐き出すとそのままズルズルと地面に崩れ落ちた。




 小さな女の子を怪物と少女の戦闘域外まで運んだレーイチはビルの陰に入り、女の子を地面に降ろした。


「ハァハァ……もう大丈夫だ」


 レーイチは泣きわめく女の子を宥める。レーイチですら二倍はあるであろう怪物に恐怖を覚えたのに、それよりも小さい子供はレーイチ以上に恐怖したに違いない。


 逃げてきた二人のもとに大人たちが駆け寄ってくる。


「二人ともよく無事だったな」


「あなた勇気があるわね」


 レーイチは周りから労う言葉と感謝の言葉が送られる。


「ああ、いや、俺は別に……ただ逃げただけで何も……体が勝手にっていうか……」


「それでもあなたはこの子を救った」


 そう言われてレーイチは少し照れくさかった。正直生きた心地がしなかったが、結果として女の子を無事救助できたことにホッと胸をなでおろした。カスタムのユニードが無かったら、赤い髪の少女が駆けつけてくれなかったら今頃抱えた女の子と一緒に粒子化していたに違いない。


(こっちは何とかなった。助けてくれたあの子は大丈夫なのか?)


 一時的な安全に息をついているレーイチ達だったが、その時間は何かが壁に激突するような音と共に崩れ去った。

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