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046 コンバーターへの憎悪

「そ、それなら囮を使って吊り出すしかないんじゃないかな」


 ノルフィがおずおずと手を上げて作戦案を提示してくる。その案はこの場にいる全員が一度は考えたが、リスクの高さから声には出していなかった案だった。


「ノルフィ、確かにその案は有力だと僕も思う。でも相手が正体不明の時点でリスクが高いんだ」


「でもニルタ兄さん、早く相手の情報を掴まないと次の被害が起きるかもしれないわ」


「それは分かっているんだ。でも僕にはその危険な役を誰かにやってほしいとは思っていない」


 ニルタの思い悩む表情にノルフィは言葉が詰まった。それは兄弟を思う気持ち、そして街の人を守らなければならないという使命の葛藤であった。その気持ちを組んだ上で、ノルフィはニルタに提案をする。


「ニルタ兄さん、それでも私はやりたい。囮なら私がやる」


 決意ある眼差しでノルフィは言う。だが、それを真っ先に止めたのはタルタスであった。


「ダメだノルフィ。お前は戦いに向いてねぇ。相手が気配を消して一撃で仕留めてくるようなやつだったらいくら俺たちがバックアップについていたとしても防ぎようがねぇ」


「でも……」


 荒い口調でノルフィを止めるタルタスはその言い方にこそ問題はあるが、言っていることは正論だった。ノルフィはタルタスの言う通り戦闘能力は高くなく、その正論に言い返す言葉が見つからなかった。


 議論が膠着してきたところで、レーイチは手を挙げる。


「あー、囮なら俺がやろうか?」


 その言葉にレーイチに視線が集まる。


「レーイチ君、例え話題のルーキーと言えど、君には経験がなくて危険だ。とても容認できない」


「でも今の話をまとめると、初撃を防げる可能性があるのはノルフィを除いた四人。ニルタさんはこの場でリーダーだから指揮をとってもらう必要があるし、アリアは魔女の時計のエースだから本戦になったときに温存しておきたい。そうなると俺かタルタスのどちらかになるわけで、経験のあるタルタスはアリアと同じ理由で本戦に置いて、そこそこ腕があって物質を変化させて防御もできるユニード持ちのルーキーをここは使うのが良いんじゃないかなと思うんですよ」


 理由も踏まえた申し出にニルタは次の言葉に詰まった。そこまでの話をされては今のところレーイチを囮役として立てるのが最善の策という流れが今有力となっている。


 だがニルタは他の隊の人間に一番危険な役をやらせることに後ろめたさがある。それほどニルタという人間は優しさと人を思う気持ちが強い人物であった。


「いいんじゃねぇのか、やりたいって言うやつで」


 判断に迷っているニルタを差しおき、以外にも肯定を真っ先にしたのはタルタスであった。だがその真意は別にあった。


「こっちとしては進んで餌になってくれるのは大歓迎だ。二回目の命のコンバーターなんだろ?なら死ぬのは怖くはねぇんじゃねぇか?」


 場が一瞬凍ったようになったが、それをすぐに打ち消すかのように怒りの声をニルタがあげた。


「タルタスッ!人に言っていい言葉ではない!」


 だがタルタスはそれに怯むことがなかった。


「兄貴、悪いが俺はそいつを人としては見れてねぇ。死んだ人間が生き返るような芸当ができること自体人間じゃねぇだろ。そんなおかしな人種だからテロなんか起こすんじゃねぇのか?」


 レーイチと顔を合わせてからのイラつきをタルタスはぶつけ始めた。それはコンバーターへ向ける憎悪だった。


 コンバーターに対する風当たりが強いことをレーイチは承知していた。入隊試験の日にも多くの陰口を言われ、差別的なことを言われた。そしてここでも世の中のコンバーターに対する評価の現実が突きつけられた。


「おかしな人種なのは分かってるよタルタス。でもこうして生きてしまってる以上、俺はやるべきことをやり遂げたいと思ってる。別にどう思ってもらっても構わないが、今回の事件解決には関係はないだろ」


「そうだな、よそ者が進んで餌になってくれるならこっちも願ったり叶ったりだ。別にお前になにかあっても困らねぇしよ」


 タルタスの暴言にピリピリとした空気が場を張り詰める。


 これ以上の問答は何かが爆発しかねないとレーイチは判断し、それ以上は特に何も言わずにタルタスの言葉を適当に受け流すこととした。だがそのタルタスの言葉を聞いていたアクセリアが黙っていなかった。


「タルタス、それは私達魔女の時計への侮辱ととってもいいのかしら?」


 レーイチはその冷たい声がする隣を見ると、アクセリアがルビーのような瞳を鋭くタルタスへ向け、今までにない怒りの表情を浮かべていた。


 その視線を向けられたタルタスは怯む様子がない。


「魔女の時計もこんな奇天烈なやつを取り入れてゼドへねじ込んでくるあたりイカれてるとは思うぜ」


「ッ!」


 その言葉にアクセリアはタルタスへの怒りが頂点へと達した。アクセリアは仲間の侮辱が許せなかった。レーイチが信念をもった強い人間だということはガロンとの戦いで知っている。アザトもアクセスコードのユニードが発現したときに助けてくれた恩がある。


 それを侮辱されたことが許せなかった。怒りに体が支配され、アクセリアは拳を握る。


「やめろアリア!」


「やめてタルタス兄さん!」


 アクセリアが激情に任せて一歩前にでようとしたところをレーイチは腕を出して制した。


 そしてタルタスも場の緊張度合いから小競り合いに向けての心構えをしていたところであったが、それを妹のノルフィに止められた。


「アリア、その優しさに俺は感謝してるよ。怒る気持ちも分かる。でも今その感情をタルタスにぶつけるな。俺たちは今チームなんだ」


 アクセリアはレーイチにそう言われてもモヤモヤとする気持ちが消えはしなかった。だが酷い言葉を投げられたはずなのにそれでも尚、自分を律して大丈夫だと伝えてくるレーイチに制されてはアクセリアも次の言葉を口には出せなかった。


「タルタス兄さん……なんでそんなこと言うの?」


「タルタス!なぜレーイチ君になぜそんな酷いことを言うんだ!」


 タルタスは完全に四面楚歌の状態となるが、それでもその矛先を納めることはなかった。


「兄貴もノルフィも知ってるだろ!過去にあいつらがやったことを!」


「それは知っているよ!でもそれとレーイチ君は何も関係ない!」


「コンバーターが俺達の母親を殺しておいて!その同族が眼の前に現れて!冷静になれってのがおかしな話だ!兄貴は何も思わないのか!それに、まだあの事件を起こした首謀者は捕まってねぇんだろ!そいつがそこのコンバーターに接触してきて、同郷のやつらを救ってくれなんて言われたらそいつが裏切らないとは言いきれないだろ!」


 タルタスはコンバーターの人達が起こしたテロが再度起こることを危惧していた。事件を起こした首謀者は未だ捕まっておらず、それはどこかで影に潜みながら仲間を探している状態を意味していた。


「……僕達の母親は確かに過去のコンバーターのテロで確かに殺された。そして父親はアンチコードの手にかかって亡くなった。同じ人が出ないようにと三人でここまできたね。コンバーターに対する怒りがないかと言われればゼロではない。でも、だからといってレーイチ君は全く関係ない。その線引を正しくないまま突き進むといつか自分を失ってしまうんだ。だからタルタス、僕はね、この先も兄弟三人で進みたい。もし怒りに任せて関係のないコンバーターに手を出して、家族が離れ離れになるのはごめんだ」


「タルタス兄さん、私も関係のない人に怒りをぶつけるのは望んでない。いつもの優しい兄さんの方が私は好きよ」


 タルタスも兄のニルタ、妹のノルフィに言われてバツが悪そうな様子であった。


 レーイチはこの兄弟に深く取り除くことが難しい過去があることを理解した。それ故にタルタスは怒りが溢れていることも。


「タルタス、俺が憎い相手なのは理解した。けど俺に対する個人的な感情を持ち込むのは今はなしだ。この事件が終わったらゼドの訓練場で気が晴れるまで相手してやる。今はそれで引いてくれるか?」


 レーイチはアクセリアが仲間を思って怒ってくれたこと、コルトネット兄弟の気持ちを受け止めるため、どこかに落としどころの話をしておく必要があると思った。


「……ああ、分かった」


 このままでは本来の目的を達成できないことをタルタスも分かっていた。ここはレーイチの落としどころの案に乗って引くことにした。

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