043 昼食会②
「しかし魔女の時計と言えば東区ですよね。東区からわざわざこちらの西区にいらっしゃるとは、何か事件ですか?」
感動の出会いを終えたところで、ハルマはなぜ魔女の時計が反対側まで来ているのかが気になっていたため聞いてみることにした。
様々な情報が飛び込んできたことでレーイチとアクセリアは一時的に本来の目的を忘れていたため、本来の任務に戻らなければならないと思い、アクセリアは今回の経緯について話を始める。
「私達はこの西区で起きている行方不明者の事件で来たんです。ハルマ区長、何か行方不明者のことについて知っていることはありませんか?」
アクセリアの問いにハルマは「そういうことですか」と前置きをすると持っている情報を話してくれた。
「ここ最近はその話題を聞かない日はありませんね。これまで五名の方が行方不明となっており私も心が痛いです。最初の被害者は私の前の秘書だったのですが、秘書も含めていずれも目撃者はおらず、一人のところを狙われたということですね」
ここまでの情報はレーイチもアクセリアもブリーフィングで聞いていた通りのものであった。そしてその被害者がハルマの秘書だったということを聞き、嫌なことを思い出させてしまったと思った。
「嫌なこと思い出させてしまいましたね。すみません」
「いえ、悪いのは命を奪った者です。あなたが謝る必要はありません」
ハルマは気を使わせないようにしているが、表情のどこかには前の一緒に仕事をしていた仲間である秘書のことを思い出しているようではあった。
それを察してか、ラーサが続きを引き継いで話をする。
「私達の知っていることですが、いずれも夜から明け方と聞いております。今のところ見つかっているのは衣服のみです。前の秘書も同じです。犯人の目撃情報はないですが、衣服の残された路地裏から白い粒子が上がったのを見たという情報があります」
「白い粒子……」
それはこのゼプトという世界で人が命尽きたときに起こる現象だった。
考えたくないことではあるが、その粒子が本当だとすればその被害者はこの世にいない可能性が高くなる。その情報を聞いたハルマはどこかまた暗い表情を浮かべていた。
レーイチは申し訳ないと思いながらももう少し事情を聞くことにした。
「今回ハルマ区長を襲ったあのアンチコードは何か心当たりはありますか?」
「今回あのアンチコードは初めて見ました。まさかあのような場所に急に現れるとは思いもしませんでした。しかしこういうことがあるからこそ、私はゼドとの協力をより強くしていくべきだと思っておりました」
「えっと……国とゼドは協力していくべきなのでは?」
レーイチはハルマの言葉の意味がイマイチ理解できず首を傾げてしまう。その疑問に応えるように秘書ラーサが説明に入る。
「私達は国民のためにと思って活動しておりますが、必ずしもそれが全ての光にはなりません。ゼドとの協力を強くしたことで三か国の武力強化に繋がり、緊張が高まるのではないかと不安視されることもあるのです」
ラーサのその説明を聞き、レーイチはゼプトの国関係とゼドの役割を再度頭の中で組み立て直し確認していく。
「えっと、ゼドは確か本来、三か国でアンチコードという共通の敵に立ち向かうために結成された組織でしたね。それぞれの国でアンチコードへの対策強化をすると武力の拡大にもなるからそれを抑止し、ゼドで開発された技術は三か国共通のものにしようと」
「はい、仰る通りです」
「えーと、それはつまり協力関係を強くするということは予算を割いてゼドの組織強化をすると間接的に他国の強化にも繋がると言うことですね」
「その通りです。ですがそのリスクを呑んでも私、ハルマは必要であると思っています」
ハルマはアンチコードという怪物達から国民を守るためにゼドとより強力な協力関係を結ぶことを選んだ。それは多額の予算をアンチコード対策の武器や装備に投資することで防衛力強化を狙ったものだ。だがその防衛力は裏を返せば武力にも繋がり、ゼドは三か国共通の技術として全体の武力強化に繋がる。
とは言えアンチコードの脅威に対抗しないわけにもいかず、逆に一つの国がアンチコード対抗のためなどと名を打って抜け駆けしてしまえばそれは単なる武力強化として他国に脅威となり、それに追随してお互いに強化に次ぐ強化はやがて歯止めが効かなくなっていく。
それは人類史で見た歴史の一つであり、それを抑えることもゼドの目的の一つである。
「あっちを取ればこっちがはみ出て、それを調整してる政治家って凄いですね。そうすると、今回のアンチコードは事件に関係が無いのかな」
「うーん、それはまだ分からないわ。答えを急ぎすぎると見落とすこともあるから慎重に行きましょう」
「確かに。アリアの言う通りだ」
手掛かりが少ない中、気になることはまだ検討の土台に載せておく必要性があるのはアリアの言う通りであった。
「私もハルマ先生の前秘書のことを思うと心が痛みます。陰ながらですが事件の解決を望んでおります。今回の件に当たってる方は他にもいらっしゃるんですよね?」
ラーサは一刻も早く事件の解決をと願い、現状を聞いてみる。
「ご存じだとは思いますが、ゼドの隊員が二名消息不能となりました。なので私達の他にあと三名、計五名のゼドの隊員が現在任務に当たってますので、必ず犯人を見つけます。だから安心してください、ラーサさん」
「はい、期待しております。それほどの方が居れば大丈夫ですね」
ラーサは笑みを返し、レーイチとアクセリアはそれに応えなければならないと思った。
「必ず解決しますよ。ハルマ区長、ラーサ秘書、貴重な情報をありがとうございました」
本来の任務に戻るため、レーイチとアクセリアはお礼を言いハルマに別れを告げる。ハルマは再度感謝の言葉を伝え、襲撃事件は一先ず終わりを告げることとなった。




